ベルギーの密かな愉しみ

しばらくの間 お休みします。

奇想天外アルチンボルド 合成肖像画のディープな世界(+蝶ダースベーダー)

上野の国立西洋美術館で開催中。

アルチンボルド展 公式サイト

横チン (id:yokobentaro)さま、先日すれ違ったはずです(笑)。お仕事サボってぜひいらしてくださいね。私は上野は徒歩圏内で散歩コースですからよくフラフラしています。

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公式HPはこのように非常に華やかでビックリします。ぜひのぞいてみてください。四季のシリーズからこの絵は「夏」(1572)です。なかなかイケメンの野菜・フルーツ人間を切り抜いてみました。

おいしそうなフルーツ、桃やブドウやリンゴ、サクランボのほかに、当時のヨーロッパでは珍しかったトウモロコシやナスなども描き込まれている。そう、大航海時代だから新大陸からたくさん珍しいものが入ってきた。それを全部持っている。神聖ローマ帝国皇帝の絶大な力をもってすれば何でも手に入る。それを全部見せてあげよう、というわけ。しかも男性の横顔を作ってしまうのだからなんともぶっ飛んだ発想です。のぞく歯はグリンピースかな。服の襟のところに画家の名前GIVSEPPE ARCIMBOLDO(ジュゼッペ・アルチンボルド)とサインまで入れて実に心憎い。

アルチンボルド(1527年 - 1593年)はイタリアのミラノ出身で、ハプスブルク家のお抱え画家でした。植物や動物だけでなく、人工物などを寄せ集めて肖像画をえがくことで有名で、当時は一世を風靡したのですが、長く忘れられ、20世紀になってシュールレアリストたちが発見し、崇める形で評価が高まりました。その影響力は大きく現代の様々な分野のアーティストたちの着想の泉となっています。一例として、記事末に蝶ダースベーダーの作家を載せておきました。

 

アルチンボルドの傑作「四季」のシリーズを展開する前に、まず私が子供のころ好きで部屋に飾っていた『司書』(1566)の絵を。

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アルチンボルドとの出会いです。今回この絵も来ていたのですが、解説からいろいろ教わりました。いわく、ウォルフガング・ラツィウスという実在の図書館司書がモデルだそうで、彼は著作を多くしたが、質よりも量だったと。ああ、そうだったの、と思わず吹き出しました。知識偏重の諷刺なんでしょうか。たしかにラツィウスさん、堅物でおもしろみのない人に見えてきた。そばでじっくり見てみると絵もあまりうまくない。というより愛情がない気がする。 また私は製本(*)をやるので革表紙の本がとっても気になるが、あまり細密に描いていませんね。花布(はなぎれ)も描かないなんて!

とはいえアイディアは抜群。書庫の鍵で目、栞で耳…なんて誰が思いつきます?パラパラ開いた本が頭と髪の毛だったり、はたきの毛が髭になるのもユーモラス。(*)ルリユール カテゴリーの記事一覧 - ベルギーの密かな愉しみ

 

四季

四季連作はさきほど「夏」を紹介しましたが、なんといってもこの絵「春」の前で人々の足は自然に止まり、ため息がもれるのが聞こえます。まさに花の図鑑で、約80種類あるそうです。 

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 四季を人間の人生の各段階に当てはめたらしく、「春」(1563)はうら若きお嬢さん。頬の薔薇が匂い立つようだし、赤い唇からのぞく白い歯は可憐な鈴蘭。イヤリングをして、結い上げた髪に白百合が映えます。襟を構成する白い花々、袖のふくらみ、服にあしらわれた様々な形状の葉など…時間を忘れて見入ります。

やはりここでも当時としては珍しかった植物が描き込まれ、宮廷画家だった特権(実際に見てスケッチできる)をいかしています。またこうした細密画の技法は北方のフランドルからイタリアに伝えられ、アルチンボルドも刺激を受けたでしょう。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e6/Arcimboldo_Autumn_1572_%28private%29.jpg/800px-Arcimboldo_Autumn_1572_%28private%29.jpg https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f8/Arcimboldo_Winter_1563.jpg/800px-Arcimboldo_Winter_1563.jpg

「秋」と「冬」は人生の壮年と老年。秋はワインやバッカスの神を連想させ、冬は枯れ木がかなり不気味ですが、頭上の枝が月桂冠を思わせることから、神聖ローマ帝国 皇帝を暗示しているそうです。

四大元素

皆さんもご存じだと思いますが、この世界の物質は 水・空気(または風)・火地(土)4つの元素からできているという、古代ギリシアからある思想。ヨーロッパでは19世紀ころまで支持されていた。アルチンボルドはこれをさきほどの四季と組み合わせることを思いつきました。またこれが彼でなければ考え付かないような奇抜なもので、私のお気に入りは「大気」(=春)と「水」(=冬)。我が家のほかのメンバーは「水」を賞賛しています。

まず「大気」はおびただしい数の鳥!頭の方はギッシリと大混雑で、フクロウなどしかわかりません。鳥博士さんなら結構特定できるのでは?

胸のワシ、そしてクジャクハプスブルク家のシンボルです。

(shellさましかわからないと思うけど、ドゥシャン・カーライを思い出しますね)

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「火」は夏、「大地」は秋。興味のある方はネットでご覧ください。

「水」、ギョギョッ!魚人間です。釣りの好きなかた、魚博士さんたちにはたっぷり楽しめる作品です。しかも何という調和、絶妙な色使いでしょう。珊瑚エビの赤がきいていますね。耳は、真珠のイヤリングもついている。耳の上の愛らしいモンクアザラシ、わかりますか?目はマンボウ鼻はウツボ口はサメ、首にはウミヘビが巻き付いている。カメキチさま、ご心配なく、ちゃんといらしてますよ。アカウミガメその左にカニ肩にはタコ、ほら貝も見えます。

 

四季と四大元素の絵はそれぞれ向き合う形で、宮殿の壁を飾っていたらしい。つまり自然と世界を支配するハプスブルク家の栄華と偉大、そしてその永遠性を表しているのだとか。アルチンボルドは自分の庇護者を称揚する作品を発表するだけでなく、ハプスブルク家主催のイベントのプロデュース、仮装の衣装デザインなど才能をいかんなく発揮して、プラハの宮殿でルドルフ二世に愛されました。

