ラ行の驚き 元号「令和」で思ったこと&「UDデジタル教科書体」がすごかった。

元号「令和」の発表後、私の頭をよぎったのは次の二点。

①まさかのラ行だなんて!ラ行で始まる元号なんて今まであったかしら、と思ったこと。

②「令」か、ほら、問題の字だ!つまり書体によっては同じ字に見えない字のひとつ…。この辺は同じ感想をお持ちの人もいるのでは?

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浮世絵にも描かれた桜の名所飛鳥山(東京北区)。もう葉桜。

ラ行で始まる大和言葉はない。

らりるれろで始まる日本語を思い浮かべてみると、「乱」「理解」「連絡」「老人」「ランニング」など漢語(中国由来)やカタカナ語(英語をはじめとした外来語) ばかりだということがわかる。(もう少し厳密にいうと、アイヌ語、擬音語以外)。このことは日本語学を学ぶとき「日本語の音声/音韻」のところで新鮮な驚きとともに知る事柄のひとつである。

またこれは、朝鮮語アルタイ諸語トルコ語モンゴル語満州語など)に共通する特徴とも言われる。ラ行の音は漢語とともに入ってきて、日本人はその音を受け入れた。朝鮮半島の人々は発音しにくいのでナ行・ア行に変えて使っている。「乱」ナン、「老人」はイン、「李」(苗字)はイ、「林」はイムといった具合。これは語頭の話で、語中ではラ行は発音される。

昔、韓国語などアジアのことばをかじったことがある。日本語について理解を深めたいなら中国語(北京語+広東語)、韓国・朝鮮語タイ語などの言語を幾つか勉強するように推奨されていた。確かにかじっただけでも予想外の豊かな収穫があった。たとえば韓国人はラ行を発音しないのに対し、北朝鮮ではラ行を発音する。韓国人の友人は「あの人たちはいつも力んで発音するからね」と笑ったが、漢語としては正しい発音なのでその方がわかりやすいと思ったものだ。

広東語話者はラ行とナ行が混ざることがある。你好、ニイハオという挨拶はピンインからすればネイホウとなるはずなのに、皆レイホウと言っている。ように聞こえた。香港の学生に確かめてみると、「どちらでも違いがないですよ」。いやいやそれでは困る、日本語の発音においては。バナナをバララと言っては困る。勿論英語も得意な広東語圏の人たちのことだ、気をつければちゃんと発音できるのだが、気を緩めると「難」をランと言っていた。

ちょっと声に出して と言ってみてください。次に と言ってみて。舌の位置は同じ。歯茎にくっついている。ではどこが違うか。「な」は鼻に抜ける音、鼻音である。(鼻音:「ま」や「ん」のような)。「だ」も「ら」「な」と似ている。似た音は外国人でなくても日本人の幼児もよく混同する。

さらに日本語のラ行は、後続する母音によって音が微妙に異なるなど奥が深いのだが、この密林には入らずにおこう。

さて「令和」以前にラ行の元号はあったか。東京新聞元号総覧を貼る。

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東京新聞朝刊4月2日

 霊亀 (れいき)715~717。 暦仁 (りゃくにん/れきにん)1238~1239。 暦応 (りゃくおう/れきおう)1338~1342。3つもあった。

・・・というわけで地味に納得したところで次、書体に移る。

  

明朝体は 好きなのだが 悩ましい

子どものころから明朝体の漢字と普段手書きする漢字との乖離を疑問に感じていた。例えば「北」。左側おかしいでしょ。たぶんテストにあんな漢字書いたら間違いにされちゃうよと思っていた。他にも挙げたらキリがないが、あと三つ書いておこう。「言」「心」そして「令」。

これは日本語を習う外国人(非漢字圏)にとってもやっかい極まりない。印刷界では明朝体の独擅場である。外国人学生が新しい漢字語彙を学ぶとき、書物や新聞の明朝体をそのままなぞると困ることが多い。ゴシック体でも同じ。

昔は聞かれるたびに「それは飾りだからいらない」「こうやって単純に書けばいいのよ」と手書きして教えていた。要領がわかるまでの話だが。

今回「令」はメディアなどで解説があってよかった。

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明朝体と手書きで字形異なる「令」 どちらも同じ字 :日本経済新聞

さきほど挙げた「言」「心」はみなさんもこのように書いていることと思う。

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明朝体→手書き

ついでにいうと、字の一部が変更になるのも(送り仮名が変わるのと同様に)面倒くさいものがある。私は改正後の漢字が書きづらく思えて古い方を使うことが多い。たとえば東京の葛飾区の「葛」。変えた理由もよくわからない。

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先日、JさまJ.パーキンソン (id:PSP-PAGF)から便利なサイトを教えてもらった。一見の価値ありますよ。こちら→「葛」の書き方 - 漢字の正しい書き順(筆順)

日本語学習者に教えてあげたら喜ばれると思う。正直言うと書き順は私もまったく自信がない(汗)。

 

「これなら読める!オレはバカじゃなかったんだ……」

つい最近読んだあるtwitterに涙が止まらなかった。タイプデザイナー高田さんの一連のツイこちら→。https://twitter.com/Yumit_419/status/1113419103077785605

高田さんはUDデジタル教科書体という、教育現場のUD(=ユニバーサルデザイン)書体を開発したグループのチーフである。ちょっと引用してみる。

今日、訪問した支援者の方から「UDデジタル教科書体」に変えたら、今まで文字を読めなかった子が「これなら読める!オレはバカじゃなかったんだ……」と言って、皆で泣いてしまったという話を聞いた。
その話を聞いて、書体が手助け出来たことの嬉しさよりも、その子が今まで背負ってきた辛さ、自分をバカだと思ってしまうほどの切ない体験をどれだけしてきたのかと、今まで放置されてきた書体環境に胸が締め付けられ、タイプデザイナーとして申し訳ない気持ちでいっぱいになった。きっと書体を変えただけでなく、支援者の方が子どもに寄り添い、その子が読みやすい組版を提供したのだろう。…略

まさに「障害は人ではなく社会の側にある」。障害はあの流麗な教科書の書体だったのだ。弱視ディスレクシア(読み書き障害)などの人たちは、書体のデザイン的な要素、たとえば明朝体の横線の三角(ウロコという)などが気になってしかたがないという。また字が踊って見えるのでテキストを動かしながら読む子どももいるそうだ。そしてたいていの場合、文字が小さすぎる。そういった点に配慮した書体、適切な行間は、普通の子どもにも大人にも、老眼鏡が必要な私にも読みやすいものとなる。

私のパソコンにもUDデジタル教科書体が4種類入っていた。書道の筆で書いた風ではなく、サインペンで書いたのに近い。かといってのっぺらぼうではなく、ハライ、ハネなどはちゃんとわかるよう、メリハリがある。ほっとする優しい書体だ。さらに欧文もユニバーサルデザイン書体がいろいろあるという。

www.morisawa.co.jp

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(↑ UDデジタル教科書体で書いてみた。もう少し字を大きくすればよかった)

 

今日はここまでです。

🌸桜の季節も東京はもう終わり。

こちら宇部教会の神父様のツイートです。

 

参考:お薦めします。

品田 悦一(しなだ よしかず)教授の

緊急寄稿「令和」から浮かび上がる大伴旅人のメッセージ

https://docs.wixstatic.com/ugd/9f1574_d3c9253e473440d29a8cc3b6e3769e52.pdf