過労死
とっくに国際語になってしまったKaroshi, それどころかkaro-jisatsu (過労自殺)という言葉まで目にする。Karoshiは2000年はじめころにはすでに英語圏の辞書に載っており、その前から使われていたらしい。寡聞にして知らず、私が実際に聞いたのは前回の2007‐08年のベルギー滞在である。そのときどんなにショックだったか!
個人的にはあのベルギー滞在の「三大ビックリ」のひとつと数えている。ちなみに他の二つはデスノート絡みのKIRA殺人事件KIRA(キラ)がブリュッセルに現れた日 デスノート・ NARUTO(+KANA出版の紹介) -
それと日本女性の名前がついたランジェリーシリーズ。外国で出会うニッポン・絵文字の裏の意味・忍者募集&忍者学入試三重大大学院 -
そしてビックリの三つめが Karoshi問題。ある日TVをつけると、日本語が聞こえたので何のニュースだろうと思ったら過労死のことだった。トヨタの自動車工場で働いていた夫を2002年に過労死で亡くした内野博子さんがインタビューに答えていたのだ。内野さんはこのほど裁判で労災認定を勝ち取ったということだった。(2007年11月判決)
インタビュー自体はベルギーの独自取材ではなかったが、”Karoshi ”が普通名詞化されていることに私は衝撃を覚えた。またそのころ、日本の過酷な労働状況を解説する新聞記事なども読んだ。
*カイゼンは業務か、それとも自己研鑽か--『QC』を業務と認めるトヨタ過労死裁判の波紋 | オリジナル | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
自殺はサムライの伝統?
過労死や日本人の労働観を解説しているサイトがあったので、ざっくり訳してみる。おいおい、とツッコミを入れたい気持ちをグッと抑えて読んでください。
Karoshi: dood door overwerk | Mens en Samenleving: Sociaal cultureel
”日本政府は「過労死」の実態について1992年にはすでに認識していた。原因は、長時間労働、少ない休暇、業績へのプレッシャーなどである。
公的には年に60~100件と報告されているが、実際はそれでは収まらないだろう。鬱病や燃え尽き症候群などになったり、過労による自殺(karo-jisatsu)も多い。
日本人は生涯、一つの会社組織に身を捧げて働く。会社も福利厚生や昇格などで社員の面倒をみるから、いわば相互依存関係でつながっている。会社が人生のすべてだと考える人にとって、業績が悪いのは実に不面目なことである。組織内で孤立し、苦悩して自殺に走る人もいる。メンツを重要視するサムライの時代からの伝統である。
日本人は休みを取りたがらない。休暇の権利を全部使って休む人はほとんどいない。せいぜい夏、お盆の時期に一週間程度だ。
失業すると、失業手当は長くて一年しか出ないから生活に困る。無職を恥じて家を出、家族を捨ててホームレスになる人もいる。
また定年は60歳だが、それを過ぎても働く人が多い。金が必要というよりも、基本的に外で働くのが好きなのだ。うちにいても趣味もないから手持無沙汰で、むしろ会社で働きたい。つまり家庭生活は、会社や仕事より重要ではないのである。”(終わり)
ルノーの過労死問題
このころフランスでも過労死の嵐が吹き荒れた。ルノー(Renault S.A.S.)は、フランスの自動車製造会社。パリに本部があるが、2007年、社の心臓部とも言われるイヴリーヌ県のテクノセンターで、3ヶ月の間に従業員3人が自殺していた。このとき、CEOであるカルロス・ゴーンは、日本の過労死をフランスに持ち込んだと揶揄された。
Suicide chez Renault en 2007 : ultime décision de justice jeudi (記事:フランス語)
のちに過労死と認定された。
ジョークにしないで!と言いたいところだが、ゲームにまでなっているし
バッグも↓あったり。😥
フランステレコムの悲劇
信じられないかもしれないが、こちらは自殺者23人というとんでもない数字。従業員10万人の、フランス通信最大手のフランステレコム(France Telecom)では、労働環境の過酷さから2008~2010年の間に自殺が相次ぎ、大きな社会問題になった。しかも23人目の女性は自殺直前に父宛てのメールを送り、その生々しい文面を週刊誌が掲載し、衝撃が走った。「私が23人目の自殺者になるのよ」と。
通信市場はどこの国でも同じだと思うが、厳しい競争にさらされている。再編を重ね、従業員は疲弊し、人間らしい感情を奪われ、体を壊し、追い詰められていく。
www.parismatch.com(週刊誌の記事:フランス語)
記事によると、臓器提供のドナーカードを身につけていたという。ペットのウサギとネコを引き取ってエサをあげてね、というところが泣けてしまう。
日本では
どうも少しも改善されていないようだ。最近、Yahooニュースの記事を読んだので貼り付けておく。
上記サイトに入ると以下の記事も読める。
・仕事で私が壊れる 人生を搾取する「全人格労働」
・「代わりがいない」から追いつめられる 中小労働者の嘆き
・働く人として尊重されない 疲弊する非正規社員