同じ絵を複数描いており、それらはフランスなどヨーロッパの大国に送られました。ハプスブルク家は「神聖ローマ帝国皇帝」と名乗ってはいても、称号を継承したのは15世紀半ば以降。ルーツはアルプスの地方豪族に過ぎなかったということです。だからプロデュースが欠かせなかったわけですね。

さて前回ブリューゲルの回に出てきたカール(カルロス)五世の息子、覚えていますか。誰でしょう。そう、フェリペ二世。(はい、ここ、テスト出まーす)

フェリペ二世はネーデルラントではあのように非情な宗教裁判を行い、嫌われ者でしたが、芸術愛好家でもあった。甥に当たるルドルフ二世は事情あって弟とともにフェリペ二世のもとで育ったので、やはり芸術にも造詣が深く、芸術家を積極的に庇護しました。

それだけでなく、錬金術師や天文学者、数学者、工芸分野の職人などを大勢プラハ城に召し抱えていました。政治には全く興味がなかったようで、晩年は奇人皇帝と呼ばれました。

プラハへ観光にいくとプラハ城のそばに「黄金小路」というところがあり、小さな家々が並んでいます。カフカの住んでいた家もあって観光客が写真を撮っていますが、そこはもとは城で働く者や錬金術師たちが住んでいたところでした。この時代の雰囲気を味わいたい人にお薦め小説があります。

帝都プラハとルドルフ二世、ユダヤ人豪商とその美しき妻、錬金術師たちが織り成す幻想小説夜毎に石の橋の下で|国書刊行会

これから読む人が羨ましい。あのドキドキ感を味わえるんだもの。翻訳者の垂野創一郎 さんがこれまた凄い人で、読んでみればわかります。ずいぶん前からはてなでブログも書いています。http://d.hatena.ne.jp/puhipuhi/

 

ルドルフ二世の肖像画

『ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世』(1590-91)宮殿を離れ、故郷にもどってから描いた集大成ともいえる作品。アルチンボルドは自作の詩を添えて皇帝に献上しました。  

さかさ絵

『庭師』だそうです。当時はこうしたさかさ絵が流行していたとか。

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自画像

いくつかありますが、私の好きな『紙の男』(1587)、合成肖像画に含まれるでしょうか。

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巻紙で顔や髪、髭などが表現されています。おでこにある61という数字は「61歳」、襟の1587は制作年。これにより生年が特定できました。

 

アルチンボルド風(アルチンボルデスキ)

こちらの作品は写真家クラウス・エンリケ氏(Klaus Enrique)。

http://www.klausenrique.com/arcimboldism_large/Klaus_Enrique_Darth_Vader_Black.JPG 

Darth Vader Copyright © 2015 Klaus Enrique

Klaus Enrique - Information

さしづめ「蝶とともにあらんことを」でしょうか。

メキシコ出身でNY在住。ほかに「トランプ大統領」などが傑作です。

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アルチンボルドを追随するアーティストたちが次から次へと現れて、私たちを楽しませてくれます。

終わります。

見るたびに新しいブリューゲル 現代社会と人間を映し出す鏡 (2019年はブリューゲル没後450年) -2-

  (前回ブリューゲルの続き)

 信長や秀吉と同じ時代の話です。ブリューゲル(1525/1530?~1569)は 40歳くらいで亡くなってしまいますが、残した作品はいずれも完成度の高いものばかりです。絵画は40点ほどで、これがまた古びるどころか見るたびに新しい。美術史家や愛好家たちが様々な解釈をうち出してくるし、加えて、関連書類が突然どこかの机の引き出しから出てきたり、他の画家のものと思われていた作品が最近になって真筆と認められたりとアクチュアルで、ニュースが飛び込んでくるたびにわくわくします。科学調査技術(赤外線写真、X線写真、放射性炭素年代測定法など)が進歩していますから、また新たな発見に期待です。

現代社会と人間を映し出す鏡 ブリューゲル

先ごろ「パリ協定」から脱退すると発表した世界の困ったちゃん、トランプ米大統領。地球環境のことなんか微塵も考えていませんね。

私がいつも読んでいるベルギー仏語新聞の、Kroll氏のひとこま漫画にこんなのがありました。

http://plus.lesoir.be/sites/default/files/dpistyles_v2/ena_16_9_extra_big/2017/06/02/node_97510/2774125/public/2017/06/02/B9712196845Z.1_20170602073157_000+G0K963R3G.1-0.jpg?itok=2xK5GYXw

6月2日付http://plus.lesoir.be/97510/article/2017-06-02/le-kroll-du-jour-sur-le-retrait-de-trump-de-laccord-de-paris

なんとまあ、左手の人差し指で地球をクルクル回しています。(右手は中指を立てている?)そして窓からペンギンたちが心配そうに覗いています。

私は見るなりすぐにブリューゲルの 「ネーデルラントの諺(ことわざ)」(1559年)を思い出しました。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7e/Pieter_Brueghel_the_Elder_-_The_Dutch_Proverbs_-_Google_Art_Project.jpg/400px-Pieter_Brueghel_the_Elder_-_The_Dutch_Proverbs_-_Google_Art_Project.jpg

ネーデルラントの諺 - Wikipedia

絵の下の方、右寄りにあるこの絵。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/40/NP-85.jpg

Hij laat de wereld op zijn duim draaien「彼は親指の上で世界を回している」

親指の上にあるのは地球儀、「人を意のままに操る」という意味です。こんな昔からある諺ですが、ブリューゲルの絵に描かれているものの多くは今でも使われており、私もオランダ語学校で習いました。

映画『チャップリンの独裁者』(The Great Dictator, 1940)にも地球儀を弄ぶ有名なシーンがあります。

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https://www.youtube.com/watch?v=YqyQfjDScjU

ネーデルラントの諺」には愚かな人間のありとあらゆる行いが描かれています。人間ってちっとも変わらないな、つくづくそう思います。

今回の展覧会には、ブリューゲルの下絵素描による版画がたくさんあり、久々にその諷刺のきつさに笑い、寓意を推測しながら楽しみました。たとえば

https://cdn.prezly.com/cd/ab1a00c6bd11e681e269985420b0aa/S.II-19175---Les-grands-poissons-mangent-les-petits.jpg

