ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

出っ歯メガネの日本人・人種のステレオタイプや蔑視はなくせるか。ホルンバッハCMなど -2-

前回ラ音の憂鬱 &アジア人種差別について -の続きです。

ライセンス番組として

出っ歯で黒縁メガネ、Rが発音できないウシ・ヒロサキ。セレブを招いてインタビューするが、毎回、奇妙奇天烈な質問をして相手を困らせたり、R/L音がめちゃくちゃだったりわざと際どい単語を使ったりと、お茶の間で大人気だったこの番組は、その後「ライセンス番組」として他の国でも放送されることになる。

日本人リポーターに扮するのは人気の女優などで、インタビューをしかける相手もやはりその国では名を知られた人たちだ。日本人リポーターの発音が下手なのや変な質問で笑いを取るのは同じ。最後に変装をといて「ジャーン!」と種明かし。え~、あなただったの?というオチ。

(オランダ1999年)→デンマーク2002年→ノルウェー2003年・ハンガリー2003年→スウェーデン2004年・フィンランド2004年。

あの悪名高いオランダの番組がやってくる。在住の日本人は戦々恐々として待ち受けた。

フィンランド版はこちら「ノリコ・ショー」という。ぱっと見に顔が怖いが…

http://2.bp.blogspot.com/-zDZ0nYit_vo/TV9JTPOEinI/AAAAAAAAAMM/5kxdgeaLuqg/s320/NorikoShow.HJF.jpg

しかしフィンランドでは、ノリコ自身よりまんまと騙されるフィンランド人のセレブリティの方に注目が集まり、最後まで正体を見破られずにインタビューを完結させるノリコは称賛されたようだ。際どいギャグ的な要素もなかったらしい。みんな騙されてバカねえ、というわけ。唯一彼女の正体を見抜けたのが元F1ドライバーで、彼の奥さんが日本人だったからというエピソードもおもしろい。

一方ハンガリーでは「ミツコ つり上がった目で見た世界」というタイトル。

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在住の日本人によれば、リポーターミツコ(Micukó)はさらに醜悪なキャラに仕上がっていたという。日本人の発音のクセや生活形式をあざ笑う内容が明らかに差別的。会話も中身がなく低俗だ。この番組を半年放置していたら日本人の歪んだイメージが視聴者に植え付けられることだろう。そこでハンガリー在住の日本人はすぐに動いた。日本と関係のあるハンガリー人も、日本大使館も抗議した。すると番組側は、オランダで問題になっていないのになぜハンガリーでは騒ぎ立てるのかと反論してきたという。

日本人側は国会付属の番組監視委員会に、番組を中止するように要請。結局ミツコは打ち切りに追い込まれた。

どこの国にも番組制作やCMの倫理コードがある。たとえばこの日本人(東洋人)レポーターが黒人とかユダヤ人とかアラブ人設定はありえないだろう。激怒の嵐に見舞われ、番組中止どころか罰金も食らうだろうし。そもそも作るわけがない。東洋人ならいいのか。どうやらそう考えられていたらしい。

ハンガリーの一件もありながら2012年にオランダでなおも映画が作られたという事実は、今振り返ってみても驚きに値する。やはりテレビのウシ人気(視聴率)に支えられてのことだと思うが。→予告編Trailer Ushi Must Marry (2013) | Video op FilmTotaal

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トレーラーを見ただけで失敗作とわかる酷いドタバタコメディで、実際大コケだったらしい。「オランダ映画史上、最低の作品」と評した記事もあった。

オランダのメディアでも 批判が噴出した。そのころオランダでも「ブラックフェイス」の問題(聖ニコラウスのお付きピートが黒人なので、顔を黒く塗って扮するのが人種差別に当たるというもの)があり、世論を二分していた。日本人を差別的なカリカチュアで笑うのもそれと同じという意見、

