ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

「日本酒の醸造は中毒のよう」 味噌も作れば酒粕を使ったビールも作るフランス人 -4-

ブルゴーニュといえば

ブルゴーニュといえばワイン、そして美食で有名な土地。美食…ってフランス人みんなそんな風じゃないの?と思ったら違うようだ。昔学生でパリに住んでいたとき、ステイ先の人が話していた。「あそこの奥さんはブルゴーニュのどこそこ出身だからうるさいのよ」「パリの人の食は貧しいわね、なんて言われちゃった」。

ブルゴーニュ産の日本酒を作っている人がいる、”Kura 蔵”というサイトだよと前々から言われていたのだが、去年日本酒関連のエントリを幾つか書いたにも拘わらず、その後は忙しくてほったらかしだった。今年に入ってカマルグ(前回記事参照)で、日本の酒米の栽培を始める(始めた)らしいと聞いて、おもしろいな、どんな人なんだろうと強く興味を引かれた。

するとインタビューが出ているではないか。こちら。

日本酒、 メード・イン・ ブルゴーニュ。 | OVNI| オヴニー・パリの新聞

この人がまためちゃくちゃおもしろい。エルヴェ・デュランさん(50歳)、醸造は中毒のようなもので、情熱は収まることなく高まる一方だとおっしゃる。

本職はエンジニア。日本ではNECで7年働き、つくば市と東京に住み、結婚もし、日本の文化や食、特に麹に深い関心を抱いたそうだ。

フランスに戻り、生まれ故郷の地にもどって日本酒作りを始めた。ついに2013年「酒ソムリエ」( saké sommelier certifié )の資格を取る。そして2年前に自身の会社Kura 蔵を立ち上げた。Fabrique de Saké et de produits culinaires japonais en Bourgogne l KURA

このときはまだエンジニアの仕事をしていたが、今年に入っていよいよ杜氏一本でスタートしたとのこと。

粕を使ったビールも作る。白、IPA琥珀、黒の4種類がある。すべて甘酒の粕とソラチエース(30年くらい前に上富良野町で誕生したホップだそうで、きっとtatsumo77さんがお詳しい)を使っている。

http://kuradebourgogne.fr/wp-content/uploads/2016/03/Herve-200x300.jpg

https://d3v4jsc54141g1.cloudfront.net/uploads/reward_image/image/188532/KdB_HDU_a_Stasuki_201604-1479159188.JPG

写真:Fabrique Artisanale Kura de Bourgogne — KissKissBankBank 

(引用)

蔵では、日本酒づくりの週(三段仕込み。1週間で500ℓ生産)、ビールの週(1500〜2000ℓ)、味噌の週(300kg)と、順番で3つの看板商品を仕込む。日本酒には山田錦ササニシキ、南仏カマルグのジャポニカ種、カリフォルニアのカルローズ。

料理酒には、イタリア北部のポー平野で有機農法でつくられる米を使っている。イタリア米だと玄米酒にも似た濃厚な味の酒になるのだが、これが貝類、鶏肉、ヤギのチーズなどフランスの食材に合うという。 

また料理についての提案もおもしろい。

 「最近の発見は、酒粕とチョコレートの絶妙の組み合わせ」。酒粕スポンジケーキの 「カトル・カール」や、カルボナーラ・スパゲッティ、子牛の煮込み料理ブランケットに入れる。

ムール貝の白ワイン蒸しを、白ワインではなく酒で蒸すムール・マリニエール・オ・サケも気に入っています。白ワインだと酸味が口に残りますが、酒だと旨味が出ていいんですよ」。

どの角度から見ても、話をしていても、この人は食いしん坊だとわかる。彼が運営するKuraのサイトには、こんな酒気香るレシピがどんどん増えている。

インタビュアーも唸らせる、グルメならではの独自なアイディアがいっぱい。料理は HPに紹介されている。

カマルグのジャポニカ米からできる酒がなかなかのレベルだそうで、目指すは100%メイドinフランスの日本酒だという。

また地図を引っ張ってきた。デュランさんの住むポワソンは黄色い丸のところ。

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住所:KURA
Chemin de la Brosse Carrée, Lieu dit Bornat 71600 POISSON

(赤い丸はカマルグ、稲作地帯)

 

