ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

『さとにきたらええねん』釜ヶ崎 こどもの里 シネマ・チュプキ・タバタ

今日は ドキュメンタリー映画です。

この明るく賑やかな絵を見ただけで、声が聞こえてくるようでしょう?

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映画『さとにきたらええやん』公式サイト 

このすばらしい映画を紹介してくださったのは、こちらSPYBOYさま。ぜひ記事を読んでくださいね。写真も多く、いきいきとした子供たちの表情がめちゃくちゃ可愛い。私は映画の写真を一枚も載せませんのでどうぞこちらで。 (みなさまのコメントも全部読ませていただき、共感いたしました)

d.hatena.ne.jp

SPYBOYさまの映画評はいつもどれも秀逸なのですが、この記事を読んだときは「すぐ行く!明日行こう」と思ったものです。でも調べてみればなんのことはない、まもなく近くに来ることがわかり、しかも一か月もの間、一日2回上映してくれるというのだから願ってもない幸運なことでした。

というわけで行ってきました、大阪市西成区の通称”釜ヶ崎”。映画でしょ?いえ、ちょっと現地にも足を運んでまいりました。先日、ベルギー関連イベントで大阪へ行ったときにね。

 

f:id:cenecio:20161101131231j:plain (写真:私の撮った大阪)

25席の映画館へ

映画館はこちら、CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)http://chupki.jpn.org/

チュプキとはアイヌ語で「自然の光」という意味だそうです。25席と小さいですが、ユニバーサルデザインで、車椅子の人も聴覚に障がいのある方も赤ちゃん連れの人もみんなOKのすごい映画館です。募金(クラウドファンディング)で 総額 18,806,655 円を集めて設立、今年の9月にOPENしました。東京新聞東京MXテレビNHKなどで取り上げられ、大勢の人が来て、たいてい満席のようです。念ながらこの映画の上映は、当館では10月末まででした。

 

『さとにきたらええねん』だれでも温かく受け入れ包み込むこどもの里

釜ヶ崎地区にある児童館のドキュメンタリーだから、子供たちの話だと思うでしょ。それが大違いだった。この映画の奥行き、広がりはもの凄い。よくもまあ100分のフィルムにこれだけのこと、つまり現代社会の持つ様々な「しんどさ」や心の問題を詰め込んだものだと感心しました。しかもカメラがとても近く、まるで存在しないかのようで、どうやって撮ったんだろう、この監督さんどんな人だろうとも思いました。

「こどもの里」は、この地で38年間活動を続ける児童館で、ホームページに「常にこどもの立場に立ち、こどもの権利を守り、こどものニーズに応える」というモットーを掲げています。ゼロ歳から二十歳までの子供を、障害のあるなしにかかわらず、国籍いかんにかかわらず受け入れています。子供たちは学校帰りに遊びに来たりもしますが、様々な事情で親から離れて「さと」で共同生活する子供たちもいます。

 

特定非営利活動法人(NPO法人)こどもの里

さらに職員たちは、家族の問題、親の悩みにも寄り添い、時には家庭内に入り込んで率直な話し合いを持ちます。大人も生きづらさを抱え、傷をなめるようにして苦しんでいる。ひとりでは立ち行かない困難な状況をサポートしているのです。

虐待や貧困など、子供の問題は大人の問題なわけで、地域の中で情報を把握し、信頼関係の上に立って問題解決に取り組みます。この地道で忍耐強い姿勢、しかも絶妙に距離を置きつつ…。まあ、なんとも凄い人たちがいるものだと心打たれました。

館長さんはこのかた、荘保共子(しょうほともこ)さん。

 

f:id:cenecio:20161101180242p:plain写真:下のサイト、インタビューから。

つながる/ひろがる/フェミ・ジャーナル -ふぇみん-|インタビュー

往年の女優さんみたいでしょう? 略歴によれば、聖心女子大学を卒業した後、教会の活動を通じて釜ヶ崎の子どもたちと出会い、魅せられ、以来この地にあります。

このまちのすべての人や子供にとって港のような存在です。「わたしはあんたの味方やで」と子供たちに声をかけ、人生の伴走をしていると語っています。巣立っていった子も戻ってこれる場所でもあるから、「さと」は「ふるさと」でもあるのですね。

 

 トラウマを抱えた親たち

映画の中では、特に三人の子供たちに焦点が当てられていますが、そちらはSPYBOYさまが活写していますのでお任せするとして。私はやはり母親、親子関係のほうに関心がいきます。この人、どうしたんだろう。本人のせい?自己責任?とんでもない。みなそれぞれの事情がありました。

虐待を受けて育った母親は、幼児のマサキにもすぐ手をあげてしまう。しかもマサキは発達障害があり、母親のいうことをきかない。この子の将来はどうなるのだろうと育児に悩み、自分のトラウマとも闘っている。児童館から連れ帰ろうと思ったら、子供に「さとがいい、帰りたくない」と泣かれる始末です。

