ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

『キツネ』(続)水の中のナイフ+コメント集

前の記事

cenecio.hatenablog.com

続きです。

もうひとつのイヌとカササギの物語

キツネを拾う

イヌ(アンジェイ)とカササギ(クリスティーナ)は週末を湖ですごすために、車を走らせている。途中ヒッチハイクの若き青年、キツネを乗せてやる。キツネは普段乗せてもらうトラックが週末は走らないため困っていた。

イヌは湖にヨットを所有している。成功したスポーツ記者で、若く美しい妻と裕福な暮らしを送っている。気紛れからキツネをヨットクルージングに誘う。一晩ヨットで一緒に過ごし、キツネは翌朝発つということに決まった。 

密室の三人

イヌとカササギ夫妻はキツネに親切だ。イヌはヨットに精通しており、操縦の基本をキツネに教えるが、どことなく尊大な命令口調であるのは否めない。キツネの未熟さ、性急さ、素朴、無知、粗削りなところを見ては優越感に浸るイヌ。

カササギは落ち着いた肉感的な女性で、忠実な妻でありキツネにも優しい。

キツネもクルージングを満喫している様子。ただ、泳げないからと言って水には入らないが。食事や酒を楽しみ、船乗りがよくやるという、棒を一本ずつ抜いていくゲームをして夜のひとときを過ごす。

キツネはナイフを持っている。折りたたみ式の美しいナイフ。宝物のように大切にしている。森の中など徒歩で移動するには、藪を開いたり、ものを切ったりするのに不可欠なものだ。キツネはナイフゲームKnife game - Wikipediaをしてみせる。広げた指の間を次々に高速で刺していく遊びだ。ナイフは話の中で何度も登場する小道具で、不安と緊張と暗示をもたらす。 

ドラマ

朝まだきの湖畔。カササギはヨットの上に出て座っている。キツネも目が覚めてそこへ出てきた。しばし言葉をかわす二人。遅れて目が覚めたイヌは二人がいないことに気づく。ナイフが目に入る。それを隠す。

それから外で二人と合流する。イヌの心にさざ波がたつ。気に入らないのだ。なんで妻と二人でいる?小ばかにしやがって。ボスは俺だぞ。メンツ丸つぶれだ。怒りと嫉妬が膨らむ。キツネに甲板掃除を言いつける。キツネは戸惑いながらも従う。急に主人面をしてキツネを顎で使い始めたイヌに対し、カササギは反発する。

キツネがヨットを降りるときが来た。しかしナイフがない。ナイフを返してくれとイヌに言う。イヌは嘲るようにポケットから取り出し、笑いながら取ってみろと挑発する。カササギはイヌの子供じみた意地悪な仕打ちに腹をたてている。ナイフが手から落ちて水の中へ。なじるキツネ。高笑いするイヌ。キツネがイヌになぐりかかる。が、イヌのパンチを受けてキツネは湖にどぼんと落ちてしまう。

キツネは泳げないのだ。カササギは心配する。二人で水に飛び込んで探すが、キツネを見つけることはできなかった。ヨットに戻った二人は一気に感情を爆発させる。これまでのマンネリ化した穏やかさはどこへ。カササギは一気に批判や不満を吐露する。特にイヌが、どうせこのことを隠しておいても誰にもわからないだろうと言い、キツネの手荷物を水に放り投げようとしたが…。

結局イヌは警察に連絡することにし、岸まで泳ぎ出した。その一部始終をブイにつかまって見ていたキツネは、悠然と泳いでヨットに戻る。そう、泳げたのだ。

カササギはキツネの頬をたたく。その後、二人のやりとりを通して、キツネの身上と、かつては貧しく苦労したイヌとカササギの過去が明らかになる。どちらからともなく唇を重ねる二人。そうして二人で船室へ。