今日のタイトルについてひとこと。輸入した(い)ニッポン語としたのは、去年オランダ人が書いたある記事を見つけたから。日本語には便利な言葉がいろいろあるといい、11個を挙げていたからである。
「過労死」”Karoshi ”は、一語で広い範囲を含む。過労による病死、仕事で追い込まれての自殺、鬱病など精神を病んだのちの(交通)事故死など、死因は違っても原因が仕事や職場のストレスであるという様々な状況を一語にふくんでおり便利なのだ。裁判でも使えるというわけだ。
有名なニッポン語
ハラキリ
みなさんはまだあの「シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)襲撃事件」を覚えていらっしゃると思う。悲惨なテロ事件だった。シャルリー・エブドは風刺新聞で、フランスの国内外の政治を主に皮肉っている。2015年1月7日、自動小銃を持ったテロリストが乱入して、編集長や関係者、風刺画家、警官の計12人が死亡し、約20人が負傷した。
あの新聞の前身は”Hara-Kiri”という名前の、やはり左派だが、かなり悪趣味な月刊誌だった。学生だったころ、フランス人から「日本ではまだ”ハラキリ”やるの?」などと何度か聞かれ、嫌な思いをしたものだ。1981年に廃刊。
普通名詞化してずいぶんになる。一般に「自爆テロ」の意味で使われているが、下のような使い方もある。
オランダ語新聞の数独(SUDOKU)コーナーで、左から「初級」「中級」「上級」であるが、上級がKAMIKAZEとなっている。
輸入したいニッポン語10選
こちら、ハンドルネームきなこさんというオランダ人女性のサイトから。
11 Japanse woorden die we in het Nederlands nodig hebben
1.Tsundoku 積読。
文字通り、買った本が読まれないまま、たくさんある。一語で言い表せるので便利だから、英語圏ではよく使われていると聞いた。
2.Komorebi 木漏れ日。
きなこさんのセンス!朝霧のなか、木立から漏れる光がいいんだとか。
3.Irusu 居留守。うしろめたく感じると付け加えている。
4.Hikikomori 引きこもり。
若い人がゲームなどに溺れて部屋に閉じこもり、親に面倒を見てもらっている状態。きなこさんは「若い人」と書いているが、去年オランダ語の新聞記事で、日本の中年男性の引きこもり特集を読んだ。特派員の独自取材で、人物の写真も載せ、生々しいレポートだった。
5.Kuidaore 食い倒れ。食に金を使いすぎ、破産にいたること。
6.Kyoiku mama 教育ママ。子供に高い学業成績を要求し、情け容赦なく勉強させる母親。
7.Age-otori 上げ劣り。床屋に行ったら前よりカッコ悪くなったとき。きなこさんの漢字が違っているけど、もしかしてなにかウケを狙っているのか。
デジタル大辞泉の解説によると、
あげ‐おとり【上げ劣り】元服して髪を上げて結ったとき、顔かたちが以前に比べて見劣りすること。⇔上げ優(まさ)り。
8.Shinrinyoku 森林浴。森に行ってリラックスし、健康を増進すること。
9.Shibui 渋い。
年代物でかっこいいもの。蓄音機とかクラシックカーとか。
10.Ikigai 生きがい。
ウィキペディアにある解説グラフ
Ikigai - Wikipedia, the free encyclopedia
Marija Tiurinaのサイト
こちら、イギリスのイラストレーターさんのサイトも、ユーモアたっぷりの絵が可愛くて、説明もおもしろい。
14 Untranslatable Words Turned Into Charming Illustrations | Bored Panda
その中から、日本語だけを抜き出してみる。(マリヤさん、感謝して画像お借りします)
まずきなこさんも挙げていた AGE-OTORI あげおとり
Kyoikumama 教育ママ
わたし的には一番うけた↓ Baku-shan バックシャン
日本俗語辞書から引用
バックシャンとは、後姿が美しい女性のこと。
【年代】 昭和初期(大正時代?)【種類】 和製英語(英語+独語の合成語)
バックシャンとは後ろ・背中(背部)といった意味の英語"back(バック)"と、美しいという意味のドイツ語"schoen(シャン:左記は英語表記。独語表記ではschon(oの上にウムラウトが付く)と書く)の合成で、後ろ姿が美しい女性を意味する。ただし、後姿だけが美人(後姿で期待したほど顔は良くない)といったニュアンスが強く、褒め言葉として使われたもんではない(当時、正面から見ても美人という意味の対語:トイメンシャンという言葉もあった)。しかし、シャンという言葉自体が使われなくなり、バックシャンも死語となっている。
”Tsundoku”で盛り上がる
ポスターがあり、
Minimalist Typography Print Art Tsundoku by DareToDreamPrints
Tシャツがあり、
"'Tsundoku' Book-lover Japanese Print" T-Shirts & Hoodies by galaxerna | Redbubble