NPO法人レジリエンス」の代表を招き、DV・虐待についての勉強会が催されたので出席します。が、過去の辛い思い出(父からの虐待)が蘇ってきて、泣きながら退席してしまう。ケースワーカーの女性もカメラもそっと寄り添うようについていく…。それでもこの母親は、周囲の人々の支えを得て、もがきつつも前に歩み出しているところに希望が見えました。

ポスター中央で笑うふっくらほっぺの女の子マユミ。中学生かと思ったら高校三年でびっくりでした。この子も小学生のときから「さと」で生活している。あるとき、大変なことが発覚する。館長さんから定期的にもらっているお小遣いは、子供たちが自分で管理するのですが、マユミが通帳に貯めたお金は母親の手に渡っていた…。館長や職員に衝撃が走る。お母さんが好きなのはわかるが、お金を渡したらあかん。お母さんは生活保護をもらっているから、月13万円はあるんだよ、と館長は諭します。

子供のお小遣いに手をつける親って最低だ。でもきっと何かあるんだろうな、と思いました。するとカメラは母親のアパートに入っていきます。正面の姿、顔は一切映りませんが、涙をためた片方の眼が一度だけ映ります。

病気がちで働いておらず、ギャンブルにおぼれる(おぼれた過去を持つ)この母親。15歳ですでに両親はおらず、孤独の中で暮らしてきて、妊娠した。妊娠がわかると同時に働いていた弁当屋を解雇され、路頭に迷ったというわけでした。

しっかり者で心優しいマユミは、晴れて高校を卒業し、高齢者施設への就職も決まりました。

 

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 (写真:私の撮った大阪)

 驚きの「こども夜まわり」

子供たちが生まれ育つ釜ヶ崎というまち。昔から日雇い労働者や貧しい人々、社会的に弱い立場の人々が多く住んでいますが、支援をしようという人たちやNPO、医療、キリスト教の団体なども多く集まっていて、福祉の最先端をいくところだとも言われているそうです。

子供たちはまちのおっちゃんたちと密接につながって生きています。夏祭りや運動会を一緒にやります。手作り感があって温かい雰囲気で、とても楽しそうでした。バザーや地域を知るための勉強会もあります。子供たちは釜ヶ崎というまち全体で育てられているんですね。

一番印象に残ったのは、「こども夜まわり」という活動です。初めて知りました。さとの子供たちは、冬の寒い時期、路上生活をする人たちに声掛けをして、必要なものはないか尋ねて歩くのです。ホームレスを襲撃して死なせる事件が後を絶たない一方で、こうした子供たちの姿に涙がこぼれました。毛布を渡したり、温かいみそ汁やおにぎりを配ったりしていました。具合の悪い人には無料の医療券を配ることもあるそうです。声をかけられた人たちは何度も何度も「ありがとう」と言います。子供たちは「さと」などで世話になる人に、いつも言うことば「ありがとう」を、今度は自分が受け取る番なのです。こうしてさとの子供たちは、いたわりの気持ちや痛みなどを学び、ひとつの大きな家族のようなまちの中で、いろいろな人と繋がってぐんぐん育っていきます。

 

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(私の撮った大阪。昼間は人で賑わうところにも、夜になると野宿する人が何人もいた。)

  

めっちゃ若い監督さん 

f:id:cenecio:20161101180509p:plain写真:下のサイトから

https://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/160531/

重江良樹(しげえ よしき)氏

1984年生まれって、うちの子たちの年齢?何とこれが初監督作品。こどもの里へはボランティアとして遊びに行って5年。皆となかよくなり、信頼関係を築いてから撮影を始めたそうです。詳しくはインタビューを読んでください。

『さとにきたらええやん』は、「さと的なところ、さとにいるような繋がれる人が皆にいればいいよね」というメッセージだとか。

 

こどもの里をモデルにして

毎日、新聞を読むとやりきれない思いでいっぱいになります。児童虐待やイジメ、最近は特に貧困、それから不登校やひきこもり、子供の自殺。地域とも人とも繋がりのない家庭や孤立する母親など。こうした子供をめぐる様々な問題と取り組むために、こどもの里的発想は大きなヒントになると思います。

館長の荘保さんはこのような構想を抱いているそうです。すなわち、中学校区に一か所「包括的地域こどもセンター」を置くというもの。また必要に応じて宿泊できる場所を用意したり、緊急の逃げ込みにも対応する。中学校区であれば、元の家庭から近いから地域の絆を断ち切らずにすみますから。地域で子供や親をまるごと支援する仕組みですね。

さらに食事ができたり、勉強をみてもらえたり(特に外国人の子弟)、悩みや法律相談にも対応できるように広がっていけばいいなと思います。

荘保さんは今年度から、10代後半の若者向けの「自立援助ホーム」を開設したそうです。ちょっと調べてみる価値ありますね。さらに今後は、障害のある家族の生活を支える事業の計画もあるということです。

 

映画を観て、支援の取り組みをいろいろ学んで、心がほかほかしてきました。

みなさんもお近くで上映しているようでしたら、ぜひ!!

 

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何が建つのかな?(私の撮った大阪)

終わります。