ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

ISに勧誘される若者たち その母親になってみる -2-

テロの現場で役立つこと

「 爆発が起きたら、まあ、間に合えばの話だけど、目をつぶって耳を塞いで、口は開けろ。で、すぐしゃがんであたりを観察する。低い姿勢だぞ。大丈夫そうなら頑丈なものの後ろに、屋外だったら垣根とか茂みに逃げ込むんだ。」

3月22日のブリュッセル連続テロのあと、アントウェルペンのカフェのお兄ちゃんが授けてくれたワンポイントレッスン。お気に入りの、何度も行っているカフェで、この日も私たちは店のテレビで、連続テロの続報を見ていたのだ。本当に地震対策同様、こちらも対策や知識が必要かも。

口を開ける」のは、鼓膜が破れないようにだという。目と耳は守らないと動けないから。でも爆風で飛び散ったガラスの破片が、頭や首や胸にたくさん刺さったらおしまいだと思うけどね。実際に自爆犯から離れていてもこうして亡くなった人、やけどで亡くなった人も多かった。(現在6人が重度のやけどのため、いまだ入院中、とベルギーの厚生大臣から発表があった)

「茂みに逃げ込む」は、バングラデシュのテロ事件で、助かった二人のイタリア人がとった行動だ。茂み(草むら)に隠れて6時間、と記事にあった。

 

本当に騙されて?

3年くらい前だったか、NOS(オランダ国営放送)のニュースを見たら、ブリュッセルで、ムスリム女性たちが悲しみにくれていた。いわく、

息子がいなくなった。シリアに連れていかれたらしい。あの子は騙されたのだ。素直で人の言うことを信じやすい子なのだ。シリアのきょうだいたちを助けにいく、と友人に話したらしい。向こうではパスポートも取り上げられて帰れないと噂に聞いた。なんとか政府に助けてほしい…。

あのころはまだ「息子たちが帰ってきた。よかった!」と、今から見ればのどかだったな。帰ってきた若者たちがその後どうしたか…これが大問題なわけである。

 

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(写真:3月26日。ブリュッセル証券取引所前)

 

モーレンベーク

「テロリストの温床」と言われて、世界中に名前が知れ渡ってしまったモーレンベーク地区。 「小さなモロッコ」、「ゲットー」など様々な呼び名のついた地域で、移民学校(移民学校の日々)で知り合ったモロッコ(にルーツを持つ)人たちはほとんどこの地域に住んでいた。女性はほぼ全員がスカーフをかぶり、足首までの服をまとう。モーレンベークは非常な人口過密で、治安も悪化し、失業率も他地域と比べて群を抜いて高い。

教育や社会保障の網から抜け落ちた移民系の若者の問題は、長く改善されずに来た。経済協力開発機構OECD)によると、ベルギーに住む移民系の若者(15~34歳)で就学・就職していない人の割合は約3割。それ以外の若者の2倍だ。(朝日新聞より抜粋引用)

移民学校の彼女たちは陽気で親切だったが、あのころ小学生の子を持つ母親だったりしたから、その子たちは今は成人しているはずだ。過激派への道を歩んでいないか気になる。

 

 

結婚相手はどうやって見つけるの?

ねえ、聞いてもいい?どうやって見つけるの?

「ふつう、友達やきょうだいの結婚披露宴やお祭り、ホームパーティなどで知り合う。パーティではいい人を見つけようと必死でキョロキョロするよ。婚期をのがすと大変だもの。私の場合は22歳だったから、ふう、セーフって感じ。」

私「25歳だっていいじゃない。そんな急いで決めなくても」

「はあ?何言ってんの。23歳じゃもう遅いのよ。」この発言と同時に、むこうで笑顔のクラスメート5~6人が首を大きく縦に振っている。「それじゃ遅いの!もう相手にしてもらえないから」なんという理不尽!じゃ婚期をのがしたらもう人生おしまいなの?

小さい声で「ほら、あの人(30歳くらいのクラスメートを指して)Sさんはもうダメよ。で、Fさんはベルギーの大学で博士号をとったハカセさんだから、男子は敬遠するのよ。まあ、あの人は異教徒と結婚すればいいわ」

もちろん高学歴の女性もたくさんいる。イギリスやフランスやベルギーに留学して、視野が広く、寛容で穏健なイスラム教徒である。結婚年齢は気にしていないようだ。

ベルギーでは「アラブ人」というと「モロッコ人」と決まっている。1960年代から労働力不足を補うためにたくさん受け入れてきた。知り合いのモロッコ人は、「1990年に自分が9歳のとき家族全員で移住してきた。父は六男でモロッコでは仕事がなかった。ベルギーではビルの建設現場で働いた」と言っていたから、そのころも制限なく移民できていたのだ。

