チョークを食べるときれいな声に?  赤ずきんの奥深き世界へ 子どもの領分-3-

 チョークを食べたことありますか?

 

 おおかみの話、まだ続いています。「子どもの領分」3回目です。前の記事はこちら↓

踊るパディントン とオオカミ賛歌 子どもの領分-1- - ベルギーの密かな愉しみ

わたしは いままで うっかりしていたけれど…『でんでんむしのかなしみ』新美南吉と美智子さま -2- - ベルギーの密かな愉しみ

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『おおかみと七ひきのこやぎ』作: グリム 絵: フェリクス・ホフマン 訳: 瀬田 貞二 出版社: 福音館書店 発行日: 1967年4月1日

 

・・・という挑発的な質問で始めましたが、『おおかみと七ひきのこやぎ』の中に出てくるでしょう。おおかみがチョークを食べるところ。

 このお話の挿絵は多くの人が描いていますが、私はなんといってもフェリクス・ホフマン(1911-1975)の大ファン。なので絵も楽しみながら行きましょう。

どうです?

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おかあさんが美ヤギでおしゃれでしょう。7匹の子どもがいるシングルマザーにはとても見えません。お父さんはどうしたんでしょうね。壁に写真が掛かっていましたが。

おかあさんは今から森へお出かけです。

ところでおかあさんは二足歩行なのに子どもたちは四つ足なんです。まあ、これはまだ小さいからかもしれません。

さて問題のチョークの場面です。おおかみは留守番をしているこやぎを狙うのです。そのためにはおかあさんやぎのようなきれいな声にならなくては…。

それでチョークを買いにお店に行きます。

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店のご主人がまじめな顔して、普通に売ってくれるところも可笑しいですね。

おおかみはたくさんのチョークを食べ、きれいな優しい声になりました。このあと足に白い粉も塗り、こやぎたちをまんまと騙すのでした。

お話全文、チェックしたい人用→グリム童話 KHM5 オオカミと七匹の子ヤギ

 

このチョーク(ドイツ語:Kreide)の話はいったいどこから来たのでしょうか。

調べてみると、ご親切にもこちらのサイトに詳しい説明がありました。

国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築している、調べ物のためのデータベース」というめちゃくちゃ長い名前。詳しくはサイトのほうで。

グリムと同時代にハーネマンが打ち立てた医療法「ホメオパシー」には、炭酸カルシウム、または硫酸カルシウムが 喉の薬である との記述もある。

http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000057757

 

チョークを食べてみた

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www.zeit.de

こちらドイツのZEIT紙のコーナー(記事内にビデオあり)で記者がチョークを食べて、本当に声がきれいになるか実証しようとしました。

そうこなくちゃ。世界中の人が読んでいるグリム童話です。み~んな長いこと疑問に思っていたはずなんです。ドイツ人がやらなくてどうします?

というわけで女性がチョークを食べて、ちゃんと飲み込み、そのあと声を出してみました。

効能はあったのか?

全然変わっていないようでした。男の人は隣でにこにこ笑っているだけでやりません。もっとも二人とも初めから全然信じていないようでした(笑)。

チョークといえば今は ダストレスチョーク/日本理化学工業株式会社という、帆立貝殻を配合したものもあるそうです。ずいぶんと変わったもんです。

またどうでもいいことなんですが、やぎさん家の椅子はうちのと同じタイプでした。

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我が家の椅子です。

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オランダに帰ってきたおおかみ

数年前からオランダでは野生のおおかみの目撃情報が相次いでいます。ポーランドにはわずかながらも生息しているので、ドイツ経由でやってきたのではないかと言われています。

市街地の歩道をルンルン歩いている映像をはじめて見た時はとても驚きました。でもオランダ人は歓迎しています。というのも絶滅させたのは人間だという負い目があるからですね。

http://wolvenindrenthe.nl/wp-content/uploads/2015/07/Route-Drentse-Wolf.jpg

 De wolf in Drenthe - Wolven in Drenthe

 

