フランスはじめヨーロッパの国々では、私には思いがけない大ヒットアニメ・漫画が生まれます。あくまでも個人的な感想なので、「私には」とお断りさせていただきます。
まずこちらの猫のチーのお話、皆さんもご存知でしょうか。
『チーズスイートホーム』(こなみかなた作、講談社)
JapanExpo2017(ジャパンエキスポ)でも大勢の親子連れが、Perfumeの歌「ねぇ」[MV] Perfume「ねぇ」 - YouTubeに合わせて踊っていました。朝日新聞もこれを取材しています。記事内にビデオもあり、その熱気がよく伝わってきます。
子猫のチーの話は、拾われた山田家の日常が舞台です。チーの眼を通した人間の生活や発見の数々、小さな冒険など、毎回テーマに工夫が凝らされ、猫を飼っている人なら「ああ、そうそう!あるある」とにっこりしてしまう情景が描かれます。好奇心の塊のチーが表情豊かで愛くるしい。(写真はフランス語版)
ヨーロッパで大人気、というのは2011年の夏、オランダ人学生に教えられて知りました。
オランダのライデン大学といえば、優秀な日本学の研究者を多く輩出している伝統ある大学ですが、日本語科では2年生になると、日本理解を深めるため夏休みに日本に滞在させる制度があるのです。2011年は大地震があったからどうかな?と思っていたら、18名の学生たちが予定通りやってきました。
ある女子学生と電車のなかでお喋りしているうちにアニメの話になりました。自分は『テニスの王子様』ファンで、来日してから『テニスの王子様』のステージイベントに2回も行ったし、オランダでコスプレするときはいつも不二周助 (ふじしゅうすけ)をやっている。そうした話を熱っぽく語ったあとで、私に聞いてきたのです。
『チーズスイートホーム』知っていますよね。うちは家族でファンです。
いや…知らない。いつもトホホな思いをする私です。「テレビは見ないんで…」
「マンガなんですよ、はじめは。そのあとTVアニメになって。うちも猫を飼ってて、仕草や顔つきがチーに似ているんです」。
ははは、漫画なんてもっと読まないし。そう思いつつも「うちに帰ったら見てみるわね。チーズね」
「違います。チーが名前です」
そうか、Chi's…。すぐに調べてみました。うちの子のほうがずっと可愛いわ、というのがチーを見た時の第一印象。ところがアニメを一回見たらこれが意外にもおもしろくて、なるほどと人気のわけを納得しました。(アニメ『チーズスイートホーム』2008年~。2016年からは『こねこのチー』3DCGアニメを放映。現在終了)
いやあ、これに目をつけたフランス人はすごいな。どこの出版社だろうと思ったらグレナ社(Glénat)でした!さすがお目が高いグレナさん。バトルものとは違う、広い年代層にヒットする宝を探り当てましたね。
グレナ氏はBD(ベーデー。フランスやベルギーのマンガ。全頁カラーで芸術性が高い)を出版していたが、自国での売れ行きが落ちてきた1980年代に、日本へ輸出したらどうかと考えた。日本へ売り込みにきたが、BDは売れず、逆に『AKIRA』(大友克洋)を発見して持ち帰ったというエピソードは有名です。
大友はこれがきっかけで、フランスのみならず広くヨーロッパに紹介され、熱狂的ファンを生み出しました。グレナ出版はその後『ドラゴンボール』などで大当たりして、社の経営も立て直すことができました。会社がどんなに大きくなってもグルノーブルの地から動くことなく、文化活動に精力を注いでいます。詳しくは過去記事に。
チーは今年のJapanExpoに公式ゲストとして招待され、サイン会まであったようです。肉球を押すだけなんですが。
写真:グレナマンガ部門のTwitter。チーの漫画本の上に子猫が寝ている。パリ、モンパルナスのFNAC書店にて。
朝日新聞によれば
フランスでの評判は特に高く、「名探偵コナン」「ドラゴンボール」などを抑えて2016年まで5年連続で子供向けマンガのセールス1位を記録している
ホント?どれどれ・・・
Quels sont les Kids Glénat les plus vendus ?
