ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

魚は痛みを感じるか?(日本のイメージ-4-)ロブスターを熱湯に放り込む従来の調理法禁止(2018年1月)

ロブスターの痛み

国や人によって考え方や慣習も違えば、「常識や考え方は時代と共に変わる」。

http://www.deschelp.be/images/fruits.jpg 

(前回記事 NOS局の取材レストラン ”CHEZ RINI”のメニュー。毎週第3木曜はこれ全部がおひとり 32.50。安いですね)

ベルギーのロブスターの扱いをめぐって

愛護団体の言い分も聞いてみましょう。ばかばかしいと思う人もいるかもしれないが、結局、国際化や共生、多文化主義とは、相手を知ることから始まるわけです。

ベルギー・フランダースのテレビ局の料理ショーで、生きて動いているロブスターをグリルに入れたシェフに対し、団体代表の男性が言ったことば:

「ほら穴に住んでいた時代ならわかるけど、現代でこんな野蛮なことをしているなんて信じられないですよ。シェフにも生き物を扱うにおいて、倫理はほしいですな。生き物を苦しめないで死なせる方法を用いてもらいたいんです。」

生き物を苦しめないで死なせる方法って?

はい、これが前回の問題でした。お返事くださった唯一人の方。

J.パーキンソン (id:PSP-PAGF)

エビの活き作り、確か冷蔵して低温で気絶させてから調理しなければならない・・のでは?

Jさま、ありがとうございました。感激です(笑)。日本人のやり方はそうなんでしょうね。しかしヨーロッパではこんな機械があるそうですよ。ロブスターなど甲殻類の痛点を、電気の針でついて一瞬で麻酔をかける装置だとか。これ↓

     f:id:cenecio:20170410133047p:plain英国製

これを使えば人道的(!)だと言っています。

 

魚の痛み

甲殻類だけでなく、魚にも痛みや苦しみを感じる能力が備わっている。これは イギリス・エディンバラ大学の研究チームがニジマスを使った実験・調査で解明しました。単なる反射(反応)ではない、哺乳類動物にとっての「痛み」に相当するものがあるのだとし、その証拠をあげて発表したのです。科学者としての冷静な問題提起であり、ヨーロッパで時々出会う、半分頭のおかしい妄信的な愛護団体の人が言っているのとはちがいます。BBC NEWS | Science/Nature | Fish do feel pain, scientists say

それからご存知かもしれませんが、本も出ています。

     https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51CJSLrPFmL.jpg

『魚は痛みを感じるか?』 紀伊國屋書店 (2012/2/2)
ヴィクトリア・ブレイスウェイト (著), 高橋 洋 (翻訳)

魚類学者ブレイスウェイトの主張はずばり「魚の福祉」です。「魚は痛みを感じている」と結論づけたうえで、魚を食べるなと言っているわけでは決してなく、漁業などに対し、多くの考察や提案をしています。

その後このテーマ(魚が痛みを感じること)を扱った小説が発表されたりしました。これはオランダ語小説(多国語にも翻訳された。邦訳なし)で私は読了しましたが、日本が酷くたたかれていて辛かったです😢。そんなこんなで、動物保護・福祉はヨーロッパでは伝統的に関心が高いのです。倫理をいう人もあれば、消費者としての選択、たとえば魚を買うならエコフィッシュ(*)というふうに。こうした関心が捕鯨やイルカ漁にもつながっています。エコフィッシュエコフィッシュの取組みを説明します 

 

増える菜食主義・ヴィ―ガン

以前TV番組でみた「訪日外国人に人気の料理屋」は勉強になりました。高山市にある平安楽という店が紹介されていました。

見ているとわらわらと外国人が集まってきます。不思議。なぜだろう?お店は一見どうということのない感じの家庭的なお店。御夫婦でやっていて、すてきな女将さんの絶妙な英語対応や、居心地の良さはわかりますが…。

ほかの店にないもの、それは豊富なベジタリアン向けメニューでした。しかも客の要望に適宜応えてくれるというのです。旅行者の一行は皆が皆ベジタリアンではないわけで、ベジタリアン向けメニューがあれば同じお店で一緒に食べられます。ベジタリアン向けの飲食店は都会にはたくさんあっても、地方ではほとんど望めないのが実情です。

この平安楽は、トリップアドバイザーで高評価を得て、外国人に人気の日本のレストラン部門で去年2016年は第1位だったそうです。

たしかにベジタリアンは、一昔に比べて倍増した感があります。日本の状況はわからないのですが、ヨーロッパでは私の周りにも大勢います。私が若かったころはイスラム、またはユダヤ教徒の食材に気を配ったり、肉を食べないフィンランド人のために特別メニューを考えたり、あとはアレルギーなどを考えに入れればよかった。

今はベジタリアン、菜食主義のさらに先をいくヴィ―ガン (Vegan)も増えていて驚かされます。ヴィーガニズム (Veganism)は、衣服や日用雑貨などでも動物由来のものを使わないという、ライフスタイルといっていい運動です。

たとえば私は、腕時計はベルトで、象牙の印鑑を使い、ガチョウの羽根布団を使い、羊毛のセーターを着ています。こうしたものは、人間が自分たちの利用目的のために動物を苦しめて得ている、よくないと考えるわけです。

食事だけなら (Dietary Vegan)日本でもあちこちで活動があるようで、たとえば今月は「東京ビーガングルメ祭り2017 」があります。

 