「オランダは好きだがオランダ人のウシ愛は目の中のトゲとして残るだろう」と寄稿したアメリカ人、

日本には「抗議する」という文化がないのだろうが沈黙していてよいわけはない、

他のオランダ人が何も言わないのも問題だ等…。どの意見も立場は違え、納得できるもので私はすごく勉強になった。

記事を一つだけ貼っておこう。Ushi, net zo fout als Zwarte Piet - Waarom zwijgt Nederland? - NRC

さきほどのハンガリーもメディアはまともだった。日本人会の会長にインタビューした記事などは好感が持てた。gondola.hu - Újabb tiltakozás Micukó-ügyben - a tv2 kamikaze?

ここまで書いてきたことは2013年までの話で、ウシとその分身たちはもう存在しないからご安心を!

本当に?ステレオタイプはそう簡単になくならない。

 

出っ歯メガネの日本人像はどこから?

代用監獄のゴーンさんのイラストで笑ったのを思い出す。(昨年仏ルモンド紙11月20日

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https://twitter.com/plantu/status/1064820907707904000

左側の漫画で描かれる日本人が、出っ歯でメガネ、細い目で恐らくチビ、という古いステレオタイプだったこと。第二次大戦中のプロパガンダの日本人像(*)から一歩も出ていない。これを描いた漫画家Plantuさんの年齢(世代)もわかってしまう。もし若い漫画家だったらこう描いただろうか。…などとあれこれ考えていたら

ステレオタイプ - Wikipedia

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アメリカでの反日宣伝広告にみられるステレオタイプな日本人像(黄色い肌、メガネ、出っ歯、慇懃無礼)(Wikipedia

その一か月後、興味深いことに出っ歯は引っ込めた。Plantuさん、何か言われたんだろうか。

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ウシ・ヒロサキの日本人カリカチュアで、映画『ティファニーで朝食を』に登場するユニオシという男を思い出すというオランダ人もいた。私も同じだ。

https://ichef-1.bbci.co.uk/news/ws/624/amz/worldservice/live/assets/images/2015/11/16/151116122252_actors_race_tiffany_624x351_paramountpictures.jpg

https://girlsdofilm.files.wordpress.com/2014/09/breakfast-at-tiffanys-mickey-rooney-3.jpg

Some thoughts on the Mickey Rooney role it’s best not to mention – Girls Do Film

初めて映画を見たときはかなりのショックを受けた。何?これが日本人?

だが、醜い容姿の日本人の設定は映画だけであって、トルーマン・カポーティの原作にはこのような偏見に満ちた描かれ方はまったくない。私はカポーティは愛読しているからしつこく言っておきたい。これは映画監督ブレイク・エドワーズの創作であり、あの戦争から引きずっている偏見の表れだと思う。

ステレオタイプ、すなわち出っ歯にメガネ、細い目に低い身長のほか、鉢巻きを巻いて風呂に入ったり、オードリー・ヘプバーンが扮するホリー・ゴライトリー(Holly Golightly)の名前をGorightryと発音したり、また俗悪な日本趣味の部屋とか、不快な要素は多々あるが、これを演じたミッキー・ルーニーにも同情する。ティファニー以来亡くなる2014年までユニオシの烙印がついてまわった。お気の毒なことだ。

そしてユニオシという変な名前はどこから来たのかと思う。一説にはクニヨシ(国吉康雄 - Wikipedia)から取ったという。国吉は岡山出身でアメリカを拠点に活躍した画家である。マーシャ・ブラウンが国吉から絵を習っていた、というのを知ってから興味を持って調べたことがある。マーシャ・ブラウンは『三びきのやぎのがらがらどん』や『ちいさなヒッポ』などの絵を描いた人だ。多くの人が子供のとき読んだことがあるんじゃないだろうか。描く本ごとに画風が違ってすごいなと思っている。

ウィキペディアで国吉の写真を見たら、やっぱりビン底メガネをかけていて、申し訳ないが苦笑してしまった。

 

