日本人は「西洋人」& 最恵国待遇の日本人
初級で習う単語
ピコ太郎さんの PPAP ”I have a pen. I have an apple.”じゃないけど、語学の初級で習う単語は、だいたい決まったものだと思っていた。違うのだ。今日はオランダ語の初級単語で驚いた三つの単語について書いてみる。
ベルギーに1年滞在し、オランダ語を習っていたことは前に書いた。なんで「移民学校」なの?とよく聞かれたのでまとめたエントリもある。移民学校の日々 - 移民学校の日々 続き -
初級で習う単語のなかでにも、カルチャーショックといっても大袈裟ではないほど、驚いた単語に次のようなものがある。
1.kapstok (コート掛け・ポールハンガー)
最初に習う10個のうちのひとつがこれだ。
絵をみれば一目瞭然なのだが、日本から来た私にはきわめて新鮮だった。外国語はオランダ語以前に幾つか習っているが、「コート掛け」が初日に出てくるとは。それに我が家の玄関にこれはないし、実家にもなかった。コートは洋服ダンスかロッカーにしまい、傘は傘立てに立てる。
オランダ語学校の教室内には二基おいてあり、帽子着用の男子も、自分の大事な帽子をてっぺんにふわっと乗せていた。
2.vensterbank (直訳:窓ベンチ)
フランスに長く住んだのだからベルギーもだいたい似ているだろう、なんて思っていたらとんでもなかった。「ベンチ」といっても座らない。まるでなぞなぞだが、写真をみればな~んだ、とすぐにわかる。
植物を置いたり、猫が寝そべる、窓際のあのスペースのことだ。ただ写真からもわかるように、下は暖房になっている。右写真は公共の建物用。学校はこれだった。
新しいビルでは違う工法かもしれないので、ベルギー・オランダにいけば必ずあるとは言えないが。個人の家庭では木材の種類を選んだり、お金をかけて大理石にしたり、ほかにはタイルも見たことがある。
図からわかるように、外側も出っ張っている。小説のなかで、この出っ張りに身を潜めるようにして、などというくだりに出くわすのでこれを知らなければなんのことやら、と思うだろう。基礎知識は大切だと思った。
なぜ「ベンチ」がついているかというと、ウィキペディアによれば、かつてはちゃんとベンチや椅子がついており、そこで編み物や刺繍、読書などをしていたということだ。
写真:ウィキペディア
3.Allochtoonはどんな人?日本人はなぜ「西洋人」枠か。
オランダ語Allochtoon(アロフトーン/ アロホトーン)。ほかの言語に訳出が不可能なことばで、やはり最初のころに習う。「あなたはAllochtoonですよ」と教師に言われる。公の通達や書類などで必須の単語だ。意味は「外から来た者、親が外国出身の人」。
それじゃ「移民」でしょとまず考える。手元の蘭英辞典をひいてみると、Allochtoonは英語で”immigrant, foreigner, second generation”となっている。しかし実はこれでは全然足りない。なぜならオランダやベルギーの国籍を持ち、言語も完璧に操り、社会に同化して活躍している3代目4代目の人もこのくくりに入れるからだ。なんとも不思議だ。見た目なのか?白人なら別なのか。
Allochtoonの対語は何か。
Autochtoon(オートクトーン)という。日本語ではこの単語に対し「原住民、土着民、現地人」などの訳語をつけており、日本や多くの国ではこの言葉を使うと、未開の土地に住む人たちを指し、民俗学や言語学などの分野で使われている。
オランダ人はもとからオランダの地に住む自分らをAutochtoon現地民とし、外から来た者を指す言葉を発明したのである。それがAllochtoon。この言葉を考えたのは Hilda Verwey-Jonkerという社会学者で1971年のことだ。(ウィキペディアによる)
オランダに住んでいる現地民以外の人、移民や短期労働者など理由は様々であろうが、ひとくくりにまとめられる用語があると便利だったらしい。差別の気持ちは全くなかったようだ。
ところがここ10年くらい、この言葉を巡って熱い議論が起きている。移民家庭の子弟は完全にオランダ・ベルギーの社会に溶けこんでいるにもかかわらず、差別的に扱われていること。特にイスラムの人たちは苦痛に感じている。自分はオランダ/ベルギー人であり、○○市民ではあると。サッカーベルギー代表のキャプテンだったコンパニ選手も「ぼくらはいつまでAllochtoonでいなければならないのか」と発言して共感を呼んだ。
ベルギーのDeMorgen紙は4年前に「わが社では今後、新聞でこの言葉を使わないことにした」という声明を出した。Opinie: Waarom wij, De Morgen, 'allochtoon' niet meer gebruiken | Tv & Media | De Morgen
日本人は「西洋人」
ほとんど笑い話のようだが本当の話。オランダではAllochtoon を二つに分類している。Westerse allochtoon(西洋アロフトーン)とNiet-westerse allochtoon(非西洋アロフトーン)である。
西洋人グループは、ヨーロッパの国々(トルコを除く)の出身者、北米・オセアニア出身者、インドネシア人、日本人となっている。インドネシアは旧植民地だったから。日本人は仕事で来ていて家族と居を構えているから。そのように理由付けされていた。
非西洋人グループはアフリカ、ラテンアメリカ、トルコ、アジア諸国(インドネシア・日本を除く)出身者である。これでいくと、オランダの植民地スリナム人、アンティール人はここに入れられてしまう。
さてここからがニュース。今月、オランダの政府機関がAllochtoon,Autochtoon、この両方の単語を廃止すると発表した。(*政府方針諮問科学委員会(WRR)と中央統計局(CBS) http://www.wrr.nl/publicaties/publicatie/article/migratie-en-classificatie-naar-een-meervoudig-migratie-idioom-34/
変化が起きようとしている。
最恵国待遇の日本人
さらに笑えることに、日本人はつい最近まで「オランダの最恵国の国民」だった!?「最恵国待遇」なんて歴史教科書上の用語かと思ったら、1912年締結の日蘭通商航海条約がまだ存在して、日本人はオランダで労働許可証なしで働ける立場にあったというのだ。(詳しいいきさつは過去記事で→日本人は労働許可申請なしで働ける 生きていた日蘭通商航海条約)
なお今年10月1日に条約は無効になりました。