Bruegeljaar 2019: Beleef de fascinerende beeldwereld van Bruegel in zwart en wit

タイトルは「大きな魚は小さな魚を食う」(1557年)。おもわずにんまりしてしまうでしょう。同類の諺は世界中にあるだろうし、真理をついています。特に現代の日本社会…。弱肉強食。

ただブリューゲルはいつもユーモラス。わけのわからないのがあるからいいんです。ほら、空を飛んでいる魚なんて可愛いですよね。ところが手前の小舟を見ると、お父さんが指をさしながら子どもに向かって教訓を垂れているらしく、現実に引き戻されます。

日本にも河鍋暁斎や他の浮世絵に、ことわざを扱った愉快な絵がありますね。

ところでこの「大きな魚は小さな魚を食う」は間違いなくブリューゲル作ですが、最初「ヒエロニムス・ボス」(Hieronymus Bosch、1450ころ ~1516年)と署名がありました。これは当時ブリューゲルは「四方の風」という版画出版社から依頼を受けて制作しており(いわばサラリーマン)、その際経営者が、大人気だったボスにあやかろうと思って、ボス風の下絵を描かせ、「ボス」とサインさせたのだそうです。もっともブリューゲルもすでに高い評価を受けていたのですが。

伝記的には謎に包まれた画家ブリューゲル。わずかに知られていることとして、1563年、師匠だった人の娘と結婚して、アントウェルペンからブリュッセルに引っ越しします。ちなみにその娘がまだ幼女だったころ、ブリューゲルは工房で遊んであげたりしたと記録にあります。ブリュッセルでは家族で住んでいた通りが二つ判明しているし、家(下の写真)もまもなく公開されるそうです。

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https://fr.wikivoyage.org/wiki/Quartier_des_Marolles_(Bruxelles)

ブリュッセルの6年、つまり結婚生活も6年、このかんに傑作が次々と生まれます。前回コメントをくださったりんさんmiyamarin 、ありがとうございます。ウィーンの美術史美術館のブリューゲルの部屋にいらしたんですね。なんと、羨ましいこと!ウィーン(=ハプスブルク家)はブリューゲルを10点以上と、最も多く所有しており、ゴージャスなラインナップなんです。ブリュッセル王立美術館には油彩画は3点しかありません。

前回『バベルの塔』では、塔の上部にかかる黒雲を、EUの将来に重ね合わせてしまった私は、下の絵でもいろいろ考えずにはいられません。

ピーテル・ブリューゲルの作品一覧 - Wikipedia

『盲人の寓話』(1568年、 テンペラ、キャンバス)

盲人が盲人を導くことから引き起こされる悲劇です。絵では先頭の男はもう転んで、小川にはまっている。二人目は転びそうだがまだ持ちこたえている。口を開いて何か言っている?後ろの人たち、危険を察知したかしら。もしかしたら警告を聞いて転ばずにすむかも…。

これはもしや、間違った指導者に率いられ、危険に瀕している国民、もう沈んでいくばかりのあの国やこの国のことを暗喩しているのではないでしょうか。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d6/Pieter_Bruegel_the_Elder_-_The_Parable_of_the_Blind_Leading_the_Blind_-_WGA3511.jpg/1024px-Pieter_Bruegel_the_Elder_-_The_Parable_of_the_Blind_Leading_the_Blind_-_WGA3511.jpg いやそれとも、もともと人間の持つ盲目性、人間存在そのものの悲惨と悲劇を言っているのでしょうか。しかもわれわれは自分の頭で考えずに、ふらふらと後についていってしまう、あるいは学びもしないので同じ過ちが繰り返される…という意味でしょうか。

この寓話はもとは「マタイによる福音書」(15:14)から来ています。「盲人が盲人を案内すれば、二人とも穴に落ちるだろう」

二人目と三人目の間(遠景)にわざわざ教会が描かれているのだから、教会(信仰)が救ってくれるというのでしょうか。

ブリューゲルの生きた時代

アントウェルペンは当時、ヨーロッパ屈指の商業・金融都市であり、印刷・出版*でも中心地で一大文化センターというふうでした。(*参照:印刷の黄金時代を築いた工房 プランタン=モレトゥス博物館 - ベルギーの密かな愉しみ

その栄華の反面、時代の変わり目というのか、激動の時代でもありました。宗教改革の嵐です。カトリックプロテスタントの激しい対立はネーデルラント(現在のオランダとベルギー)を分断することになります。

ネーデルラントを支配していたのはスペインです。カール五世(神聖ローマ帝国皇帝)はスペイン王とはいえ、生まれも育ちもフランドルでオランダ語も話せたのだから、その土地に愛着はあったでしょうに、旧教カトリックを守るため、新教(プロテスタントやカルバン派など)に対し、徹底的な迫害と宗教弾圧を行いました。また度重なる戦費を拠出するため重税を課すなど、圧政で市民を苦しめました。その結果、耐えかねた多くの富裕な市民、商人、腕のいい職人や芸術家が逃げていきました。

スペインから持ち込んだ凄まじい宗教裁判は、ちょっとここに書くのもはばかれるほど。悔悛しない異端者は「火あぶり」の刑、悔悛した男は「斬首」、悔悛した女は「生き埋め」の刑…といったわけのわからない男女差別もありますが、結局は死刑なんですよね。

カール五世のあとを継いだフェリペ二世はもっと残虐で、「異端者を公開処刑すると殉教者扱いされるから、その機会を与えないがために、真夜中に土牢の中で水責めにする」。こうして5万人とも10万人ともいうネーデルラントの人々が命を落としたわけです。

そしてこのフェリペ二世ですが、スペイン黄金時代の最盛期に君臨し、広大な帝国を支配し、「太陽の沈まない国」と呼ばれたスペインの代表的な君主と称えられています。

そこでもう一度絵を見てみます。ブリューゲルは書いたものは全く残さなかった。メッセージはすべて作品に込めました。当時の人はそこから何かを読み取ったにちがいない。あの男たちは愚かな人間一般じゃなく、スペイン帝国側じゃないかと思ってみます。そして私はちょっとほくそ笑むのです。

ブリューゲルは死ぬ前に、妻に『絞首台のカササギ』(前回記事参照)を残し、あとの絵は全部燃やすように言いつけました。ブリューゲル自身に危険が迫っていたのでしょうか。すべては絵のなかにあるのです。

 