人種のステレオタイプ

jp.globalvoices.org

5年くらい前のglobalvoicesの記事はおもしろいことを教えてくれる。

メディアが人種のステレオタイプを助長するのに一役買っていることが多い。消費者市場や映画産業はステレオタイプに頼りがちだ。理解しやすさ、親しみやすさを狙って単純化するため。半面、マイノリティへの配慮やオープンな議論がなされることは少ない。しかしメディアを利用して差別に抗議していくこともできるのだから、声をあげて活動していこう…ざっとそういう内容である。

私が驚いたのは次の一節。

 (侮辱的なステレオタイプの例として)

ポルトガルでは通信・マルチメディアサービス業者ゾン社の屋外広告で、東洋人風の男性が

「aprovado(=お墨つき)」を「aplovado」、

「melhor preco de sempre(=最安値)」を「menhol pleco de semple」

と間違えている。

2013年に始まったそのキャンペーンは、人種差別的であると捉えられた。というのも、テクノロジーに精通した日本のビジネスマンがそのブランドのテクノロジーの進歩性に驚くとともに、一方で彼らがポルトガル語に悪戦苦闘しているイメージを笑いものにしているからである。この広告はアジア文化のメンバーに対する侮辱的なメッセージに見える。

こんな風にからかわれていたとは!ポルトガル国内の話とはいえ、驚きとともにショックではある。いやはや、日本人の発音はそんなに有名とはね。

 

ホルンバッハのCM 声をあげていくことが大切

3月半ばから、ドイツのDIY企業のCM動画が物議をかもしている。ご存じのかたも多いと思う。→ Zó ruikt het voorjaar! - YouTube

日本人だと思われる女性が、肉体労働をした白人男性の下着の真空パック自動販売機で買って、その匂いを嗅いで恍惚とするもの。このCMは、ドイツのほかオランダやスイス、チェコなど欧州各国で放送されている。スウェーデンだけは初めから「人種差別的だ」として放送しなかった。

CMに抗議してアジア人を筆頭に署名運動がおこり、3万筆を超えた時点でもホルンバッハ社はCMをさげなかったが、先週ドイツ国内では中止になった。理由は苦情を受け付けた「ドイツ広告審議委員会」が指示したから。「人種、出身、性別に基づいて人を差別してはならない」ということで…。

著述家のサンドラ・ヘフェリンさんがまとめ記事を書いており、その中で冷静に分析している。

・・・ドイツの学校教育では差別問題を積極的に扱っており、またドイツは国としても人権意識が高い国である一方で、ドイツの世間は「アジア人」を「差別してはいけないマイノリティー」として必ずしも認識していません。過去にアジア人がドイツで迫害をされた過去がないということ、現在ドイツで生活しているアジア人の数が少ないということ、また当事者のアジア人の「ロビー活動が弱い」といったことが原因だと考えられます。

困ったことに、ドイツの社会には昔からどことなく「アジア人はバカにしてよいものだ」という空気が確かにあるのも事実なのです。東洋人が道ですれ違った人に、両目の端を手で横に引っ張る仕草で目の形をバカにされたり、「チンチャンチョン」と言われるなどといったことは枚挙に暇がありません。今回、Deutscher Werberat(独広告審議委員会)の指導が入るまで、このCMが約一か月間も流れていたのは、ドイツの社会にあるこういった「雰囲気」と無関係ではないでしょう。

・・・

現にいま「なぜ、今回アジア人は、こんなに怒っているのだろう?」と考え始めている欧州人もいるわけです。「考え始めている」と書いたように、そのテンポがあまりに「ゆっくり」であることが悔しいところですが、なにせ差別をなくすための「第一歩」をようやく踏み出したばかりなのです。

詳しくはサンドラさんの記事をお読みください。

独のアジア人差別CMその後 | NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

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復活祭のショーウィンドー ブリュッセル

今日は終わります。

ではまた~!