ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

オバマ大統領のユーモアの8年 

オバマ大統領は最強のコメディアン

 ああ、もうじき「前大統領のオバマ」になってしまうのだ。まだ2年間は下のお嬢さんの就学の関係でワシントンにとどまるそうだが、まずは「お疲れさまでした。そしてありがとう!」と言いたい。

オバマ氏のジョークや機知に富んだ発言、心打つスピーチなどが話題になるたび、大いに笑い、楽しませてもらってきた。ジョークは自虐ネタも含めて、品がよく、タイミングがよく、ひねりが効いて感心する。もちろん政敵やメディアの批判に対する辛辣なジョークもうまい。準備もなくて、見事な切り返しに思わずため息が漏れたほどだ。

このたび新しく大統領になるT不動産屋は、人を傷つけたり貶めたりすることで笑いを取る。自分ではうまいことを言っているつもりなのだろうが、最低最悪のジョークである。ロシアの元KGB諜報員なんかもジョークを解しないから、下手すると毒殺されたり搭乗した飛行機を落とされたりしかねないので、十分用心しなければならない。

10 diaporamas qui vous ont étonné, bouleversé, fait rire en 2016 - L'Obs

 オバマ氏が大統領になったばかりの2008年を思い出す。TBS系列『悪魔の契約にサイン』の番組内で、オバマそっくりさんのお笑い芸人ノッチアメリカに行き、群衆の中からオバマ氏に呼びかけたときのこと。オバマ氏はすぐに気づいてくれ、

"You are OBAMA"

と、なんとも気さくに返してくれたものだ。このとき以来、オバマ氏の懐の深さ、頭の回転の速さ、お茶目で人懐っこい感じ、並外れたユーモアセンスに魅了されてきた。

自分のことを笑いの材料にするのは、オバマジョークの大きな特徴だろう。自分や自分に関係したことを笑うには、低い目線で距離をとって客観視しなければならない。滑稽さも悲哀もいろいろと見えてくる。私の印象だが、英国やユダヤ人のジョークでよく見るように思う。

オバマ氏は自分の大きな耳もネタにする。3年前にアイルランドに行ったとき、「いとこをすぐに見分けられたよ。なぜなら自分と同じ大きな耳をしていたから」と笑いをとっていた。(オバマ氏の曾曾曾おじいさんがアイルランド生まれということで)

また以前、 選挙期間中に共和党の一部の人間から、オバマ氏は「黒人」で「イスラム教徒」(「フセイン」というミドルネームから。実際はキリスト教徒)で「共産主義」云々、とひどいことを言われていたのだが、それもネタにする。

「最近、ぼくはある老人向け雑誌の表紙を飾ったんだけど、だいぶ老けてきたんで、かつての黒人ムスリム社会主義者じゃなくなってたよ」(注*ビデオ①)

こうした絶妙なユーモアセンスで、小気味いいしっぺ返しをする。オバマ氏は自分や政策などに対して言われた不愉快な発言、悪口、デマ、その全てを記憶している。もしかするとすぐネタ帳にメモして、今度使ってやろうと思っていたかもしれない。

スピーチは間の取り方が上手で、聴衆が理解し味わい、笑い声をあげる時間をちゃんと見込んで構成されている。聴衆の顔だけ映したビデオがあったらおもしろいのに、と私は思っている。みんな目をキラキラさせて聴いているし、大口を開けて笑うからだ。

 

エンターテイナー、そしていたずらっ子

去年のホワイトハウスでの最後の夕食会では、自分で作った短いビデオも披露した。これがまた、お腹がよじれるくらい笑える傑作なのだ。

カウチ司令官Couch Commanderという題がついている。大統領を辞めた後自分は何をしようかと悩むユーモアたっぷりのビデオで、バイデン副大統領や本物のニュースキャスターなどが友情出演している。(注*ビデオ②)

最高司令官からカウチ司令官になったオバマ氏。ソファーに寝そべり、今後のことを思案する。そうだ、以前娘の学校でコーチをしたことがあったな。そう思い、すぐさまバスケットボール協会の事務局に電話をかける。話している最中、一方的に切られてしまう。

ワシントンにまだ2年も住むのだから、車の免許が必要だ。よし!…ということで役所に行くと、番号札を渡され、ずいぶん待たされたりもする。窓口の女性に出生証明書が必要だと言われる。ポケットから出して見せるが、女性はいぶかしそうな面持ちだ。「本物ですよ」と念を押すオバマ氏だが…。

(場面変わって)

おや、ミッシェルのケータイがあるぞ。

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オバマケアは最高だ!」と叫ぶ。この投稿はアメリカ中を駆けめぐる。するとCNNニュースでキャスターがこう言っている画面へ。「ミッシェル・オバマさんからの投稿に非難が巻き起こっています」

ここはビデオを見れば、みんな吹き出すとシーンだろう。(ぜひビデオを!)

