前回の続きです。質問をいただき、自分の説明の仕方が悪かったなと思いました。お答えしながら進めます。
宮崎駿はメビウスの作品を見て、1980年ころ大ファンになり、のちにメビウスも宮崎を尊敬するようになり、二人は固い友情で結ばれました。そしてついに2004年から05年にかけて、パリで共同展覧会が開催されることになったのです。
なんと贅沢なこと!
展覧会ポスター
二人の原画を間近で見られるほか、二人が互いの作品の絵を一点ずつ描いたものも飾られたのです。それが前回の「メビウスが描いたナウシカ」。
今日は宮崎が描いた、メビウス代表作のひとつ「アルザック」をご覧ください。
また、展示された宮崎の原画はこのようなものです。
全部かどうかはわかりません。
私自身は行っていませんので、上記写真はこちらのサイトから借りています。
Miyazaki Hayao chateau ambulant exposition miyazaki moebius interview toshio suzuki ghibli animation
追記:こちらのサイトも。Miyazaki - Moebius : le diaporama de l'exposition Miyazaki - Moebius
砂漠の住人になる
メビウスのスケッチ集をみていたら、いつのまにか私も砂漠の住人になってしまっていた。あなただってきっと同じ。この本を開いたら。
『B砂漠の40日間』(日本では飛鳥新社から出版)
左:日本版 右:フランス版
話はちょっとずれるが、備後あこう浪士さまのブログをいつも楽しく拝読している。津軽三味線の高橋竹山氏のお話には感銘を受けた。特に、手を触らせてもらったらとても柔らかかったというくだり。道を究めた人は、いらない力が抜け、力みも一切なくなって、そんな柔らかな美しい手を持つようになるのだろう。心も頭も柔らかだろうと思う。
剣の達人がもはや剣もいらない、というのもどこかで読んだような。鍋のふたでもあればじゅうぶんとか、食事中、抜き身の刀を箸で挟んで受け止めたとか。
このスケッチ集は、60歳を過ぎたメビウスが、下描きなしの一発描き、修正も一切入れずに製作したもの。もはやペンとインク、紙さえあればほかはいらない、という境地だ。セリフやコマ割りもない。
メビウス作品でお馴染みの「砂漠」や「帽子をかぶった男」が登場する。この帽子は「主人公の思考が意識の片隅に漂うイメージや概念をたぐり寄せようとする時に取る形の象徴」(ウィキペディア)であるという。
瞑想する男の前に実に様々なものが現れる。ストーリーを決めずに、自由に次々と幻想を紡ぎ出していくのだ。どんなものが出てくるか、意表を突くどころか見たこともないものばかり。ぜひ手に取って見てください。砂漠の神秘にどっぷり浸かってみましょう。(東京ではいまや区立図書館にBDコーナーができていて、メビウスは必ず置いてあると思います)
メビウスの娘だったとは!
ナウシカ(前回ブログ参照)ちゃんのことではなく、最初の奥さんとの間の娘、エレーヌ・ジロー(Hélène Giraud、1970年生まれ)さんは、アニメーション作家になっていた。NHK Eテレで、テントウムシの5分アニメが放送されていたが、「ジロー」という苗字はよくあるので、全く考えてもみなかった。
2年前に来日。劇場上映作品「ミニスキュル 森の小さな仲間たち」を引っ提げて。(いろいろな賞を受賞している)
ポスター
なんと「まっくろくろすけ」が「特別出演」するのだ。おわかりですか?宮崎駿監督の「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」に出てくる、あのまっくろくろすけ(ススワタリのこと)。宮崎駿へのオマージュなんだって。
エレーヌ・ジローはインタビューで、「日本のアニメーションにすごく影響されている。宮崎駿監督には特に。そして大ファンである。ほかに大友克洋氏、森本晃司(2004年 マインド・ゲームなど)氏の作品から影響を受けた」と答えている。
共同監督のトマス・ザボ(ご主人)も宮崎監督にすごくインスパイアされていると語る。
真ん中エレーヌ、右ザボ氏。
ふん、テントウムシ?と思ったあなた!違いますよ。私はNHKで見たが、可愛い虫のお子様向けの話では全くない。スターウォーズの有名シーンをも連想させる疾走感にびっくりするし、展開も速く、あなたの予想はたいてい裏切られる。ぜひ一話でよいので見てくださいね。
次に
石川さゆり これを描いた人の話に移ります。
以下アマゾンサイトから引用。
荒木飛呂彦 (あらき・ひろひこ)
1960年6月7日生まれ、宮城県仙台市出身。東北学院榴ヶ岡高等学校を卒業後、仙台デザイン専門学校卒業。80年に『武装ポーカー』で「少年ジャンプ」デビュー。代表作は『ジョジョの奇妙な冒険』。他作品に『魔少年ビューティー』『バオー来訪者』『スティール・ボール・ラン』『荒木飛呂彦短編集 ゴージャス☆アイリン』『死刑執行中脱獄進行中』、『変人偏屈列伝』(鬼窪浩久との共著)など多数。
出典:Amazon.co.jp: 荒木 飛呂彦:作品一覧、著者略歴写真も。
荒木飛呂彦については、みなさんの方がきっとよくご存じだと思う。私は『岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス)』しか読んだことがない。正直言うと、絵があまり好みではない。漫画家はやはり絵で語るわけで、絵が好きになれないとなかなか手が出ないものだ。しかし荒木はイタリアやフランスでも大人気である。
ルーヴルが欲しがった9番目の芸術、「漫画」
長い歴史を持つ美術の殿堂「ルーヴル美術館」(1793年開館)が、このたび興味深い企画を立ち上げた。それは「漫画」という方法でルーヴル美術館を表現するというもの。漫画家たちに、ルーヴル美術館をテーマに自由に作品を描いてもらう。日本やフランスなどの有名作家が16名参加している。
そしてこの夏、まず東京・六本木で開催された。ルーヴル美術館特別展「ルーヴル No.9 ~漫画、9番目の芸術~」は、12月に大阪(グランフロント大阪)、その後、福岡、名古屋が予定されている。http://manga-9art.com/
追記:http://1000planches.org/category/uncategorized/
さて荒木にもどろう。この人は何人かのBD作家を挙げて、影響を受けていることを各所で発言している。エンキ・ビラル(Enki Bilal)の影響も大きいようなので、短く紹介しておこう。エンキ・ビラルはメビウスと並んで、BD界ではもっとも有名な作家である。
1951年、ボスニア人の父親とチェコ人の母親のもと、セルビアのベオグラード生まれ。9歳の時にフランスへ移民した。1972年に21歳でデビュー。SFや政治をテーマに作品をかいているが、1983年P.クリスタンとの共作『狩猟』ではソ連のペレストロイカを予見したと話題に。下が代表作
ニコポル三部作(1980年 - 1992年、3巻)
1.不死なる者の祭典(La Foire aux Immortel、1980年)
2.罠の女(La Femme Piege、1986年)
3.冷たい赤道(Froid Équateur、1992年)
世界的な人気を博し、第3巻『冷たい赤道』が文芸誌『リール』(Lire)の1993年度最優秀書籍に選ばれた。「恐るべき子供(アンファン・テリブル)」と呼ばれ、現在でも実力と人気のある、文句なしの第一人者といえる。
フランス語版
私が読んだのは『モンスターの眠り』(河出書房新社)で大友克洋が監修している。
2-3ページ目を写真に撮ってみた。雰囲気がおわかりだろうか。
「記憶」というテーマを扱い、舞台は未来だが、祖国ユーゴスラヴィアの分裂と内戦を暗示している。
描き方はかなり変わっている。まず鉛筆でラフ画をかく。それを拡大コピーして厚紙に貼る。その上からアクリル絵の具やパステルで仕上げるのだという。大きいものだと50センチあるそうで、一枚ずつが絵画作品のようだ。
色の秘密もおもしろい。灰色がかった青を出すために、タバコの灰を混ぜたり、赤色にはヒナゲシの粉末を混ぜたりするそうだ。
BD界には凄い人たちがたくさんいて、また次から次へと新しい才能が現れている。
おまけ
ビラルが描いたジダンさま。
めっちゃカッコいい。