マンガの仏語訳 反転した世界を楽しむ セーラームーン&紅の豚&らんま1/2 ロマン・ユゴー
鳥取のみなさま、お見舞い申し上げます。
三朝町のみなさまもまだ数日、油断なさりませんよう、ご注意ください。
さて、早く次の記事を書け、とメールが来たり、「前の記事で、マンガの反転うんぬんのところ、よくわからない」と叱られたりしています。本当は今日は浦沢直樹の記事なのですが、そのマンガの「反転」←これ、先にいっきま~す!
「華麗なる反転ショー」・・・いえ、それはご用意できませんが、日本のマンガ翻訳の黎明期(←ちょっと大げさ)の工夫やら、笑えるところなどを見てみてまいりましょう。「反転」については前回記事に詳しく書きました。
うちにあるものを3冊並べてみた。懐かしいですね。
左:『紅の豚』フィルムコミックス(徳間書店)。フランスでは1995年劇場公開、その後すぐ翻訳出版された。人気にあやかろう、なのか。
中:『らんま1/2』(らんまにぶんのいち)フランス語版は1994年。
右:『美少女戦士セーラームーン』フランス語版は1995年。
3冊ともグレナ出版社。(グレナ出版社既出)
さすがBDの出版社だけあって、丁寧な本作りで表紙は厚め。表紙も内側に折り曲げて、そこにもカラーの絵を入れているのが驚き。
セーラームーン、表紙をめくったところ。
これは第一巻のごく最初のほう。
学校名は「区立十番中学校」を”COLLEGE JYUBAN” と違和感ないフランス語に訳している。
右頁二つともテストの点。フランス式に20点満点中○○点としている。
セーラームーンこと月野うさぎは6点なのだが、テスト用紙に注目してみると反転しているのがわかる。
お弁当箱をあけてランチするうさぎ、フォークを右手に持っているからここは反転していないのか。
クラスメートが二人お弁当を食べているところ。
二人とも左利きになっている。
バスの行先はSENDAI SAKAとしてあるが、残された「赤」「運賃 回数券」は反転。腕時計もおかしい。バスも右側を走っている。これはイギリス以外のヨーロッパ的にはOK(笑)。
まあ、そんなふうに見ていくと、私たちには反転していることが明らかなのだが、フランスの読者はさほど、あるいはほとんど気にならないかな。セーラームーンではオノマトペ(擬音語類。前回ブログ参照)はすべてフランス語に訳されていた。
まず大量のオノマトペに気が付く。
オノマトペは日本語のカタカナのままで、すべて反転している。
しかし欄外やコマの間に訳をつけたり、ときに短い説明を入れたりしている。
左利きの主人公 ポルコロッソ
おや、カタカナが反転していない。
なぜなら水上バスの船の名前やホテルの名前はアルファベットなので、反転させることができない。
左頁下「水上バスの音がしている」と注を入れている。
札束が反転しているのは全く気にならない。ただ私が驚くのはオノマトペ「ドサッ」「サラサラ」「スッ」にいちいち訳をつけていることである。
『らんま1/2』
ものすごい人気だった。高橋留美子の作品はフランス人の子供にとって、ギャグと笑いの師匠であり、日本の家庭生活、伝統文化、和風の家具調度類の数々…そういったものを教える先生だった。マンガから多くを学び、「予習」を済ませた若いフランス人は、日本へ来て「単に確かめただけ。ほとんど知っていた」という人もいたくらい。
ホームステイの受け入れ先では、日本に関する膨大な知識に家族の皆が驚き、愉快なエピソードは山とある。
『らんま1/2』は格闘家 早乙女乱馬と、その許婚の天道あかね、素っ頓狂な家族や学校の仲間などが登場するコメディー。
これは中国から早乙女らんまとその父親がやってくる、という第一巻である。
左頁:かすみ(姉)、左手で包丁を持ち、スイカを割っている。
九能(くのう)センパイ登場。
あれっ、薔薇の花を一輪持っているのはいいけど、左手。刀は右手。でもふつう女性に花をあげるとき、右手に持つと思うけど。
もっと問題なのは、胴着の合わせだろう。左側が上に来なくてはいけない。反転させると困る点だ。
そしてついでに下の絵も見てほしい。刀の握り。
右手が上に、左手が下にきて刀を握るはずだ。フランス人には気にならないことなのかもしれないが。
反転を突っつくのはこれで終わり。
最後に『らんま1/2』のオノマトペの嵐を見ていってください。
PADAPADAPADAPADA !
