あなたの心に潜む虫を標本に!『弱虫標本』川越ゆりえ展 & アーティスト江本創 + Kate Kato
いいなあ、金沢!
10no3さまがおもしろい展覧会を紹介してくださいました。どこでもドアがあったらすぐに見にいくのにな。こちらです 弱虫標本(前編) - 金沢おもしろ発掘 弱虫標本(後編) - 金沢おもしろ発掘
個別の写真をたくさん撮ってくださって、本当に助かります。ありがとうございました。
川越ゆりえの「弱虫標本」 2017年5月27日(土) - 9月24日(日)
パッと見て「昆虫標本」(Insect Specimen)と読んでしまいそうですが、「弱虫(よわむし)」です。弱虫だけでなく、嫉妬や私たち皆が持つ負の感情が仮想の虫で表現されています。www.kanazawa21.jp
「弱虫標本」2013年(185.5×255.5×14.7センチ)(C)KAWAGOEYurie作家蔵
わあ、キレイ!と昆虫好きな私はすぐに吸いつけられました。
川越ゆりえさんは1987年富山県生まれ、富山大大学院芸術文化学研究科修了。2013年、大学院修了時の作品だそうです。(写真は上の金沢21世紀美術館サイトから借りている)
川越さんがこの個展に寄せていることばを引いてみましょう。
主に、人間の心に潜む様々な感情や弱さを、架空の虫の形に起こして制作している。
人の感情や弱さは虫のようだ。嫉妬心や寂しさはいつもどこからともなくやってきて人の心に寄生し棲み付き、気付いた時には増殖し、内側から人を喰い、操る。
また、普段はじっと心の奥底に身を潜めていても、ふとした瞬間に、まるで蛹から羽化するように表に現れ、その翅を広げるのだ。
しかし、一つ一つの感情や弱さを様々な角度から観察したり、触れてみると、それぞれの持つ面白さや魅力などに気付くことが出来る。
一見、ネガティブであるとされ、良くないものとして捉えられがちな種類の感情も、よく観察してみると魅力的な面が多数見つかるのである。
そして、時折ちらりと顔をのぞかせる、そのような感情達や弱虫達を、私はとても愛おしいと思う。
いやはや驚きです。若いのに何、この貫禄、この包容力は!しかも文章もいい。恐るべきアーティストが出てきたものです。
すべての写真:弱虫 by 川越ゆりえ| CREATORS BANK〈クリエイターズバンク〉
美しいのひとこと! 上、下とも作品タイトル「弱虫」
タイトル「嫉妬心の標本」2015年
背中のつぶつぶは嫉妬を表しているそう。嫉妬心って膨れ上がるイメージだったんですが、川越さんはぷつぷつと粒が増殖していく感じなんですね。体にびっしりはりついて、赤を基準にほかの色もあるのが楽しいです。
こちらは「交尾する嫉妬心」。
「道化を宿す弱虫」(2017年)
10no3さまはブログ最初の写真に、中央の道化↑を選びました。皆さんも10no3さまのきれいな大きめの写真でごらんください。
私もかなり気にいっています。ユーモラスです。笑顔が張り付いているようですが、体の中は悲しみや寂しさでいっぱいかもしれません。
「弱虫たちの交尾」(2016年)
中央の「虫」、やはり10no3さまが大きく撮っていますので、ぜひ!
