タンポポの綿毛の飛んだところ『この世界の片隅に』熱烈応援中 追記:アヌシー国際アニメーション映画祭 長編部門の審査員賞に輝く㊗

 みなさま、映画もうご覧になりましたか。 

熱烈応援 フランスでも

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 過去ログ(封切り前、記事を2本書いたことがあります)

『この世界の片隅に』 記憶の器として生きる-1- - ベルギーの密かな愉しみ België-fan

『この世界の片隅に』 記憶の器として生きる -2- - ベルギーの密かな愉しみ België-fan

 封切り後3日目に見てきました。

作品のすじを極力言わないように感想を書くのは、まったく私の手に余ることですが、ちょっとどうしても宣伝したいと思っています。できるだけ多くの人に足を運んでもらいたくて。

 私のブログはご存じのように、主にベルギー・オランダ・フランスについて書いています。前にフランスにおける漫画・アニメ事情(*)をシリーズで扱いましたが、それ以来、新しい情報を得るためにあちらのTwitterも時々チェックするようになりました。

日本アニメ・マンガ カテゴリーの記事一覧 - ベルギーの密かな愉しみ België-fan

 なので、まずフランス情報。

Olivier Fallaix氏のTwitterによると、この映画は、来年春公開予定です。(*)

この人は日本のアニメと漫画の専門家で、とても有名で生き字引みたいな人です。この人の情報をもとにメディアは記事を書いているようです。クレヨンしんちゃんのアイコンが笑えますが、 Fallaix氏の11月15日のツィートはこちら。 

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記事と予告編はこちら。

www.mangamag.fr

参考までに Fallaix氏は、1991年フランスで初めて、日本の漫画・アニメに特化した月刊誌『アニメランド』を創刊した人としても有名です。我が家でもフランスで雑誌を買ったことがあります。

(下は雑誌サンプル)

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                     追記11/27:『アニメランド』

 

 もうひとつ参考までに

この世界の片隅に』の監督 片渕 須直(かたぶち すなお、1960年大阪府枚方市生まれ。)氏はすでにフランスではコアなファンがいる存在です。『BLACK LAGOON』(ブラック・ラグーン http://www.blacklagoon.jp/の監督として。

 

追記:2017年6月13日 片渕監督は現在フランス、アヌシー映画祭へ。

この世界の片隅に』上映の様子。

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Olivier Fallaix (@OlivierFallaix) | Twitter

フランスでの公開は9月13日だそうです。

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MORGANさんレポート。

http://aftermangaverse.net/2017/06/12/fifa-2017-lundi-rude-mais-bon-debut/

Dans un recoin de ce monde (long métrage) – AfterMangaverse.net

 

6月18日 片渕監督 受賞おめでとうございます!

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6月18日追記ここまで。

 

 

この世界の片隅に」株にまで影響 

テアトル株、ストップ高 「この世界の片隅に」ヒット :日本経済新聞

 22日の東京株式市場で、映画館運営や映画配給を手がける東京テアトルの株価が商いを伴って急上昇した。朝方から大きく値を上げ、制限値幅の上限(ストップ高水準)となる前日比50円(38%)高の182円で取引を終えた。同社が配給する新作映画「この世界の片隅に」の人気をはやした買いが膨らんだ。

 「この世界の片隅に」は、11月12日から上映が始まった。観客動員数は21日までに12万6200人に達した。興行通信社の調べによると、前週末(19~20日)の観客動員数ランキングでは10位。上映館数が68にとどまる小規模上映として異例のヒットになっている。

 同社が運営するテアトル新宿(東京・新宿)では連日、立ち見も出る盛況ぶり。多数の映画館から上映の申し出が相次いでいるといい、今後は上映館数が増える見込みだ。「観客動員数は当初目標の2倍にはなりそうだ」(同社)という。

 買いの中心は個人投資家などの短期の値幅取りとみられる。業績の大きな上振れにつながるヒットになるかどうかが株価上昇の持続力を左右しそうだ。(全文引用しました)

 

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 おすすめ映画評

SPYBOYさまがすばらしい映画評を書いていらっしゃいます。

ぜひぜひ!!

d.hatena.ne.jp

私は女子目線で見た感想を書いてみます。

1.ふつうの暮らしがいとおしい

戦争の日本アニメというと、 『火垂るの墓』が真っ先に思い浮かびますが、私ははっきりあれが苦手です。後味が悪すぎてやりきれないので、二度と見ません。ところがあのアニメ映画、フランスはじめヨーロッパでは軒並み高評価だったのです。フランスではその後、原作者の野坂昭如氏の小説やエッセイ(『吾輩は猫が好き』)まで翻訳されたし、亡くなったときは各紙に一斉に訃報が載るくらい、野坂氏は有名人でした。 

この世界の片隅に』は全然違います。戦争がテーマとは思えないくらい、とにかく笑います。クスクスどころか大笑いで、笑いながらハンカチで涙をふくことになります。戦時下とはいえ、人々は暮らしていかなくてはなりません。市井の人々の暮らしや食生活などが詳細に描き出され、2016年の私たちから見ると新鮮な驚きです。時代考証の徹底ぶりに脱帽!

