有名な民話です。
といっても日本ではどうでしょう。どのくらい知られていますかね。人によるかもしれません。そのことはあとで説明します。ロシアやチェコ・スロバキア地方では広く知られる民話で、様々なバリエーションが存在します。ちょうどシンデレラや赤ずきんと同じように、地域や国によって細部が異なるんですね。
十二の月たち
(世界のお話傑作選) 大型本 – 2008/12
ボジェナ ニェムツォヴァー (著), 出久根 育 (著, イラスト) 偕成社 (2008/12)
挿絵の出久根 育さんには驚かされます。前にグリム童話『あめふらし』を扱いました。同じ人の絵とは思えないですね。シュールな『あめふらし』は何度も何度も読みました。いえ、絵を鑑賞しました。中毒性があるようです。
この『十二の月たち』は ボジェナ・ ニェムツォヴァー(Božena Němcová、1820 - 1862)というチェコの女性作家の再話です。(ニェムツォヴァーは岩波の『おばあさん』がうちにあり、学生時代に読みました。下のほう、参照のこと)
『十二の月たち』のはじまりはこうです。
心のきれいな、そしてとびっきり美しい娘マルシュカは、森のなかの一軒家に継母と姉と三人で暮らしています。
はは~、なんとなく話がみえてきたなと思うでしょう。その通りで、継母は自分の娘は可愛がりますが、家事やきつい労働は全部マルシュカにさせます。それどころか何とかして追い出そうと企みます。
一月のある日のことです。「マルシュカ、山からスミレの花をつんできてちょうだい」と言いつけます。こんな一月の雪の中にスミレが咲いているわけないのですが、摘んでもどらないとただじゃおかないよと言われます。
寒さに震えながら、山頂までやってくると、たき火が見えるではありませんか。そしてまわりを囲んでいるのは…。
表紙の絵から想像がつくように、12人の月がいたのです。一月の月は白い髭をたくわえ、杖を持つ、威厳に満ち満ちたお方です。マルシュカがわけを話すと、三月の月(こちらは青年)を呼びます。
絵の左が三月です。
このように話は進んでいきます。興ざめするので筋は言いません。ストーリーと絵を楽しんでください。
絵を見て最初に感じたのは、宗教画みたいだということ。
キリストや使徒たち、長老や賢人ふうの老人もいれば、フラ・アンジェリコの絵に出てきそうな天使も。
もうひとつの大きな特徴は厳しい自然です。過酷な冬の風景、雪や風で凍った景色、何百と描き込んだ針葉樹などが雄大に描かれています。
出久根さんはチェコにお住まいなので、あちらの自然をよく観察していると思いました。
参考:
おばあさん (岩波文庫 赤 772-1) 文庫 – 1971/9/16
ニェムツォヴァー (著), 栗栖 継 (翻訳)
わがやにあるのは1977年5刷りです。
はてなでこの作品に触れている方がいらっしゃいましたので、貼っておきます。
ボジェナ・ニェムツォヴァー作『おばあさん』(栗栖継訳)を読む - edel_weiss306の読書・旅日記/
著者
ボジェナ ・ニェムツォヴァー(ウィキペデアより)
チェコ語の本の挿絵。ニェムツォヴァー博物館より。
BABIČKA | Muzeum Boženy Němcové
『森は生きている』
このスラブ民話は、日本でもいろいろな形で知られています。
たとえば私の世代の人間は『森は生きている』(ソ連、1943年)という戯曲作品として知っています。学校劇でこれをやった人たちもいます。また子供向けの劇団公演を見たことがある人もいます。
多くの人はまず、岩波のこの本を思い浮かべるでしょう。1953年発行です。
森は生きている (岩波少年文庫)
サムイル マルシャーク (著), Samuil Marshak (原著), 湯浅 芳子 (翻訳)
こちら、ナンさまが前回記事に寄せてくださったコメントです。
このお話、大好きです。暗い森の中で火を囲んでいる12の月たちに出会うシーンほかとても印象的でした。わたしはマルシャーク「森は生きている」を岩波少年文庫で読みました。懐かしいです。出久根育さんの挿絵の作品もぜひ読みたいです。ご紹介下さりありがとうございます。
1日前
『森は生きている』はけっこうドタバタしているんです。
継母や姉、わがままな女王や彼女に振り回される付き人たちなど、登場人物があまりに滑稽に描かれるので、子供たちもクスクス笑い、かと思えば高価な褒美がたくさん出てくるため、子供たちも目をまん丸くする。速い展開に引き込まれ、最後に主人公の女の子が誰と結婚するかわかった時には満面の笑顔です。ユーモアに溢れて、とっても楽しめる作品です。でも今の子供たちはどうなんでしょう。おもしろく思ってくれるのかなあ。
指輪をもらうシーン
こんな風に歌もたくさん挿入されています。
ロシア語はわかりませんが、訳者はよく訳しているんじゃないかと思います。
ままむすめ(絵本ではマルシュカ)が誰と結婚するか、ここでちょっとわかってしまいましたね。すみません。
アニメ映画
1980年には『世界名作童話 ・森は生きている』というタイトルで、「東映まんがまつり」枠内で公開されました。
主人公ままむすめの声は大竹しのぶ。一月の月は小林清志、そのほか兵士の声が役所広司とか、豪華ですね。
『森は生きている』の作者
サムイル・ヤコヴレヴィチ・マルシャーク(Samuil Marshak 1887-1964)
ロシアでは有名な児童文学作家です。ユダヤ人だったけれど、非常に才能豊かだったので特別待遇を受け、創作活動に打ち込めたそうです。
原題は『十二月』(ロシア語: Двена́дцать ме́сяцев)。
現代のロシア語の本。http://read.ru/id/3709424/
マルシャークは多くの作品を書きました。
子供たちのアイドル。
Самуил Яковлевич Маршак. - ЯПлакалъ
切手にもなっているほどの人なんですね。
いろいろな翻訳+挿絵画家のバージョンがあります。たとえば
森は生きている―12月(つき)のものがたり (斎藤公子の保育絵本) – 1986/12
マルシャーク (著), 斎藤 公子 (編集), エリョーミナ (イラスト), 林 光、出版社: 青木書店
民話や昔話には、意地悪な継母や醜く性格の悪い姉(たち)が出てくる話がたくさんありますね。最後は罰がくだって、ちょっぴりかわいそうな羽目になります。
『森は生きている』で作者マルシャークは継母と姉をどうすると思いますか。なんと、犬に変えてしまうんです。三年という期限付きでね。心を改めたら人間に戻してやることになっています。
どうですか、この結末は?私は二人を気の毒に思い、ほかの解決法があるでしょう、と思っていました。離れたところに住まわせるとか、ダンナさんを見つけてやるとか。(←余計なお世話?)
人形劇
プーク人形劇場(クリスマス連続公演Vol.42)
~自然の厳しさ やさしさに向き合い生きる 少女マルーシャの物語~スロバキアの民話より