ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

「地球の用事」まどみちお(+まどさんと さかたさんの ことばあそび)・『子うさぎましろのお話』佐々木たづ

104歳でなくなった まどみちお (1909 - 2014年)。「ぞうさん」や「やぎさんゆうびん」など、日本人の子供時代と強く結びついている詩人です。

 

  地球の用事      
   
          まど みちお


ビーズつなぎの 手から おちた

赤い ビーズ

 

指さきから ひざへ

ひざから ざぶとんへ

ざぶとんから たたみへ

ひくい ほうへ

ひくい ほうへと

かけて いって

たたみの すみの こげあなに

はいって とまった

 

いわれた とおりの 道を

ちゃんと かけて

いわれた とおりの ところへ

ちゃんと 来ました

と いうように

いま あんしんした 顔で

光って いる

ああ こんなに 小さな

ちびちゃんを

ここまで 走らせた

地球の 用事は

なんだったんだろう

 

 

小学生の時、母がまどみちおの詩集を買ってくれた。

なかでも好きだった詩がこの「地球の用事」。裁縫をしているおかあさんの手からビーズがひとつ、コロコロ転がっていく、たまたま畳に開いていた、焼け焦げの穴で止まっている、たったそれだけのことなのだが、ずっと心のなかにそのとき思い浮かべた映像とともに、この詩が残っている。

 

あんしんした 顔で

と、ビーズを擬人化している。ビーズは子供である自分なんだろう。

おかあさんのそばで満ち足りて安心している自分。

地球も大きく自分を守ってくれている。地球は神様かもしれない。

いつも守られている自分の日常をうたったのかもしれないな。

 

先日図書館でまど・みちお童謡集 地球の用事』(JULA出版局1990年)を見つけ、選者である阪田寛夫のあとがきを読んで驚いた。

若いときから腺病質で、のちに長い間胸椎カリエスで病臥していたお母さんは、自分の家計が苦しくても困っている人を見ると、力になってあげずにはいられない性分でした。そしてまどさんも、小さいときから体が弱いのに、その詩を読めばお母さん同様、苦しんでいる人や生き物や地球と一緒に苦しまずにはいられないたちだとわかりました。妹さんの話では若いころから家庭の中で「神さま」というあだ名がついていたそうです。時ならず貧しい台湾の人が、まどさんの手も通していない新しい背広を返しに来たり、ささやかでも心のこもったお礼を持ってくることがあって、そんな時、家の人が期せずして言い合ったそうです。「神さまが、また何かしたね」と。 

やられた~と思った。

地球はやっぱりそのまま地球、まどさんの大切なともだちの地球。

神様はまどさんだった。まどさんは元気でいたずらっ子のビーズを一粒遊ばせてあげて、だけど遠くへ行って迷子にならぬよう、焦げ穴で止めてやったのだ。大好きなおかあさんが困らないために。

 

 まどさんと さかたさんの ことばあそび

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まどさんと さかたさんの ことばあそび

(こみねのえほん) 単行本 – 1992/12
まど みちお (著), 阪田 寛夫 (著), かみや しん (イラスト)

ふたりの詩人のめくるめくユーモア詩の世界。言葉遊びやダジャレ、ほとんど危ないオヤジギャグの域内で大笑いさせられます。

コピーしていいのかわかりませんが、3編選んで載せておきました。

解説は無粋ですので、やめますね。

 

 

 1.

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2.

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3.

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いかがですか。楽しいですね!

私はわからないのがひとつあります。

パパイヤです。教えてくださいね。

 

佐々木たづさんの童話集『もえる島』の中の一篇です。

それに絵をつけて絵本としてポプラ社から発行されました。

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おはなし名作絵本(3)  子うさぎましろのお話

絵:三好 碩也

初版発行:1970年02月

 

佐々木たづ(1932-1998)は、東京都出身の児童文学作家。このお話を最初に読んだときは、目が見えない方とは知りませんでした。ゆっくり略歴を読んだら、都立駒場高校在学中に緑内障のため、両眼を失明とありました。

野村胡堂に師事して童話を書き始め、1956年に『白い帽子の丘』を出版。
1962年にはイギリスへ行き、盲導犬ロバータと出会います。

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1965年、随筆『ロバータさあ歩きましょう』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しています。この本は大変話題になり、私も当時まだ小学生でしたが知っていました。でもついに読まずじまい。そしてここでまた出会うわけです。ましろと。

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さっきの表紙をあけると、これ、扉の絵です。素朴な鉛筆画のほのぼの加減がすごくいい。

 

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サンタ=クロースとありますが、絵を見ると聖ニコラウスですね。

お話はこうです。

白うさぎの子 ましろサンタ=クロースのおじいさんから、プレゼントをもらったのですが、お菓子を食べてしまうともっとほしくて、いろりの燃え殻から炭を拾い、体に塗ります。そしてまた別の子のふりをして、プレゼントをせがみます。

おじいさんはそれがましろだとわかっていますが、自分のサンドイッチと一粒の種をあげます。

「さあ、よい子ではやくおうちへおかえり。おかあさんが、しんぱいしてまっているよ」

ましろは自分がいけないことをしたのに気づき、悔やみますが、種を返しにはいけません。でもよいことを思いつきます。

「このたね、かみさまにおかえししておこう。土の中にうずめて」

 

それはモミの木の種でした。一年たつと、モミの木の林ができていて、一本だけ金色に輝くモミがありました。走っていってみると、枝という枝からおもちゃやお菓子、絵本やリボンなどのプレゼントがさがっていました。ましろはおじいさんに去年のクリスマス以降の話を全部うちあけました。

「神さまが世界中のこどもたちにくださった木にちがいない」

おじいさんが人形を一つもぎ取るとまた新しい人形が表れるのです。

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おじいさんは毎年プレゼントを世界中のこどもや動物に届けます。そのお手伝いに最初に飛んでくるのは、ましろです。

おわり)

 

佐々木たづはこの話を、英語を習っていた先生のために書いたそうです。先生がクリスマスの集いで、子供たちに何か話をすることになり、頼まれたのです。

雪の情景には、ボストンで過ごした冬の思い出が刻まれていると言っています。

 

うちの子どもも絵を真似て描いていました。

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ましろに自分を重ねていたようです。

 

f:id:cenecio:20160616102926j:plain家の前で。6月。