イノシシ、食べますか?
私は食べたことないんですが、ヨーロッパ、特にフランスやベルギーではいわゆる「ジビエ料理」として人気の高級食材です。ジビエ (gibier)というのは狩猟肉のことで、畜産肉との対比で使われるフランス語です。動物ではシカ、クマ、イノシシなど。イノシシは日本でもぼたん鍋(猪鍋)として有名ですよね。ですが、今日は珍味やグルメの話ではなく、これを読んだら食べる前に考えるようになるかも、という話です。
フクシマのイノシシ
先日、この1枚の写真が世界中、といっても過言ではないほど、各国のメディアで紹介されました。
この福島のイノシシを撮ったのはロイターのカメラマン花井亨さん 。Toru Hanai(@toruhanai)さん | Twitter
ロイター3月8日付の写真で、福島県浪江町の路上をさまようイノシシです。あの大震災以来、人の消えた町や田畑はイノシシにとって格好の住み家となり、山から下りてきた多数のイノシシによって荒れ放題になりました。その数、何千頭、いえ万の位にも達したほど大繁殖です。
そして避難指示が解除されて、町に戻った人、これから戻りたい人にとっても脅威となっており、実際に襲われたりして負傷者が出るなど大変危険ということです。罪のないイノシシにとっては災難ですが、人間は対策を講じることにしました。猟友会の人たちが捕獲隊を結成して、罠をかけて捕らえる。そしてすべて撃ち殺すのです。カメラマンの花井さんはその様子を静かにカメラにおさめています。
Wild boars overrun deserted Fukushima town | Reuters.com
その後イノシシを焼却するわけですが、これがまた大問題。イノシシが100㎏以上あって重いから? それもありますが、汚染された作物や野山の恵みを食るイノシシもまた汚染されているのです。放射性物質の拡散を防ぐ特殊な焼却施設がどうしても必要でした。
去年相馬市にイノシシ専用の焼却炉が完成、イノシシの体内にある放射性セシウムをフィルターで99%以上回収できるといいます。でも1日にたった3頭しか処理できないんですけどね。福島)相馬にイノシシ専用の焼却施設、1日から稼働:朝日新聞デジタル
チェルノブイリから30年たってもいまだに欧州では・・・
福島だけの話じゃない。ドイツやスイス、イタリア、チェコ共和国でも同様のイノシシ問題があります。イノシシだけじゃなく他の動物、ノウサギやシカなどもそうです。
1986年のチェルノブイリ原発事故からもう30年もたっているのに。いや、30年くらいじゃ消えないことは頭ではわかっているんですが…。
1月にはチェコからもこんな報道が。(下の記事、2紙)
イノシシはキノコを好んで食べます。チェコの山地でもキノコがセシウム137に汚染されているとありました。チェコではイノシシ肉でグラーシュ(シチューのようなもの)を作って食べますけど、当然こうした野生のイノシシはもう食べられない。もちろん肉は流通させていない、と断っていましたが。
Skoro půlka divočáků na Šumavě je radioaktivní. Může za to Černobyl | Blesk.cz
(チェコ語)
ドイツではザクセン州やバイエルン州などで、数年前からイノシシから高い放射能レベルが検出されているようです。毎年記事が出ており、ドイツ人がしつこく調べているようすがわかります。向こう50年はまだ影響が残るということです。
あの日
チェルノブイリ原発事故は1986年4月26日でした。今でもその知らせを聞いたときのことは忘れない。福島のときと同じように。
なぜならその1か月前に私は(幸いなことに)子供を連れてフランスから帰国しましたが、夫がまだフランスに残っており、とても心配だったものですから。
放射性物質は空中を舞って、ヨーロッパ各国を汚染していきました。低線量の被曝も含むと、ほとんどヨーロッパ全土が包まれたことになります。
心臓が弱い人は見ない方がいいと思いますが、
youtubeにグラフ画像があがっていました。
Accident de Tchernobyl: déplacement du nuage sur l'Europe (26 avril - 9 mai)
(セシウム137を含む雲の動き。1986年4月26日~5月9日)
スイスのティチーノ
地図の赤いピンがチェルノブイリ、オレンジで書いた場所がティチーノ。
http://wp.radenviro.ch/?p=1447&lang=de
http://www.raonline.ch/pages/edu/bio2/tscherno0104.html
あの事故のあと、わがやでは「もうイタリアのスパゲッティは食べられなくなるね」などと話していたものです。
しかしスイスのティチーノ州では今なおその影響が残っているそうです。こんなに離れたスイスやイタリアで…というところが恐ろしい。
まずいことにティチーノにはあの日、あの事故のあと、雨が降り出しました。放射性物質を含む汚染された雲から。雨は土壌を汚染し、農作物を汚染していきました。
調査によると土壌中のセシウム137の測定値は、ティチーノで、スイス北部などと比べて100倍以上の高さを記録しました。
すぐにスイス当局は、放射能の影響を受けやすい子どもや妊娠中の女性の保護に動きます。食品摂取に関する指導を徹底し、食べ物からの被爆を防ごうとしました。
2017年の現在もティチーノ州やその近隣ではセシウム137が測定されているといいます。あの豊かな森の中の地面に残っていて、そこに生えたきのこや動物の内部に蓄積されるのです。美しい池にも影響が出ている。でもそれはチェルノブイリ原発事故だけでなく、1960年代の核実験も原因だと言われているそうです。しかし、スイス国民で甲状腺腫瘍等が増加した事実はないということです。少しほっとします。
ウクライナの惨状は本当に気の毒で言葉もないですね。ウクライナ、ロシア、ベラルーシでは4000~5000件の甲状腺癌が発生したといわれています。
あの1986年から原発に対する意識も変わりました。よくイノシシ画像を見るのでまるでシンボルのようですね。
ドイツのメディアから当時1986年の写真を拾ってみます。
フライブルク125カ所の遊び場で砂を調べている
東ヨーロッパから来た車を調べている。東欧からの製品には高い放射線が検出されることがあるからだという。
ベルリンにて。南ドイツからの野菜を廃棄している警官。
化学者が野菜を検査
町に繰り出し、原発廃止を訴える市民。
バイエルン州の農民のデモンストレーション
緑の党の人たち。
ざっと1986年を振り返ってみました。
また英語や仏・独語でもたくさん記事が出ています。
これはオランダ国営放送のweb版です。
続き:チェルノブイリから30年、石棺で覆われて&成熟した国スウェーデンの防災マニュアル-2-追記:2018年現在 - ベルギーの密かな愉しみ