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ブリュッセルの移民学校ででオランダ語を習っていたとき、私のタンタン時計を見て、クラスメートのセネガル人女性が言ったこと。
「タンタンのアフリカの話、知ってる?酷い人種差別よ。あなたはそのタンタンの時計、使い続けるつもり?」
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①の写真右:タンタンのコンゴ探検。左:記念切手で、真ん中に作者のエルジェの写真が見える。切手は、私が家族あての手紙に貼ったものを、再び全部剥がして額に入れた。
②の写真:1997年にもらった時計。左の保証書に年月日が書いてある。時計ベルトは文字盤と同じ緑色だったが、壊れたので黒に変えた。文字盤が見やすく、もちろん使い続けるつもり。
2007年のその頃、「コンゴ探険」における黒人の描写や扱いに、おぞましい人種的偏見が見られるとして、コンゴ人男性が出版社を訴えていた。また動物虐待もはなはだしくて、ギャグにもならないくらい酷かった。
この作品は1930~1931年に発表された。当時はベルギー人に限らず、ヨーロッパでは、植民地に住む人間は野蛮で自分たちより劣っている、と皆が思っていたし、動物の狩りも普通に行われていたのだ。だからエルジェも、時代の物の見方を反映して、アフリカ探検の話をかいたにすぎないと語っていた。
さて裁判はどうなったか。
2012年2月、ブリュッセルの法廷は、コンゴ人男性が求めた出版停止の訴えを却下した。エルジェは人種的偏見を煽ろうとしていた証拠はない、とした。
弁護士は言う。あの時代の考え方が間違っているから、当時書かれた作品の販売を全部差し止めることにしたら、次の作家たちの作品にも問題個所があるではないか。マーク・トウェイン、シムノン、アガサ・クリスティ、ディケンズなど。差し止めにするのか。残念ながらあの時代は、植民地主義、人種主義、差別や偏見はあったのだと。
しかし「コンゴ探険」をこのままの状態で出版していいはずがない。そこで冒頭に注意書きをつけることにした。日本の出版社、福音館書店も「読者の皆さんへ」と呼びかけ、コンゴ人の扱いと動物の狩りについて注釈をつけている。こうした時代の風潮、人間の愚かな行為を見つめるようにと。
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その弁護士さん、なんと日本中が周知のあの問題と結びつくのである。
すなわち 2020年東京オリンピックのエンブレム騒動。
ベルギー側の弁護士Alain Berenboomアラン・ベランボーム氏。
またベルギー王の弁護をし勝訴したことのある、敏腕弁護士さん。しかしこの人を一躍有名にしたのは、大島渚の映画「愛のコリーダ」が上映禁止になったときだ。彼は映画配給会社の弁護にあたり、勝訴した。1976年、まだ29歳のときである。そして今や日本でも、エンブレム問題で有名になり、ワイドショーでもこの扱いだ。
(下:googleの画像検索を切り取っています)
いやはや佐野さん、引き下がってよかった。この人を敵にしてはダメだと思う。
写真下段、左と右の人、この人がリエージュ劇場のロゴを作ったオリヴィエ・ドゥビー氏。彼が訴えを取り下げたのは、下の新聞にあるとおり、ほんの2週間前(2月2日)のことなのである。
ベランボーム氏は小説もたくさん書いている。
写真で手にしている赤い本、これはご自身の父親の人生を描いたノンフィクションで、戦時中のユダヤ人がどう生きたか、その波瀾万丈の物語である。
終わり