枝葉の刺繍の画家

展覧会で、ブリューゲルでもなくボス(油彩2点来ていた)でもなく、多くの人が立ち止まっては「ほぉ~」と見惚れていた絵を2枚紹介します。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e3/Master_of_the_Embroidered_Foliage_-_St._Catherine.jpg/393px-Master_of_the_Embroidered_Foliage_-_St._Catherine.jpg 

聖カタリナ

File:Master of the Embroidered Foliage - St. Catherine.jpg - Wikimedia Commons

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/15/Master_of_the_Embroidered_Foliage_-_Saint_Barbara.jpg/393px-Master_of_the_Embroidered_Foliage_-_Saint_Barbara.jpg 

バルバラ

File:Master of the Embroidered Foliage - Saint Barbara.jpg - Wikimedia Commons

 名前は「枝葉の刺繍の画家」あるいは「装飾的な葉模様を得意とする画家」で、1490~1510年ころ、ブリュッセルブリュージュ、もしくはどちらかで活動したと図録にあります。英語では ”Master of the Embroidered Foliage”、オランダ語は”Meester van het Geborduurde Loofwerk”…ってことは全部の言語で違うのか。ちょっと大変!

ともあれ、フランドルの無名の画家に名前を付けなくてはいけないので、ドイツの著名な美術史家マックス・フリートレンダー(1867~1958年)が、作風に因んで「~を得意とする画家」としたわけです。細密画はフランドルのお家芸です。ネットで他の作品も見られますよ。今PCの待ち受けにしています。

 タイトルにも書きましたが、ベルギーはかなりの予算を充てて「ブリューゲル没後450年記念」イベントの数々を計画しているようです。本当に今から楽しみなことです。

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上野のレストラン。バベル人気にあやかって。

ブリューゲル記事1.はこちら。

cenecio.hatenablog.com

ブリューゲルのほうへ 「バベルの塔」展 -1-

今日は東京都美術館で開催中(7月2日まで。7月18日~大阪)の「バベルの塔」展に行ったことを書きますね。

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ピーテル・ブリューゲル1世の油彩『バベルの塔』と版画が来ています。1世と書いているのは、ブリューゲル画家一族はなんと五代も栄えました。長男もピーテルというのだから紛らわしいのですが、一族の始祖、父ブリューゲルのことです。ちなみに来年1月には「ブリューゲル展 画家一族150年の系譜」という子孫たちの展覧会もあります。

ブリューゲルは『バベルの塔』を2つ描いています。一つはウィーンにあって、1563年の作品ですが、ストーリーに忠実で見てわかりやすい。つまり人間が天に届く塔を立てようとしたので、神がその傲慢さに怒り、人間たちの言葉を通じなくしたという。(伝承・解釈は一つではないようです)

ウィーンのほうの作品は、左下に注文主であるニムロド旧約聖書に出てくる。ノアの子孫)がいばりくさって何か命令しています。石を切っていた作業人たちは膝をついて謝っているようです。石だけで塔を作るとなると相当な重量でしょうね。

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周りの風景は、右に港と運搬用の船、塔の3階あたりに当時最新式のクレーン(みなさん、私がクレーンオタクなの、覚えている?)があります。

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塔の左側の風景は町、それも賑やかな都市に見えます。聖書の話でも、舞台はブリューゲルの生きた16世紀のベルギーに置き換え、しかもなにげに自分が結婚式を挙げた教会(下に解説)まで描き込んでいます。

それから約5年たった1568年の作品が、今回オランダの美術館から来たバベルです。

もう一度上の絵を見てください。黒い雲が不吉な感じ、そして塔の上の方は変に赤いですね。あれが元のレンガの色であって、下のほう、色が変わっているのは年月が経ったことを表している。

また赤い煉瓦を引き上げていく途中、擦れたり壊れたり

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するので赤い帯ができている。白いのは石灰であるらしく、働く人間まで粉をかぶっているのが笑えます。

煉瓦は現場で焼くのです。その窯も小屋も塔のまわりに点在していますね。田園や樹木、滑車やクレーンのリアル、作業する人間(1400人だとか!)の細密ぶりに言葉を失います。

そして今回のバベルの塔はもう完成間近なように見えます。聖書の話、つまり人間の傲慢のテーマをひとまず置いて、16世紀の人間は力を合わせてこんな大きな建造物も作れる。すごいことです。ただ暗雲が気になります。そんなところからEUの将来にかかる暗雲を心配してしまいます。

ブリューゲルは明らかにイタリア旅行でスケッチした、ローマのコロッセウムからヒントを得ていますが、それ以外の知識はどうしたのでしょう。

ブリューゲルの生きた16世紀、アントウェルペン、およびブリュッセル(含めてブラバントという)はヨーロッパで最も繁栄を誇った都市だったのです。アントウェルペンはその当時建築ラッシュで、市庁舎や証券取引所など豪華な建造物が建てられました。ブリューゲルは熱心にスケッチをしたのではないでしょうか。国際商業都市だったアントウェルペンには外国人も大変多かったから、異国のファッションにも気を留めていたようで、作品のあちらこちらにそのエキゾチックな衣装が正確に描かれています。そして医学(解剖学の本が出版される。オランダを通じて日本へも。)や珍しい動植物についても当時の画家は知識がありました。

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ブリューゲルといったら、みなさんはどんな絵を最初に思い浮かべますか。美術の教科書に載っていた『雪中の狩人』という人は多いのではないかしら。子どもの私にとっても、ブリューゲルのこの絵とドイツのデューラーは「北方ルネッサンス」の代表として脳裏に刻み込まれました。『ネーデルランドの諺』や農民を描いたシリーズ、ヒエロニムス・ボスばりの幻想画の数々を知るのはあとになってからです。

ブリューゲルが軍艦オタク(*)だったこと、土木工学に精通していたこと、人文主義の教養人だったことを知ったのはやっと最近です。

(*『メッシーナ海峡での海戦』1561年をご覧ください。ブリューゲルナポリで、オスマントルコ神聖ローマ帝国軍の対戦を見ていたと思われる。後の人々が船舶の種類を学んだというほどのマニアックぶり!