クジラについて皆で学ぶ

捕鯨に反対する人はなにもグリンピースだけじゃない。過激で先鋭化した一部のメンバーのせいで目立っているだけです。

ベルギーやフランスの全国紙は定期的に、クジラ(やイルカ)の種類別にイラストと生息数の推定を載せることがあります。絶滅の恐れのある種類には、詳しく注がついています。このようにして一般市民も学ぶことができ、子どもたちは学校で習って、関心を高めていくのです。他の生き物、特に絶滅危惧種についても同様に。

日本ではクジラについては科学雑誌には載っているかもしれないけれど、一般人の関心になりにくく知識もないのが普通です。私はクジラの名前を言われてもほとんどわからないですよ。

「常識や考え方は時代と共に変わる」

で、またここに戻ります。欧米でも以前は捕鯨をしていましたが、現在では 一般に「クジラやイルカは高度な知能を持っており、人類共有の財産として大切にしなければならない」と考えられています。一方、牛や豚や羊(+鶏や鴨)などの畜産は自国内で再生産できる資源だと考える。養殖もしかり。

ここを踏まえたうえで冷静な議論をすべきで、日本政府も調査捕鯨について理解の得られる説明をしなければならないでしょう。たとえば単に「調査」をするだけなら「非致死的調査法もあるし、そっちのほうが効率的ですよ」と相手に言われているがどう答えているのか。「日本文化や伝統に対する攻撃だ」と憤るだけではだめだと思います。

オーストラリアではジュゴンを食べる人がいるし、別の地域ではアザラシを食べる人もいるし、犬やリスを食べる人たちもいます。でもそれを持ち出して「あいつらはどうなんだ」という議論はいかにもマズいですね。

原発は止めるべきだ、と言うと「あんた、電気使ってんだろう。じゃあもう明日から使うなよな」という乱暴なギロン(笑)がありましたが、ちょっとあれを思い出します。

私たちは食べ物について、これからももっと考えていくのがいいでしょう。クジラやマグロを食べ続けるのか、この魚はどこの海・養殖場からきたか、適正な方法で獲られたものか、偽装はないかなど…。

「活造り」や「踊り喰い」「残酷焼き」といったネーミングも、指摘されてみればちょっと怖いですね。ヨーロッパ人はこれで凍り付きます。【ロブスターの痛み ここまで】

 

こすもっぷさまご紹介の本、さっそく読んでみました。

経済を読み解くための宗教史  –宇山 卓栄 (著)KADOKAWA (2015/11/20)cosmop.hatenablog.com

著者の宇山氏は代々木ゼミナールで世界史を教える先生であり、個人投資家として新興国の株式・債券に投資する一方、「自分の目で見て歩く」をモットーに世界各国を旅する人、だそうです。

「宗教」は私がもっとも苦手とするもの。「経済」も同じ。その金銭・物質的な経済と抽象的・精神的なものである宗教が、実は密接な関係でいかに影響しあいながら社会を形成してきたか、それは過去の話ではなく現代にも繋がっていることを、宇山氏は予備校の先生らしいわかりやすさで教えてくれます。

ユダヤ教キリスト教イスラム教、ヒンドゥー教、仏教、(宗教ではないが)儒教など、これらと古代から現代までの歴史的大事件と絡みあう世界史・・・とても新鮮で刺激的、また知らないことばかりで、唸りました。十字軍がキリスト教国とイスラム教国との経済戦争だったとか、宗教改革カトリックVSプロテスタントの利権争いだった、など。

ほかにも歴史上の事件はおもしろいのですが、私は例えば、イスラム金融のことが印象に残っています。1960年代にエジプトで無利子銀行が創設され、1970年代、ドバイ・イスラム銀行など本格的なイスラム金融ができる。そして世界各地で設立ラッシュ。2001年の9.11のあと、アメリカの金融機関に預けられていたイスラム教徒の金融資産が、凍結されるのをおそれ、ごっそりアメリカから引き揚げられる。その莫大な金融資産の行先はイスラム金融。現在、総資産額は1兆5000億ドル程度だとか。

マレーシア移住が人気など一度も考えてみなかったし、2030年には世界の4人にひとり、2050年には3人にひとりがイスラム教徒になると予想されているなど、刺激的な読書でした。

 

 

追記①:その後見つけた記事です。簡潔にまとまっています。エビやカニにも痛覚があった!? 

追記②

www.afpbb.com

 (引用します)

【1月11日 AFP】スイス政府は10日、暴れるロブスターを熱湯に放り込む従来の調理法を禁じ、事前に気絶させてから絶命させることを義務づけた。動物保護法の全面的な見直しに伴う措置で3月1日から適用される。

 ロブスターを生きたまま熱湯に入れる調理法はこれまでレストランで一般的だったが、今回の法改正によりロブスターは「死ぬ前に気絶していなければならない」とされた。スイスの公共放送局(RTS)によると、気絶させる方法も電気ショックか機械を使った「脳の破壊」しか認められないという。

 動物の権利活動家や一部の科学者は、ロブスターやその他の甲殻類は高度な神経系を持っており、生きたまま熱湯でゆでられると激しい痛みを感じると主張している。

 改正法ではこのほか、生きたロブスターを含む海産甲殻類を氷詰めにしたり氷水に入れたりして輸送することも禁止し、「常に自然の状態に保たなくてはならない」ともされた。(c)AFP 

追記③さよなら、ルイ。

 Dolfinarium水族館のルイが2018年1月10日死去。推定80歳。

クリスマスディナーのご馳走になるところを救出されたのだが、11日間しか生きられなかった。

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