ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

ちょっと残念なデーブ&アーミー・メソッド日本語教育(ドナルド・キーン氏) 日本語-3-

きもちが沈んだとき、寂しいときは、浪士さまのブログを読むといいですよ。みんなに笑顔を分けてくださる。それから前にSPYBOYさまから教えてもらったデーブ・スペクターのツイッター。これがまたおもしろくてやめられないんだな。

ただちょっと、本当にちょっぴりだけどデーブについて残念だと思うのは「長音」なんです。英語風の強弱アクセントはまあいいと思う。愛嬌があるからそのままでいいです。ただ日本語は音が長いか短いかで意味が変わるし、ジョークも十分通じないこともあり、TVのワイドショーでも「ああ、惜しいな」と思うことがありました。

 

日本語の音

日本語の発音はちっとも難しくない。いくつかの注意点だけ。たとえば清音・濁音で意味が変わるというのは、次の文を引けば、生徒のみなが大笑いで納得してくれる。

世の中は 澄むと濁るで 大違い。

ハケに毛があり ハゲに毛がなし

フクにとくあり フグにどくあり。

同じく長音・単音でも大違い。 デーブ・スペクターさまも、デーブデブでは大違いなのは明白で、後者の発音ではきっと気を悪くされるだろう。わたしもおばさんなら許すが、おばあさんとは呼ばれたくない。 

長音?

長いといっても、どのくらいの長さだろう。音楽の四拍子で言うと、四分音符♩が単音で、長音はその2倍の二分音符。

手拍子を打つならパンが単音で、パン・パンが長音となる。(日本語教育で使うモーラ〕に関しては、別の意見もあるのでここでは触れない)

日本語を習う外国人に初期から注意を促すべき点の一つだといえる。拍感覚がない言語のほうが圧倒的に多いのだ。私の経験ではオランダ人、チェコ人、ハンガリー人やフィンランド人などは区別がちゃんとでき、間違えることはなかった。彼らの言語に長・単音では意味の違いがあり、文字にも表されるからである。生まれてからずっと体の中に、この拍感覚が沁み込んでいるのだ。

例えばオランダ語の場合、

man(男)-maan(月)というぐあいに意味が変わる。よくペアで練習する。やはり英語圏を中心に区別ができない生徒は多く、しょっちゅう教師に直されて、また実地で失敗したりして身につけていくのである。日本人はもちろん間違えない。私たちの体内にはありがたいことに拍感覚が住まわっているのである。

一度、移民学校のオランダ語クラスでビデオを見たのだが、2016年の今思い出すと笑えないスキットではあった。現在はもう使われていないはずだ。作られたのは画像から1990年代かと思われる。

空港の荷物検査でイタリアからきた青年が、中身は何かと聞かれて” bom” と答えるのである。少なくとも彼の発音ではそう聞こえる。

みなさん、もう推察していただけたのではないだろうか。オランダ語で「爆弾」の意味だから、さあ大変!しかしイタリア人がにっこり笑って取り出したのは "boom"つまり 盆栽みたいな木のオブジェだった。「発音に気をつけよう」というスキット集である。

 

ネタ帳から

日本語教師なら皆おもしろいネタをいくつも持っているものだ。そうして自分たちも外国人から学び、日本語を再発見するのである。 

①日本人は冬眠する

アメリカ人の男性:

おもしろいですね。日本には「トーミンの日」Hibernation Dayがあるんですよ。

 トミン(都民)の日をトーミンだと誤解した。都民の日は10月1日、東京都の学校は休校、博物館や庭園などが無料になる。来日して間もないころの失敗談だと語る。 

②どんな怖い話かと…

中国から来た学生:

「母がショジョだったころ、うちに紅衛兵たちが来て…」

「え?(汗)」

紅衛兵というのは…」

「そっちはわかります。お母さんが子供のころ、と言いたいですよね?」

ほっとした私。あわてたよ…。すぐに直してあげるのが肝要。 

③妻のことならわかる

日本語が堪能なオランダ人が話してくれた話。

アメリカ人の同僚の日本語、発音が変なんで、けっこう直すんですよ。この間もね、

「妻(日本人)のオニさん、すごいひとでね…」

オニー(お兄)さんでしょ。妻が鬼というならわかるけど。

「オニーさんがドロでネッテ、ケカンがキッタんですよ」

泥で練って血管が切った…ってもう何言ってるかわからないでしょ?義理の兄はある晩呑み過ぎたらしく、道路で寝込んでしまい、警官がやってきたという話だったんです。長音と促音ってどうやって教えたらいいんですかね。

 促音(小さいツ)のように聞こえるのは、本人はそう言っているつもりはないが、英語の強アクセントを単語の頭に置くため、そんな風に聞こえてしまうのである。

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デーブ・スペクターの長音問題

デーブ・スペクターさま、あらかじめ連絡を差し上げていないんですが、失礼して引用させていただきます。いえ、ジョークは十分におもしろいし、いつも楽しんで読んでいます。意味も伝わっているのがほとんどです。少なくともTVで音声で聞くよりは。

