前回菜食主義の最前線 ベジタリアン争奪戦(#未来世紀ジパング-1-)のつづきです。
昔のことだが、ベジタリアンは仏教徒やインド人以外にもいるんだと知り、新鮮に驚いたものだ。するとけっこう周りにも増えてきて、おかしいな、どうしてだろうと思って人に聞いたら意外な答えが返ってきた。「アメリカ帰りはベジタリアンになる人が多いわね。仕事や留学であっちへ行くと感化されるの。トレンドみたいなもんよ。インテリの証みたいな?」
ふうん、そうなの。私はインテリじゃなくていいや。
ともあれ世界中に多くのベジタリアンがいることはわかった。5兆円市場というこの流れは止まらないだろう。大きなビジネスチャンスなのである。
「ベジタリアンなら野菜を食べていればいい。代用肉や魚、フェイクなチーズを求めるのはおかしい」と思う人がいるかもしれない。だがベジタリアン専門のレストランがない町もあるし、自分だけがベジタリアンで、友人や家族と食事に行きたい場合は困ってしまう。普通のメニューにはあなたの食べられるものはほどんどない。サラダとか、コーヒーくらいか。また結婚式の披露宴やパーティーに出席するときはどうだろう。屋外でバーベキューだってすることもある。
そこでベジタリアンメニューと食材が必要になるわけだ。番組にはオランダ・アムステルダムの本格和食レストランhttps://www.hosokawa.nl/のシェフも出てくる。どんなところかなと思い、お店のHPへ行ってみたら、こんなよだれの出そうな品々が並んでいた。
なのにそこのすし職人は、サシの入ったフェイクな刺身(前回記事)を神妙な面持ちで試食していた。ヴィーガンメニューを作るのだという。卵焼きもかつおだしは使えないから、ひとつひとつ見直していくようだ。
番組は他にもドイツのベジタリアン幼稚園を紹介していた。親たちもみなベジタリアンだという。給食はもちろんベジメニュー。
269
そして最後に負の側面として、精肉店を襲撃するなどスキャンダルを巻きちらしている過激な活動家団体にも取材していた。肉屋のオーナーが、覆面の5人組に襲撃されガラスを割られたと話す。スマホで撮った写真には「種差別をやめろ」というスプレー書きの文言が見える。「種差別」とは人間以外の動物を差別し搾取することだ。
食肉処理場も放火された。広い敷地の8カ所も。脅迫状には「動物を殺すお前の家族も従業員もアウシュビッツで焼かれてしまえ」と書かれていたという。80人ほどいた従業員は去っていった。犯人はまだ捕まっていない。被害総額16億円相当ということだ。
肉屋襲撃や町なかでのショッキングなパフォーマンスの際に必ず見られる文字、それは269.
(↑サイトのTOPページの写真https://www.269life-france.com/)
269 life-franceという急進的ヴィーガン団体のひとつである。パリ支部長エリック・リキエ(Éric Riquier)氏が顔を出してインタビューに答えた。「精肉店に権利などない。動物の命を考えろ。虐待をやめさせる。そのためなら手段を選ばない」
番組スタッフはこう尋ねた。「ぼくは肉も魚も食べるんですけど、ぼくの人格をすべて否定しますか」
リキエ氏「あんたの体は動物の墓場だ。自分のやっていることを自覚しろ」
まったく酷い話である。まともな人たちではない。普通のヴィーガンが可哀想になる。肉を食べるか食べないかは自由に選択していいのだ。そして自分と違う生き方や選択も尊重されるべき。一方的に押し付けられる筋合いはないし、第一暴力や脅迫は立派な犯罪だ。
さて、前回と今回ここまで「未来世紀ジパング」の番組内容を振りかえってきたが、ここで終わりにする。下は番組収録のあとドイツに里帰りしたマライさんが、大豆素材のソーセージをスーパーで見つけ、写真を撮ってくれている。
先日の『未来世紀ジパング』でも紹介されていた植物肉を、ドイツ実家近所で発見しました。大豆で出来ています。「LIKE MEAT」とは実にわかりやすすぎな…😅
— マライ・メントライン@職業はドイツ人 (@marei_de_pon) February 1, 2019
「質量を伴ったバーチャル現実の一種」と定義してみると、SFマインド的に味わい深さが倍加してしまったり。#未来世紀ジパング pic.twitter.com/aixtkThnyZ
和解は無理そう?