イヌ

カササギはヨットを岸辺につけ、そこでキツネを降ろし、すぐさまイヌが待つ桟橋へ向かう。イヌは泳ぎ着いてそこで待っていた。裸では警察に行けないから。

車を走らせると、目の前に「警察署」の案内板が見えてきた。カササギはUターンして、とイヌに言う。

ーキツネは生きていたの。ちゃんと泳げたのよ。彼が戻ってきてから、一緒にあなたの名前を大声で呼んだけど届かなかった。わたし、浮気したわ。

カササギの言葉を信じないイヌ。

ー君の言葉を信じて家にもどり、明日、新聞を開くと「若者の水死体が…」という記事を見ることになるんじゃないか。

本当の話だといっても、なかなかイヌは信じようとしない。イヌは警察に行くのか、行かないのか…わからないまま、この話は終わる。

 

マミーさん、shellさんのコメントを読んで、この映画を思い出しました。ポーランド映画『水の中のナイフ』です。登場人物はたったの三人。場所は湖のヨット。密室ならぬ密船劇です。

サスペンスと画像の美しさ。30年くらい前に「ポーランド映画祭」で見たのですが、今も忘れられません。 

『水の中のナイフ』(Nóż w wodzie)ロマン・ポランスキー監督・脚本による1962年ポーランド映画ポランスキー監督の衝撃デビュー作品。アカデミー外国語映画賞ノミネート。波瀾万丈の人生はこちらで。ロマン・ポランスキー - Wikipedia

 写真を載せておきます。

f:id:cenecio:20161229104818j:plainf:id:cenecio:20161229104830p:plain

Nóż w wodzie (1961). Roman Polański – Toster Pandory

http://szczere-recenzje.blog.onet.pl/2011/04/17/146-noz-w-wodzie-knife-in-the-water-1961/

f:id:cenecio:20161229104840j:plain

f:id:cenecio:20161229105157p:plainf:id:cenecio:20161229105212p:plain

http://film.onet.pl/noz-w-wodzie

f:id:cenecio:20161229105445p:plain

ロケ地の湖、現在の様子。ウィキペデアから。

終わり

 

追記:2017年1月

ポーランド 映画祭パンフレット

片づけをしていたら見つかりました。とってあるとは思っていなかったので感激しました。

f:id:cenecio:20170104114106j:plain

上の写真

右:1979年

左:1981年

下の写真

『水の中のナイフ』解説

f:id:cenecio:20170104114110j:plain 

キツネクラブのみなさん、こんにちは(笑)。 

皆さまのすばらしいコメントで、本の内容に関した部分だけ抜き出してまとめました。省略の部分が多いんですが、そこは許してください。また自分のコメントは載せないでほしいという方、どうぞおっしゃってくださいね。

 

2016年12月12日

Mさま

(略)ラストのページを読んだときの衝撃・・・。どのページにも、なんとなく漂う不安感。子ども向けの絵本とは思えないくらいの作品でした。
今も、カササギの運命や取り残されたイヌの気持ち、去って行ったキツの胸中なんかを思い出して、ちょっとどんよりしてしまいます。

セネシオ:(略)私のはレビューにはなっていません。とにかくショックが大きくて、もうちょっと時間をおいてまた読んでみてもいいよね、と思っています。読みかえすとさらに怖くなったりして…?おお、ブルル…。
よくこんな絵本がオーストラリアから出てきたものだと思いました。
ラストから2枚目の絵、洞穴ですけど、中にイヌがまだ(眠っていて)居るのか、それともカササギを探しに外へ出ていないのか…などの謎があり、そんなことも含めて凄い本に出合ったものだと思います。

Sさま

(略)図書館でこの本を読んでまいりました志月です。

感想『マジか...』

衝撃的でした...絵本の概念を覆されました。絵本って、どこかで、子供のものだと思っていたんですよね。大人が絵本を楽しむことも普通にあると思うんですけど、それは子供向けのシンプルなメッセージが大人の心に刺さるからだろうと。なんとなくそう思っていました。
でも『きつね』を読んで思いました。作家さんにとって、子供向けとか大人向けとか関係なく、ストーリーを最もいい形で表現できる方法が絵本だということもあるんだろうなぁと。あのキツネの仄暗い目と底知れぬ怜悧さ...記憶に刻み込まれてしまいました。それは、このお話が絵本だったから、だろうなと。こういう種類のお話を出版する大人たち、カッコいい(^^)というわけで、またもや目からウロコが落ちたのですが、『遅っ』って言わないで下さいね。 ②

