映画『 YARN 人生を彩る糸』かぎ針編みで 世界を優しく包もう。追記:減りゆく羊毛刈り名人
YARN(ヤーン)って英語の単語、知ってる?編み物などに用いる糸のほかに、動詞で「おもしろい冒険談をたっぷりと話す」という意味もあるんだって。知らなかったなあ。「編む」という冒険を世界をまたにかけて楽しんでいる人たちの、とっても素敵なドキュメンタリ(アイスランド映画)を見てきた。
ひとつひとつ丁寧に作られた手しごとへの回帰やクラフト・フェアの活況など、昨今の世界的なクラフト・ブームの中、YARN(糸)を紡ぎ、編み、表現する4組のアーティストが、彩り豊かな糸に人生を見出したパワフルな姿を描いたクラフト・アート・ドキュメンタリーが、編み物が生活に根ざしている国・北欧アイスランドで誕生した。。映画『YARN 人生を彩る糸』オフィシャル・サイト
その前に、こちらの写真をどうぞ。
2016年3月、ブリュッセル連続テロから1週間、恐怖と不安のなか散歩の途中で出会った木。交差点の真ん中に立っている。誰かが毛糸できれいなモチーフを編んでくるんだのだ。(後ろの八百屋さんの、カラフルな果物たちと呼応してさらに美しい)。
これは何かというと、
ヤーン・ボンビング Yarn bombing - Wikipediaというストリートアートの一種で、2007~08年の滞在時にはベルギーでもフランスでも見かけなかったのに、前回はあちらこちらで見かけ、この活動が根を張ってきているのを感じた。
橋の欄干を飾ったり、銅像にニット帽を被せたり。また自分の自転車をまるごとニットでくるんでもよし、社会的なメッセージを込めて建物の壁に貼ってもよし。スプレーのグラフィティと違って(毛糸とはいえ違法ではあるのだが)剥がされたりなどしない。
冬枯れの街に花を添えるアート、家庭の中の、女の人の手から外へ飛び出して人々とつながる温もりのアート。
東京でも去年、六本木ヒルズの有名な蜘蛛「ママン」を、こんなおしゃれなデザインで編みくるんだイベントがあった。
写真:六本木ヒルズ、開業15周年。 ルイーズ・ブルジョワの蜘蛛の彫刻 「ママン」が期間限定でカラフルに|MAGAZINE | 美術手帖
「ママン」は彫刻家ルイーズ・ブルジョワの作品である。高さ10メートルのお母さん蜘蛛は、体内に卵20個を孕んでいる。できた当初から評判で、待ち合わせスポットとしても有名だ。このブロンズのオブジェを、繋げたモチーフ(600ピース)ですっぽり包んだのはマグダ・セイエグさんというアーティスト。(マグダさんの写真と、繋いだ部分の拡大を見たい人は記事にあります)
「編むことは言葉であり、コミュニケーション」
映画は4人(4組)の個性的なアーティストの情熱、哲学、日々の暮らしを追っている。皆、実に楽しそうなんだな。その喜びが観る者にも感染してくる。
ナレーション:「すべての始まりはもちろん羊と草。
地球は気を揉み、夢を見ながら黙って編み物をする」
というわけで、この風景から始まる。
祖母と曽祖母から編み物を習ったというアイスランド人ティナ。彼女はバルセロナやキューバを旅しながらゲリラ的にヤーン・ボンブしていく。
アイスランドの伝統に、旅先で出会った色遣いやモチーフを取り入れている。
オレクは明るい太陽のような人、恐れを知らない行動派でフェミニスト。
因習的なポーランドを飛び出してアメリカを拠点に活動している。全身着ぐるみニット人間とか、機関車を毛糸で包むという仰天の作品とか…オレクのエネルギーにつられて多くの人が集まってくる。
うってかわってこちらスウェーデンのパフォーマー集団「サーカス・シルクール」。(Tilde Björfors & Cirkus Cirkör)
この”Knitting Peace”という作品は白い糸を使った非常に印象的な作品。シンプルながら超絶パフォーマンスに目が離せない。
Cirkus Cirkör – Knitting Peace - Artipelag
パフォーマーが言う。「糸はいろいろなものの象徴であり、人生のメタファーだ」。
最後に堀内紀子さん (Toshiko Horiuchi MacAdam)。
みなさんもご存じではないだろうか。現在はカナダ在住であるが、箱根の彫刻の森美術館の「ネットの森」が有名で、以前報道でよく紹介された。「ネットの森」は様々な賞に輝いた。2010年こども環境学会賞デザイン賞、2013年第7回キッズデザイン賞など。
HPからお写真をお借りした。
なんと楽しい遊具だろう。色のカラフルさだけでなく、紐の強度や編み方など、よく計算して作られている。
あの穴から下の層に入ったり出たりできるのだ。丸い玉にまたがって揺らしたり。私も子どもだったらなあと羨ましく思う。
かぎ針でネットを編む堀内紀子さん。
堀内さんがおっしゃるに、棒針編みは直線的であるが、かぎ針編みは六角形つまり横にも自在に広がる。なるほどと納得した。
それにしても、映画の中でお話をしている堀内さんご自身にも感銘を受けた。昔、私の周りにもいた凛として古風で聡明な女性のタイプだ。明晰な思考と品のいい話し方に魅せられる。
最初は孤独な(?)テキスタイル・アーティストだったのだが、あるとき展覧会で、自分の作品に飛び乗った子ども(客が連れてきた)を見て、あ、これだと閃いたのだそうだ。自分がこれから目指すアートの形は、人とコミュニケイトすることだと。
こちらは映画の中に出てくるイタリア・ローマのネットの森。
映画を作ったのは、 アイスランドの女性でウナ・ローレンツェン監督。また忘れてならないのは、心に沁みるナレーションだ。誰が書いた詩だろうと思っていた。アメリカのベストセラー作家、バーバラ・キングソルヴァーという人だとか。詩のような言葉が映像と呼応して映画をさらに魅力的にしていた。
それから私などはいつも気になるのは配給のこと。どうやってこの映画を見つけてきたんだろうと興味がある。すると ”kinologue”とあったのでピンときた。ムーミン谷だ!ビョークが歌を歌っている劇場版『ムーミン谷の彗星』と同じ会社。なるほど!過去記事→「小惑星が地球に接近」でムーミン谷の彗星を思い出した。劇場版『ムーミン谷の彗星』追記:
予告編(↓写真の人魚のひれはオレクの作品)
私が行った映画館http://chupki.jpn.org/の入り口。現在かかっている7本の作品を黒板で紹介しています。素敵でしょう。「YARN」のまわり、小花のモチーフで飾っています。
ついでにYARNの下『百年の蔵』も見ました。
前にSPYBOYさまのレビューを読んで見たいなと思っていたのです。
映画館の中の天井にも壁にも至る所に飾りがあって、楽しい雰囲気を醸し出していました。
みなさん、ご存知ですか?
機織りと編み物の素敵なブログPEKO (id:rimikito)さん、去年映画をご覧になって、映画館内外の華やかなお写真(ヤーン・ボンビング)を載せてくださっています。ぜひ!
YARN人生を彩る糸@シアターイメージフォーラム - 日曜織り人PEKOの休日
こちらもご覧ください。ウキウキしますね!
編み機が欲しい@毛糸だ!まつり - 日曜織り人PEKOの休日
今日はここまでです。またね
追記:朝日新聞記事 羊毛刈り 世界でもっともきつい仕事。減りゆく名人。