ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

ラ音の憂鬱 &アジア人種差別について-1-

お久しぶりです。

日にちが空いてしまいましたが前回ラ行の驚き 元号「令和」で思ったこと&「UDデジタル教科書体」がすごかった。 の続きです。

前回記事では、ラ行で始まることば*はもともと日本にはなく、漢語とともに入ってきたこと。ラ行で始まる元号って以前にあったかな…といった個人的な関心を書いたのだが、こんなささいな話題でもおもしろがってくれる人たちがいるのを知り、嬉しく思ったものだ。

リンゴ(林檎)やリス(栗鼠)など一見和語に思うかもしれないが、中国語から入っている。

コメントありがとうございます。

わっとさん、

watto アルタイ諸語(はいはい諸説ありますよ)語頭R音と「令和」のまとまった記事は、個人的には初めて読んだ気がする。

とりあえず先にラ行について書いている人がいないか、一応ネット上を調べてから書いたので、気づいていただけて嬉しかったです。

sumita-mさんもブログで取り上げてくださった。

「アルタイ」に開かれて - Living, Loving, Thinking, Again

「ラ行が英語のdに近い」のは幼児の発音でもわかる。ダメ→らめ、だっこ→らっこ。他には幼児の発音として、サ・ソ→チャ・チョなど特徴的で、私たちもみんなその段階を通ってきたんですね。

yonnbaba さすがセネシオさま、「独擅場」(どくせんじょう)と書いていらっしゃる・・・。 

よんばばさま、私は以前注意されたことがあり、現代の国語の慣用に沿っていかなければ、とわかってはいるのですが(反省)。

giovannna おもしろかった。楷書体てのは手書きの文字に近いんだなぁ。ブログだとか、会社の広報だとかはUDにこだわって作りたいもんだ。

全くです。広報や公的な文書にはぜひお願いしたいと思う。外国人の労働者も増え、子弟も日本の学校で勉強している。また平易でわかりやすい文章も大切ですね。災害時のマニュアルなどすぐにでも平易な日本語文に改め、書体を考えてほしい。

こちらkarotousen58さま、すばらしい。

karotousen58 中1の時の国語教師がマニアックで、授業1コマ使って手書き文字と活字体を説明。「とめる、はらう、どちらでもよい」等。「島、嶋、嶌」とか「漢字と仮名の歴史」も踏まえて説明。教師に感謝。ラ行音には私も驚き。

いい先生に習ってうらやましいな。私も漢字もおもしろいと思っていたけど、むしろ文法の方が好きだった。膠着語族としての日本語が魅力で、中学時代は特に動詞にはまっていた。

jerichさまには 漫画『光とともに・・・自閉症児を抱えて』を紹介していただいた。LD児が「黒いおだんごみたいなんだもん」と言っていた、という表現が心に刺さる。

https://www.akitashoten.co.jp/comics/4253163572/cover

https://www.akitashoten.co.jp/comics/4253163572

この漫画が出たのは15年ほど前だが、すぐに数か国語に翻訳されていた。もしかしてこのテーマの漫画では初?(どなたか情報のある方教えてください)

欧文でもひげやうろこなどの飾り(=セリフ)がついた文字は、読めない、読みづらいという人たちがいる。ローマン体のg(下)は飾りが多く、筆記体と全然違うと私も子ども心に思っていた。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e0/Garamond_sample.svg/220px-Garamond_sample.svg.pngSerif - Wikipedia 

もちろん、アルファベット圏の障害を持つ児童や生徒には、かなり前から読みやすい書体の別テキストが用意されていたし、いまやユニバーサル・デザインの書体で皆が同じ教材を使い、タブレットだと文字を大きくもできるといういい時代になった。書体とデジタルはインクルーシブの大きな助けとなるだろう。

 

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王様の温室 ブリュッセル

ラ音の憂鬱(らおんのゆううつ)

RとLの区別、聞き取り…英語を習い始めた日本人が困る発音のひとつである。例の「ライス」、お決まりのからかいネタ、みなさんもご存知でしょう。RICE(米)とLICE(シラミ)ってヤツ。意味が大きく変わるのでインパクトも大。

ついでに言うと英語のR,Lは音自体が難しいときているからよけいにやっかいだ。フランス語やドイツ語などと比べてという意味で。

オランダ語でも同様なサンプルがあって「レイク」、RIJK(金持ちの/国家/王国)とLIJK(死体)。気を付けずに発音すると日本人はいつも「死体」を連発することになる。

以前どこかに書いたが、カタカナでたとえば「ロラン」と書いてある、または「あの人はロランさんよ」と聞いて、それがLaurent なのか Rolandなのかわからないのも悩ましい。カタカナから欧文文字に正しく変えるのは難しい。V/B, S/SH, THなどの問題もある。カタカナのあとにアルファベットも併記しておいてくれればいいのに、といつも思う。私は当ブログでは人名地名はそうしている。