このようなTwitterです。

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爬虫類のヒット曲→蛇ロテーション

ヘビ ローテーション heavy rotationと言いたい。

 

・お風呂好きな犬→銭湯バナード(12月3日)

ユニクロ政治団体を結成→GU自民党(12月19日)

この辺はまあ大丈夫ですかね。 

 

・「秋の京都はきれいだった」

 「また紅葉ね」(11月30日)

 かなり苦しい。また来ようね。

 

・石川県の人気漫画→デス能登(11月7日)

私は笑ったけど、他の人はどうなんだろう。DEATH NOTEデスノート)のこと。 

このへんでやめておくが、デーブさまの長音は耳で聞くと1.5拍くらいなので、もうちょっと長いと完璧なのに、といつも思っている。

ジョークのセンスは抜群で、単なるオヤジギャグのあれば、ブラックユーモア、冷戦のころ人気だった共産圏ジョークみたいなものなどもあり、なかなか奥が深い。教養がある上、流行もうまく取り入れているのでどなたでも楽しめると思う。

デーブ・スペクターTwitterで検索してみてください。ご婦人方は自己責任でお願いします。笑い過ぎてシワが増えるため。

当たり障りのないところで、アメリカ関係だけメモする。

アメリカがカストロを50年以上も消そうとした。トランプが当選して3週間でいなくなった。(11月30日)

ドナルド・トランプが好きな洋菓子→資本ケーキ(11月23日)

・子供の時はお父さんに「アメリカは誰でも大統領になれる」と言われた。

 本当だ!(11月20日

・イタリア系の小学生が泣きながら家に帰った。

子「ママ!みんなボクのことをマフィアと呼ぶの!」

母「大丈夫、大丈夫。明日学校に行って校長先生と会ってみる」

子「ありがとう、ママ。なるべく事故に見せかけてね」(11月26日)

・そういえば目くじらを立てるクジラを見た事がない。(11月16日)

 

アメリカ軍のアーミー・メソッド

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東日本大震災のあと、ドナルド・キーン氏が日本永住を決意して、日本国籍を取ったことはみなさんもご存知だと思う。昔住んでいた北区に再び居を構え、著作のほとんどを北区に寄付した。

コレクションなどを見るたび、そして真珠湾70年ということもあり、キーン氏が生きた戦前戦中戦後を思う。そしてキーン氏が日本語を習得した、最も成功した学習法といわれている「アーミー・メソッド」のことも思い出す。正しくは Army Specialized Training Program (ASTP) という。日本語だけでなくドイツ語や中国語など多くの言語プログラムがあった。

アメリカは戦前から戦中にかけて、日本語の話せる人材を育てるため、この特殊プログラム(ASTP)を発案した。情報収集や暗号解読、戦後の占領政策のためである。それは最短9カ月という短期間で、漢字約2000字、語彙7000~8000語、加えて軍隊用語を学ぶ。

みなさんはこの語彙数はピンとこないかもしれないが、日本語能力試験1級の語彙は1万語程度とされ、このあと学生は日本の大学に進学することを考えると、非漢字語圏のアメリカ人にとって「9カ月」は恐ろしく短い。

しかし選抜された大学生はみな東部の一流大学の学生たちで、語学の才能のある英才たちの集団だった。

教師はというと、日本語ネイティブ(実践)とアメリカ人の日本語教育専門家(理論)とのチーム・ティーチングだった。これが予想外の効果をあげ、その後の言語教育理論にも大きな影響を与えたのである。

キーン氏によれば、6人以上のクラスはなく、授業は週6日、一日4時間で土曜が試験。4時間の内訳は、読解2時間、会話1時間、書き取り1時間だったという。更に翌日の授業の予習のため、4時間は必要だった。

全体として見ると、言語が6割、地域研究が4割とのこと。そして豊かな予算が当てられていたから映画・レコードなどの視聴覚教材も利用できたという。通訳や翻訳のために、できうる限り多様な知識が必要だったのである。

たとえば、あるとき真珠湾の翻訳局に、誰かが謎めいた日本語の暗号を持ち込んだ。しかしキーン氏は一瞥して、前に先生の家で見たことのある尺八の譜面だとすぐわかったという。

(この項、続きます)

 

🌸今日の写真

Jさまへ。

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ZEN CAR 三菱のアイ・ミーブ 充電中(ブリュッセル中心部、2016年1月撮影)

ちなみにこちらの人のいう”ZEN”とは、私たちが考える「禅」とは違って、自然志向、ナチュラルな生き方、進歩的なイメージ、くらいの意味。「意識の高い」人たちが、ちょっとうんざりするくらい多用している。

もう一枚。

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BMW-I3(ブリュッセル中心部、2016年3月撮影)