迷わぬ依存心
眠りゆく弱虫
川越ゆりえ | CREATORS BANK〈クリエイターズバンク〉
まだまだたくさん作品がありますので、興味のあるかたは上記サイトで。
川越さんには興味がつきません。過去の新聞記事で創作動機を語っているのを見つけました。
【美術】弱虫 誰の中にもいる 川越ゆりえさん 個展:記事一覧:北陸文化:北陸中日新聞から:中日新聞(CHUNICHI Web)
(略)
小中学校ではいじめられっ子。人の顔色をうかがうような子だったという。一方で、「かっこいい人がふと見せる弱さが好き」。なんだか暗いが、「家で作ったり、描いている時は好きで」。それが学生になって制作のテーマになった。「三年次のグループ展で、初めて自分の心を標本のように整理したくて、作ったのが始まり。標本=(イコール)虫だろうと。それがなぜかほめられた」
個展のタイトルにもなっている「弱虫標本」(二〇一三年)は「自分を見つめ直した時に臆病さが一番にあって、エネルギーを込めた。気弱に攻めるというのもありかなと」。
色も形態もさまざまで、どこかにいそうな昆虫に見える架空の虫たちが標本箱に並ぶ。紙粘土や樹脂粘土、紙、木、皮毛などの素材で精緻に作られている。
「人の心は虫に似ている。さみしさとか嫉妬心というのは知らないうちに心の中でふくらんでいって、気付いたら普段ならやらないようなことをしてしまったりする。一方で(そうした感情を)悪いとは思っていなくて、弱さというのは絶対に心の中にある」・・・
(全文は記事でお読みください)
虫は体のなかの寄生虫?
「自分を見つめ直した時に臆病さが一番にあって、エネルギーを込めた。気弱に攻めるというのもありかなと」
ここがとてもいいです。自分を客観的に見つめ、よく分析し、それを逆手に取る。冷静で、かつユーモアがあってすてきな女性です。
「人の心は虫に似ている。」まさにその通りです。私はこの年でやっとわかるのに、川越さん、あなたはこんなに若くてもうわかっちゃったの?と言いたいですね。
日本語にはたくさんの「虫」を使った表現があります。「弱虫」はもちろん、
・泣き虫
・おじゃま虫
・点取り虫
・金喰い虫
このうち下二つはうちの子どもがわからないと言います。古い?皆さんはどうですか。「点取り虫」はテストでいい点をとることだけに汲汲(きゅうきゅう)としている生徒、「金喰い虫」はお金ばかりかかって効果や利益を生まない人、事柄に対して非難の意味をこめて言います。いずれも「虫」はネガティブな意味で使われています。
ほかにも
・虫が好かない
・虫の居所が悪い
・腹の虫がおさまらない
・虫の知らせ
・悪い虫が付く…たくさんあります。
私たちは体のなかの「虫」とともに暮らしているのですね。
さて、川越ゆりえさんの作品を見た後で連想した二人のアーティストを挙げておきます。
1.幻想標本作家の江本創(えもとはじめ、1970年兵庫県生まれ)氏。
大学では版画が専門だったが、行き詰まりを感じ、現在の紙で作る幻想の生き物作りに転向。きっかけが中国人が漢方として使うトカゲの干物を見たことだとか。それが最初の作品「小さなドラゴンの標本」に結びつきます。また子どものころ好きだったウルトラマンの怪獣や江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズ空の影響も大きいそうです。
架空の魚のつもりで作って「こういう深海魚いますよ」と言われたりするのだとか。
Art-Sci: Specimens of Mythological Creatures Displayed in Japanese Museum
紙で作っているようには見えませんね。凄いです。作品数も多いです。
↓ こちらのミュージアムで作品が見られます。(ここからの転載は不可なので、私はピンタレスト画像を借りています)
2.英国ブリストル在住のKate Kato さん。
江本氏の作品が苦手な人もケイトさんならきっと気に入ってくれるでしょう。
リサイクルペーパーで作る植物や昆虫たちです。
Kate Kato (@kasasagi.design) • Instagram photos and videos
こちらがHPのカバー。
Kasasagiとある。カササギはいろいろなものを集めて巣に持ち込む習性があり、ケイトは自分も同じだとみているのかもしれません。苗字はKatoです。日本と関係があるかもしれませんね。
というわけで、 金沢の展覧会からイギリスの作家さんのお部屋までやってきてしまいました。終わります。
追記:9月3日
もう3年も前に記事を書いてらっしゃるかたがいらしたので、紹介させていただきます。Modesty M. Poloさま、ありがとうございます。