ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

ひと・もの・ときをつなぐ魔法 ルリユール-3-

 ルリユールは今日で3回目。

初めていらしたかたは、1と2を読んでからの方がわかりやすいと思います。

 

紙の発明→グーテンベルグ活版印刷→印刷出版業

とくるわけですが、フランスでは、ルイ14世が印刷と製本を完全な分業にしたため、製本術が独自かつ華麗な工芸分野へと発展を遂げたことなど、前に説明しました。 

「ルリユール」ということばには
「もう一度つなげる」という意味もあるんだよ。

絵本『ルリユールおじさん』の中の言葉ですが、ルリユールの動詞はrelier、すなわち re-(もう一度)+lier(つなげる、たばねる。英語:bind, tie)。そして動詞lierの名詞形はlienです。

昨日の記事、いせひでこさんのパリでの絵本原画展、タイトルは「絆・lien」でした。お話の登場人物、ソフィーとおじさんとの出会いと絆、おじさんの父親との絆、400年ものルリユールの歴史、過去から現在・未来へのつながり、というふうに様々な意味が込められています。

また原画展は、そこに足を運んだ大勢のフランス人来場者をも結び付け、自分たちの伝統であるルリユールを再確認するきっかけでもあったでしょう。

さらに著者いせさんの物語でもある。パリの製本職人との出会い、その小さな種を大切に、苦心しながらもりっぱに育て作品にし、またそれを種として私たちの心の中にまいてくれた。みんなつながっている。

原画展では、パリっ子ならサンジェルマン界隈のことはわかるはずで、ここはあの通り、あそこはどこかしらと人と話しながら絵を見るのは楽しいことでしょう。

 

たとえばこの古い路地、800年以上前からある「ひばり通り」(Rue de l'Hirondelle )です。今、ルリユールおじさんバゲットを持って、自分の工房にやってくるところ。

 

https://4.bp.blogspot.com/-zRwVdXFuRO0/VzmIw2AccBI/AAAAAAAAG20/qsOIeJiMSGAr-T4c8OHuq0V2hEiZ5gcsACLcB/s640/IMG_1186.jpg

Mon joli petit bureau: "Sophie et le relieur", Hideko Ise (Chut les enfants lisent/ 42)

 

現在も変わらず、こんなふうに美しい路地です。ウィキペディアから取ってきました。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5c/Rue_de_l%27Hirondelle%2C_Paris_6.jpg/800px-Rue_de_l%27Hirondelle%2C_Paris_6.jpg

Rue de l'Hirondelle — Wikipédia

今やGoogle Earthなるものがあって、非常に便利です。さっき、おじさんの工房が入っていた建物を見てきました。青い扉はそのまんま。

場所は赤いピンのところ。(ちなみに「病院」は私が長男を出産したところ。一角全部が病院です)

f:id:cenecio:20170311144353p:plain

 

読者のみなさんが凄すぎる(@_@)脱帽しました!

すぐにかえってくるコメントにまあ、毎回驚いているわけです。

こちら さぴこさん(ごめんなさい、全文じゃなくて)

さぴこ (id:sapic)

いせひでこさん、昔北海道立文学館というところで原画展をされていました。素敵な絵がたくさんだった記憶があります。会期中に柳田邦男さんの絵本と子育てに関する講演会があって、応募したのですがハズレてしまったんです(;´д`)

そのあと

絵本の読み聞かせに興味を持ちはじめたときだったので、いせひでこさんより旦那様の講演会の方に興味があって…。

でもたくさんの木の絵がすごいなぁと見入ってしまいました。

いせひでこさんが札幌出身だから、札幌で原画展が開かれたのかもしれませんね。

 そうなんです。ここでたいせつなワードは、「札幌」「木の絵」「柳田邦男さん」!私が全部落としたことです💦

生まれ育った環境は大きな影響を与えるものです。いせさんにとってはいつも木がかたわらにあり、大きな木から赤ちゃんの木まで強い親しみを感じるのでしょう。

また柳田邦男氏はノンフィクション作家で、自身の著書の挿画・装丁を手掛けていたいせさんと再婚同士で結ばれました。そのまえに息子さんの自死があって、何カ月も放心状態だったと言いますが、ある日、ふらりと寄った書店で絵本を数冊買い、それがきっかけで救われたと語っています。そして「大人こそ絵本を」という呼びかけで全国行脚しました。

マミーさんやカメキチさんがすでに書いておられますが、『だいじょうぶだよ、ゾウさん』(ご自身の訳)をはじめ、大人にも薦めたい珠玉の絵本をあちこちで紹介しています。

アンヌさま、さらりとまあ、すごい。

anne neville (id:anneneville) 

 いせひでこさんですね。(^^) ゴッホと弟テオを主人公にした本、黄色が鮮烈なんですよ!を持ってました。田舎に送っちゃったかな?

そのとき、ルリユールおじさんの事を知り、ルリユール、ルリユール、と何度も頭の中で呪文のようにこの言葉を繰り返しました。 

 ゴッホの絵本は『にいさん』

作・絵: いせひでこ
出版社: 偕成社 

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51ONwZV-l3L.jpg

ぜひ借りて読んでみたいです。 教えてもらって本当に私はラッキー!✌ 

志月さまには見事にまとめていただきました。

志月 (id:black-koshka) 

答えを考える前に、ルリユールの果たす仕事の大きさに圧倒されています。

思いをつなぎ、人をつなぎ、知識をつなぎ... 継承されて行くものへの敬意が、新たな芸術を生み出しているように思えます。

 

思いをつなぎ、人をつなぎ、知識をつなぎ..