主人公すずの回りには、ほんわかした和やかな空気が漂います。いわゆる天然キャラのおっとり娘。声優のん(あまちゃんの女優)の声がピッタリはまっていました。

すずの心の優しさは人間だけじゃなく、鳥(ここではサギ)などにも向けられ、アッシジの聖フランチェスコじゃないけど、きっと話だってできるにちがいありません。サギは何度も出てきて、その中に印象的なシーンがあります。(映画館で見てね)

すずは18歳で、広島の江波から呉に嫁入りし、新しい生活環境、とりわけ戦時下の困難に立ち向かいます。それがまた実に楽しそうなんです。食料も物資もない窮乏のなかで。身構えるふうもなく、どんな状況もすべて受け入れる。そして工夫をこらして心を尽くして、家族のためにとにかく明るく健気に働く。この「けなげ」ということば、久しぶりに使いました。 

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なぜ呉に来たかというと、夫(周作)が子供時代に、一度すずと偶然広島で会ったことがあって(映画を見ればわかります)、名前もちゃんと覚えていて「あの娘を嫁に」と望んだからです。まだすずはこのときそれを知りません。

そんな知らない人と結婚だなんて、現代からしたら仰天ですが、写真だけで海を渡ってブラジル移民のもとに嫁ぐケースもたくさんあった、そんな時代のこと。自らは何も選べなかった時代、女性は特にです。タンポポの綿毛のように、舞い降りたところで根付くしかないのです。

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幸い、周作もその両親もいい人たちです。そこに夫と死別した義姉、娘の晴美が加わった北条家の生活、それが抑えた色合いの画で展開していきます。原作のこうのさんの絵もパステル調で淡く柔らかいので、その路線を守っています。

 

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(昭和19年4月17日、改装が終わったあと、10日に出航して、伊予灘での海上公試を終え、呉に帰投してきた大和。)

 

そんなふつうの生活の対極にあるのが戦争。究極の暴力です。パステルカラーは消え、灯火管制の薄暗い部屋、真っ暗な防空壕、黒々と編隊を組んだ爆撃機などが登場してくる。降り注ぐ焼夷弾や時限爆弾、民間人に向けた機銃掃射が人々の暮らしを次々と破壊し、命を奪っていく。すずも無傷ではいられない。大切な人たちも亡くします。

そして観客の私たちはみなわかっている、あの日が来ることを。だからドキドキする。

呉とは違って広島にはそれまで空襲がなかったため、すずが里帰りする計画が持ち上がる。だめ、すずちゃん、行ってはいけない!と観客の皆が心の中で念じるところです。

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2.耳ふさげ 口開けえ 目え飛び出るで

小鳥の囀るのどかな日常から一転、戦争の現実を見せつけられるのは、なんといっても大音響によってです。これが漫画の本と違うところ。わかっていても思わず首を縮めてしまうほど、音響効果は凄かったです。映画館が本当に揺れているんじゃないかと思ったほどでした。大気をつんざく爆音と空襲警報の日が続き、夜も眠れなくなります。

敵機の爆弾も降りますが、日本側が迎撃する高射砲の砲弾が上空で破裂して、その破片もバラバラと降ってくるのです。屋根にも突き刺さります。

「耳ふさげ 口開けえ 目え飛び出るで」

これは漫画の中にあるセリフですが、今年3月、ベルギー滞在中の連続テロのあと、何度もこの表現を耳にしました。テロ現場に居合わせてもし爆発が起きたら、すぐ耳を塞いで目をぎゅっと閉じ、口を開けること。こうしないと眼球が飛び出て鼓膜が破れるから、ということでした。自分でも何度も練習しました。そんなこともあって、映画の空襲の場面が本当に身近に恐ろしく感じられました。

 

3. 「青葉いうたら 重巡洋艦ですね」

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これは小学入学前の晴美(義姉の子)がいうセリフです。すずの幼馴染の水原が訪ねてきたとき「わあ ほんまの 水平さんじゃ!」と大喜び。晴美は軍艦に詳しくて、すずにも教えてくれる。段々畑の高台から見る呉軍港は、壮観な眺めです。

戦艦などのリアルには感心しました。「艦これ」ブームもあり、最近は私もちょっと知っています。レイテ沖海戦に参加した利根(重巡洋艦)や、戦艦大和をすずがスケッチするシーンも出てきます。

 

4.友だちのリン

女子目線で言わせてもらうと、映画ではリンの話がよく見えなくて残念に思いました。映画監督は男性だから、ですかね。もちろん、何もかも詰め込むわけにはいかないのはわかっているんですが…。 