デンマークでも 

https://blog-imgs-104.fc2.com/k/o/h/kohnijntje/wolves.png

19世紀初頭に絶滅したオオカミ、2世紀ぶりに発見 デンマーク
AFP=時事 5/5(金) 10:41配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170505-00000009-jij_afp-env

 

赤ずきんの奥深き世界

ディズニーに感謝です。なぜならディズニーの「赤ずきん」アニメがヒットしなかったおかげで、イメージの固定化を防ぐことができたからです。

赤ずきんには二つのバージョンがあること、みなさんもご存知だと思いますが、より古いペロー童話の方は赤ずきんはおおかみに食べられてしまっておしまい。若い娘さん、よくよく気を付けなさいよ、という教訓です。19世紀にグリム兄弟が私たちが馴染んでいる話に手直ししました。つまりおおかみに食べられてしまった赤ずきんは、おばあさん共々猟師によって助け出される…。

ええ、ここまではいいですよ。だけどそのあとおおかみの腹のなかに石をつめるってどう?おおかみは喉が渇いて井戸へ行き、水を飲もうとしますがそこで死んでしまいます。私は子ども心に「おおかみがかわいそう」と思ったものです。石を詰めて縫い合わせるところ、そのさし絵が残酷で嫌いでした。

 

挿絵

最近の若い人たちが描くイラストだと、赤ずきんとおおかみは仲良し。おおかみはおしゃれな紳士に、または現代風のイケメンにえがかれていたりします。それも楽しいですが、今日は一風変わったものを紹介します。

みなさん、ヴィンタートゥール(Winterthur)というスイスの町、ご存知ですか。昔、そこのスイス人の友人宅にしばらく置いてもらったことがあります。

ヴィンタートゥールのアーティストで世界的にも高い評価を受けていた、ワーリャ・ラヴァター(Warja Lavater 1913-2007)。彼女の童話シリーズから「赤ずきん」を見てみましょう。

 

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COLLECTION DES CONTES DE WARJA LAVATER | WWW.MAEGHT.COM

可愛い女の子や怖ろしいおおかみなんて出てこない。すべてが記号化され、色とりどりの丸や四角が並んでいるだけです。しかも蛇腹状になっていて床に広げて読むこともできます。子どもたちはそうやってわいわい楽しむそうです。

黄色の〇はおかあさん、赤は赤ずきん、青はおばあさん…と来ればは何かわかりますね。

また驚いたことに彼女は日本の話も作っています。下の写真左から

かぐやひめ」「うらしま」「たなばた」

 

http://www.maeght.com/editions/document/article/en010_gf.jpg   http://www.maeght.com/editions/document/article/en027_gf.jpg  http://www.maeght.com/editions/document/article/en029_gf.jpg

( 写真はすべて上の、出版社サイトから) 

http://2.bp.blogspot.com/--3spQPmIQI0/VKMI4PCFqkI/AAAAAAAAlXg/4bwtBV-dzKc/s1600/m390q34057300f_art_113_4.jpgワーリャ。写真:Fluntern erzählt

 

黄ずきん、緑ずきん、白ずきんの登場

1972年に発表された「黄ずきん」( Little Yellow Riding Hoodでは、黄ずきんちゃんはこのような都会に住んでいます。

http://www.corraini.com/uploads/photogallery/img/03-capp-giallo-ita-72.jpg

http://www.corraini.com/uploads/photogallery/tmb/02-capp-giallo-ing-72.jpg

おばあちゃんのお家にお使いにいくのですが、車がビュンビュン走る大通りを渡らねばなりません。

https://i.pinimg.com/736x/0a/da/39/0ada3954865a69bf0a1ab1c709c629de--leo-lionni-bruno-munari.jpgCorraini Edizioni

そこへおおかみがやってきて…。どうなるでしょうか。

 