Mさま

Sさまも読んでくださったとお聞きしてうれしくって飛んできちゃいました。ほんとに衝撃的な本でした。たぶん、生死について美しく歌い上げた「ぶたばあちゃん」がすばらしかったので、同じ作者の本なら間違いないという感じで、小学校にたくさん納品されたのではないかと思うのです。
でもこれは確かに大人向けの絵本って感じがしますよね。
キツネの羨望と嫉妬、それゆえの行動。
思わず目をそらせてしまいたくなる情念ですが、これも確かに人間の感情のひとつだと思うと、その悲しさに身が震えます。
なにか、とんでもない事件や災害が起きる度、人は必ずカメラの前で、
「こんな悲しいことはこれで最後にしてほしい」
なんて言いますけれど、時々私、それって本音かな、って思うのです。
みんなが同じ思いをすればいいんだって、
そうでなければ、私の気持ちなんて、きっとわかってもらえるはずがないって、内心思ってたりするんじゃないかなって。
キツネの感情は、あまりにも人の感情の最も深い、正直な本音の部分に寄り添いすぎていて、だからこそ、この絵本は読んだ人に衝撃をもたらすのでしょうね。
私は英語ができませんが、この絵本は翻訳に少し難があると評判なので、原書もちょっと読んでみたいです。③

セネシオ:Sさま、ね~、びっくりでしょ。Mさんに教えてもらってよかったですよね。なかなかこんな体験できるもんじゃありません。

いえね、おっしゃる通りだと思います。つまり
>ストーリーを最もいい形で表現できる方法が絵本だということもある
しかもこの作家✖画家のタッグが抜群で、私たちみんなやられちゃったんです。
作家のブルックスさん、南アフリカ出身というのが人生観になんか影響あるかな、なんて考えてもみます。
話が終わった時点で皆の注意がカササギに行きますね。

カササギ、あんた、どうすんの?って。カササギは悔いて力の及ぶ限り、もとの我が家へ帰ろうとします。一人で。カササギの自立ですよね。今まで自分では何もやってこなかったから。
何度も新しい目で読むのがいいですね。

Mさま:著者ブルックスさんの他のは読んだことがないんですが、キツネは「揺さぶりをかける」作品です。
>人の感情の最も深い、正直な本音の部分に寄り添い…
そう、そこを揺さぶるのです。
私はあまりに引きずったものだからさっきまた本を開いて、最後のページのカササギの表情を見てきて、ちょっと希望があるかな、なんて思っちゃった(笑)。私たちはそんな風に思いたいんですね。
ええ、翻訳はいつも問題ですね。

 

Sさま

(ごめんなさい、たくさん略してしまいました💦)
快晴の空。爽やかな顔をした群集。
人混みの中で考えるキツネの情念...
アリですね...(ニヤリ)
『みんなが同じ思いをすればいいんだ』
後ろめたくて正視できないこの感情を、どうしても認めざるを得ないこと...
マミーさんがおっしゃる『鏡の中の自分』
セネシオさんがおっしゃる『揺さぶられる』
読む者はみな、この残酷な道を通らされるのですね。私も本当にそのように感じました。

そしてこの感情の暴露を表現してくる人がいるという驚き。
キツネの感情そのものに背中が寒くなるのと同時に、
絵本に対するとき、教訓や寓意みたいなものを無意識に期待してしまう姿勢をもぶち壊されました。
この作者さんの生い立ちは一体...?と考えてしまいました。
色々な『スゴい』が渦巻いて、カササギの迷いを自分の日常の中に見つけてしまったり、犬おまえ気付けよ!って思ったり、キツネの誘惑を男女に例えてしまったりしたら...
『わーーっ!!』ってなりました...(T_T)④