フランス人が自分の店で出す料理に合う酒を自分で探す時代

夏に読んだ東洋経済さんの記事がおもしろかった。

toyokeizai.net

今年も6月に日本酒コンクール(Kura Master)が開催されたのだが、去年と違うところ、それはフランス人のトップソムリエが積極的に自分がほしい酒を求めに前へ出てきているということ。つまり日本側が酒を広めるために開催したのではない。フランス人側がこのコンクール開催を望み、審査員を集めてきている。そして自分の店で出す料理にこの酒はどうか、あれは合うかと試飲し、議論もする。

記事によると、この5年間でフランスへの日本酒の輸出量は約2.5倍金額にして3倍以上になっている。注目すべきは日本酒の単価も上がっていることだ。日本料理屋や日本好きなフランス人が買うというより、パリの一流レストランが積極的に料理とのマリアージュを提案し、一皿の料理に純米酒吟醸酒、時には濁り酒を合わせる。それが今や地方のレストランにまで広がって浸透していった結果である。

二つ目は健康志向。たとえばバターや生クリーム、チーズなど伝統的にフランス料理に欠かせなかった乳製品はぐんと減った。和食のアイディアを取り入れる、たとえば旬のもの、素材を生かす、素材を生かすために火の入れ方も変える…ということで「備長炭を使った炭火焼き料理」もかなり広まっているということだ。

それから「酸味」。これは意外だ。ドレッシングならわかるがフランス料理は日本やアジアの食のように酢は使わなかったからだ。これも軽さ、ヘルシーさを追求してのことだろう。

三つ目、料理が変われば合わせる酒も変わるのである。フランス人は料理やデザートにまで飲み物を合わせる。たとえば

(引用)

ずっと昔からフランス人も愛してきたアスパラガスは、まさにワインに合わない素材の代表格で、アスパラギン酸とワインがケンカをしておいしく味わうことができない。

硫黄臭いフランス流のゆで卵やマヨネーズ、魚卵やくんせい、辛みのある素材やヨード香を持つ海藻なども、ワインとともに食してもまったくおいしさを加速させないどころか、むしろ食材のクセを強調してしまう。

しかし、日本酒はもともと苦みを含む野菜との相性がよく、ハーブを多用した料理とはなじみやすい。もちろん、干物や魚卵などは典型的な好相性素材だ。近年、フランス料理に多く取り入れられている生姜、わさび、山椒、それにクミンなどのスパイスとの相性もよい。海苔などヨード香を持つ素材とケンカしないのは、日本人ならば誰もが知っている。…

*記事は長いですが、興味のある方は読んでみてください。

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 (写真は記事からお借りしています)

 

酒めぐり in パリ

もちろん一般のフランス人も日本酒を飲む。こちら↓オブニーさんの記事を読んでワクワクした。

パリで日本酒。Tour des sakés à Paris | OVNI| オヴニー・パリの新聞

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今年2018年は日仏友好160年で、ものすごくたくさんの、あきれるほどたくさんの催し物がある。そのなかでこんな楽しい飲み歩き的なイベントも。パリのレストランやバーが日本の蔵元とペアになり、その蔵元のお酒とそれにマッチした一品を提供するというもの。参加する店は24軒で星付きのフランス料理店からベトナム創作料理店までいろいろだそうだ。すっごく楽しそう。新しい発見や人との出会いがあるだろう。

今日はここまで。

 

🌸先日のコメントでビーガンなど菜食主義に触れた方いらっしゃいましたが、今はフレキシタリスム(Flexitarisme)、フレキシタリアン(人)ってのもありますね。緩やかな菜食主義者(別名:ゆるベジ)のことで、無理せずにできるだけ肉や魚を食べないようにする。しかし外で人と食事したりパーティに招かれたりしたときは、雰囲気を壊さないように周りに合わせるというものです。これは知恵ですね。

ではまた!

 

メモ:フランスのテレビに出演

 仏TVfrance3 2017年10月3日

レポーター: François-Marie Lapchine
蔵のオーナー:Hervé Durand, fondateur de Kura de Bourgogne
杜氏:Adrien Cuffaro, brasseur de saké

www.youtube.com

デュランさん(真ん中)杜氏のキュファロさん(左)とインタビュアー。

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ビールの写真:Kura De Bourgogne à Vendenesse-lès-Charolles - Locavor.fr

追記:twitterから。個人メモ。