(はは、我が家にも軍艦を集めている人が…💦タラ~っ)

 

一日行ったらたっぷり楽しめるブリューゲル

驚くことはまだまだありました。ブリューゲルの作品だけでなく、漫画家大友克洋氏のバベルも、美術館入り口に飾られていました。大友氏はベルギー、オランダ、ウィーンをまわり、実際にブリューゲル作品を見てきました。塔の内側を描くという大胆な試みです。ここは無料で誰でも見られるし、写真もOKです。

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世界的に有名な大友氏がオランダに現れたからさあ大変!そのことはあっという間に知れ渡って、急きょボイマンス美術館の中で晩餐会を開くことになったそうです。

さらに大友氏の作品は英文の紹介記事(ブログ)であちこちに広まり、先日ベルギー人も自分のブログに載せていました。自分のことのように嬉しい私です。

 

3Dバベル! 

さらなるビックリは東京芸大の学生さんたちです。バベルの油彩画を立体化するというのですから。

東京藝術大学COI拠点 主催 Study of BABEL

場所:Arts &Science LAB. 1階エントランスギャラリ

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美術館とは別に、大学校舎内1階に設置されていました。大きさと細かさがわかりますね。気の遠くなるような作業です。

写真右下には人間たちが…。白い人間たちはプロジェクションで動くのです。滑稽なポーズをとっているので皆がクスクス笑っています。

右上の写真は、立体バベルの裏側に入って見る「夜のバベルの塔」で、松明をもった謎の行列(宗教行事?)が進んでいきます。短いムービーといった感じ。ケータイで撮った写真なのにうまく写って満足です!(^^)!

参考までに、ブリュッセルの中心部にあるノートルダム・ドゥ・ラ・シャペル教会。(2016年3月撮影)。ブリューゲルが結婚式を挙げ、埋葬もされた教会です。

2015年に横にブリューゲル像が設置されました。遺作の絵に因んで画家のまえに「絞首台」と「カササギ」を置いています。カササギはこの時代、陰口や密告の象徴だということです。

40歳過ぎで亡くなったブリューゲル『絞首台の上のかささぎ』という絵を妻に残し、他の絵は燃やすように言いつけました。どんなメッセージが込められているのでしょうか。なかなか深い絵です。

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 上の写真は私が撮ったものですが、彫刻家さんはこちらのかた。

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(出典を入れ忘れました。しばらくブログをやっていないとこういうところがダメですね)

 

おまけの写真

ブリューゲル展にいらした、おそらくインドネシアからのお客さん。可愛らしくて目が離せませんでした。

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よっぽど銀色の球のオブジェが気にいったようです。

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続きはこちら

cenecio.hatenablog.com

もう40年もロンリーで飲んでいる… インスタ映えする不思議な界隈

(*別ブログの記事を移しています)

さて、ここはどこでしょう?

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東京の人ならもうこのへんでわかるかな。でも東京に住んでいても、多くの人にとって用のないところですね。

もうわかりましたよね。矢吹ジョーが答えを言ってくれました。 

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 カメラ引きますと

お店の入り口はこのようになっています。

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新宿ゴールデン街 - Wikipedia

 

5月にベルギー人が来て、このゴールデン街と背中合わせのホテルに泊まったのがきっかけで、この地域をじっくり探索してみたのです。

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夜は案内人がいないと一人で店には入れませんが、今は朝10時、この界隈の住人は誰も起きていません。

外国人観光客たちが、インスタ映えするところを探して写真を撮っていました。

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たとえばこんなところです。

このあと、写真だけしばらく続きます。雰囲気を味わってみてください。

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そしてこの辺りは去年火災があって、建て直したのできれいです。

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新宿の取り組み

新宿は町を揚げて観光客の呼び込みに力を入れています。友人のベルギー人も口コミで新宿のホテルを選んだようです。なぜ新宿?

それはなんといっても便利だから。成田・新宿の直通バスがあって宿のすぐ近くでおろしてくれるし、地方に行くのも新宿高速バスターミナル 「バスタ新宿」が使える。今は新幹線よりバスで移動する時代。安さと快適さが魅力です。

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友人のホテルはゴールデン街と背中合わせ、と前に書きましたが、ほら、あの奥の「シタディーンセントラル新宿東京」です。(〒160-0021 東京都新宿区歌舞伎町1-2-9)

高い階からゴールデン街を見下ろしてみたいな(*'▽')

白人の観光客しか見ませんでしたね。ロビーはこんな親しみやすい温かなインテリアです。JR新宿駅から歩いて7~8分、よい選択だと思いました。

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ホテルの正面ではなく、裏口から出ると、ゴールデン街の店の裏が見えます。

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なかなか風情のある裏道でしょう。ここを行くと区役所に繋がります。

 

ドン・キホーテの力

大阪の道頓堀御堂筋店道頓堀店が観光客目線ですごい売り上げだと聞いています。

新宿にも また今年7月に新たにオープンしました。いつも観光客でいっぱいだそう。というのも高速バスに乗る前にそこで買い物するんですね。また買い物がしやすいように、店内にはコインロッカーも設置しています。

土産物コーナーも訪日客向けに作られています。流行の情報をいち早く取り入れ、売り場を常に刷新し、充実させる努力を怠りません。

以前はドン・キホーテなど興味がなかったのに、細かい戦略に感心しています。

 

追記:2018年9月東京新聞朝刊

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仏大統領選「エリゼ宮のロックスター」マクロン氏 

 ナポレオン以来の・・・

http://referentiel.nouvelobs.com/file/16054612.jpg

PHOTOS. Macron président : les images d'une soirée historique - L'Obs

「ナポレオン以来」は、フランス大統領選が始まってから頻繁に聞かれた形容詞。つまりもし39歳のマクロン氏が大統領に選出されれば、それはナポレオン以来の最も若い一国のリーダーになるだろうという意味で。

いろいろある中で「エリゼ宮のロックスター」というのが気にいっています。「未来を語る」というのもありました。他の候補は過去を見ているのに対し、フランスの将来を、理想を語っていました。スキャンダルもどんでん返しも何でもある選挙戦でした。 

候補者がパートナーとともに表紙を飾ったり

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映画のポスター仕立てのおしゃれなTwitterが印象的でした。

f:id:cenecio:20170424133334p:plainSimon (@SimonCR_) | Twitter

なかなかに賑やかだったけれど、最後まで心配でした。急進左派のジャン=リュック・メランション氏の追い上げがあったため、最悪のシナリオ、すなわち右と左のポピュリストふたりが5月の決選投票に進む可能性も危惧されました。二人ともEUとの関係を見直すことを政策に掲げていたのです。イギリスの次にフランスも、というのではヨーロッパはおしまいですから。