セネシオ :>人混みの中で考えるキツネの情念

私もともにニヤリとします。「感情の暴露」といっても、イヌやカササギの感情は至って当たり前、誰しもわかる感情です。

しかしキツネの感情は、心の奥底に蠢く暗い激情であり、正視しがたい。見なかったことにしてしまいたい。関りを持ちたくない。そう思ってしまいます。
>キツネの誘惑を男女に例えて…
おっしゃる通りです。一番わかりやすいんじゃないでしょうか。
>犬おまえ気付けよ!
私も同じことを考えた(笑)。その前に「カササギのばか、ばか、ばか!」です。

Rさま

Mさんのところから伺いました。

小さなミスで大切なものを失ってしまうことがある。永久に。
ここのところで、胸が締め付けられました。涙がうっすら。
本当にそう思います。
絶対に失いたくない大切なものは、誠実にきちんと向き合う必要があります。一度失った信頼を取り戻すのは、正直難しいです。いくら後悔しても、いくら泣いてもどうしようもありません。切ないですね。
お日様の光が弱いからか、気持ちが沈みがちです。⑤

 Jさま

他の方も書いていますが、「絵本=子供向けの寓話」・・と言うステレオタイプを一発で打ち砕く、破壊力のある一冊です。
でも、この本を通じて著者の発するメッセージは「子供への問題提起」とは、考えられないでしょうか?
例えば、イジメ。 なぜイジメるのか? イジメられたらどんな思いか? キツネとカササギは、そのメタファーではないでしょうか?
大人にも、強烈なインパクトを与えますね! 例えばフィギュアスケート。 あと一人の滑走者を残して、自分が暫定3位だったとします。 3位の選手は、最終滑走者の演技を見ながら、
  「転べ、ミスをしろ。 そうすれば、私はメダリストだ!」
なんて思わないのでしょうか? 
まぁ、大人は間違っても、そんな事を口に出さないでしょう。 
が、著者が「大人への問題提起」もしたかったとすれば、それは、深層心理を含めた自分自身を内省するツールにして欲しかったのでしょう。

セネシオ:(略)イジメ、メタファー、深層心理、内省を促すツール…興味深いキーワードが出てきました。ありがとうございます。皆があの本を読んだ時点で、また取り上げたいと思います。次回(年内の予定)も「キツネ」です。 

12月28日

Mさま

(略)実は娘が初めてこの絵本を読んだとき、しばらくどよーんとなってしまいました。
で言うのです。
「このキツネの気持ちもわかるな」って。
ついこの前まで赤ちゃんだったはずなのに、あなたの人生に一体何が?!とびっくりしてしまいました。ほほ。
初めはキツネの情念に目が眩み、イヌの純情さと鈍感さにイライラし、次にカササギの弱さに切なくなる・・・。これほど感情を揺さぶられる絵本はそうはないと思います。
セネシオさまの解説で、いっそう印象的になりました。
ちなみに私も結末にはほんの少し希望を感じました。
帰宅したカササギが、他のカササギと仲良くしているイヌを発見!なんていうのが本当の絶望かも・・・とか人の悪いことをちょっと想像したりしてたのは秘密です。

(略)

PCを通してですが、みなさまのご意見や感想を聞くことができて、本当に楽しかったです。
まるで本物のサロンのような。なんて贅沢な時間だったことでしょう。⑦ 

Hさま

マーガレット・ワイルドの他の本は読んでいますが、この本は、気味がどうも・・・で
避けていました。
でも、様々な方々のレビューから、想う事が沢山ありました。
イジメは,亡くさないといけないです。
あえて亡くすと書きます。
カササギが、無事に犬の元に戻れる事を願います。

セネシオ:(略)本の衝撃も大きいのですが、みなさんの感想を聞いてまた本を開いて、時間をかけながら考えてみることができた― この点が大きな収穫だったと思います。というのもこの本が怖かったから。これまでに出会ったことのない類の絵本だったからです。 