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ミッシェル夫人に「あなた、いい加減にしてよ」と怒られ「経験者に相談してみたらどうなの?」とアドバイスをもらう。

オバマ氏の次なる行動は…。興味のあるかたはyoutubeでどうぞ。

youtube  ビデオ①

www.youtube.com

ビデオ②

www.youtube.com

 タトゥー問題

3年くらい前の話だが、あるときNBCの番組のインタビューでこう聞かれた。「お嬢さんがもしタトゥーを入れたいと言ったらどうしますか」

これに答えて「娘たちにはこのように話しています。もしタトゥーを入れたいなら、ママも私も同じデザインのを同じところに入れるよ。そうしてyoutubeにアップして、家族全員でお披露目すると」。

オバマ氏ならではの助言だ。ただダメ、禁止というのでなく、こうした機知にとんだ対応、私たちも学ばなくちゃと思ったものだ。ちなみにこの話はオランダ語新聞で読んだのだが、あちらでも絶賛だった。 

 オバマ氏の就活

以前こんな記事を書いたことがある。オバマ氏は面接にも呼ばれないかもしれない Islamophobia テロ関連-3- 

 「もしもオバマ氏がフランスに住んでいて、就職活動中の25歳の青年だったら」という条件付きの話。名前だけで差別があることは残念ながら現実なのだ。

移民学校に行っていたとき、クラスメートのアラブ人女子たちの話で印象的だったことが二つある。

ひとつは子供の名前をどうするか。アラブのアイデンティティを失わずに「アラブ臭」を感じさせない名前について議論していて、リストを作っていた。アメリカにいる親戚の例を出したり、他国(日本や中国など)に住むことになったとき変形しやすい名前などもあがっていて、活発な興味深い議論だった。テロが頻発したここ数年は差別はもっと深刻になっていることだろう。

二つめは笑ってはいけないのだが、顔を白くしたいという願望。昔の証明写真を持ってきて、「ほら、見て。私ね、ベルギーに来てから色白になったのよ。ベルギーは雨がちだから」という。ビフォーアフターを比べてみても私には差異がわからなかったのだが、本人は「ベルギー人に近づいている」と思っている。

ほかのアラブ女子たちも口々に言う。日焼けしないことが一番よ。海に行かないこと。山にもね。北欧に住んだらもっと白くなれるのかしら。あら、太陽光が少なくて緑色になっちゃうんじゃないの。あはは。…という賑やかなお喋りだったのを今懐かしく思い出す。

オバマ大統領の就活」なんてあるわけないのだが、仮に履歴書を作成するならあの世界的な賞をもらったことも書き入れるだろう。つまり「ノーベル平和笑」受賞のことである。しかし、これからはあの新しい大統領の、多分に差別的な発言を毎日聞かされるのかと思うと、正直気持ちが暗くなる。2017年はどんな年になるのだろうか。

今日は1月8日、正月も過ぎてしまいましたが、

本年もよろしくお願いいたします。

 

 追記:1月9日

anne neville (id:anneneville)

(略)それにすごい、ジョーク!!オバマさんが自分を演じるダニエルデイルイスの真似も大笑いしました。

anne nevilleさまがコメント欄にもブックマーク欄にも言及してくれている、この凄いジョーク 、やはり紹介せずにはいられません。スピルバーグが映画『OBAMA』をとるという設定です。

スピルバーグのインタビューがあります。オバマ氏に扮するには徹底した役作りが求められます。たとえば、ダニエル・デイ=ルイス のような。『リンカーン』を見事に演じきった俳優ですね。

下の写真はもちろんダニエル・デイ=ルイスではなく、オバマ氏本人。オバマ大統領に扮するダニエル・デイ=ルイスの真似をしています。

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(*ビデオ①より)

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(*ビデオ①より)

耳を広げたりして、役作りに余念がないダニエル・デイ=ルイスになりきっています。聴衆は笑い転げていました。anne nevilleさま、ありがとうございました。