溢れるシティハンター愛とオマージュと
「少年時代の夢がかなったよ!」フィリップ・ラショー(脚本・主演・監督)が原作者北条司氏からOKをもらいSNSで喜びを爆発させていたのはちょうど2年前。私はこれを記事にした。
しかしまさか『シティハンター』の実写版がフランスで作られる日が来るなんて…。本当に?大丈夫なのか? かなり不安を感じたのは否めない。多くの人が同じだったろう。(フィリップは最初から自信があったのだが)。
実写化といえばジャッキー・チェンのシティハンターをまず思い浮かべるが、あれは単なるジャッキーのアクション映画でしかなかった。北条氏も何かのインタビューで「仕上がりは、しっかりジャッキー映画でしたね」と言っている。
アニメ・マンガの海外での実写化はほかにも「デスノート」や「ドラゴンボール」などがある。ファンたちの目は厳しい。たとえばアメリカ版ドラゴンボールは酷評の嵐で興行成績もさんざんだった。ファンは決して忘れないものだ。あれから10年もたつのに当時を思い返しては怒りを新たにするファンの形相を見れば、「ベジータなんか穏やかな仏教僧に見えてくるほど」と仏ルモンド紙の記者がユーモラスに表現している。(→Draguer le grand public en respectant les fans : l’opération séduction de « Nicky Larson »)
それだからシティハンターの実写化が決まったときも、フランス国内では喧々諤々大騒ぎだった。そのことも去年記事にした。
フランスの「新コメディ王」と評価の高いフィリップもこれでその地位を失うんじゃないかと心配する人も多かった。また、90年代にカルト的人気を誇ったシティハンターのアニメを「揺りかご」代わりに成長したかつての少年たちは、自分の大切なもの、少年時代の思い出を穢されるんじゃないかと恐れた。(アニメはドロテ・クラブという子ども番組枠で放映され、際どいシーンなどはあらかじめカットしてあった)。
私には別の心配があった。すなわちMeToo運動やセクハラ問題である。言及するまでもなく冴羽リョウは、凄腕のスイーパー&ボディガードの半面、女好きで偏執狂の男という設定。折しもMeToo運動の高まりの只中に映画化の話だ。まずいんじゃないか。私はシティハンターのファンでもフィリップのファンでも何でもないのだが、母心というのだろうか、叩かれるのを見るのがつらくて心配していたのである。
フィリップ・ラショーは元のストーリーにはない、全くオリジナルの脚本を持ち込んだ。北条氏は冴羽リョウの危機がアクション的なことや命を狙われるなどではなく、別の方法で作られる点に驚き、そのアイディアに感心したという。フィリップはまた原作の様々なエピソードやシーンをあちこちに散りばめ、その半端でないオタクぶりと、原作および北条氏に対する真摯な敬愛のきもちを全編に込めた。原作漫画を全巻揃えて弟ピエールと読みふけった少年時代の知識量と理解の深さがモノをいったわけだ。
(2017年7月のフィリップのツイートから)
昨年10月、北条氏は出来上がった作品を見にパリにやってきた。「すごく気に入ってくれたよ。インスタの写真を見ると反対のことを想像するかもしれないけどね」とフィリップは北条氏との楽しいツーショットを公開している。
そして今年2月に封切り。2週間で100万人を動員、4月の時点でフランス国内168万人、ベルギー・スイス合わせて97000人という驚くべき数字Nicky Larson et le Parfum de Cupidon をはじき出した。早くも続編の話が出ているそうだ。
また日本でも11月に全国公開。吹き替えの声優などはこちらで→NEWS|映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』公式サイト
ハイタッチしたいような同窓会的な懐かしさ
うちの夫や息子は90年代にシティハンターのアニメをよく見ており、今年の3月には二人ともパリのロードショー上映へ。私は7月発売のDVDまで待たねばならなかった。
簡単に感想を述べると・・・
文句なしに楽しめた。最初から最後までテンポよく笑いっぱなし。様々な批評はあるだろうし、好き嫌いも分かれると思うが、フランスのコメディとして成功しつつ、シティハンターの基本路線には忠実に、最後までぶれないところがすばらしい。脱帽だ。フィリップ、心配だなんて言ってごめんなさい。
MeToo関連でも心配しなくてよかった。フィリップは思いもかけないプロットを用意し、「この手があったか!」と北条氏に言わせ、批判してやろうと手ぐすね引いて待っていた人々も黙らせた。期待していなかったのだがアクションが予想外にかっこよかった。ほろりとする場面もよかった。ギャグは万人にわかる単純なのからフランスならではのドギツイのまでたくさん。日本ではモザイクがかかるだろう。
90年代にフランスに滞在した私たち一家にとっては、懐かしい顔ぶれがカメオ出演でお目見えし、同窓会さながらだった。まずはドロテお姉さん(ドロテクラブの顔で進行役→フランスの子どもたちを日本アニメオタクにした番組 「ドロテ・クラブ」)は空港職員だった。そしてアニメ「ニッキーラルソン」の主題歌を歌っていたセザリ氏(Jean-Paul Césari )もショーで歌を歌っており、変わらぬ美声を披露。ニッキーの声、声優ロピオン氏(Vincent Ropion)はインタビュアーとして登場。
驚きなのはアメリカの女優パメラ・アンダーソン。90年代の大ヒットTVドラマ『ベイウォッチ』はフランスでよく見ていたのだが、ここでパメラに会えるなんて。フィリップは他にも人脈を生かし、配役に工夫を凝らしていた。エキストラは出演者の家族や友人、孫やいとこといった人たちが数多く参加したそうだ。
最初にフランスのポスターを見たとき、出演者欄にラファエル・ペルソナ(赤矢印)の名前を見つけて驚いたものだ。この位置だとそれほど重要な役ではないかもしれないなと思ったら…
大切な役柄だった。何の役かは見てのお楽しみ。
ラファエル・ペルソナはこの人。
考えてみればラファエル・ペルソナも1981年生まれでフィリップと同世代。80年代生まれのフランス人はドロテ・クラブ世代と呼ばれ、日本のサブカルから大きな影響を受けている。(前に書いた「揺りかご」の比喩はフランス国内でよく使われている)
目配せがいっぱい!
