ねずみの嫁入り
みなさん、ご存知?
ひとことで言うと「ねずみの婿選び」のお話。ああそれ、子どもの頃読んだわ、という人なら、2017年の東京大学文科の国語第三問(漢文)は、問題を読まなくても全問楽勝だったろう。
入試後の解答例を見ると
《出典》劉元卿『賢奕編』
と書いてある。こんなの知らないなと思うかもしれないが、ちょっと問題文を読んでみればわかる。なあんだ、「ねずみの嫁入り」みたいな話だと。このタイプの話(累積譚)は、日本や中国だけでなくアジアの国々、そしてヨーロッパにも存在する。だが、今日は東大入試の話題じゃなくて、前回に続き「ジェンダーやセクシズムについて考える」のテーマである。ちょっと簡単に「ねずみの嫁入り」の筋をチェックしておこう。
上の絵本はフランス版で”La plus mignonne des petites souris”『一番きれいな小ネズミの娘』(フラマリオン社、1953年)。1953年だけあってレトロな雰囲気がいい。
( 表紙の左側、日焼けして色が飛んでいる^^)
(最初のページ。右が娘ネズミ。ダンスも編み物も上手な美しいお嬢さん。 )
年頃の娘にいい婿を、それも最強の婿を見つけてやりたいと願う父ネズミが婿探しの旅に出る。太陽に自分の娘をめとってくれないかと頼むと、太陽は自分をさえぎる雲の方が強いと言う。雲のところへ行くと、いや風の方が強い。その風は言うのだ。いや、違う。自分がいくら吹き付けてもびくともしない壁の方が強いと。しかし壁はこう言う。自分を齧るネズミの方が強い。・・・というわけでネズミのお嬢ちゃんは、そこにいたネズミの若者と結婚するのであった。
フランスでは「壁」が「塔」になっていた。
先の漢文(明の時代らしい)では、書店のオーナーが飼い猫の名前を客のツッコミに応じて変えていくというもの。元は虎猫という名前だった。だんだん変わっていって、「風猫」→「塀猫」→そして一番強いネズミ、すなわち「鼠猫」と落ち着く。
あなたのお子さんをセクシストにしないための絵本選び
海外在住の方に教えてもらった興味深いリストがある。「あなたの子どもをセクシスト(性差別者)にしないために避けたい絵本(児童書)」というリスト(フランス語)。https://www.senscritique.com/liste/Conditionnement_sexiste_des_le_plus_jeune_age/1273322で、リストの4冊目がこれだった。
え~、ショックだなあ。絵が可愛くてすっごく気に入っているし、うちの子どもたちも当時ハムスターを飼っていたこともあってこの本が好きだったのに。昔話なんだからそんな目くじら立てることないでしょ、と私は思う。
しかしジェンダーの平等や反セクシズムについて、海外ではかなりまじめに論議されているようだ。だから、いつか素敵な王子が現れて幸せな結婚をするだの、美貌と知恵でカッコいい男を引き寄せる、なんてシチュエーションは今やありえない。つまり昔話や童話、ディズニーアニメの中に登場するヒロインのような類型は忌避され、時に攻撃される。
固定化したジェンダー概念を植え付けないように子どものときから注意して教育すべきだ。仮に、その類のお話を読んだり見たりする場合にも親のフォローが大切だという考えが主流だ。
男女を殊更に分けない、性別による役割分担(家事や職業)を固定しないというのは基本中の基本である。両親が協力し合って家事や学校などの送り迎えをやっている。そうした文化圏から旅行で来日した子どもは、テレビをちょっと見ただけでもビックリするらしい。
いわく
おうちにはお母さんと子どもしかいない。家事は全部お母さんがやっている。お父さんたちは仕事帰りにいつも居酒屋で呑んでいる。
おっしゃる通り。よく観察しているな、子どもは正直だなと笑うしかなかった。
去年、海外在住のかたが言っていた。外国人の夫がもう「雛祭り」をやめたいと言う。女の子を特別扱いするのはおかしい。ジェンダー平等の視点から「子どもの日」を祝えばじゅうぶんなのではないか。ここは日本ではないんだし。
それまでは雛祭りを祝っていたという。日本の実家から雛人形のセットが送られてきていたからだ。どんな子供に育てたいかは親が話し合って決めることである。そこに、暮らしている社会の考え方、時代の潮流というものが反映される。小学校からジェンダー平等に配慮した教育や取り組みが行われているヨーロッパの国々では当然のことだろう。
一方でそのお宅では、皆で着物を着たり、お雑煮を食べたり、日本語のかるたで遊んだりもするそうだ。片方の親の持つ文化も尊重しつつバランスをとって暮らしているという。
(写真:ピンタレスト。可愛いね)
エンターテイメントを楽しみたいだけ・・・。
先日、SPYBOYさまが映画『アリー/スター誕生』のレビューを書いていて、楽しみながら読んだ。
