ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

マイケル・ジャクソンと ビアカフェ「クルミナトール」と猫

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歌いも踊りもしないマイケル・ジャクソン

写真を撮るために押入れをゴソゴソ…レコードを収めた箱がなかなか見つからず、大わらわ。ふ~っ、あった、あった。この時期の歌手マイケルは大好きだった。

そしてもう一人のマイケル・ジャクソン氏は(写真の中で)、アントウェルペンの有名ビアカフェ「クルミナトール」のカウンター前に陣取っている。2007年になくなり、いまや二人とも故人になってしまい、寂しい限りだ。 

 ビールやウィスキーを愛する人でマイケル・ジャクソンを知らない人はいないと思う。ベルギービールを広く世に知らしめた人で、著述業やTV出演などを通して世界中にファンを持つ。挨拶はいつも同じ「私は歌いも踊りもしませんよ」。

歌手マイケルがKing of Popと呼ばれるのに対し、もう一人のマイケルはビールのホップをかぶせてKing of Hopと呼ばれる。

 写真の本は、『マイケル・ジャクソン地ビールの世界―多彩な味わい、ベルギー・ビール 』(1995年版) 

 

名店 「クルミナトール 」 Kulminator

3月17日に訪問した。下に1月の訪問記事を貼っておいた。

あの猫の写真だが、プリントしてカフェのご夫妻に、金閣寺の絵葉書と共に郵送した。奥さんはそれをカウンターに置いて、懇意の客に見せていたようである。

猫のターザナ(奥さんいわく「ターザンに似てるでしょ?だから女性形にしたの」)は、写真を撮らせることなどそれまでになかったという。ターザナの写真は過去ログで。

cenecio.hatenablog.com


 

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入り口

地味でちょっとわかりにくい小路にある。店内もどちらかというと狭くて薄暗い。店というよりどこかの家の古ぼけた居間のよう。おつまみの種類も少ない。

美しい内装のビアカフェなら私の過去ログにたくさん紹介してあるし、一店だけ行くなら絶対にここではない。だが私は時間を作ってどうしてもここへ行きたい。ここで過ごす時間には格別の魅力がある。

過去記事で経営者ご夫妻のことを簡単に紹介した。ベルギー各地の、キャラの立った恐ろしい数の多様なビールに精通しているだけでなく、ビールに対する愛情と敬意と、ビール文化を守り育てる自負が感じられる。

 ビールにも、ワインのようにヴィンテージものがある。たとえば仮に、あなたは結婚した記念すべき年2005年の、とある銘柄を二人で飲みたいとしよう。

マスター「ありますよ。ちょっと時間がかかります」貯蔵庫には何百本とあるのだから、けっこう待たされる。やがてあなたのビールは麗々しく専用籠に寝かされて、酵母を起こさないよう静かに運ばれてくる。それから静かにコルク栓が開けられる。そして専用のグラスに注がれる。美しい儀式だ。 

f:id:cenecio:20160429130033p:plain(写真:ビール籠。オークションサイトから)

ベルギービールで驚くのは、各銘柄にそれぞれ専用のグラスがあることだ。それで飲まないとどういうわけかおいしくない。

そして日本のビールと比べるとアルコール度数の高いものが多い。12度のは例外としても、7~9度は普通なので飲むときはゆっくり時間をかけていただく。泡のラインを何本も描きながら。

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この日のカウンターは、復活祭の飾りつけでにぎやかだった。 

ビールを通して人と出会うところ

ビアホールみたいなところで、仲間うちで飲んで騒ぐのもじつは嫌いじゃない。しかしこうしたビアカフェはグループで来るところではないし、入り口のドアに「グループお断り」と明示してある。

小さなビアカフェには興味深い現象がある。その時間の客で雰囲気が決まる。この日は主に、中年のイタリア人男性が仕切っていた。店の上得意で貿易関係の仕事をしていて、ビールや料理の造詣が深く、店の人とも親しいようだった。彼は一人で10人以上を相手に話ができる。ビール選びのアドバイスから旅行の話や役にたつ情報など、テンポよく話をすすめる。おつまみのチーズのトレイを注文し、皆にも回す。

フランス人が二人入ってきた。30代の女性とその母親だ。すぐに私に英語で話しかけてくる。「何、飲んでいるんですか。おいしいですか?」

「私たち、フランス語、わかりますよ」

「あら、よかった!こっちは母。私はアントウェルペンで働いているんだけど、母はフランスから訪ねてきたの。私たち、ベルギービールの大ファンなのよ」

ここから4人で、ベルギー生活の話から原発問題にまで発展。チェルノブイリの時どこにいたとか、フランス国境を越えて放射能は来ないという政府の見解をバカみたいに信じていたとか、そっち(日本)は地震もあるから大変じゃないの?(「もう、おっしゃる通りなんです。心配ですよ」)…。

ビールを2杯ずつ飲むと帰っていって、今度はイタリア人、店の女主人、私たちとの会話が始まる。私はちょっと前からウロウロし始めた猫が気になって仕方がない。うちの猫にかなり似ているから。 

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けっこううまく撮れたな。ありがとう。

 

子供も飲めるテーブルビール

 ベルギーには、アルコール度数がゼロかとても低いビールを食事のときに家族皆で飲む習慣がある。スーパーで探してみるとたくさんの種類があって驚くが、写真のは1.5%だ。

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大人はビールを飲み、子供はテーブルビールを少量飲む。ラガータイプや色の濃いものなどいろいろな種類から子供に選ばせるそうだ。こうして育つ子供は成長して酔っぱらったりしないらしい。(あいたた、耳が痛い!)

 

ブリューゲルの絵に描かれるビールは何か

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「結婚の宴会」(1567)

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「農民の踊り」(1568年ころ)

上記2枚のビールが入っている壺は、現在でも見られる石壺で、中のビールはランビック(Lambic)だと言われている。ランビックは、ブリュッセルの南西パヨッテンラント(Pajottenland)地域でしか醸造されないビールである。 

クルミナトールで楽しい時間を過ごして外へでると、まだまだ寒い3月のアントウェルペン。人もほとんどいない広場が煌々と照らされている。

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連続テロの5日前だった。