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「文化侵略」からオタク文化の受容まで -1- 日本アニメ

ベルギー フランス 日本・日本語 アート・文化全般 日本アニメ・マンガ

前回の記事に関して寄せられた質問への答えと、私の雑感、いわゆる「隔世の感がある」この40年について述べてみたい。

目次

1.鉄腕アトムはどうなの?

2.スポーツもの

3.文化侵略ー日本アニメが9割独占

4.「ドロテ・クラブ」幕引き

 

1.鉄腕アトムはどうなの?

質問者:GOLDORAK(『UFOロボ グレンダイザー』前回記事のテーマ)の前に手塚治虫アニメは?アメリカでは『アストロボーイ』といって大人気だったけど?

私も小学生のころ夢中だった『鉄腕アトム』。フランスでの放映は1980年10月以降だったようだ。アメリカは1964年。SFや宇宙ものの素地のあるアメリカでヒットしたのはうなづける。

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Astro le petit robot(フランス語名)

 

実はGOLDORAK以前に、手塚アニメは『ジャングル大帝』(後半部分のみ)と『リボンの騎士』が1975~76年ころ、別のテレビ局(現在のTF1)で放映されたが、話題にならなかったそうだ。

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(参考:この写真は漫画の表紙である。『リボンの騎士』はフランスではPrincesse Saphirだった)

当時のフランスには、事実上ふたつのチャンネルしかなかった。日本でいえば、NHK総合とNHK教育みたいな感じである。日本は民放局もいくつもあって、アニメや特撮ものやドラマなど、子供向けの番組が数多くあったのと対照的だ。そしてフランスではチャンネル権は親が握っており、子供に見せる番組を選んでいた。

また、信じがたいと思うが、上流の家庭やエリートの教育熱心なお宅ではそもそもテレビ自体置いていなかった。持つことを恥じて、収納した戸棚の扉をふだんは閉めて隠している家もあった。夜は読書や音楽を聴くなどの趣味にあてる、映画やコンサートやお芝居にいく、友人を招いたりよばれたり。週末は別荘や両親の実家に顔を出す…といったぐあい。

とはいえ、だんだんと「テレビを見る習慣」も普及していった。子供向けの番組を求めて、岸恵子らご一行が日本を訪れるわけである(前回ブログ参照)。フランスで作るよりもはるかに安く、アニメや実写など、少年向け、少女向け、ファミリー向け、よりどりみどりだったのである。

それでも1995年にして、パリにはまだこんな家庭もあったことを付け加えておこう。

「こどもの誕生日なのでご家族でいらしてください」。スポーツ教室で仲よしの男の子のお宅。やっぱりテレビはなかった。その教室に来ている階層から容易に想像はついたので、プレゼントは何にしようかと気をつかったものだ。まちがってもドラゴンボールや戦隊もののグッズなど、とんでもない。それで失敗したという話を聞いたことがある。プレゼントも親がひとつひとつチェックするのである。

このお宅で読むのが許されるBD(ベーデー。あちらの漫画)は『アステリックス』だけ、という徹底ぶりだった。前にも紹介したが、http://cenecio.hatenablog.com/entry/2016/07/18/000000

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(古代ローマ時代のガリアが舞台の愉快なお話)

 

GOLDORAK(ゴルドラック)は1978~1979年の放映で、手塚アニメとは違うTV局だったが、この成功は偶然の要素が重なったものらしい。日本に買い付けにいった人が『マジンガーZ』ではなく何故こちらを選んだかには諸説あるようだが、よりダイナミックでフランス人受けするだろう、と直感したこと。1978年の夏は天気が悪くて、バカンスに行っても屋内で過ごし、子供たちがテレビを見る機会が多かったこと、等々。

 

2.スポーツもの

Olive et Tom

『オリーブとトム』って何?

左の写真を見ればすぐわかる。『キャプテン翼』は大変な人気を博し、有名なサッカー選手、ジダンやイニエスタやシャビなどがファンだったと公言したり、プレイの技を真似たりしたと言っているのは周知のことと思う。

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サッカー作品はもうひとつ、右の But pour Rudy(『がんばれ!キッカーズ』ながいのりあき)も放映されていて、私は見たことも聞いたこともなかったので驚いた。

 

しかしもっと驚いたのはバレーボールアニメ!