(一部引用させていただきました)
貧しい女の子が王子様のような男と知り合い、歌手や映画スターとして一躍 スターダムにのし上がるが、それとは反対に男は落ちぶれていく。
今こういう映画が作られることは『女性を取り巻く差別はジュディ・ガーランド、いやバーブラの時代からすら、変わっていないことを告発している(嘆息)』という考え方もある・・・
この映画のことではなく、時々批評の中に「セクシズムを助長する」とか「フェミニズムからの批判」といった文言を見ることがある。主張はよくわかるが、ちょっとイラっとする。そういった視点の欠如を責められているように感じるからだ。
『スター誕生』などはこれで5回目のリメイクだそうだ。それぞれ音楽映画として素直に楽しめばいいじゃないかと思う。私はバーブラ・ストライサンドのファンなんで、映画もバーブラも今でも大好き。A Star Is Born (1976 film) - Wikipedia
Remembering when 'A Star Is Born' with Barbra Streisand filmed in Arizona
映画のLPレコードも持っている。バーブラはパンタロンスーツを着て歌い、すごくカッコよくて、今から見るとよっぽどフェミニズムだったなと思う。時代だな。
レディ・ガガもきっとすばらしいだろう。ストーリーは固定されて変わらないんだから演技や細部、歌が楽しめる。近いうちに必ず見にいこう。
王子様との結婚は もはやお伽話ではない。
フェミニズムの行き過ぎはどうも…などとぶつくさ言っているこの私でも、2019年の今現在、この映画のポスターを改めて見るとしばし考えざるをえない。
女性のコスプレが「プレゼントの箱」って!大丈夫なのか、フェミニズム的に?セクシズムの観点からは?
これはたった10年前のオランダのラブコメディ映画Alles is Liefde (film) - Wikipedia。そのあとベルギーがリメイクした。ストーリーは同じで、両国とも人気俳優が勢ぞろいで大ヒットし、私は2008年にオランダの方を見た。
デパート勤めの主人公、庶民の娘(オランダを代表する女優カリス・ファン・ハウテン - Wikipedia『ブラックブック』や『ワルキューレ』など。『ネコのミヌース』は以前マミーさんmamichansanがブログに取り上げていた)は、すてきな王子様が現れるのを夢見ている。そしてホンモノの王子と出会うというストーリー。ちょっとことわっておくと、オランダに限らずヨーロッパの王室は王子が何人もいる。将来王位を継ぐ長男でなければ、けっこう普通の(奔放な)生活を送っている。
え、そんなつまんなそうな映画を見にいったの?とみなさん思うかもしれないが、大ヒットの理由はちゃんとあるのだ。舞台は「シンタクラースの日」シンタクラース - Wikipediaこれはオランダ人とベルギー・フランダース人が一年で最も楽しみにしている、クリスマスよりも大事なビッグイベントの日だ。その一日のあいだに、複数のカップルの愛の物話(同性のカップル含む)が並行して進み、テンポの良い楽しいラブコメディにしあがっているのだ。
まあ、よく考えてみれば現代の欧州王室はすごく開かれているから、王子との結婚はお伽話でもなんでもなくて、現実的な話だった。オランダやベルギーだけでなく、スペインだってイギリスだって王子たちは外国人の普通の市民だった女性と結婚している。
現在のオランダ国王ウィレム=アレクサンダーは、オリンピック会場で知り合ったアルゼンチン人の女性マクシマ・ソレギエタと結婚した。2002年のことだ。
話はそれるが、その頃のオランダ人の質問は今でもよく覚えている。
「今オランダで有名な外国人は二人いるんだけど、誰でしょう?」
私はわからなかったので「外国人?誰だろう?」と降参した。
「マクシマとシンジ・オノだよ」
ああ、しまった!と思った。二人とも話題の人だから知っているもなにも、私は小野伸二のファンなのに。そうそう、小野は浦和レッズからオランダのフェイエノールトに移って1年目。ボランチに定着して公式戦42試合に出場し、大活躍した。
皇太子ウィレム=アレクサンダーとマクシマさんが結婚したその2002年は、フェイエノールトがドルトムントとのUEFAカップ決勝戦を3-2で制し優勝した。
この年フェイエノールトの中盤には、ロビン・ファン・ペルシやヨン・ダール・トマソン(デンマーク。ギアさまsinsintuusinが詳しい)がいて、実に華やかだった。
小野伸二はオランダ語もすごく上手だった。あれは才能なんだと思う。また、高校生くらいですでに老成した雰囲気をかもしていて、不思議な人だったなあ。懐かしい。
今日はここまでです。
🌸「 ジェンダーやセクシズムについて考える」の-3- に続く。