Sさま

「キツネ」は、2016年私が選ぶこの一冊大賞(私主催)を受賞しました。ちなみに「やまびと」と同時受賞です。こんなふうにみなさんの感想を伺えるって、すごく楽しいですね...!感想文を書くのともちょっと違うし、おしゃべりするのとも、ちょっと違う。
何度も読み返してしまいますね!
私にとって「キツネ」が特別と感じた理由は、その衝撃がストーリーそのものに留まらず、絵本の存在意義や自分の受け止め方にまで及び、さらには製作者の人生にまで興味が及んだこと。
たくさんの驚きが詰まっていたのです。
まったく予備知識なく読んだので、お話しと絵がそれぞれ別の人の手によっていることさえも、一つの驚きでした。あのストーリーにこの絵...こんなにぴったりくるものですか??
正直驚きを禁じえません。お互いを高め合うタッグなんだなあと、ここでも衝撃をうけた次第。どんだけゆさぶるのかと(笑)
お話の最後、私、あんまりいいイメージが浮かびませんでした。カササギが運良く犬の元に戻れたとして、以前のように幸せにはなれないんだろうなあ...と。
あ、(゜゜)それは私がこの本を完全に自分本位に読んでいるからかも。子供に読ませるという意識が全くなかった!!
あらびっくりです。

セネシオ:(略)絵本、恐るべし、ですね。子供の本じゃないです、アニメが子供専用でないのと同じですね。
カササギが戻れるかも疑問ですが、戻れたとして今後の人生ですか…う~~ん。
イヌは許してくれるでしょうが、以前と全く同じにはならないでしょうね。イヌの優しさが怖くなるでしょう。
あの二人、作家と挿絵画家の関係も興味深いです。こんなによく理解できる人間関係って稀有でしょう。奇跡のように思えますね。

12月29日 水の中のナイフ キツネ-3-

Shさま

イヌ(アンジェイ)が全く妻のことを信じ切っていたなら、展開しえなかった出来事。
もしくは彼に 自制心と品格があったなら やはりこうはならなかった。
この後、彼にとってはどちらにしても地獄ですね・・・・
妻の言うことを
信じても地獄。
信じなくても地獄。
キツネ(青年)はきっと、カササギ(スポーツ記者の妻)と目が合った瞬間から、
一瞬の恋を予感したのではないでしょうか?
ナイフを置いていっしょに出かけた時には、このストーリが出来上がっていたのではないでしょうか・・?

セネシオ: カササギはちょっと不眠気味で外(ヨットの上ですが)に出て外気を吸っていた。キツネは出発の日だから早く目が覚めたんですね。二人でお話をしていただけ。
なのにイヌはやきもちを焼いた。器の小さな男、でも至って普通の男です。普通の人間は欠点だらけなんですから。
成功してちょっと慢心している男。キツネの若さと美しさが急に気に障り出したんです。そうしたら妻がやけに親切にしている風に感じられたんですね。
夫婦間の隙間に、さっと風のごとくキツネが入りこみ、さざ波をたてていきました。

Mさま

(略)でもこんな映画があったとは!
「キツネ」を読んだ後にこのストーリーを読むとどうしても連想せずにはいられませんね。
戦場のピアニスト」の監督さんですか...。どんな映画だったのか...いつか見てみたいものです。

最初は優越感に浸っていたイヌ。
でも、即物的な成功の証、お金やヨットなんて、みずみずしい「若さ」の前では、輝きが鈍ってしまうものなのでしょうか。
イヌの方が嫉妬するなんて。
カササギは失望したことでしょう。
そんないじましいイヌの姿に。
キツネによろめいちゃっても仕方ないかなあ…なーんて思ってはいけませんね。この映画の場合、キツネにより強く魅せられてしまったのはイヌの方なのかも。そんな気がしました。⑪

セネシオ :この三人、おもしろいですよね。いろいろな解釈を残しており、監督は若いのにすごいなと思っています。

映画を見ると、始めのほうは話がなかなか進まないように思えて、どこへ連れていくんだろう、と先回りしていろいろ予測して考えてみるのです。最後の20分でどどっと動きます。
私が筋を言ってしまってすみません。でも伏線もありまして、なかなか複雑なんです。イヌはやはり嫉妬しないとおもしろくないでしょうね。即物的な成功では満たされないものってありますもんね。