以上、「マンガの仏語訳で 反転した世界を楽しむ」でした。質問者のご期待に応えられたかはわかりません。
なお、現在ではもちろん反転させておらず、オリジナルにできるだけ忠実にと、各出版部は苦心しながらもいい仕事をしていると思います。(苦労談などについては前回の記事参照)
お知らせ
お知らせ
http://www.rbbtoday.com/article/2016/10/07/145895.html
11月13日、宮崎駿氏に密着したNHKスペシャルが放送されることがわかった。
3年前に電撃的な引退宣言を行った宮崎駿氏。長編映画からは身をひいいたが、創造への意欲は衰えていなかった。氏はCGを使った短編アニメーションという新しい分野に挑戦している。その作品は『毛虫のボロ』。
NHKでは2年間宮崎氏を独占取材し、苦闘する姿を生々しく描き出す。宮崎氏は同局の番組では「プロフェッショナル」に登場したことがある。
11月は楽しみですね。
ロマン・ユゴー
宮崎駿監督で思い出すのは、フランスの若きBD作家のこと。「あなたの作品にすっかり感心しています」と宮崎が言葉を寄せ、期待する作家 ロマン・ユゴー 。
筋金入りの飛行機少年だった。というのも父親がフランス空軍大佐で、17歳のころから操縦桿を握り、自家用飛行機で飛んでいるという。
2年前に来日もしている。下の「海外マンガフェスタ」やフランス大使館の行事、サイン会などで飛び廻っていた。
翻訳がイカロス出版から出ている。
http://www.ikaros.jp/mcaxis/comic/lgd.html(以下、このサイトから引用しています)
ル・グラン・デューク
フランス発、航空戦記バンド・デシネの初邦訳!
A4変判/3,024円(税込)
ISBN:978-4-8632-0502-4「ル・グラン・デューク」(原題:Le Grand Duc)は、第二次大戦の独ソ戦における航空戦をテーマとする漫画作品の邦訳版。独ソ戦の空で運命が交錯するドイツ空軍パイロットとソ連空軍の女性パイロットの戦いを描く。
本作の著者はフランス人漫画家。作品自体も「バンド・デシネ」と呼ばれるフランス式漫画の特色――フルカラーによる表現で、1コマ1コマが絵画のような技巧を凝らした作風――を備える。テーマが独ソ戦だけあって、ストーリーは骨太、さらにミリタリーファンにはおなじみの航空機が多数登場するのも見どころだ。 地獄の独ソ戦の空、両軍のパイロットが操る航空機たちの、決死の戦いが幕を開ける――!
【あらすじ】 1943年冬、地獄の東部戦線。向かうところ敵なしのルフトヴァッフェ(ドイツ空軍)は完全に制空権を握り、敗走するソ連軍に鉄と火の雨を降らせていた。圧倒的な敵の進撃を少しでも遅らせるために、ソ連空軍にできることといえば、パイロットの英雄的行為に頼るだけであった。ドイツ兵の眠りを妨げるため、低速な旧式機で決死の任務に出撃する“夜の魔女”。彼女達の決意は固く、どんな犠牲もいとわない。リリアは、そんな魔女の1人であった。リリアの前に現れたヴォルフは、ヒトラーに忠誠を誓う“鋼鉄の鷲”の一員であったが、同時に規則破りの常習犯であり、なによりも心の底からナチを嫌っていた。