ハッシュタグもある。
ふうん、まあどうでもいいけど、と思って下へ繰っていったら、わあ、ビックリした!古書・稀覯本のフランス語サイトまでが投稿していた。
Livres anciens, livres rares et livres d'occasion sur AbeBooks.fr
うちは古書はここの通販で買っているのだ。フランス(語)の本だけじゃなく世界中の古書を扱っているので、オランダ語の本もここで買う。
「積読」を読書好き(bibliophile)の一(いち)形態と捉えているのかな。
🌸 追記:Twitterより
定着したニッポン語
前回の記事にコメントを寄せてくれたiireiさん
>フランス語になった日本語として覚えていたのは、「タタミゼ」=tatamizer 畳のある生活に馴染むこと、というものでした。
ありがとうございました。
今日はちょっとこの辺を紹介してみる。
Bento: 「弁当」もいまやフランス人マダムがデコ弁(型抜きや素材の色を組み合わせてきれいに飾った弁当のこと)を作ってブログに載せる時代。
Bonsai :盆栽もだいぶ前から海外で人気だから、皆さん知っていますね。
Kawaii:「かわいい」は、ことばもコンセプトも若い世代に浸透している。
Ninja:ニンジャ、 驚くような早業の意味でも使われるし、愛称としても。サッカーベルギー代表のラジャ・ナインゴラン(Radja Nainggolan、 1988年生まれ、ASローマ所属)は ”Ninja"と呼ばれて愛されている。先日スウェーデン戦でも得点した。
Surimi:スリミは魚の練り物、またはカニカマをさす。ヨーロッパには20年くらい前に入ったが、特にフランスでの人気と定着度は群を抜いている。
Bokeh:写真におけるボケ。ぼやけた領域の美しさ、それを意図的に利用する表現手法も含む。フランス語でもドイツ語でもこの綴りで書く。
ほかにも映画をきっかけに入った
Banzai 万歳
今は亡きコリュシュが主演した。
より新しいことばでは
Otaku: オタク。
Barcode( Hair):髪の毛のバーコード。
Nekojita:猫舌。大ヒットした日本の漫画から、ファンが言葉を広めた。たとえばNARUTOはラーメンを食べるとき、フーフー吹いて食べているでしょ。
話変わり、Brexit。イギリスが部活でも辞めるかのように、EU離脱を選んだのだ。前日まで、いや当日朝まで、まあそんなことは起こらないだろうと誰もが思っていた(ような)のに蓋を開けてみたら!
今後のことや経済のことは私にはわからないが、とっさに思ったことは、エラスムスはどうなるの?ということだった。
25 juin 2016(おなじみクロルさんのひとこま漫画)
右の若い女性が老婦人に向かって聞いている。老婦人はニンマリ。
下は、残留に投票した人々の年齢別グラフ。
グラフは下の記事から借りています。
エラスムス計画
私はずっと羨ましく思っていたのだ。
エラスムス計画 (ERASMUS, European Region Action Scheme for the Mobility of University Students) は、EU における学生の流動化の促進を目指すもので、1987年に設立された。(ウィキペディア)
つまりあなたが大学生だとすると、EUメンバー国ならどこの国の大学でも自由に学べ、そこの単位取得が認められる留学制度である。学生や教員たちの交流を奨励し、文化の相互理解を促進し、ひとつのヨーロッパとしての連帯感情を強化するねらいがあった。
EU内の行き来は簡単だし、学費は安いかタダ(登録には多少かかるかも)だし、特殊な医学部のような専門でなければ、たいてい希望する都市や大学に短期留学できる。
イギリス人の若者もこれを利用して見聞を広め、友人を作り、外国で就職もできた。また逆にイギリスの有名な大学、大学院目指してEU中から優秀な学生がやってきていた。実に羨ましい制度なのだ。もうそんな恩恵にあずかれないってこと?
デジデリウス・エラスムス(Desiderius Erasmus Roterodamus, 1466 - 1536)、ネーデルラント出身の人文主義者、カトリック司祭、神学者、哲学者。主な著作に『痴愚神礼賛』(Moriae encomium)、『エンキリディオン』(キリスト教戦士の手引き、Enchiridion militis Christiani)、『平和の訴え』など。
エラスムスは なによりも旅する人だった。ヨーロッパ各地を旅しながら、当時の知識人たちと交流を深め、貴重な人脈を築きながら、研究も盛んにおこなった人である。
現在のヨーロッパにもこうした人材がほしい、と願いを込めてプロジェクト名になっていたのだと思う。
エラスムスハウス
いろいろな国や土地にエラスムスゆかりのものがある。ブリュッセルには、1521年にエラスムスが滞在した建物が博物館として残されている。
これは2008年に訪ねたとき撮ったエラスムスの机。
ずっとケータイの待ち受けにしていた。御利益ありそうでしょ。
Maison d’Érasme 住所:31, Rue du Chapitre, B-1070 Anderlecht
輸入したいニッポン語、またはすでに輸入したニッポン語の特集、終わります。