さて、ムスリムの男子は母国モロッコから嫁を迎えることも多いようだ。結婚で初めて村を出る、どころか国を出る若い娘たち。クラスメートの一人は、不安げで青白い顔に大きな眼がうるんでいる。今にも泣き出しそうな顔。クラスのなかでも浮いている。というのもフランス語があまりうまくないから。(休み時間などの雑談はすべてフランス語。ブリュッセルの85%くらいがフランス語話者である)

あるとき、夫が教室にやってきて、教師と話をしていた。妻の様子を見にきたのだろう。30歳はゆうに超えている男だった。ダンナさん優しそうだね、と言うと、

「うん、怒鳴ったり叩いたりしないからね」

明らかにホームシックに罹っていた。しかし当分は無理だろう。どうやらおめでたのようで、子供は最低三人は欲しいのだそうだ。(→人口過密・住居問題)

 

 母はつらいよ

イスラム家庭は子だくさんなので、育児と家事で母は忙しい。日本と違って小学低学年のうちは学校へ送り迎えをしなければならない。たいてい乳児をベビーカーに、子供を一人、二人連れて、という登校風景になる。

学校も上の子はフランス語の小学校へやったが、オランダ語ができると就職に有利みたいなので、下の子はオランダ語の小学校に入れてみた、という家庭も増えている。ブリュッセルオランダ語学校前は、朝夕はムスリムのご婦人たちで歩道はごったがえす。

困るのは、うちでやる勉強はみてやれないことだ。家庭学習は必須(宿題に親のサインがいる)なのだが、オランダ語がわからないだけでなく、たとえフランス語でも内容が難しくて自分の子供時代とはずいぶん違うなと思う。そうでなくても子供はすぐあきてゲームをやりたがる。

さらに日本と大きく違う点は、小学校でも落第があることだ。留年すると、弟や近所の一歳下の子どもたちと机を並べることになり、気まずいし、やる気も失くす。こうしてドロップアウトして不良の仲間入りをする子供たちが出てくる。

 

テロリスト予備軍へ

軽犯罪で警察に何度も呼びだしを食らう親。父親は怒鳴りつけるだけで、子供の抱える悩みや疎外感をわかろうとしない。移民2世は自分のアイデンティティがどこにあるのかわからない。ベルギー社会には帰属していない気がする。だっていつも差別されて嫌われているから。まわりのみんなも同じことを言っているし、誰も仕事をしていない。

学もないのだから職を見つけるのも難しい。それに単純労働はポーランド人や東欧出身者に奪われてしまっている。アラブ人より働き者だからと嫌味まで言われる始末。受け皿はどこにもないのか。

困った母は自分の父親に相談して、息子のためにレンガ積み職人のアルバイトを見つけてきた。

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(写真はイメージです)

雇い主はオランダ語話者だが、息子はオランダ語の指示は全部わかるという。ずっとそこで働いてくれたら、と願う母親はまた裏切られる。きついから辞めたいというのだ。そして悪い仲間とつるんで、窃盗事件を起こし、牢屋では犯罪のレベルが違う強者(つわもの)どもと知り合うことに。そしてそのなかにIS(イスラム国)へ誘い出すリクルーターもいるのである。息子は家にもどると、毎日パソコンやiPhoneばかり見て暮らしている。家でおとなしくしているのはいいことだ、と思っていたら、ある日突然姿を消して、行方不明になった。

母は悲しい。いったいどこでどうやって防げたというのか。

今は娘だけが頼りだ。娘も学業がだめで、学校をドロップアウトしたが、最近スーパーマーケットに職を見つけてきた。つまりスカーフを脱いだのである。「あたし、ベルギー社会に合わせるわ」。自立宣言であり、社会への融合を望む帰属宣言である。 

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 (写真:3月26日。ブリュッセル証券取引所前)

 

先日コメントを寄せてくれたマミーさん、

社会の中で生きづらい若い人たちを、という側面が、いつもオウム真理教を連想させられます。
人は誰しも、若い時には、真面目でひたむきで、ある種、潔癖症な傾向があるものです。

リチャード・ギアさん

 宗教が違うから、他を排除せよ!などと言う神様がいるとは思えません。
宗教を悪用した一部の扇動者の仕業と思います。

私の言葉が足りないところを補ってくださり、ありがとうございました。

次回でテロ関連は最後ですが、アラブ人への偏見と差別、すなわち Islamophobiaについて取り上げたいと思います。

  終わり

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(写真:東京・台東区かっぱ橋本通り』商店街主催の七夕祭り。スカイツリーの近くです)