散歩の愉しみは毎日なにかしら発見があることだ。小さなことでも家や図書館でそれについて調べていくと、思いがけないことがわかり、驚くこともある。
今日はブリュッセル生活を通して、おもしろいなと思ったものを幾つか紹介したい。
1.屋外エレベーター
2.礼拝堂の未来
3.おしゃれなフェンス
4.観光局 ワロン地方とフランダース地方
5.離婚の危機
1.屋外エレベーター
ブリュッセルのまちの高低差は魅力のひとつだ。
ここ(上)は天気が良ければすばらしい眺めなんだが、この日は曇り空で残念!
赤:エレベーター
おもしろいのは、高台にでんとそびえるいかめしい裁判所と、下町の庶民的なマロル地区という好対照な地点をエレベーターが結ぶこと。
2002年から、毎日5000人の市民の上り下りを手伝っている。
金色のドームが裁判所。坂道を下ることもできる。
(参考:裁判所全体が写った昔の葉書)
2.礼拝堂 Chapelle des Brigittines のゆくえ
ヨーロッパでは、教会離れが加速する一方で、使われなくなった教会や修道院の建物をどうするかが大きな問題になっている。
一昔前は火薬庫、倉庫、病院として使われたり、近年では屠殺場、駐車場、郵便局、ダンスホールと、その時々の必要に応じて使い道が考えられてきた。最近の傾向を見ると、ホテル、書店、レストランなどが目立つ。
Les Brigittines
左の建物は1663年に建てられたバロック様式、ブリジティーヌ礼拝堂である。
長い間倉庫的にしか使われていなかったのだが、市はこれを文化施設に活用しようと改修案を公募した。その結果、もとの教会はそのままに、右側に双子のような建物を新築して繋げ、展覧会や芝居をおこなうに必要なスペースを確保するという、秀逸な建築案が選ばれた。そして2007年8月に文化センターはオープンし、好評を博している。
写真はまだ冬枯れの3月だから、全体がよく見える。通るたびに見惚れる。
これを見て、東京の国際子ども図書館を思い出した。
子ども図書館の前身は、明治39年建設、昭和4年に増築されたネオ・ルネサンス様式の帝国図書館で、東京都の選定歴史的建造物である。場所は上野の博物館地区にある。
安藤忠雄の設計で改築された。もとの建物は原型保存を第一に、耐震工事だけ施し、現代の建築物に不可欠なもの、冷房設備やエレベーターや電気配線などは全部ひっくるめて、裏側に増築したガラス棟のなかに配した。
安藤氏はBELCA賞ベストリフォーム部門で表彰されている。建物の歴史|建物の紹介|国際子ども図書館について|国立国会図書館国際子ども図書館
3.おしゃれなフェンス
学童保育的な建物の一画で見つけた。植木鉢から枝や蔓が伸びているデザインがおもしろい。いま扉は開いているが、外遊びのときはあそこを閉めるのだろう。
おもしろい、素敵だね、だけで実は終わらなかったのだ。ベカルトという名前を知って、急にワイヤーに対する見方が変わった。有刺鉄線はベカルト(Leon Leander Bekaert 1855 - 1936)の発明なのだという。
ベカルトは金物屋の一人息子で、早くに父を亡くした。24歳のとき、近所の農家二軒の争いに巻き込まれる。相手の家畜が自分のところの草を食べに来ると互いに言い張り、不穏な状況だった。
ベカルトは敷地を囲むことを考え、家畜が移動できないようにする策を提案した。それが有刺鉄線で、べカルトは若くして会社を立ち上げ、工場で大量生産するようになる。当時は大発明だったのだ。
現在では、世界120か国でビジネス展開する、ベルギー有数の大企業に発展した。鋼線加工・コーティング技術に優れ、高品質のワイヤー製品を世に送り出している。
1968年にはベカルトジャパンNVを設立した。ベカルトジャパン株式会社 - Bekaert.co.jp
参考:べカルトの村はこちら。
4.観光局 ワロン地方とフランダース地方
ベルギーは日本でいえば四国程度の小さな国土の国である。ワロンは南半分でフランス語使用、北半分はフランダース(仏語フランドル/蘭語フランデレン)と呼ばれてオランダ語使用、その中に飛び地(かつての西ベルリンのように)二言語併用地域ブリュッセルが収まっている。
ワロンの観光局。ウインドーを覗くと折り鶴がいっぱい飾ってあった。もしかしたら2016年は日本年(*注)なのでそのせいかな。赤いニワトリはワロンの象徴。
ちょっと地味だし、入りにくい感じだな。私たちはワロンの町や村は8年前にあちこち行ったので、今回は行かなかった。
ワロンに比べてフランダースは、(写真からはわからないかもしれないが)間口が広くガラス張りで、おしゃれな内装だ。広報に力を入れ、グッズや書籍の販売も活発である。写真中央にルーベンスの自画像、あちらこちらにマグリット作品のグッズが見える。ワロンのニワトリに対し、フランダースはライオン(獅子)である。
ビールの王冠を再利用したボタン!
