ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

あの頃 ヨーコ・オノと…

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Yoko at the Baltic 

あの頃ペニー・レインと」(原題Almost Famous)というアメリカ映画があって、今日のタイトルはそれをもじっている。ちなみに当ブログのタイトル「ベルギーの密かな愉しみ」だってお気づきだと思うけど「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」(Le Charme discret de la bourgeoisie)を拝借している。

あの頃ペニー・レインと」はケイト・ハドソンを見るだけでも価値ある青春映画だが、ヨーコ・オノの話である。

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Yoko Ono in 1964. © Getty Images

「あの頃ヨーコ・オノもいた」

「まだ有名になる前のヨーコ・オノが・・・」

ヒューホー・クラウス(この人については後日述べる)について調べていたとき、こんな懐古調のくだり、回想の記述にぶつかることが何度かあった。あの頃はおもしろかったな、盛り上がったよなと。

そうか、ヒューホー・クラウスとヨーコ・オノは接点があったのか。彼女は60年代は前衛芸術家として世界中を飛び回っていたし、ジョン・レノンとの結婚は1969年だから、それ以前にベルギーでパフォーマンスをやり、人々はそれを観に行ったんだろうな。年齢も彼女は4歳年下だから同世代だもんね。とはいえクラウスは2008年に亡くなってしまった(安楽死)。

しかしヨーコ・オノは80歳を過ぎてもなお驚異の若々しさで、パワフルに飛び回っている。彼女とか岸恵子とか、いったいどうなっているんだろうと思う。(岸恵子は娘のほうが年上に見えちゃうくらい)

 

ベルギー国際実験映画祭

ベルギーとオランダの境にある、海辺の町クノック(Knokke)は、風光明媚な富裕層の住む町である。そこで 1949年から全5回、(1949, 1958, 1963, 1967,1974 年)国際実験映画祭が開かれた。1963年には高林陽一が「砂」で審査委員会特別賞受賞。砂丘を歩く一組の男女が映る。男は壺を抱え、女が壺に砂を入れるだけーという話だそうだ。

映画以外にもコンサートやパフォーマンス等々があり、ヨーコ・オノはこの地に1967年、” Bag Piece”を引っさげてやってきた。

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美しいカジノのホール。黒い大きな袋が置いてある。袋といっても小さなテント位の大きさだ。あなたは、近くにたまたまいあわせた全く面識のない人に、一緒に袋に入ってくれないかと頼む。袋をすっぽりかぶり、中で服を脱ぎ、二人でちょっと踊ったり動いたりしたあとで、再び服を着て外に出るというもの。ヨーコは自身でやってみせ、来場者にも参加するよう誘う。そう、そこを訪れた人がパフォーマーになるのだ。 

これは60年代を代表する、もはや古典と言っていい作品で、のちにジョン・レノンと共に進めていく平和運動の中で、「バギズム」と名付けられることになる。

去年のMoMAニューヨーク近代美術館)のヨーコ・オノ回顧展でも、またつい先日まで開催していた東京現代美術館「オノ・ヨーコ|私の窓から」展でも再現されたが、clothing option、つまり裸にならない、服を着たままバージョンが採用されたという。

ちなみに、黒い袋の中からは観客の反応が見られるが、外からはもぞもぞ動いている様子しかわからないそうだ。

ヨーコ・オノはここベルギーで強烈な印象を残したらしい。

人々の記述によると、壇上でインタビューに答えるときも裸だったという。まさか、そんなわけないでしょと思い、シネマテークのサイト(*②)をあたってみたら本当だったので肝をつぶした。

 

ヒューホー・クラウス

クラウスも映画祭に出品した。芝居Masscheroenの中で、全裸の男を三人登場させ、キリスト教の三位一体を表現し、物議をかもした。1968年に、宗教を冒涜し良俗を穢したとわいせつ罪に問われ、罰金および禁固四か月の実刑が下る。

人々の抗議(Anti-Censuur Protest Read-in)により、のちに禁固刑は執行猶予がついたが。

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去年発売の本「若き日のヒューホー・クラウス」 

「あの頃ヨーコ・オノもいた」と当時を懐かしむ世代は、「クラウス・ジェネレーション」とも呼ばれるらしい。ちょうど英米でのフラワーチルドレン(フラワーパワー、ヒッピー世代とも呼ばれる60~70年代の若者のこと。ベトナム戦争反対、花を手に愛と平和をうたう)や、ドイツのルディ・ドゥチュケ世代(Rudi Dutschke)と共通するものがある。

クラウスは非常に多才で、小説、戯曲、詩、絵画、映画領域で華々しい活躍を見せたが、このころの特徴をひとことでいうと、「反抗」だろうと思う。自身の親やその世代(対独協力、フランダース民族主義者)、社会の価値観やカトリック教会を敵にまわし、挑発し、全否定した。 

 クラウスについては時間のあるときにまた。

 

参考 

MoMAニューヨーク近代美術館)の展示まとめ。(日本語) 

 http://www.widewalls.ch/moma-welcomes-yoko-ono/ 

シネマテークのサイト。実験映画祭まとめ(オランダ語。切り替えでフランス語)

www.cinematek.be