緑ずきんちゃんの絵はこんな風。

おばあちゃんがウケますね。

http://1.bp.blogspot.com/__9lJdMlnSW4/TBaSf4otvDI/AAAAAAAAB3c/YS9FV_nvw1g/s400/little-green-riding-hood-1.jpg

http://1.bp.blogspot.com/__9lJdMlnSW4/TBaShFPcIRI/AAAAAAAAB3k/_UrSHBb3ABY/s400/little-green-riding-hood-2.jpg

http://3.bp.blogspot.com/__9lJdMlnSW4/TBaSickhqlI/AAAAAAAAB3s/EllQtP-1Im0/s400/little-green-riding-hood-3.jpg

atelier pour enfants: "Little Green Riding Hood"

イタリアのアーティスト、ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari, 1907 - 1998)の作品です。この人は多才過ぎてここに紹介するのは難しい。興味のあるかた→

ブルーノ・ムナーリ - Wikipedia

MunArt - The most complete web site dedicated to Bruno Munari

 

ドイツ人の赤ずきん愛 どこまで深いのか 

http://www.zeit.de/1984/52/rotkaeppchen-auf-amtsdeutsch

最後におもしろいテキストを紹介します。その名も「お役人言葉の赤ずきん」というもの。ドイツ人の有名な作家がリライトしたもので、ほかにも「化学者の赤ずきん」などのバージョンがあるそうです。皆が知っているストーリーのままですが、言葉のおもしろさを楽しみます。

・・・普通でない頭部の被り物のため、住民からは慣習で 赤頭巾と呼ばれている、未就学女児が、祖母宅へ、祖母の病気の回復を目的とした 食べ物 および 嗜好品の運搬を 母親から命ぜられた。しかし出発前 林の中で道からの逸脱を禁止されていたにも関わらず、これを無視し、処罰対象となる花摘みを行った。

その際 住所不定 無職の狼に出会った。狼は職務僭称(せんしょう)を行い、運搬目的のかごの内容物を点検し…(続く)

だいたいこんなノリです。ドイツ人の赤ずきん愛、感じていただけましたか。

 

前回記事にたくさんのコメントをありがとうございました。

お話の最後の段落を写します。

とうとう はじめの でんでんむしは きが つきました。

「かなしみは だれでも もって いるのだ。わたしばかりでは ないのだ。わたしは わたしの かなしみを こらえて いかなきゃならない」

そして、このでんでんむしは もう、なげくのを やめたのであります。

私はこのお話を「旅立ち」だと受け止めました。自分のことばかり考えて嘆いていたでんでんむしは、ほかの皆もそうだとわかることで、内から外へ目が開かれます。個別のかなしみは違うでしょうが、皆がかなしみを抱いて生きているという普遍の中に、自分のかなしみを相対化したのです。さらに他のでんでんむしとのつながりを認識し、でんでんむし族の宿命にも思いをいたすことで、考え方に厚みと深さが増しました。でんでんむしは「嘆くのをやめ」、自分のかなしみを引き受け、顔を上げて前に歩み出する決意をしたのです。

わたしは わたしの かなしみを こらえて いかなきゃならない」の「こらえて」という言葉が突き刺さります。この深さが自分にはまだ理解できていないのでは、とも思います。

マミーさんがお釈迦様の話を引いてくださいました。

また、いつも仏教について教えてくださるタマニチェンコさまなら、独自の解釈もあるかもしれません。機会があったら聞かせてください。

美智子さまの講演のなかに

複雑さに耐えて生きていかなければならない

というくだりがありますが、これも大変重いことばです。さきの戦争や戦後の在り方に関係があると私は思っていますが、先日の「83歳お誕生日のお言葉」の中でも核廃絶ノーベル平和賞をもらったICAN)や軍縮などについて具体的に述べておられ、メッセージ性が高く、私たちはしかと受け止めなければ、と思いました。

 

今日は終わりです。

ありがとうございました。