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工芸製本 めくるめくルリユールの世界-1- 

今日はヨーロッパの製本ルリユールの話です。

 

実はルリユールについては前にもちょっと触れているので、お暇なときにでも過去記事、読んでくださいませ。なぜ和紙が出てくるのか、フレディ・マーキュリーが和紙とどんな関係があるのか、とっておきのネタです。

 

cenecio.hatenablog.com

 

 はてなの皆さんの中にも、出版・印刷関係、書店勤務、作家の方々がいらっしゃいますね。本を扱うことではみんな仲間です。でもみんなが「本フェチ」とは限らないけれど。今は電子ブックを読むことのほうが多いかもしれませんね。

それでも子どもの頃、本を買ってページをめくるとき、匂いや音にわくわくしたことはあるでしょう。

私は装丁や表紙デザイン、紙質やフォントや文字の配列、余白の加減、丸背なのか角背なのかーそうしたことを見るのが楽しかったものです。

そんなこともあって、1980年代にフランスに住んでいたとき、製本を習うことにしたのです。フランス語ではルリユール( reliure)と呼ばれ、日本では工芸製本とか手製本と訳していますが、ここではルリユールで統一します。

羊や仔牛の革を表紙にはって、金箔や美しい文様で装飾された豪華な本、あれがそうです。

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左の方は昔の伝統的なデザイン、右に行くにつれ、現代風になっています。

(写真は下の本から。非常によくできた解説書で私の宝物。でも絶版ですが)

http://sun.evrard.pagesperso-orange.fr/biblio/images/livre-fr1.gifLa reliure

著者: Annie Persuy, Sün Evrard  出版社:Denoël 出版年:1983

 

 ルリユール( reliure)というのはもともと本を綴じ直すこと、もう一度束ねることという意味。動詞はrelier。フランスでは製本のことであり、独立した業界です。製本屋さん、製本職人はrelieur、日本語のカタカナ読みをするとやはり ルリユール。

印刷はまた別の業界で、本を印刷したら仮綴じ(簡易な表紙はつける)にして本屋におろす。この段階では本は高価なものではない。それを買った人がルリユールに持っていき、好みの装丁を施してもらう。これがフランスにおける従来のやり方でした。もちろん現代では日本と同じ印刷出版システムの書籍がほとんどです。

なぜフランスではこんなことをやっていたかというと、ルイ14世が大変な愛書家で、本をオブジェとして愛でたり、蒐集の対象にしたからです。印刷と製本を完全に分業にしてしまいました。そして王侯や貴族は優秀なルリユールのもとで、こぞって豪華な装丁の本を作らせました。

江戸時代にオランダやポルトガルから日本に持ち込まれた書籍もみごとですが、あれは現在のベルギーで作られたものです。アントウェルペンの印刷工房で印刷され、銅板の挿絵が入って製本されたのち、世界中に散らばっていきました。

工房はプランタン=モレトゥス博物館」*として世界遺産になっており、去年訪問記を書いたので下に貼り付けておきます。

 ルリユールが日本にない理由は、和綴じ本のあと、一挙に大量生産ができるイギリスのシステム、つまり工業製本を導入したからです。

 

パリのルリユール

パリでは少なくとも1980年代初めはまだ、地域に一軒ルリユールの製本屋がありました。たいてい家族経営で、見習いの人もいました。フランスでは相変わらず仮綴じ本が書店で普通に売られていたし、蚤の市で50円とか100円位で買う古本も仮綴じ本、それで十分です。古書店の製本された豪華本は、今も昔も大変な値段がついていますが。

しかし自分の好きな作家や詩人の作品、限定本(夏目漱石の限定特装本など、番号がふられているあれですね)などは特別な装丁、しかも自分好みの体裁を整えて書棚に飾りたいと思う。あるいは祖母の貴重なレシピを製本してもらって子孫に伝えたいのだが、仔牛の柔らかい革表紙で見返しの紙は美しいマーブル紙でお願いしたい…。

あるいは娘の誕生日に詩集を送りたいが、ルリユールと相談して特別な一冊に仕上げたい…。

そんなときルリユールに行くのです。他にも大型の辞書が壊れた、大切な画集に虫食いができた、本の背だけ替えてもらいたい、など、どんな相談にも応えてくれます。

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フランスだけではなく、ヨーロッパの都市にはどこでもルリユールはいました。フランスほどではないにしても。ドイツやベルギー、イタリアやスペイン、デンマーク、そしてカナダのフランス語圏など。美術大学の中に、また専門の学校(フランスとベルギーのが有名)もあって、日本からも毎年留学生が来ていました。

私は養成講座と個人レッスンで習ったのですが、趣味的ではあってもひととおり基礎を習得するのに最低二年はかかります。毎日、繰り返し練習できるように、自宅に工房も設けてしまいました。

昔は趣味として習う人もたくさんおり、有名な講師のいる講座は大盛況でした。世界の有名なルリユール作家たちの展覧会は、それはもう息をのむ美しさで、斬新なアイディアにため息がもれたものです。

 

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写真は作品の一例ですが、すばらしいでしょう?

よき時代でした。

 

日本の伝統工芸と同じように、ルリユールも斜陽化していき、街から製本屋は消えていくのです。店を構えているところも、「自分の代で終わり」とか「国立図書館の古書の修繕で生計をたてている」などと話していました。

現在ではルリユールは工芸の一部門として生きています。また貴重な書籍の修復なども大切な仕事です。

 

魅惑のマーブル・ペーパー

http://www.natsume-books.com/i_item/2011/05/31481.jpg三浦永年1988年/アトリエ・ミウラ 初版 カバー

まだ「本の本体」を作るところまでしか話していないんですね。ここに紙を染めるマーブリングや本の背にいれるタイトルの金箔押しなどが加わりますが、これも専門の業者がいます。

ただマーブリングは楽しい作業なので教室で一回は習います。みなさんも子どものころ、墨流しはやったことがあるのではないでしょうか。

上の本は私が1986年に帰国してから買ったものです。

初めのほうにこんなページがあります。

 

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”『西本願寺本三十六人家集』国宝。1112年ころの粘葉装(でつちようそう)の書写本。(略)現存する最古の墨流しが見られる。 ”とあります。

 

ヨーロッパのマーブリングは何十種類もあってとてもここには書けません。

なので例として3枚だけ写真を貼ります。

①ターキッシ(英語:Turkish Marble, Stone Marble, Agate Marble)

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②シェル(.Shell Marble)

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③オールド・ダッチOld Dutch Marble, Large Dutch Marble

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 今日はここでいったん終わります。

次回はルリユールおじさんです。お楽しみに!

 

 

*「プランタン=モレトゥス博物館」

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