岡上淑子「沈黙の奇蹟」展 報道写真と50年代ファッション 展覧会-2- 

前回岡上淑子フォトコラージュ「沈黙の奇蹟」展 糊とハサミと洋雑誌と。展覧会-1- の続きです。

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『天性』1951年 The Third Gallery Aya - Artists 岡上淑子 BIOGRAPHY

 

戦禍と天災

 岡上淑子についてはほとんど前知識なく展覧会に行った。頭部が物に置き換わっている女性がよく登場する。写真のコラージュをする。…この程度の乏しい認識で行った。

彼女の生きた戦時、戦後の日々を考慮に入れなかったから、さっそくガツンと頭を殴られる事になる。1928年生まれだった。私の母よりちょっと年上。多感な時期と楽しい娘時代はみんな戦争に持っていかれた世代。大空襲のあと、がれきと焼野原の渋谷付近を、ひとり自転車をおして友人を探す強烈な体験がある。

前回、瀧口がマックス・エルンストの画集を岡上に見せたところまで書いた。エルンストの『百頭女』に影響を受け、岡上はそれまで単色だった背景(例:上の作品『天性』)に様々な写真を使い始める。

進駐軍の置きみやげのグラフ誌にはおびただしい数の報道写真が載っている。岡上は背景として、戦争で荒廃した町や侵攻する兵士たち、戦闘機や落下傘部隊などの写真を使う。あるいは干ばつで動物の死骸が転がる荒涼とした土地、荒れ狂う海や洪水なども重要なモチーフである。

そこに、イブニングドレスや宝石を身に付けた、西洋人美女たちの優美な肢体を切り貼りする。この相反する要素が緊張感に満ちて同じ空間におさまり、うまくバランスを保っている。

つづけて見ているうちに不思議な快感すら覚える。岡上の独特なセンス、ブラックユーモア、幻想の世界に嵌ってしまうのである。切り刻まれたパーツに深刻な残虐さはなく、メッセージがあるわけでもない。え、そう来る?と奇抜さにニヤリと笑ったり、ああそういう時代だった、と当時の世界情勢を振りかえってみたり、で予期せぬおもしろさが溢れている。

戦後の混乱、復興期、核・水爆実験、大災害など、20世紀の歴史のひと時代がコラージュの中を流れていて、こちら21世紀からのぞき込むと(惨禍を生きた人々には申し訳ないが)新鮮で驚きである。『廃墟の戦慄』という作品の背景は、1948年の福井地震だということだ。その甚大な被害をLIFE誌が大きく報道しているのだ。

コラージュ作品を見に来て歴史を振り返るとは思わなかった。

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『予感』1953年

 

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『はるかな旅』1953年

https://www.cinra.net/news/gallery/19531/2

 

「沈黙の奇蹟」

岡上淑子は約7年の間に140点ほどの作品を制作した。今回の展覧会にはヒューストン美術館にある12点も来日した。 制作から半世紀を経て、再評価と称賛に包まれている。展覧会場には外国人のお客さんも多かった。

最先端の50年代ファッション、ディオールバレンシアガのドレスも展示されていて、邸宅(=庭園美術館)の雰囲気にしっくりとマッチしていた。岡上だけじゃなく、私たちだってハリウッド映画に出てくる女優たち、そのファッションに憧れていた。しかし、岡上が洋裁の勉強をしていた時期は圧倒的に物資が不足しており、光沢あるサテン地やチュールレース、襞をたっぷりとった贅沢なドレスは、憧憬や羨望の的だったろう。私はジバンシーのドレスが好きだ。ココ・シャネルもいい。岡上さんは誰のファンだったんだろう。

さて展覧会のタイトル「沈黙の奇蹟」というのはこれです。

私の好きな作品のひとつ。岡上の作品は全体的に「沈黙」よりむしろ「饒舌」だと思うけれど。(解説・コメントはつけません)

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『沈黙の奇蹟』1953年 写真:公式カタログより

写真が見づらくて申し訳ない。

他にも好きなのはいろいろあるが、最後に楽し気な作品をひとつだけ紹介しておこう。

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『陽気なリズム』1952年

椅子、テーブル、帽子や瓶、人間の足、給仕の男性など・・・登場するパーツたちの適正な大きさを見つけてくるのがすごいなと思っている。椅子は壁に影が写っているからあそこに掛かっていたんだろうか。おかしいな。あれこれ考えるのも楽しいし、自分でも何か試してみたくなる。

岡上淑子展はこれで終わります。

 

*『予感』『沈黙の奇蹟』『陽気なリズム』の写真は公式カタログ岡上淑子 フォトコラージュ -沈黙の奇蹟- | 青幻舎 SEIGENSHA Art Publishing, Inc.よりお借りしました。

この青幻舎の作ったすばらしいカタログに感激!苦心のようすがTwitterに見えるので貼っておきます。 

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🌸チラシ

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ではまた~。次回は毛色の変わった展覧会を紹介します。

 

追記:こちらのかたの記事、充実しています。ぜひ!

casabrutus.com