またRの発音はひとつとは限らない。フランスやドイツ、オランダなどで地域や人によって違う。巻き舌の人、喉音の人、オランダ語に至ってはそれに加えてアメリカ英語のようなRを使う地域(アムステルダムの一部)もある。私はなるべく現地の発音に合わせるようにしている。

ベルギーのオランダ語は巻き舌が一般的だが、移民学校オランダ語教室(2007年)で最初に習った若い女性の先生は喉音のRだった。生徒たちも関心を示し「なぜ?フランス語話者の家庭ですか」と聞いたら、「実は我が家で喉音のRは私だけなの。子どものとき、巻き舌って野暮ったいと思ったから私は喉音でいこうと決めた」と返してきた。ええっ、そんなもんなの?と皆で顔を見合わせたことを思い出す。

アジア人のRができないことをネタにしたジョークは多い。いろんな国にそれぞれ鉄板ネタがあるんじゃないだろうか。

私が初めて聞いたのは70年代のイタリアだった。中国人がイタリア語を話すとき、RとLを区別しないため、卑猥な話になってしまうという小噺で、内容はとてもじゃないがここには書けない。話の最後には皆(=イタリア人)が爆笑する。ほかには中国人のしゃべり方を完全にコピーしてバカにするネタなど。

小噺をしたのは私がお世話になっていた家庭に来た客人だ。超ご機嫌で「な、おもしろいだろ?」みたいな目配せを送ってくる。おもしろくなんかねーよ。

「日本語もRとLは区別されない。それどころかアジア人みんなにあてはまると思うよ」と言うと「あれれ、そうなの?ま、ジョークなんだからさ…」みたいな言い訳をした。

知らなかったんだから仕方がないだろう。悪気はなかったんだ。そういう意図ではなかったんだ。・・・これらはよく聞くせりふだが、強者の側の弁明であって、しかも謝っているわけでも全然ない。アジア人蔑視(アラブ人やトルコ人、黒人に対しても)や白人優位の考えは、無意識のうちにも、ヨーロッパやアメリカ大陸など広く存在すると思う。おもしろいのは70~80年代にヨーロッパに住んで経験した、「チン・チャン・チョン」(Ching Chang Chong)とはやしたて、わあ~っと逃げていく子どもの情景が、今でも厳然として変わらずにあることに驚かされる。アジア人は皆似ているのでひとくくり。チン・チャン・チョンとしゃべる人たちなのだ。親の世代のアジア人軽視を子どもはいとも簡単に受け継ぐんだなと考えさせられる。

昨年のドルチェ&ガッバーナのCMが炎上して中国で不買運動が起きた件、みなさんも記憶に新しいのではないだろうか。ありえない箸の使い方もさることながら、ここでも中国人の発音をあざ笑っている。よくもまあこんな敵対的な挑発と悪意に満ちたCMが作れたもんだ、誰も止める人がいなかったんだろうかとあきれたが、案の定自業自得でドルチェ&ガッバーナ側はボイコットの大波を食らった。

 

ウシ・ヒロサキの衝撃

ネタとして仲間内で笑っているなら仕方ない。大いにやってくれ。

だがここまで徹底的に日本人(女性)をバカにした番組と映画は他にはないだろう。オランダの話に移る。

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女優ウェンディ(Wendy van Dijk - Wikipedia)がかつらをかぶり、付け歯をして出っ歯になり、黒縁の眼鏡をかけ、日本人レポーターウシ・ヒロサキに変装。歌手アデルはじめ、そうそうたるセレブリティの面々にインタビューするのだ。

www.youtube.com

例によってRとLが混ざる。 "Solly, my Engrish is not so very bad!"←入れ替わっている。

発音が下手なため、卑猥な意味の単語になるようにご丁寧に台本が作られている。相手は英語ネイティブなのですぐに反応しケラケラ笑ったり、「変な女」と思って顔をしかめたりする。おもしろくもなんともねーよ。でもオランダのお茶の間ではこれが大ヒットした。さらに映画”Ushi Must Marry” (2012年)まで作られた。結婚妄想にとりつかれた日本人女性がお相手を探すという筋立てで、ステレオタイプな相撲力士や芸者などが登場。鉄板ネタの変な発音や恥ずかしい発言のほか、体をはったドタバタが盛り込まれる。

ここまで書いただけでもう腹がたって頭が破裂しそうだ。もちろん日本人を笑いものにすることが人種差別に当たる、と批判した人たちもいた。ところがあろうことか、次のターゲットへと進むのである。今度は元植民地アンティル系の女性だ。やはり弱い立場の人に狙いを定めるわけだ。こちらは抗議と非難ごうごうだったという。当たり前だろ!

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parool.nl

真ん中のウェンディが変装している。変装はすごいけど、酷い番組だな、よくもこんなものを喜んで見るねえ、と思う。まあ、わが国のTVも低俗なものが多いのだが。

 

けっこう長くなってしまったので今日はいったん終わります。

みなさん、いつもありがとうございます。

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(パリ 2019年)

🌸続き

cenecio.hatenablog.com

追記: