「 貧困と孤独」のテーマ、今日は3回目。前回は→ 胸を打つ海外のホームレス支援 &排除アート 貧困と孤独-2- -
Kodokushi(孤独死)
すっかり普通名詞化し、国際語になった「孤独死」ということば。実際の孤独死は、うちの近所でも人に看取られることもなく亡くなった方が何人もいらっしゃる。正確にいうとここ7年で5人である。だから他人事だと思ったことは一度もない。
イギリスが日本の孤独死(孤立死)について高い関心を寄せていたのは、BBCなどのニュースを通して知っていた。日本には、電気・ガスなどが止められ、食べ物もお金もなくなり、アパートでひっそりと息を引き取る人がいる。そればかりか何日も何週間も人に気づかれずに。あんなお金持ちの国で!等々と驚きをもって報道されていた。
よく覚えている。5~6年前は"lonely deaths"とまだ英語で表現されていた。しかし2年位前から日本語の”Kodokushi”が使われだし、英語で使われるとアッと言う間に国際語の地位を占めることになる。既に定着した「過労死」「過労自殺」「ひきこもり」などのように。
孤独担当の大臣が誕生 世界初
Tracey Crouch(写真:右がトレイシー・クラウチさん。孤独担当相に任命される。インタビューMeet Tracey Crouch, Britain's Minister for Loneliness | Timeのなかで孤独死という言葉を使っている:” In Japan, lonely deaths among the elderly have a name, Kodokushi.”)
当時、一年前だが、孤独担当相ができたとき、アンさんや関心の高いブロガーさんとこの話をしたことが思い出される。世界でも大注目だったと思う。
テリーザ・メイ首相のことばで 'the Sad Reality of Modern Life'「現代の生活における悲しい現実」すなわち" loneliness"「孤独」に真剣に対処すべきときが来たという。
AFPの報道によるとイギリス赤十字社の調査で
英国の人口6560万人のうち900万人以上が常に、もしくはしばしば、孤独を感じているという。孤独と疎外は「隠れた流行病」であり、引退から別離、死別など人生のさまざまな節目ですべての年齢層に影響を与えていると指摘している。http://www.afpbb.com/articles/-/3158930
孤独というと、精神面に目を向けられがちだが、多くの調査報告で明らかなように健康へのリスク、死亡リスクは高い。「タバコを1日15本吸うことに匹敵」「アルコール依存症であることに匹敵」…などの喩えがよく知られていると思うが、心臓病や高血圧、免疫機能障害や神経系障害といった病気との関連も注目されている。
孤独礼讃派のわたし
孤独が「一人でいる時間」だとしたら私はそれは貴重なものだと思っている。せわしない現代の生活、人と仕事と義務との摩擦から逃れ、自由になる時間を持つことは絶対に必要だ。それが簡単には持てないだけに。
一人でいるときにしか起こりえない気づきや成熟というものがある。物事を多面的にじっくり考えてみたり、棚上げしていた問題に向き合ったり、自分自身を見つめなおしたりもできる。孤独な時間はすばらしい。贅沢なひとときとさえ言える。それは英語でいう"solitude"であって" loneliness"ではない。
子どもにだってsolitudeは必要だと思う。塾や習い事、学校や親が作った計画表に支配されない、豊かな孤独な時間は、子どもの内面生活を大きく育てる。
でも悲しいかな、現代の子どもたちは忙し過ぎるし、スマホや手軽な娯楽に惹きつけられ、自分の時間が持てないように見える。
(写真: amazonより。 昨年出版された本)
孤独対策
孤独の定義https://www.campaigntoendloneliness.org/about-loneliness/はまず、あなたがどう感じているか、ここが問題になる。人と一緒に暮らしていても折り合いが悪く不満に感じていれば孤独だろう。離婚や別離、闘病や失職などでそれまでにあった人間関係から切り離されると、不安で孤独に感じる。そして誰にでもおこることであり、高齢者であれ若者であれ、あらゆる年代の人間に孤独は忍び寄る。孤独は心身に大きなストレスを与え、慢性化すると病気につながりかねない。
これを常態化させないためにイギリスは対策に本腰を入れている。孤独テーマの会議(*)に世界中の識者を集め議論を交わしたり、積極的なキャンペーン(**)、様々な魅力あるプログラムを打ち出してきた。プログラムの基本は人とつながること、体を動かしたり物を作ったり、仲間と協働したりすること。学び、趣味、スポーツ、ボランティアなどだ。そうやって楽しい時間を持ち、人と共有することで次第に改善されるという。
当たり前のこと?健康だったらね。内にこもっていると目が外に向かない。自分から踏み出せない人にはちょっとした助けが必要なのである。
(*)The 4th Annual Campaign to End Loneliness Conference - Evenium.net
(**) https://www.campaigntoendloneliness.org/
イギリス凄いなと思っていたら、朝日新聞にはこんな記事が載っていた。
「孤独」が増えた背景には、公的サービスの大胆な削減があるのだという。保守党政権が予算を減らしたせいで
・貧困地域の就学前児童と家族支援のセンター500カ所以上が閉鎖
・家庭内暴力被害者の避難施設の五分の一が閉鎖
こうした施設は孤独の軽減に寄与していたはずで、ガーディアン紙は孤独担当相の設置は「偽善」だと見ている。