このブログのヘッダーに最初に採用した。あの写真はアントウェルペンで、ブチックが休みの日にガラスに張り付いて撮ったものだ。
王冠のアイディアは凄いと思う。ベルギービールの多種多様な王冠、見ていても楽しく、コレクションして額縁に収めたこともある。王冠自体の材質もデザインもいい。それを加工して装身具やキーホルダーにするなんて、考え付きそうで今までなかったアイディアだ。私はボタン数個、指輪を1点を買ったが、丁寧に作られており、技術の高さがうかがえる。
とにかくフランダースの観光局は人々が知恵を出し合い、お金も努力も惜しまず、観光客誘致に乗り出している様子がよくわかる。
5.離婚の危機か?
離婚の話は前々からあった。 夫婦が見ている未来は別々の方向だ。もちろんベルギーの話。
漫画:クロル氏の作品、Lesoir紙15 janvier 2016
左:夫のライオン。右:妻のニワトリ。
オランダ語話者のライオンとフランス語話者のニワトリは、プロテスタントの親玉(オランダ)が嫌で家を飛び出し、結婚した。カトリック同志だし、言葉はフランス語を使うことにして当初はうまくやっていた。妻の方は製鉄、石炭などで富を築いた家で何不自由なく育ったお嬢様。夫は貧しいフランダースの農村出身だが、懸命にフランス語を習得し、仕事を世話してもらい、波風立てずに暮らしてきた。
しかし戦後は立場が逆転する。製炭産業などが凋落する一方で、ライオンの家系は優れた港湾と物流、ダイヤモンドやファッションなど幅広い商売で金満家となる。そして権利を主張し始める。たとえば「なんでフランス語だけなんだ?少しはオランダ語を勉強しろよ」「なんで自分たちだけで決めるんだよ。おかしいだろ。夫婦には同等の権利があるはずだ」
ライオン:まったくニワトリ一族はお荷物だ。誰が面倒をみてやってると思ってるんだ?もう終わりにしようぜ。ずいぶん我慢してきたんだ。協議して10年後に別れよう。
ニワトリ:あなた、また蒸し返すの?2007年の危機のとき、話し合ったじゃないの。
乱暴なまとめだが、離婚の危機にある夫婦の状況を説明した。ひとこま漫画は笑い事ではないかもしれない。こんな風に自己紹介したベルギー人に会ったことがある。
「どこから来たんですか?フランス人?」
「いえベルギー人です、いまのところ。5年、10年後はわからないんですけど」
分裂(独立)の危機にある地域として、バルセロナやスコットランドなどの名前も聞くが、ベルギーはフランダースの政党が強く、どうやら本気で考えていそうなので心配になる。
それどころじゃないでしょ。テロ対策や原発の老朽化や難民問題など、協力してやるべきことはたくさん、ありすぎるほどたくさんあるでしょ。…と言いたい。
それに分裂したら、私たちが普通に使っている「ベルギーチョコ」「ベルギービール」の「ベルギー」はどうなるの?サッカーベルギー代表はどうなるの?エデン・アザール(*)は?
* エデン・アザール(Eden Michael Hazard)は1991年生まれのサッカー選手、ベルギー代表。2012年にチェルシーFCに移籍するとき、香川 真司選手のマンチェスター・ユナイテッド移籍の時期と重なり、両者の比較論議や期待感で話題をよんだ。
出身地はエノー州のラ・ルヴィエール
夏に訪れたことがあるが、風光明媚ないい意味での田舎町。ご覧のように、フランス国境に近いから、イギリスへ行く前はフランスリーグ、「LOSCリール・メトロポール」で5年プレイしていた。
エデンは、サッカー選手の両親のもと4人兄弟の長男として、家の中でも庭でもボールが蹴れる環境で育った。ちなみにお母さんはベルギー一部リーグチームのフォワード、お父さんは二部リーグの選手だった。またどうでもいいことだが、エデンは自分の息子の名前を入れ墨で脇腹に入れている。しかもなぜかカタカナで「ジャンニス」と。
🌸写真ギャラリー
Palais du vin ワインの館
19世紀アールヌーボーの建物で、ワインやリキュールを作っていたそうです。現在はバイオの作物などを売るマーケットが開かれたり、レストランもあるそうですが、私は入れずじまいです。
Brias et Cieとあるのが会社名ですね。住所:Rue des Tanneurs 60
「芸術家の家」と呼ばれる建物。1900年
ステンドグラスを嵌め込んだ見事なドア。住所:6 rue de Nancy