世界入りにくい居酒屋に行ってきた
NHKBSの番組「世界入りにくい居酒屋」というシリーズがある。BSを全然見ない人は知らないかもしれないが、人気番組で、よそものには近寄りがたい、地元の常連客だけで盛り上がるカフェやレストランを紹介している。ベルギーではブリュッセルとゲントから一店ずつ。ブリュッセル編は「ル・プチパレ(小さな宮殿)」こちら。
Le petit palais Rue du Baudet 5, 1000 Bruxelles
ベルギー家庭料理のお店である。写真でわかるように「ロバ通り」というとても細い路地の奥にある。実は2007~08年に近くに住んでいたのに、当時は全然知らなかったのだ。
サラリーマンのお昼のピーク前に、と思って11時半過ぎにお邪魔する。
こじんまりして20人以上入るときついかな。茶色の椅子、テーブルが落ち着きを、壁の色とベルギー国旗が快活さとお祭りムードを演出している。大きなテレビが壁にかかっていて、常時フランスのニュースなどを流していた。サッカーの大事な試合がある日はここで皆で応援するんだろうな。
ご主人フレッドさんがにこやかに迎えてくれた。「あなた、日本で有名人ですよ」というと、「あ、そうそう。あの時ね。楽しかったよ」
取材当時の話をちょっとしてから、本を持ってきて「これ、送ってくれたんだよ」。
写真:『世界入りにくい居酒屋 異国の絶品グルメ図鑑』を手にするフレッドさん。
中にはお店の紹介と、幾つかの料理の作り方が載っている。嬉しそう。
ビールはお薦めのルプルス、別名「アルデンヌの狼」をいただく。そういえば入り口の旗にも狼の絵があったね。
ホップの香りが口いっぱいに広がる爽やかな味。レ・トワ・フォルケ( Les 3 Fourquets) 醸造所の比較的新しい商品である。
アルデンヌ地方は美しい自然、森と清流で有名で夏には自然愛好家たちがたくさんレジャーやキャンプに訪れるところだ。狼もその豊かな自然のなかに生息していたが、もちろん今はいない。(話が飛んで申し訳ないけど、3年前オランダの町に野生の狼が現れて大騒ぎ。普通に車道を歩いているTV画像を見て私は仰天したが、オランダ人は「狼が戻ってきてくれたのか」と感激しきりだった)
フレッドさんの勧めるままに、「アメリカン&フリット」を注文。いわゆるタルタルステーキだ。こちらのは、牛の生肉をミンチにして、エシャロット、パセリ、ケッパー、マスタードなどと混ぜてたたいたもの。食べるときは皿に盛られたマヨネーズソースと混ぜ合わせるようにしていただく。
こちらの人はとにかくこれが好きだ。あまりにも目にするので私も挑戦することにした。(実はフランスでも食べたことがあるけれど、真っ赤な牛肉ミンチの真ん中をへこませて卵の黄身を落としたもので、ベルギーのは全体に白っぽい)
でも予想よりずっとおいしかった。フリットも上手に揚がっていた。さらにまたビールをお代わりして満足のランチ。
フレッドさんの人生はちょっと驚く。結婚して子供もできたが、あるとき違和感を感じてカミングアウトした。離婚しても家族は仲良しで、美しく成人した娘さんもときどきお店を手伝っているようだ。
お客さんが次々と入ってきたので、挨拶しておいとました。優しい笑みをたやさない人だった。
*おまけ
ある夜のレストラン「ル・プチパレ」の外。窓の下、見てください。
おや、外で酒盛り?
*参考
1. NHKのサイト(音量注意!)http://www.nhk.or.jp/nikui/00_brussels/
2. 1939 年のロバ通り (挿絵 Léon van Dievoet ウィキペディアより)
尋常ならざるフリット愛
料理の付け合わせはフリットと決まっている。ベルギーのフリットとは単なるイモを揚げたものではない。長さや太さなど基準があり、二度揚げが必要で、よく油をきったあと、外はカリカリ、中はホクホクになっていなければならない。ベルギー人のフリット愛は、フリット用に改良したジャガイモ「ビンチェ種」を作りだすにいたり、さらにキャラクター「ミスター・ビント」なるものまで編み出した。
それがこちら。お名前はJames Bint。
世界無形文化遺産にもなったフリットは、去年ミラノ博にも出店した。こちらのかたもブースのあちこちに立たれたようだ。
私が一押しのフリット屋さん 2軒
Friture Pitta de la Chapelle
Place de la Chapelle 15, 1000 Bruxelles
(マヨネーズソース)
(メニュー表)
名前la Chapelleでわかるように教会(L’église Notre-Dame de la Chapelle)
の横にある。1210年建立ゴシック様式。
↑写真:ウィキペディア
Frit Flagey
Place Eugène Flagey, 1050 Ixelles
(フリットにプロバンサルソースをかけたもの)
町中にたくさんあるフリット屋だが、毎年ランキングが出て、市民の関心も高い。上の二つは五本の指に入っていると思う(すみません、最近のを調べていない)。
特に二番目の Flagey(フラジェ)は、1時間並んでも食べたいという人が列を作っていたものだ。傘をさしてまで!ここのフリットじゃないと絶対ダメという人たちがいる。数年前立ち退き騒動が起こったとき、すぐさま嘆願運動をおこし、存続に力を貸した熱い住民たちだ。おかげで親父さんもみんなを幸福にするフリットが提供できる。
最近親父さんは助手を二人入れて、かなりスムーズに進むようになったようだ。
でもね、
私はジャガイモ類は好きだが、たくさんは食べられないし、毎日はいやだな。揚げ物は健康によくないという刷り込みもある。しかしベルギー人は(たぶんオランダ人やドイツ人も)日本に来ると、料理のつけあわせにフリットがつかず、ついてもわずかな量しか出てこないので、ひどくがっかりし、不満を必ず口にする。そしてフリット欠乏症(実際にこの言葉を使った)になり、禁断症状が出て、機嫌が悪くなり、どこかでおなか一杯好きなソースをかけて食べられないものかと、夢に見て悶絶するのである。そういうときは家によんでたらふく食べさせてやろう。あなたを命の恩人と、一生恩にきること間違いなしだ。