ライナー・チムニクの世界(ドイツの絵本詩人)『クレーン男 』『熊とにんげん』

 

わたしはクレーンが大好き。

ブリュッセルに住んでいたころ、窓からクレーンたちを眺めて暮らし、それはごく普通の日常風景だったのである。

毎朝、クレーンを操縦する人がやってきて、のぼっていく。昼にランチでいったん下に降りるが、そのあと日が暮れるまでずっと中でクレーンを操っていた。

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(Ixelles, Bruxelles 2007)

 

チムニクワールド

著者ライナー・チムニク(文・画)という人は不思議な人だ。

一冊目の『クレーン男』に出会ってから、『タイコたたきの夢』と『セーヌの釣りびとヨナス』とたて続けて買ってしまった大学時代。絵と文で構成され、寓意に満ちた大人の童話。いやうちの子供たちも十分楽しめたから、年相応で味わっていいチムニクワールド

チムニクという男の中には、シャイなこどもと、俗世を捨て孤高に暮らす老人が同居している。ファンタジーもあり辛辣な社会批判もあり、やや誇張されたユーモアや反復の妙、突飛な展開にいつも驚かされ、そしてクスリと笑わされる。

どんな結末であっても後味は悪くない。

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『 クレーン男 』 1981年 ライナー・チムニク (著, イラスト), 矢川 澄子 (翻訳)

 

 ライナー・チムニク(Reiner Zimnik 1930年-)はドイツ人だが、シュレジア地方(今はポーランド)に生まれた。指物師として働いたあと、ミュンヘンの美術学校で学ぶ。

魅力はいっぱいあるのだ。

簡潔な線画、モダンな構図、細部のこれでもかというほどの描き込み…

かと思うと 脱力したみたいな省略による広い余白。

チムニクの独自な世界が展開される。

様々に解釈される寓意や、温かいユーモア。

 

とにかく一押しです。

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http://www.kuenstlersonderbund.de/mitgl_zimnik.htm

この人のウィキペディアは、ドイツ語とスペイン語と日本語の3か国語だけ、というのがおもしろい。日本語にたくさん翻訳紹介され、コアなファンがいるのがわかる。そしてありがたいことに、矢川澄子の翻訳もとってもよい。 

このように見開きで、右にお話し、左にイラストという構成である。

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クレーン男

クレーンを愛しすぎてクレーンの上で生活する男の話だ。49メートルという国中で一番高いクレーンは、町の発展にともない、荷物の積載など多くの仕事をこなしていく。

無欲で勤勉なクレーン男。孤独と自由を謳歌しつつ、人間模様や社会情勢もしっかり見ている。世は移り変わり、戦争が起こり、人々が町から去っていく。

堤防が決壊してしまい、海の中に灯台のように立つクレーン。実際、灯台の役割も果たすことになる。

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ロビンソン・クルーソーか、小説『白鯨』ばりのサバイバルの過酷な日々だが、助けたワシと共同生活をすることに。

 

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ワシは賢く、ひとの言葉を話す、頼れる仲間だ。恩返しに魚を捕ってきたり、海に浮いていた手紙入りの瓶を届けたり活躍する。

が、そんな仲良しのふたりもつまらないことで喧嘩をし、背を向けて生活するようになる。夫婦の倦怠期のようでもある。あとで仲直りするのだが。

時は流れ、水は引き、草花が生えて野が広がると、再び人々が集まってきて町を作った。すぐにでも仕事を始めたいクレーン男の思いとは裏腹に、町はもうそのクレーンを必要としていなかった。

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クレーンは解体される。その様子を、ワシを横に従え、見つめるクレーン男。

 

ひとびとはぼうしをとって、クレーン男をみおくった。男はしだいに小さく、小さく、遠ざかっていって、とうとう、大きな山の向こうにきえてしまった。(終わり)

 …とあっさり終わってしまう。

おおまかに話の流れだけをまとめた。いいの?筋を言っちゃって、と思うでしょ。

ご心配なく。まだあなたはこの本のことを何も知らない。副エピソードや脇役の人物のおもしろさ、思いがけない展開や知恵の使い方など奥が深く、手がこんでいる。イラストも毎回新しい発見がある。やはり自分で読むしかないのである。

ああ、初めて読む人が羨ましい。

 

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読み終えたらすぐに別の作品『タイコたたきの夢』と『セーヌの釣りびとヨナス』も読みたくなるだろう。(画像はこちらからお借りした。http://kurikarabooks.blog66.fc2.com/blog-entry-133.html

 

熊とにんげん    Der bär und die leute 

チムニクの老成ぶり、恐るべし、の巻です。

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熊とにんげん (新しい翻訳童話)  – 1982年
ライナー=チムニク (著, イラスト), 上田 真而子 (翻訳) 偕成社

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  熊を連れた熊おじさんメドウィーチという名前の熊(ロシア語で「熊」の意味)が主人公。熊おじさんには友達がふたりいた。熊と神さまである。

おじさんは鉄のフライパンと、ひとつの音しか出ない角笛と、まりを七つ持っていた。おじさんは熊のことばがわかり、心根がよく、それから七つのまりでお手玉ができる。

熊は茶色、おどりができた。手回しオルガンにあわせて、後足で立ち、音楽にあわせて踊った。

旅をしながら芸を見せて暮らしていくが、悪辣なサーカス団にからまれ、乱闘になったり、野犬の大集団に襲われたり、と様々なことが起こる。 

私が好きなのは、ストーリー展開のほか、合間に挟まれる自然描写だ。筋とはなんの関係もないが、実にいい。いかにもライナー=チムニクらしい。

ちょっとスキャンしてみよう。

 

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今度は56ページの絵だけ拡大する。

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自然を愛するお茶目なふたり。小さな子供たちとなんら変わらない。 

でもある夜、泉のほとりで休んでいるとき、おじさんが自分の角笛を、銀の鎖ごと熊の首にかけてやる。

「この角笛を持っていると、きっといいことがあるからな」

熊が寝入ってしまうと、おじさんはそのあと、だいぶ長いあいだ、友だちである神さまとはなしをした。

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おじさんはなくなってしまい、熊はひとりぼっちになる。

そのあと熊は人間に虐待されたり、森の熊の群れに入ろうと試みたり、でも最後には小さな男の子と知り合いになって・・・。さてどうなるでしょうか。

 

読み聞かせ 

100ページあるので、読み聞かせはちょっと大変かな。2~3回に分けるとか。

もちろん子供が自分で読んでくれればいいけれど、さぴこさんのお嬢さんみたいに、「絵にも集中したい」なら、やっぱり聞きなれたお母さんの声で読んであげたらいいと思う。

 

チムニクって人は!

この本を書いたのは美術アカデミー在学中の24歳だったというからあきれる。

私はてっきり人生の終わりにさしかかった人の作品だと思っていた。どれだけ老成した青年だったのだろう。

生きとし生けるものを見つめる温かい眼やユーモア感覚が図抜けている。

本当に不思議な人だ。

 

 おわり

 

写真など

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Autorinnen & Autoren

Diogenes Verlag - Reiner Zimnik