ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

小平奈緒選手 オランダ語インタビュー(平昌五輪)

(*別ブログの記事を移しています)

小平奈緒選手の魔法の呪文

f:id:cenecio:20181023175215p:plain

小平奈緒選手は500Mで見事金メダルを獲得。

NOS(オランダ国営放送)の記者がさっそくインタビューにやってくる。すると小平選手は金メダル獲得の秘密を教えてくれるのだ。それは魔法の呪文のようなもの。

どんな呪文か。

nos.nl

(↑ 写真は中のビデオから切り抜いています)

f:id:cenecio:20180219093645p:plain

f:id:cenecio:20180219093731p:plain

このインタビューのとき、記者の男性はスマートフォンを通してオランダと繋いでいる。オランダ側にいるのは小平選手が2年間コーチングを受けたマリアンヌ・ティマ―さん(*註)。三人での会話が始まる。

小平選手が言う。競技場に向かうバスのなかで、昔ティマ―から教わった「早口言葉」を100回位唱えていた。それは

”Leentje leerde Lotje lopen langs de lange Lindelaan”

「レーンチェがロッチェに長いリンデ通りで走ることを教えた。」というもの。この思い出深い魔法の早口言葉で500mを制したのだ。一緒に滑った銅メダルのチェコ選手エルバノヴァ―( Karolina Erbanová )もティマ―の門下生で、オランダでは毎日一緒に切磋琢磨してきた仲間である。

スタートでは体がちょっと動いてしまい、フライングを取られるのではと一瞬不安が頭をよぎったが、思い切って行った。そのあとの滑りは類まれといっていいもの、自分の滑りの中でもベストの一つだと振りかえった。三連覇がかかっていた韓国の李選手に差をつけてオリンピック記録で優勝したが、李選手に対しては常に深い尊敬の念を抱いているという。 

*マリアンヌ・ティマ―Maria Aaltje ("Marianne") Timmer (1974ー)

凄い選手だったんですね!

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/2d/Marianne_Timmer_%2809-12-2007%29.jpg/240px-Marianne_Timmer_%2809-12-2007%29.jpgf:id:cenecio:20180219102709p:plain

Marianne Timmer - Wikipedia

このNOSのインタビューをうけて、 魔法の早口言葉はすぐさま記事になった。

「マリアンヌ・ティマ―が金メダリスト小平に教えたことは、うまく滑ることだけじゃない。オランダ語もだ」という見出しで大きく扱われている。

f:id:cenecio:20180219142943p:plain

 

写真のキャプション:「リーシェはロッチェに走ることを教えたが、マリアンヌ・ティマ―はナオ・コダイラに(よりうまく)滑ることを教えた。」

Marianne Timmer leerde 'gouden' Kodaira beter schaatsen én Nederlands - Sport - DVHN.nl

ところで女子の名前は Leentje、Liesjeの二通りあるようだ。文はもう少し長くて子どもの数え歌みたいになっている。参考までにこちら。

★Versie 1:
Leentje leerde Lotje lopen,
Langs de lange Lindelaan.
En toen Lotje goed kon lopen,
Is zij weer naar huis gegaan.

★Versie 2:
Leentje leerde Lotje lopen
Langs de lange Lindelaan
Maar toen Lotje niet wou lopen
Toen liet Leentje Lotje staan
In de lange Lindelaan

 

🌸マリアンヌ・コーチのツイートすてき👍

”イエス@ナオ・コダイラ 金メダル とっても誇りに思う #BozeKat(怒った猫)”

エスススススとsを強調するところや「とっても誇りに思う」と書いたあとにハッシュタグ#bozekat(怒った猫)をつけ、短いなかにもユーモアと愛情が溢れている。

怒った猫のポーズはティマ―さんが小平選手にフォームを教える時の喩えで、画像を見れば一目瞭然。

またこのレースは銀メダルの李相花(イサンファ)選手とのライバル関係・友情も大きな注目を集めた。

こちらのツイートはオランダの元スケート選手のもの。「すばらしい光景だ」。

f:id:cenecio:20180219094309p:plain

このツイートに多くの人が賛同・賞賛のコメントを返している。

「この悲惨なことの多い世界で実に心温まる情景」

「ソファーに座って見ていたが涙が出てきた」

「世界はこうでなくちゃいけないんだよ」

「スポーツはきょうだいのような契りを結ばせるってことじゃない?」など。

私も何度見ても目頭が熱くなる。イ選手も銀メダルおめでとう!

  

総括的な記事

nos.nl

f:id:cenecio:20180219104647p:plain

 大体の内容。

1.000 meterは惜しくも銀だった小平。金はオランダ Jorien ter Mors。高木が銅で表彰台に日本女子が二人並んだ。
ソチで結果が出せなかったことから、オランダに移り、ティマ―のチームで練習を始めた。2年でスプリントの花形選手へと成長。そしてこの日曜日、祖国に金メダルをもたらした。その日本ではオランダ人コーチ二人、ヨハンとロビン(Johan de Wit と Robin Derksが、日本選手のために働いている。

 

 

日本人女性として初の金メダル(オランダ、トラウ紙より)

f:id:cenecio:20180223102632p:plain

f:id:cenecio:20180223102446p:plain

小平選手と一緒に滑って銅メダルだったエルバノヴァ選手(Karolina Erbanova)は、オランダで同じコーチの指導を受けた門下生。本当に嬉しいことだ。(下にも写真を載せた)。

f:id:cenecio:20180223102512p:plain

 写真ここまでトラウ紙。'Boze kat' Nao Kodaira leerde in Nederland bravoure tonen | TROUW

 

「怒った猫」は自分の代名詞、そしてオランダの恩師からの贈り物。

小平奈緒選手はソチで芳しい成績が収められなかったあと、2年間オランダで修業した。無名時代からの相沢病院の支援はもう感涙ものだし、相沢孝夫理事長は小平をオランダへ「スタッフの留学」という形で送り出したことにも頭が下がるばかり。コーチも含め、周囲の人々が凄すぎる。

下は2016年、長野市で行われたワールドカップを取材したNOS(オランダ国営放送)の記事で、記事内にビデオが2本ある。

 

f:id:cenecio:20180221174423p:plain

Kodaira in het Nederlands: ik ben de baas | NOS

インタビュー「ボスは私。吾輩は虎である!」

もうすでに500mでは負けなしだった。インタビュアーのオランダ人記者に目覚ましい成長と快挙の秘密はなに?と聞かれ、「ただハードなトレーニングをしただけ」とあっさりひとこと。

私が思うにポイントは、記事タイトルにある: ik ben de baas「ボスは私」ではないだろうか。オランダでは滑る前に常にコーチに言われたフレーズであるらしい。

「ボスは誰なの?」

そのたびに「ボスは私」と答えていたという。オランダの2年で大きく変わったメンタリティ。コーチに言われたことをやるのではなく、自分で考え、自分を主張する。控えめで謙虚でにこやかな態度は普通なら美徳かもしれないが、スポーツ選手には必要ないものだ。

自分の人生、自分のスケートの主人公は私なのだという覚悟と闘志、そして獰猛さのようなものまで身に付けた。力強くしなやかで、自己への信頼に満ちた滑りがそのことを表していると思う。もはや猫ではなく虎である。

小平:「今回滑るときも、ボスは私、ボスは私と言い聞かせたんです」。

インタビュアー:「しかもここは故郷の長野だからあなたがボスだね」と笑わせてから「プレッシャーはないんですか。どう向き合っているの?」

「みんなから力をもらっているんです」「私は前に進むだけ。すでに取ったタイトルは振り返らずに行きます」…

 

オランダ時代の練習風景(youtubeより)

www.youtube.com

 

f:id:cenecio:20181101131406p:plain

(写真:youtubeから切り抜き。エルバノヴァ選手と。)

小平選手が暮らしていたのはオランダのフリースランド州のWolvega(ウォルフェガ)というところ。ここではオランダ語に近いフリジア語が話される。方言ではなく言語的に独立している。小平選手はフリジア語もどんどん覚えて話したので、周囲の人たちに愛されていた。

f:id:cenecio:20180221140720p:plain

この地域の親切な農家に部屋を借りていたとか。そして第二の故郷と呼んでおり、どれほどこの土地が気にいっていたかがわかる。スケーティング技術を磨くだけでなく、土地の文化やとりわけオランダの「スケート文化」一般について深く学んだようだ。

f:id:cenecio:20180221141201p:plain

↑最初のフレーズIk ben thuis.ただいま、という意味。ハッシュタグの2番目「フリースランドが好き」、3番目「怒った猫」とくれば、どんなオランダ人も微笑み、感激するにちがいない。可愛いひらがなや絵はステイ先のお子さんかな。

赤いハートはフリースランド州の旗のデザインにもなっていて、”Pompeblêd”と呼ばれるシンボル。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/ca/Frisian_flag.svg/220px-Frisian_flag.svg.png

またフリースランドには”Thialf ”という有名なスケート競技場がある。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/03/Thialf_stadion_2008.jpg/800px-Thialf_stadion_2008.jpg

Thialf - Wikipedia

参考までにこのスケートリンクの記録を貼ってみる。日本人の活躍が誇らしい。(上記ウィキペディアにこの表が載っている)

f:id:cenecio:20180221140929p:plain

 500m 小平選手 37,29 昨年2017年11月のワールドカップの快挙だ。

そしてパシュートも、平昌五輪の金メダルのメンバー3人。2分55秒77.すばらしい大会記録。しかし今回はさらに飛躍して五輪新記録である。2分53秒89!

とてつもない記録で、繰り返しビデオを見た。何度見ても美しい隊列に惚れ惚れする。

 

🌸 おまけ

 小平さんの2年前のツイートがおもしろい!道路をスケートで?!