朝はたいていテレビでフランス2(NHKBS)を見ているのだが、この種の暴力の報道には辟易し、朝からすご~くいやな気分になる。店の前に血のりをまいたり、動物の死骸に似せた人形を乗せたテーブルで食事をするパフォーマンスなど。通りかかった家族連れが驚き、顔をしかめる。肉屋・肉食を動物虐待や残虐行為と結びつけ、ことさらに強調してショックを与え、肉食をやめさせようとしているわけだ。小さな子どもはトラウマになるかもしれない。
こちらAFPの昨年秋の記事。
http://www.afpbb.com/articles/-/3191492
過激派ヴィーガンの嫌がらせ被害に苦しむ、全国1万8000店加盟の「フランス食肉専門店・食肉ハムソーセージ専門店・総菜店連盟」が昨年6月、緊急事態だと表明、政府に保護を要請した。しかし「家畜飼養や食肉処理で生計を立てている人々と、動物の大量殺害を止めさせようと活動している人々の間で、衝突が発生するリスクは高まりつつあるようだ」と記事は締めくくられ、悲観的である。
こうした過激派がいるのはフランスに限らない。スウェーデン在住の方もこう書いている。
スウェーデンで動物愛護の運動が過激化。酪農家や育種家に対して、放火、子供の殺害予告など、過去3年間に200件以上の事件を起こしている。主にスウェーデン西部で組織されているとも#スウェーデン #北欧 #動物愛護法改正 #動物虐待 #動物愛護 #ビーガン #ベジタリアン https://t.co/SiO70azviR
— 北欧の理想と現実 (@yasemete) January 23, 2019
さらに驚いたことに「攻撃を加えていた動物愛護団体が、企業の資金援助を受けていたことがわかった。判明した企業は、Ica、Axfoodといった食品関連会社」などとツイートは続いている。
オリンピックを控え 日本では?
さて話を戻し、日本もベジタリアンが安心して食事のできる店、メニューを揃える必要があるだろう。 地域で店のマップを作り、無料で配布するほか、コンビニなどの食品や弁当にも表示があったらいい。
そこで参考になるのが、2年くらい前にテレビで見た岐阜県高山市にあるお店、平安楽さんだ。きっとみなさんもいろいろな報道でご存じかもしれない。
世界最大の口コミサイト「トリップアドバイザー」が発表した、2016年のランキング堂々の一位である。お値段も千円以下の品が並ぶ庶民的なお店らしい。ベジタリアンと何の関係があるのと思うかもしれない。
実はこのお店、ベジタリアン、ビーガンに合わせた食事をその場で作ってくれるのだ。ハラール対応のメニューもあり、小麦粉がダメな人のために米粉のラーメンまで作る。英語表記のメニューだけでなく、女将さんが英語で料理の説明をしてくれたり、旅の相談にものってくれるという。
Matt Kさんの口コミ:「ベジタリアンもベジタリアンでない食事も両方すばらしい。日本ではなかなか見つけられないのだが、マッシュルームアレルギーのために調理してくれた。料理は美味しかったし、手ごろな価格だった。」外国人に人気の日本のレストラン ランキング 2016 |
口コミも英語・中国語・スペイン・仏・イタリアなどが多い。高評価の理由をひとことでまとめると、「徹頭徹尾 客の要望に応える」ではないだろうか。よく私たちが勘違いしやすい日本流のおもてなしは、ともすると押しつけがましく,相手が求めるものと隔たりのあることが多い。
今回このテレビ番組を見て、 菜食主義からおもてなしまで、多くを学び、考えるヒントをもらったと思う。
菜食主義のテーマは終わります。
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参考:去年のツイート
フランス北部で、食肉店や豚肉加工品店を狙った菜食主義急進派による襲撃が相次いでいる。業界組合はコロン内相に保護を要請した。4月、7軒の肉屋で血糊がぶちまけられた。肉屋と魚屋各1軒は強盗被害に遭ってガラスを割られ「動物虐待をやめろ」とスプレーで落書きされた。 https://t.co/7uBh0qM1DW
— 国末憲人 Kunisue Norito (@KunisueNorito) June 25, 2018
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