そして4人の候補者が20%程度の支持率で横に並ぶという、異例の大接戦でした。

蓋をあければ、ああそんなに心配することなかったなと思い、ほっとしました。

マクロン氏(23.9% フランス地図黄色)が首位に立ち、続くル・ペン(21.4%フランス地図灰色)と5月7日の決選投票に臨みます。(フィヨン氏19.9%フランス地図青色、メランション氏19.6%フランス地図

f:id:cenecio:20170424133608p:plain2017年フランス大統領選挙 - Wikipedia

 

仏ルモンド紙の記事です。得票トップの候補者で色分けし、可視化したもの。

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 フランスの分断

もっとわかりやすいのがこちら。南北に、東西に分断されているのがわかります。

Hervé Le Bras : "La carte du vote Macron est l'inverse de la carte FN" - L'Obs

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国民戦線ル・ペン氏の勢力拡大のようす

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工業地帯における雇用の変遷に伴います。

AFP news agency (@AFP) | Twitter

 

退く人

5月に任期満了のオランド大統領がテレビを見ている、という設定。

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右翼仲間 

オランダの右翼政党のウィルダース氏が、躍進したル・ペン氏のお祝いに。

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Voici les meilleurs tweets du 1er tour de l'élection présidentielle

 

選挙キャンペーン中、ナンシーでとっても若い支持者を抱っこするマクロン氏。

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Emmanuel Macron, een rockster voor het Elysée | Frankrijk | De Morgen

f:id:cenecio:20170426062710p:plain左:妻  右:義理の娘

Ces femmes qui entourent Emmanuel Macron - Madame Figaro 

投票率はどのくらいだったんでしょう。

私はうまく探せず、昨日の夕方5時の時点で69.42%ーこれしか見つかりませんでした。いちおう切り抜いておきます。もちろん70%は超えていると思いますが。

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5月7日の決選投票の世論調査による予想は次の通り。

各社とも、マクロン氏が6割以上を獲得するだろうということです。

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お祭り騒ぎだったかつての仏大統領選

思い出話になります。

フランソワ・ミッテラン大統領誕生のとき(1981年)も14年務めたあとで退任するとき(1995年)もフランスにいたので感慨深いけれど、こちらのお二人さんのことも今とても懐かしく思い出します。

http://www.larousse.fr/encyclopedie/data/images/1004457-Jacques_Chirac_et_Lionel_Jospin.jpg Encyclopédie Larousse en ligne - Jacques Chirac

これは1995年の大統領選です。フランスの小学生も選挙に関心が高いのだなと感心したこともあって、強く印象に残っています。

1995年フランス大統領選挙 - Wikipedia

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ジャック・シラクJacques Chirac  共和国連合)とリオネル・ジョスパン社会党党首Lionel Jospan )の戦いは、第一回投票でジョスパンが首位に立ち、決選投票でも善戦したのですが、結局敗れてしまいました。

この結果を私たち家族はおもしろい所で知ることになります。その日はちょうど息子がやっているスポーツの全国大会の日で、息子は代表に選ばれて地方の都市へ出かけていました。子どもたちは全員、コーチの車で連れていってくれるのです。同じホテルに泊まり、一緒に行動します。応援したい家族は各自ホテルを予約して、列車か車などで移動する。

大会も終わって夕方、選挙の結果が待たれました。私たちが帰路の列車に乗っているとき、車内アナウンスでシラク氏が選ばれたと発表がありました。

息子はコーチの車の中で、皆でラジオを聞きながら発表を待っていたそうです。そしてシラク氏の名が告げられると皆がNO~!と叫び、仲間たちの親もコーチも全員が社会党ジョスパン氏に入れたことがわかったというのです。政治や選挙の話は常日頃からしているらしく、政策などもよく知っているようでした。フランスの子供たち、凄いな!

 

お約束の諷刺人形劇

フランスのTV局Canal+の番組”Les Guignols de l'info”は楽しかったです。政治家たちはデフォルメされた、しかしよく似ている人形たちで出演します。

パロディやら諷刺やら皮肉やら…おもしろそうなネタがいっぱいなんですが、いかんせん事情を知らないとついていけません。それでも笑えるところはいろいろあって、選挙前の楽しみでありました。

http://img.20mn.fr/QyZLPKjfSpOvlP7xvu6qYA/648x415_guignols-info-canal.jpg

Les «Guignols de l’info» ne feront pas leur rentrée avant octobre

政治家ばかりでなく、タレントやスポーツ選手なども。真ん中の人が司会者です。(1998~2015年まで)

そんな風に選挙はちょっとしたお祭り騒ぎでした。「でした」と書くのも、今では伝統的な既成政党が弱体化してしまい、今回の選挙はまさか大統領候補になるなんて予想もしなかったアウトサイダーばかりです。3年前、マクロン氏を誰が知っていたでしょう。党の中で揉まれ、経験を積んで成長してきた者の中から後継者を選ぶ時代は終わったのでしょうか。

 

のっぽとちびの法則

ロシアの「つるふさの法則」ロシアの真実 ”the bald truth”「はげの真実」 - ベルギーの密かな愉しみ

のようにフランスにも第五共和制の大統領には「のっぽとちびの法則」があります。

(ありました。過去形です。なお、ちびというのは高身長でないという位の意味)

シャルル・ド・ゴール Charles de Gaulle (1890–1970) のっぽ

・ジョルジュ・ポンピドゥーGeorges Pompidou (1911–1974) ちび

ヴァレリー・ジスカールデスタンValéry Giscard d'Estaing (1926– ) のっぽ

フランソワ・ミッテラン François Mitterrand (1916–1996) ちび

・ジャック・シラク Jacques Chirac (1932– ) のっぽ

ニコラ・サルコジ Nicolas Sarkozy (1955– ) ちび

フランソワ・オランド François Hollande (1954– ) ちび

・(新しい大統領)

どこで間違えたかおわかりですね。

 

参考:1995年のTV番組 諷刺人形劇

Les Guignols - Présidentielles 1995 - 2ème Tour on Vimeo

 

 