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Jeanne et Serge (『アタッカーYOU! 』アタッカー・ユウ)

みなさん、ご存じだろうか。田舎育ちの天真爛漫な少女、葉月優がバレーボール選手として活躍するという作品。(1984~1985年テレビ東京系。金曜夜。全58話)

私は『アタックNo.1』なら知っているが、これは聞いたことがなかった。しかしフランスではラ・サンク(La Cinq)という新しい局で放映されるや,一大バレーボールブームを巻き起こし、小学生女子のバレーボール人口が急に増えたというし、イタリアではバレーボールのプロリーグが創設されるきっかけになったという。

 

スポーツ以外ではこのころ『宇宙刑事ギャバン』『超電子バイオマン』『小公女セーラ』『ポリアンナ物語』『超時空要塞マクロス』『魔法の天使クリーミーマミ』などが人気だった。

 

3.文化侵略ー日本アニメが9割を独占するという事態に

GOLDORAKの成功のあと、大人たちからすぐに不安の声が上がった。子供たちののめりこみようを見て不安になったのだ。

そして1980年代は、テレビ局が増え、競争もし烈になった。フランスの子どもたちを日本アニメオタクにした番組ードロテ・クラブ(Club Dorothée)が次々とヒットアニメを流し、子供たちを虜にしていった。(過去記事はこちら)

http://cenecio.hatenablog.com/entry/2016/07/18/000000

f:id:cenecio:20160929143224p:plainドロテお姉さん

民営化が進み、TF1局を大手建設会社が買収した。と同時に、ドロテを引き抜いて彼女中心の子供番組を作った。80年代後半からは『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『うる星やつら』『めぞん一刻』『北斗の拳』『キン肉マン』『シティハンター』など、ほか約10タイトル。日本のアニメが9割を独占するにいたる。

バッシングは次第に激しくなり、すでに1983年、当時の文化相が日本のアニメを「文化侵略を行う敵」と発言したが、1989年には下の本が出版された。

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「ザッピングする赤ちゃんはもうたくさんだ」とでも訳しておこう。これを書いたのが社会党のロワイヤル(Ségolène Royal )女史、オランド大統領のもとの奥さんだ。

ベストセラーになり、アニメに夢中の子を持つ親たちに多大な影響を与えた。ちょうどそのころ日本では、宮崎勤の事件(東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件)で大きな衝撃を受けていたのだが、ロワイヤル女史はこの事件を持ち出し、アニメばかり見るオタクは猟奇事件を起こす、などと書いた。

このあとアニメ作品の検閲や暴力的(と委員会が判断した)シーンの削除などが活発になり、切り刻まれて短くなった回は次の回と組み合わせるなどした。あまりに削りすぎて話の筋がわからなくなることも…。

またこのころは、80年代から始まった日本との貿易摩擦が最高潮に達していて、アメリカでもヨーロッパでも日本叩きがあちこちで起こっていた。日本アニメ叩きも無関係ではないな、と私は感じていた。

 

4.ドロテ・クラブの幕引き

1994~95年、1年半フランスに家族で滞在したが、ドロテ・クラブは休みの日に見ていた。私のお気に入りは『不思議の海のナディア』『小公女セーラ』『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』だった。しかし『ナディア』ですらカットしてあるのを見つけて、いぶかしく思ったものだ。

そしてバッシングで疲弊した局と番組スタッフ、カットだらけで筋もわからない無惨なアニメに見切りをつけた視聴者…そう、何事にも終わりは来るのである。97年、ドロテ・クラブが終わりを告げた。

 

このあとに来るもの、それはMANGA、日本漫画という一大ブームと巨大市場である。そしてこのころはインターネットが普及し始めたころで、新しい時代の波を皆が感じとっていたと思う。

テレビでアニメを見る時代は去った。小さなこどもはお母さんと一緒に幼児向け番組を見るが、女の子はより早熟なので実写のドラマを好むようになり、男子はゲームに夢中になっていった。(続く)

 

次回は、日本の漫画、オタク文化の普及について。

 

 

 

おまけ

『UFOロボ グレンダイザー』以来、絶大な人気の永井豪氏。

Japan Expo(*注)2008年には永井豪が来るというので、早くから話題になっていた。この年はほかにも豪華メンバーで、小池一夫氏、小畑健氏、貞本義行氏、それからBDのメビウス氏などが参加した。

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メビウス氏と。貴重なツーショット。

 

 

2013年はモナコゲームショーにも招かれた。

http://tv-france-japon.com/japan-expo-sud-vs-monaco-game-show/

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あちこち飛び回ってお元気そうです。

 

*Japan Expo(ジャパン エキスポ)

ポップカルチャーを核とした日本文化の総合イベントで、2000年からフランスは、パリやマルセイユで開催している。

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漫画やアニメ、ゲームだけでなく、音楽や武道もあり、書道や茶道などの伝統文化も含む。入場者は、第1回2000年は3,200人、第14回2013年は232 876人(ウィキペディア。写真も)。