”XYZ”はシティハンターを見たり読んだりしたことのある人ならご存じとおもうが、仕事を依頼するときの暗号で新宿駅の伝言板に書かれる。映画でもパリの駅構内の伝言板にXYZと依頼者の名前が見える。ローラ(=かおり)がやってきてスマホでパシャっと写す。そのとき聞こえる駅のアナウンスが日本語(「ドアが閉まります。ご注意ください」なのが笑える。
ニッキーとローラが暮らすアパートの(外観も原作にそっくりだが)内部にも目配せがあちらこちらに。テーブルの食器類が日本のものだったり、壁に掛かる騎士の絵”Chevalier du Zodiaque ”は「聖闘士星矢」のフランス語タイトルだったり…とまあ多すぎてキリがないが、人の名前だけでもランマやアタッカーYOU!やキャプテン翼などが、ドロテ世代の観客への目配せとしてサービス精神たっぷりに出てくるのである。
音楽では気になっていた"Get Wild"(TM NETWORK)も最後に使われ安心した。また冴羽リョウがめちゃめちゃ強いときの音楽"Footsteps"も要所要所で流れる。それからめちゃめちゃノスタルジーを感じる”TAKE MY BREATH AWAY”(『トップガン』バンドBERLINは今どうしてるのか?)がぴったりの場面で使われ、皆が大爆笑するところ。個人的にはララ・ファビアン(Lara Fabian )の絶唱”Je t'aime”が心に沁みた。
フランスの予告編
「キューピッドの香水」というのはいわば惚れ薬のことで、これを守ることを依頼されている。パメラ・アンダーソン(左)とジルベール役のジュリアン・アルッティ(下に解説)、この二人の絡みが秀逸。
予告編も何度かに分けて少しずつ長いバージョンが公開された。ファイナルである当バージョンを見ると内容がちょっとわかるかも。
最後に公式ポスターから登場人物の紹介を。左から
マンモス(海坊主。似すぎるくらい似ていて笑っちゃうほど。よく見つけました)
ローラ(かおり役。フィリップ組。エロディ・フォンタンは私生活でもフィリップのパートナー)
ニッキー(冴羽リョウ役、監督・脚本のフィリップ・ラショー。弟のピエール(*下に写真)も脚本に参加。日本公開が決まり、先日兄とともに来日した)
ジルベール(ジュリアン・アルッティ)今回脚本でも参加。フィリップ組で映画やバラエティにたくさん出ている。
ルテリエ氏(帽子・ネクタイのほう。映画では依頼主という設定。最後まで目が離せない^^)。有名な俳優のディディエ・ブルドンが出るというのでビックリした。ブルドンは来年日本で公開のフランス映画『母との約束、250通の手紙』でも重要な役なので今から楽しみにしている)
ポンチョ(タレク・ブダリ)フィリップ組で欠かせない人。
鴨(左下)カモも重要な役で、出番も多いし活躍もする。
カラス(右下)シティハンターではシラケたときに飛ぶがこの映画でもお目見え。100トンハンマーと同様に必須アイテム。
以上、感想をざっとまとめてみました。
ではまた~!
*ラショー兄弟
Ces photos sont tout bonnement incroyables. 🤯@PhilippeLacheau fait définitivement partie de la #CityHunter "Family", au milieu des comédiens de l'anime et de la version japonaise du film, et bien sûr M. Hôjô.#NickyLarson #シティーハンターTHEMOVIE史上最香のミッション pic.twitter.com/Kgc0X4sSqD
— Clement Le Duc (@oniblow) October 20, 2019
追記:カンボジアは4月封切り。全国70館で上映。カンボジア版トレーラー
Attention, trailer addictif ! 🤣 #NickyLarson en khmer ! Le film est sorti le 10 avril au #Cambodge par @WESTEConline et est actuellement sur 70 écrans. @PhilippeLacheau @TarekBoudali @Elodie_Fontan @JulienArruti @pamfoundation @DBourdonFanClub @AudreyLamy pic.twitter.com/LfKpnUTQIC
— UniFrance (@uniFrance) April 19, 2019