少年の日のマクロン氏。

http://referentiel.nouvelobs.com/file/16033382.jpg

PHOTOS. Emmanuel Macron ou le parcours sans faute de l'élève modèle - L'Obs

医師の家に生まれ、形式的なカトリックの一家であったが、少年は12歳の時、洗礼を受けることを自ら決断したという。(2016年12月にそう語ったと記事にある)

 

 

フランス版1984

それはごめんです。”La Présidente”「女性大統領」は2015年の暮れに出版されたBD(ヨーロッパの漫画)で、2017年5月7日にルペン氏が大統領に選ばれ、全体主義国家が誕生するディストピアを描いています。

www.franceinter.fr

 

追記:5月8日

マミー (id:mamichansan) 

(…略)ルペン氏が35%の票を獲得、また白票率の高さを見ると、これからの政権運営はかなり厳しくなりそうな…。
次の総選挙、見逃せませんねー。

マミーさま、そうなんですよ。先行きが不安ですね。6月の選挙も目が離せません。

グラフを貼っておきましたのでご覧ください。

①決戦投票

国民の三分の二しか参加しない選挙でした。

あとの三分の一

白票8%、(積極的?)棄権23%、非登録9%(*)

*投票するには役所へ行って有権者登録をしなければならない。

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 Olivier Berruyer (@OBerruyer) | Twitter

②第一回投票もついでに見ておきましょう。

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本当に4人が接戦だったことがわかります。Olivier Berruyer (@OBerruyer) | Twitter

  

こちら 最終の数字です。左から

マクロン→棄権→ルペン→白票・無効票

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http://www.lesoir.be/1498225/article/actualite/france/2017-05-08/macron-elu-avec-661-des-voix-selon-resultats-definitifs-infographies

 

大喜びの支持者たち

Aanhangers vieren overwinning Macron

https://images0.persgroep.net/rcs/5SLnZnbQy9b5fFcZoJHSGqisV94/diocontent/105605046/_fill/470/342/?appId=f215d2ebdcdad4aa3dc78550c5970d02&quality=0.90&format=jpg https://images2.persgroep.net/rcs/nmb2bS8PPaPf-SK5PFc5RCnUG0U/diocontent/105604513/_fill/481/321/?appId=f215d2ebdcdad4aa3dc78550c5970d02&quality=0.90&format=jpg

https://images4.persgroep.net/rcs/U7-V14SlRCe93GQzzn-JlM4yNh8/diocontent/105606071/_fill/500/316/?appId=f215d2ebdcdad4aa3dc78550c5970d02&quality=0.90&format=jpg https://images0.persgroep.net/rcs/FimEIqoRotZeAk80acsFS7BrKWU/diocontent/105608875/_fill/474/316/?appId=f215d2ebdcdad4aa3dc78550c5970d02&quality=0.90&format=jpg

PHOTOS. Macron président : les images d'une soirée historique - L'Obs

http://referentiel.nouvelobs.com/file/16054640.jpg http://referentiel.nouvelobs.com/file/16054654.jpg

AFP PHOTO / POOL / PHILIPPE LOPEZ

http://referentiel.nouvelobs.com/file/16054648.jpg

新しいページがめくられた。(ルーブル美術館の前庭にて。マクロン新大統領の誕生を祝う人々)

 

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フランス国民よ、今夜はあなたがたのために 照らします。

「小惑星が地球に接近」でムーミン谷の彗星を思い出した。劇場版『ムーミン谷の彗星』追記:

ムーミン谷の彗星』

フランスの大統領選が大混戦になりそう。朝早くおきたらBSをつけて”France 2”を見ることにしている。なんと右と左のポピュリスト対決になるかもしれず、反EUの悪夢が現実味を帯びてきているらしい。メランション氏(左派、社会主義者)はもともと大変な教養人で話がとてもうまく、選挙キャンペーンで波に乗っている。スターウォーズを思わせる心憎い演出が若者たちも惹きつける。

しかしきのう19日は、小惑星2014JO25)が地球に近づくというニュースのほうが大きい扱いだった。

アナウンサーが言う。「ご心配なく。衝突したりしませんから。地球の180万kmのところを飛んでいくだけです。」

直径は650mなのでもし衝突したら、その威力は”ヒロシマ”(普通名詞化していた)の何百万倍で…と言っていたので、私はすぐにあれを思い出した。

(*朝日新聞の記事http://www.asahi.com/articles/ASK4K3V8GK4KUBQU009.html

f:id:cenecio:20161230084225p:plain原書 表紙(トーベの絵)

ムーミン谷の彗星』

ムーミントロール(*以下主人公はムーミンで統一する)のお話はみなさんご存知フィンランドの作家トーベ・ヤンソン(Tove Marika Jansson1914 - 2001年)のシリーズ作品。私は講談社発行の本で読み、「劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション」(2015年)を鑑賞している。

子どもにはちょっと怖いんじゃないかな。なんせムーミン谷に彗星が衝突するというのだから。1949年の作品で、シリーズ第二作目。一作目は『小さなトロールと大きな洪水』(1945年)でこれも災害の話であるから、現在一般の人が持っているムーミンの「楽しくて明るい」イメージとはずいぶんかけ離れていると思う。

映写会パンフによると

戦後間もない1946年に書かれた原作は、トーベの戦争に対する想いが反映され、世界を灰色にしてしまった彗星は、原爆から影響を受けたのではないかと言われている。http://chupki.jpn.org/archives/488

なるほど、トーベの生きた時代を考えても、第一次大戦開戦の年に生まれ、戦争は二回あったし、核戦争の危機も経験した。

このお話で、ムーミンは初めてスナフキンスノークのおじょうさんと出会うのであり、大変重要な作品であるだろう。読み返してみたのだが、大人が今読んでもおもしろい。トーベはストーリーテラーであるだけでなく、ユーモアセンスが抜群で、とりわけスニフの性格とセリフには読みながら声をあげて笑ってしまうほど。

 ヨーロッパの人たちでムーミンを知っている人は、子ども時代に本を読んだ人たちである。日本のアニメは浸透していない。幼年期に母親の読み聞かせによってムーミンと出会ったイギリス人が、新聞にパペットアニメーションムーミン谷の彗星』の映画評を書いて絶賛していたのを思い出す。

http://img.eiga.k-img.com/images/movie/81522/poster2.jpg?1420682650

映画は前評判が高かったから、いずれぜひとも見なくちゃと思っていた。

なぜなら、パペット人形は、トーベ自身が作った発砲スチロールの人形がモデルとなっているというし、トーベの「ムーミン」の世界が忠実に再現されている、とパンフにあったから。またトーベがもっとも愛したムーミンの映像作品だということだ。