ルリユールの仕事の本質ですね。特にルリユールは本を扱うだけに知識をつなぎ・・・を言ってくださり、ありがとうございました。 

マミー (id:mamichansan)

マミーさんのレビューがまたすごいんですよ。前回記事に飛んで読んでくださいね。

ここでは抜粋でごめんなさい。 

(略)

ルリユールおじさんとソフィーの、
「自分が言いたいこと」を言いあって、でもどこなく通じている雰囲気、
おじさんを見上げる少女の首の傾げ方と常に細かい作業をし続けたおじさんの背中の曲がり方、
おじさんのお父さんの背中や手、今のおじさんの背中と手、
おじさんの思い出の中、幼かった自分の姿と、今、目の前にいる少女、

どのページも、継続する時間の流れと、受け継がれた思い、引き継ぎたい気持ちにあふれていて、感動せずにはいられません。

「名をのこさなくてもいい。ぼうず、いい手をもて」
のセリフは、職人の誇りと矜持が詰まっていて、職人の仕事に敬意を表するすべての日本人の心を打つものがあります。

(略)

「本」というものは、誰かと誰かをつなぐ。
今、生きている人同士でも、過去の人でも、未来の人でも。
そう思うと、ルリユールという仕事は、なんてすばらしいお仕事なんだろうかとしみじみします。

初めてこの「ルリユールおじさん」を読んだとき、次に生まれ変わったら、こんな仕事がしたいなあ、と思ったのでした。

(略)

すばらしい!

心からお礼を言います。ありがとうございました。

 

さて今日はあの日から6年がたちました。

いせさんも震災のあと、絵描きとしてできることを考えたそうです。

そして生まれたのがこの絵本だそう。私もまだ読んでいないんですが、紹介しますね。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41ZiCtD4%2BkL._SY376_BO1,204,203,200_.jpg

(インタビューの抜粋)

 実は,東日本大震災が起きたあの日,このアトリエで,当時生後6か月だった孫を預かっていたんです。あの大地震が起こったとき,「ああ,この子を守んなきゃいけないな」と強く思いました。そして,その後の被災地の惨状を知るにつれ,「自分の孫だけを守ればいいっていう話じゃない」という気持ちもわいてきました。

「絵描きとして,自分に何ができるんだろう」と自問自答した末,東京にいる私が,自分の目の前のこととして描けるのは,「赤ん坊」と「命」の話しかないという考えに至りました。それで,そのとき抱えていた他の仕事に優先して,「赤ん坊」と「命」の絵本を緊急出版してもらうことに踏み切ったんです。
制作当初は,木の赤ちゃんではなく,人間の赤ちゃんを動かしていこうとしていました。でも,人間の赤ちゃんだと,寝返りを打ったり這ったりしたところで,動ける距離は限られています。物語が展開していかず,すぐに行き詰まってしまいました。「赤ん坊」と「命」を描いていながら,これではちっともはるかかなたの未来までつながっていきません。それで,木の種,つまり木の赤ちゃんたちがすっ飛んでいく旅にすることを思いついたんです。そうしたら,話はどんどん動き始めましたよ。
描いていて感じたのは,「知恵を使って生き延びる」ことが,どんな植物の種にもDNAとして組み込まれているということ。人間も同じです。生きるように生まれついているんですね。

Story3 絵でしか生きられない | 伊勢 英子(画家・絵本作家) | 作者・筆者インタビュー | 小学校 国語 | 光村図書出版

 

答え

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問題:原書の日本版とフランス語版は、どうして違う?

おじさんがフランス語版に書かれていない理由は?

答え:(これは全部パリ在住の日本人で、私にフランス語版をプレゼントしてくれた友人から聞いた話です)

ルリユールおじさんアンドレ・ミノス(André Minos)氏というかたです。

いせさんは何度も日本とフランスを往復し、最後の2年間はパリにアパートを借りて、スケッチや取材をしたそうです。本ができあがると真っ先に見せたい人はミノス氏ですよね。日本語版を送りました。

ミノス氏は、椅子に座って植木鉢を持っている自分の姿が気に入らなかったのです。少女が来てくれてアカシアの芽を手渡してくれた、なのに眠りこんでいるなんてありえない、と。自分はそんな老人ではない、と言いたかったらしいです。

そんなわけでフランス語版ではおじさんをカットして、ソフィーちゃんが図鑑を見たり抱きしめたりしている。ページをめくると巨木の前に佇む成人したソフィーの後ろ姿につながります。「二度と壊れることはなかった」という本を手にして。

というわけで、どなたも当たりませんでした。

ですが、りんさんの答えが気にいっています。

りん (id:miyamarin)

絆というのがテーマだということと、二人が出会う前は、左が少女、右が男性。

最後のページはアカシアの大木が両ページにまたがってあって、左のページに大人になった少女が立っている。

右には、学者になった少女が、出版した本をルリユールした本を持ったおじいさんが、椅子に座っているイラストではなく、写真!!!!

 (略)

人や物との絆と、それを継承するすばらしさ。

素敵な絵本との出会い、ありがとうございました。

 

もう、私の読者さんたちったら、凄すぎる!

ルリユール-3-終わり

おまけ

 私のと同じ製本機。写真はピンタレストから。

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