今年9月の売り上げをグレナ社のサイトでチェックしてみたら、確かに1位でした。(「GFK調べ」というのは、ドイツのマーケティングリサーチ社のこと)
ひとつの漫画が売れると言うことはそれに付随して、キャラクターグッズも売れるということです。フランスではこんな感じ。
GLENAT LANCE UNE NOUVELLE SERIE DE PRODUITS DERIVES "CHI",
子どもに甘い親はついつい買ってしまうんでしょうね。また朝日新聞によると、「フランスではチーのヒットの影響で、ほかにも猫を主人公にしたマンガが生まれているという」ことです。こねこのチー現象と呼ぼうかな。
🌸おまけ🌸
ネイルアートの世界も熱い。こちらフランス人のトリビュロン(Tribulons)さんの作品とサイト。
Nail-art, chaton et mangas | TribulonsTribulons
火垂るの墓(ほたるのはか)
みなさんご存じ、野坂昭如の短編小説であり、スタジオジブリのアニメ作品です。
アニメ『火垂るの墓』(1988年)はフランスやベルギーでは評価が高く、原作者の野坂昭如氏の小説作品も数タイトル翻訳されているしNosaka Akiyuki、去年ベルギー・ブリュッセルの本屋では猫についてのエッセイ『吾輩は猫が好き』もフランス語に訳されているのを見てちょっと驚きました。
(黄色矢印↓。"Nosaka aime les chats" – EDITIONS PHILIPPE PICQUIER 2016)
しかも表紙装丁が野坂氏自身が描いたネコの絵で飾られていてすてきですね。
野坂氏が亡くなった時は新聞に訃報が載りました。やはりアニメ『火垂るの墓』の作者として。その成功がものを言っています。
ヨーロッパの人たちにとっては「戦争と死」のテーマの扱い方が新鮮に映ったのでしょう。救いのない悲劇的な結末も戦時としてウソがなく、よく練られた脚本と詩的な映像とが相まって魂を揺さぶる、といったレビューを読んだことがあります。また子どもと一緒に見たという映画評もベルギー人が寄せていました。ただしあの少年は「死んでいない」ことにしたそうです。
今回初めて、日本での公開時のポスターを見ましたが、キャッチコピーが胸に突き刺さりますね。
Grave of the Fireflies - Wikipedia
「4歳と14歳で、生きようと思った」
しかし、正直言って、私には辛すぎてアニメの二度目はないと思っています。野坂氏が亡くなった妹恵子(ご自身の妹)について語ることばを読んでからは特に、です。
(中略)ぼくはせめて、小説「火垂るの墓」にでてくる兄ほどに、妹をかわいがってやればよかったと、今になって、その無残な骨と皮の死にざまを、くやむ気持が強く、小説中の清太に、その想いを託したのだ。ぼくはあんなにやさしくはなかった。
— 野坂昭如「私の小説から 火垂るの墓」(朝日新聞 1969年2月27日号に掲載)
もうこれだけでも泣けてくる。サクマ式ドロップスなんてとてもじゃないけど見られない……
なんて思っていたら、『火垂るの墓』のスペシャル・エディション(リマスター版というのかな)が今月15日に発売されるのですって!
「小さなセツコが好きだった、あの有名な飴のデザインボックスに入っています」とある。ブルーレイとdvd、高畑監督とのインタビューや野坂氏の自叙伝(?)などが収められているもよう。しめて39,99€。(ドロップスは入っていないようです^^)
Kazé : précisions sur la réédition du film Le Tombeau des Lucioles
*追記:2019年6月
最後にこちらを。マンガではありません。
Les Soeurs Hiroshima | Blog Bayard Éditions
『広島の姉妹』恥ずかしながらフランスのサイトで知りました。
『この世界の片隅に』という作品も、私はベルギーで翻訳されたフランス語版で初めて知りました。以前記事にも書いたんですが、『この世界の片隅に』 記憶の器として生きる-1-
こうの史代さんの、広島原爆後を描いた作品『夕凪の街 桜の国』(2004年)は、日本で出版されて2年後にはもうフランス語版が出ていました。それも私は日本にいるときには知らなかったんです。フランスやベルギーではいろいろなジャンルのものを翻訳して出しますが、原爆に対して関心がとても高いと感じています。
『広島の姉妹』は 山本真理子さんの作品で、『広島の母たち』『広島の友』とで3部作。 岩崎書店のフォア文庫に入っています。
http://www.iwasakishoten.co.jp/book/b190794.html
被爆したヒロシマの姉妹が街中で目にした地獄さながらの光景…。
原爆の悲惨さを訴える戦争民話。
(岩崎書店の紹介による)
去年の朝日新聞に載った 山本真理子さんのインタビューを貼っておきます。
今日はここまで。
🌸いつも拝見しているチャンスパパさまのブログ、皆さんもご存じでしょうが、てんちゃんがすっごく可愛い!
ブリュッセルの猫カフェの猫で、ビールをなめるヤツが一匹いましたね。ベルギービールがおいしいのはわかります。でもそのビール、わたしのなんだけど。
それから池波正太郎さんの猫はウィスキーを飲みました。
池波さん:「私には猫がいます。書斎で原稿を書いていて、夜遅くちょっとひと休みのとき、ウィスキーを一口。それを猫にも習慣づけましてね。はじめは逃げていたのに、この頃は原稿を書く手を休めるとそばに来て”ニャオー、忘れないでね”というように顔を見るんですよ」
出典:『種を蒔く日々』秋山ちえ子
終わります。