Jさま

う~ん、人間の持つ優越感やそれに対する嫉妬心、猜疑心を寓話で見事に表現しています。
人生に成功し、ヨットを得、美しいカササギを妻に迎えたイヌ。 しかし、若さや美しさでは到底イケメンのキツネには敵わない。 
そんな3匹がヨットと言う隔離された密室で一晩過ごしたらどうなるのか? 結果は、本文にありました。
若いキツネにカササギが心を惹かれたと誤解したイヌの、キツネに対する仕打ち・・
まさかイヌがそんな醜い心を持っているとは思っても見なかったカササギ。 「ああ、あれが夫の本心なのね!」
と思った事でしょう。 水中に落ちたキツネを真っ先に助けに行くカササギと、そんな妻の行動に戸惑いながらも、錨を降ろすイヌが印象的でした。 ⑫

セネシオ:人生の師匠とお呼びしてもよいですね。よくぞ映画の本質をまとめてくださいました。キツネという異物によって、夫婦はお互いの心の奥を覗いたわけですが、最後は(描かれていないけれど)もとのさやにおさまって、平穏な暮らしを続けていくのだろうと思います。夫婦とはそんなもんです。
普遍的なテーマですが、あの若きポランスキーは見事にさばいてみせました。あれから彼の映画界における進撃が始まるのですね。しかしポランスキーさん、いつもお騒がせな話題に事欠きませんけれども。

Jさま

まぁ、夫婦は今まで通りの平穏な暮らしを続けて行くとは思いますが、カササギはイヌに対して、
  「(本当は、あんな人だったのね!)」
と不信感を持ち、イヌはカササギに対して、
  「(そうか、若い男と見ると直ぐに心を動かす、尻軽女だったのか!)」
と軽蔑心を持ち続けるでしょう。
そんなイヌは、「美しい妻を持つ」事を同僚等から言われる事をステイタスと思い、カササギは今の生活レベルを落としたくないと思い、両者は何事もなかった様に「仮面夫婦」を続けて行くのでしょう。
  「どうして? ねぇ、どうして?」
と不思議に思う子供達に対し、
  「それが、『大人』っていうのさ」
としか答えられない大人達 ・・ きっと、作者はそんなメッセージ(=格好良く言えば清濁併せ呑む事が出来るのが「大人」である)を伝えたかったのかも知れませんね? 

セネシオ:(略)夫はごく普通の人間で、悪い人じゃないです。若造に自分らの生活を見せびらかしたかった。反応を見つつ優越感に浸っていたらちょっと度を越してしまったんです。さっきまで威張っていたのに今度は恐ろしくなって、おろおろする。
妻の言うことが信じられない。自分のために嘘をついているのだと思ってしまいます。最後はopen ending
妻のほうは、夫を罰するために、若いキツネを誘惑したんでしょう。これで自分の中の怒りはおさまったのでもう十分です。

Nさま

おじゃまします。ご紹介くださった絵本と映画、意外でしたがとても共通点がありますね。
ロマン・ポランスキーは「戦場のピアニスト」「死と処女」「赤い航路」を観て、ほかの作品もぜひ観たいと思っていました。「水の中のナイフ」絶対観ます!
憧れと嫉妬という感情を描いた男女の映画、というとわたしは「太陽がいっぱい」「道」「華麗なるギャツビー」を思い出します。それぞれの映画の「キツネ」を考えるのも楽しい連想でした。
素敵な記事をありがとうございます。⑭

セネシオ :(Nさまへ)「太陽がいっぱい」を出してくれて感激です。私もいろいろ共通点が多いと思っています。
「水の中のナイフ」はメイキング映像がついているのがいいそうですよ。私はDVDは見てないんですが。
社会主義国だったポーランドでは映画一本撮るのは大変でした。検閲で削られたり却下されたりです。若きポランスキーはその辺をうまくやって、映画を無事世界に送り出しました。西洋世界で絶賛され、その後はご存じのとおり成功を重ねました。
私はこの映画を見た翌年1980年、ポーランドへ旅行しました。一人の貧乏旅です。「連帯」運動とリンクして、アンジェイ・ワイダの映画が世界的に大きな話題になっていた頃です。 

おわり

 

🌸キツネ画像

f:id:cenecio:20170412095903j:plain 

 みなさん、ありがとうございました。