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(昭和20年の春、桜の木に登るすずとリン)

すずのただ一人の友だちで、漫画三巻を通して出てくる女性リン。

呉に来たばかりのすずは、ある日道に迷って遊郭のある地域に入りこんでしまいます。そのとき「二葉館」の前にいたリンがすぐ道を教えてくれるのです。(事情がわかると、あっ、と思う場面です。映画館でどうぞ)

すずの洋服(アッパッパという簡単服)から広島出身なのを見抜きます。なぜならその服の柄はまえに広島で流行ったものだから。自分も広島出身だもの。あはは。

二人は笑って気持ちが通じあいます。このへんの会話がいかにも女子らしい。そのあとすずが食べ物の絵を描いてあげることで、二人はすっかり仲良しになります。

このとき私はほっとしたのです。ああ、友だちができたなって。というのもすずはこのとき、呉の生活に馴染もうと孤軍奮闘している最中で、大好きな絵を描くひまもない(したがって夫も家族もすずは絵がうまいことも知らない)、話し相手は主に小さな晴美だけで、孤独を感じていたところだったから。

リンの事情は次第に明らかになる。スイカの思い出、アイスクリームの思い出…。リンは話の最後まで重要なキャラクターです。作者こうのさんは漫画のなかで、二人の心の揺れ動きを細やかに描いており、大した力量だと思いました。

リンは、遊郭で病死した友の口紅をすずにくれます。すずの唇に塗りながら「みな 言うとる。空襲に遭うたら キレイな死体から早う片付けて貰えるそうな」。

リンのセリフは名言集が作れそうなほどいいんです。

「誰でも何かが足らんぐらいで この世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ」

すずがその後何度も噛みしめることばです。 

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片渕監督のコレクションより。昭和初期のおしろい粉。直径 8 セ ンチくらい。デザインがとてもいいですね。すずがおしゃれしようと、顔を真っ白にするシーンがあります)

 

5.タンポポの綿毛の飛んだところ

シロバナタンポポは西日本に多いそうですね。タンポポは重要な位置を占めています。

すずと周作が段々畑の段に腰をおろし、愛宕雪風など港の船をみている場面。周作は白いタンポポの中に黄色いのを見つけて摘もうとします。

すず「あっ 摘まんでください」そして「遠くから来とってかも知れんし・・・」

綿毛に自分を重ねてみるすず。そのあとも自分の居場所について自問を繰り返します。しかし映画の終わりは明るい希望に満ちたものです。

「ありがとう。この世界の片隅に うちを見つけてくれて」

 

6.タイトル

さいごに「この世界の片隅に」タイトルの翻訳について考えてみます。

英語は ”In This Corner of the World” 

This と強調するんですねえ。興味深いです。すずが「ここで生きていく」と決めたこの場所、すずの居場所、すずの「世界の片隅」です。

フランス語を見てみると、”Dans un recoin de ce Monde”

不定冠詞unとすると、どこか不特定の場所となります。違和感がありますが、さらに次のrecoinでますます首をかしげてしまう。recoinは「すみずみまでくまなく探す」というときの「隅っこ」という感じがするから。これはネイティブに、それも一人じゃなく複数人に聞いたほうがいいでしょう。そのあと ce Mondeと続く。「この世界」です。英語のように定冠詞ではなくて。ああ、そうか、フランス語訳は日本語オリジナルを直訳したことがわかります。

「この・世界の片隅に」なのか「この世界の・とある片隅」なのか。

みなさんも映画を見たあとで、タイトルの意味についても考えてみてくださいね。

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英語版予告編

www.youtube.com

フランス語版予告編

www.youtube.com

  

ここから個人メモ

アヌシー国際アニメ映画フェスティバルへ。

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アヌシー国際アニメ映画フェスティバル (2017年 6月 13日 ~ 2017年 6月 17日 http://jp.france.fr/ja/events/124539

プロと一般の観客に世界の優れたアニメを紹介する映画祭として1960年以来続いており、アヌシーはアニメ映画におけるカンヌ映画祭のようにみなされています。年々発展するアニメ技術と、影絵からクレイアニメ、3Dまでを含む広義のアニメーションを網羅しています。 毎年11万人以上の観客と230本の映画が集まる、国際的なアニメーションのイベント。様々なカテゴリーを含む26個の賞が設けられています。参加国はすでに85カ国を数えます。アニメファンならずとも、最新のアニメーション映画を発見するいい機会です。 Accueil du Festival 1 rue Jean Jaurès 74000 Annecy

http://jp.france.fr/ja/events/124539

アニメ長編部門

https://www.annecy.org/programme:lmc

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「ルーのうた」がアヌシー映画祭で最高賞、「この世界の片隅に」が審査員賞に - 映画ナタリー

www.coyotemag.fr