いろいろな見方があるものだが、日本ではホームレス問題と同様、自己責任と言われるのではないだろうか。また若いと福祉の網からこぼれてしまう場合もある。それは下の記事を読んで愕然としたことである。
30代でも起こる「孤独死」壮絶すぎるその現場 | 最新の週刊東洋経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
抜粋して引用。
・日本少額短期保険協会が発表した「第3回孤独死現状レポート」によると、2015年4月~18年2月までの孤独死者のうち、50代以下が約4割を占める。
・孤独死の7割以上を占めるのが、こういったセルフネグレクト(自己放任)だ。生活や健康状態が悪化しているにもかかわらず、改善する意欲や周囲を頼る気力がなくなってしまう状態のことを指す。部屋をゴミ屋敷にしたり、必要な食事を取らなかったり、体調不良でも医療を拒んだりして、自身の健康状態を悪化させる。
「緩やかな自殺」との別称もあり、近年は大きな社会問題となっている。セルフネグレクトは誰にでも起こりうる。ビジネスパーソンも仕事に追われ、忙しさのあまりに、気づけば家がゴミ屋敷化したり、食生活がなおざりになっていたりするケースが多い。
猛暑で死亡の背景に孤独
フランスではずっと早くから孤独、高齢者の孤立の問題に取り組んできた。簡潔にまとまった記事があるので貼っておこう。
日本も見習うべきフランスの高齢者の孤立対策「モナリザ」とは? 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)
私たちは、猛暑の夏亡くなる人は暑さのせいだと考える。しかしフランス人はこれを孤独・孤立が原因だと捉える。そのきっかけは2003年の欧州を襲った猛暑で、フランスでは1万5千人が亡くなった。恐ろしい数字だ。その8割が75歳以上だったという。急いで高齢者の孤立を支援する必要がある、ということで全国組織「高齢者の社会的孤立と闘う国民連帯」(頭文字を取ってMONALIZA)ができ、指針をまとめた「モナリザ憲章」を定め、現在700以上の組織が活動しているという。
黄色ベスト運動でもそうだが、フランスでは市民が運動を起こしたり、率先して組織を立ち上げたりが実に早い。政府に提言もし、政策にも影響を与える。
路上死510人の名前を掲載
前回書きそびれたことを一点加えておこう。今年4月にtwitterのタイムラインで回ってきたツイート。
フランスのラ・クロワ紙が、2017年に路上で亡くなった人510人全員の名前を、4ページにわたり新聞に掲載したというもの。
https://twitter.com/CyrilPetit/status/981427450587635713/photo/1
みな名前も人生もあった隣人なのだ。その生きた証をせめて紙面にとどめようとしている。亡くなった人の平均年齢は50歳。男性467人女性43人だった。
みなさんの地域はどうだろうか。東京には労働者の街山谷(さんや*追記)という地域がある。日雇い労働者向けの簡易宿泊所が立ち並ぶところで、ちょっと前に行ってみたら外国人用のゲストハウスに変わっている建物もあり、バックパッカーで賑わっていた。
ここで毎夏お盆のころ、路上で亡くなったホームレスや仲間たちを追悼する式が開かれている。祭壇を作り、遺影を並べて、僧侶がお経をよむ。炊き出しをしている団体が約30年間に亡くなった人の名簿を貼る。楽器の演奏や屋台も出て普通の夏祭りと少しも変わらないそうだ。
今日は終わります。
🌸明日はクリスマスイブ。
オバマサンタさんが話題です。子どもの病院を訪ねたそうです。
https://www.demorgen.be/fotografie/obama-speelt-kerstman-voor-zieke-kinderen-f4024d11/
*追記:マンゴーさんが山谷についての記事を書いていますので貼りますね。
🌸東京新聞朝刊12月23日
追記:2019年2月23日
最近ホームレスを見かけることが少ない理由ー見えにくい住居不安定者の実態ー(藤田孝典) - 個人 - Yahoo!ニュース
引用
彼らはどこに行ってしまったのだろうか。
厚生労働省(2018)によれば、確認されたホームレス数は、4,977人(男性4,607人、女性177人、不明193人)であり、前年度と比べて557人(▲10.1%)減少している。
この数については計測の仕方など不十分ではないか、と疑問が上がっているものの、年々減少傾向にある。
路上で見かける人々は公式な統計でも実感としても減っているらしい。
・・・
ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法によれば、ホームレスとは「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」を指している。・・・
要するに、屋内にいる者はホームレスではないと法的に位置付けられている。・・・
昨年発表された東京都(2018)調査によれば、東京都内だけで約4000人のネットカフェ難民がいることが報告されている。東京都内だけでこの数字である。・・・
追記:4月
2019年東京①
追記;青木さん 2010年の記事
スカイツリーの足元で、ホームレスのケンちゃんが亡くなりました。河川敷の小屋に住んでいましたが、骨折などで生活保護を申請し入院。入院中に保護を取り消され、河川敷で小屋を立て直そうとしたところを区職員にとめられ、荷物を片付けられた翌日、水死体で発見されました。2010年に書いた記事です pic.twitter.com/asgCwlGAwM
— 青木美希 (@aokiaoki1111) May 11, 2019