 

期待通り、とっても楽しめた逸品だった。パペットの美しく丁寧な作り、色鮮やかで温かみのあるフェルトや様々に工夫された小道具など、よくもここまで世界を再現したものだと感嘆した。

映画はフィンランド製かと思いきや、この作品は1978~82年にポーランドで作られたものだというのだ。ああ、やっぱり!チェコポーランドのアニメーションの伝統だなと納得した。トーベもポーランドにはたびたび足を運んだという。ポーランド民主化運動「連帯」とワレサの時代である。

その後この作品はイギリスとフィンランドでも上映されて人気を博したものの、長く幻の作品であったが、再編集し色などを補正して2010年にカンヌ映画祭で上映された。

http://www.hardrockheavymetal.com/jacketcd/b/bjork01.jpg

びっくりなのが主題歌。アイスランドの歌手ビョークBJORK 1965年生まれ。よく日本人や中国人に似ていると言われるらしい)が担当している。子どものときからずっとトーベ・ヤンソンムーミンの大ファンだったとか。

(下で聞けます。2分程度、パペットアニメーション付)

www.youtube.com

 

加えて声優陣の豪華なこと。この人たち集めて映画製作したら、ものすごいものになる。北欧が誇る俳優ばかりなので。

ナレーションマックス・フォン・シドー(Max von Sydow1929年 -)。マジで!と思いましたよ。ベルイマン作品のほとんどに出ていた名優。伝説のような人。

ムーミンパパとムーミンは、実の親子ステラン・スカルスガルドスウェーデンを代表する俳優)と息子が担当。
スニフマッツ・ミケルセンですよ。『 誰がため』(Flammen & Citronen)でファンになったカッコイイ俳優。(デンマーク人)

スナフキンピーター・ストーメア…etc。 はあ~、凄いのひとこと!

 

しかし私たちが見に行ったのは日本語吹き替え版だったのですよ。DVDを借りてみるしかないかな。

http://moomin-suisei.com/img/introduction_img_3.jpg

 

簡単なあらすじ

地球に彗星が接近することがわかって、ムーミンはスニフとともに、おさびし山にある天文台に向けて旅をする。天文台にいる学者たちから情報を得ようというわけ。

旅の途中でキャンプをしているスナフキンと出会う。以後一緒に困難な旅をする。やっと天文台にたどりつくと、あと4日後に彗星が地球にぶつかると教えられる。

https://cdn3.cdnme.se/4471825/9-3/kometen3_5535f6822a6b22343cf90440.pngトーベのイラスト

帰路を急ぐがその旅も冒険続き。新たにスノークの兄妹が仲間に加わって、ようやくムーミン谷にもどると、谷の住民は避難の最中。ムーミンたちも洞窟に避難して…。そして(最後まで筋を言いますよ)

彗星が地球に突っ込んできた。ムーミンたちは洞窟の奥深く、隅っこに固まってしっかり抱き合ったまま、彗星の石が雨あられと降り注ぐ音を聞いていた。静かになってから外へ出てみると、地球はちゃんとそこにあったのでほっとする。海の水ももどってきて、ムーミン谷は息を吹き返した。彗星はしっぽで地球をかすっただけだったのだ。

http://moomin-suisei.com/img/staff_img_1.jpg

 

ムーミン谷 の個性豊かな面々は どこから生まれてきたか

前回の記事末に、ロシア人のペットの写真を載せたらみなさんから多くの反響があったが、実際のロシアはもっとすごくて過激である。が、私が無難そうなのを選んで載せているのだ(笑)。ロシア人は動物の扱いに長けている人たちだと思う。猫のサーカス団を作れるのもロシアくらいなものだし。

トーベも動物に囲まれて育ったようだ。自然や植物、生き物全般を深く愛する少女で、それは多分に彫刻家の父親の影響を受けている。ヘルシンキ市内の家では、アトリエが大変広かったので、そこでいろいろな生き物と暮らしていた。コウモリ、猿、カナリア、ウサギ、イヌ、羊、猫、リス、カラスなど。父親はよく世話をしてやり、できるだけ自由に生きられるように心を配っていたという。

一方、トーベの姿勢はちょっと違うらしい。友人の少年がカモメを拾い上げて傷口を調べ、助かるかどうか確かめていたとき、トーベはただひたすら「放してやって」と訴え続けた、というエピソード。父親がたくさんの蠅を捕まえると、トーベはその袋を持って遠くまで走っていって、逃がしてやったというエピソード、などどれも大変興味深い。大人になってもトーベは、別荘にやってくる動物や植物と、対等な友達同士のような付き合いをしたという。

ピンタレスト画像から借りています)

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/e3/57/51/e3575116babd790fd44b7ad95667d02f.jpghttps://jp.pinterest.com/pin/287737863672268811/

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/dc/57/95/dc57954c0917732e855352cf5691f6a9.jpg

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/f9/95/70/f99570ac3c2933fbd89552b9a59ffb95.jpg

https://jp.pinterest.com/pin/313352086562161684/

 

都市伝説

先日、たまうきさまがトムとジェリー都市伝説を書いていらした。私はあまり知らないのだが、このムーミンのだけは前から知っており、今回ネットで調べてみたら複数のブログが見つかった。もっとも簡潔なのを貼り付けておく。こちら、なおすけさんの

ムーミンは「核戦争後の世界」説(短いのでぜひどうぞ!)

http://archive.is/4QcT4#selection-215.0-347.5

 核戦争のあと、カバが放射能の影響で知能を持ち、人間はミイやスナフキンなどわずかしか生き延びられなかった世界…ということでなんとも暗い話である。

都市伝説はだれがいつ作ったのだろう。やはり作品から離れた突飛な話は作らないと思う。『ムーミン谷の彗星』のもとになった原話は『彗星追跡』という話で1946年に書かれた。トーベは、戦争はとりあえず終わったが、原爆の惨状を知って、核戦争の可能性を不安視したのかもしれない。

核戦争どころか、どんな戦争も起きてほしくない。みんなの願いですね。

 みなさんも都市伝説をなにか知っていますか。

  

🌸追記:2018年4月

ムーミンのテーマパーク

www.itmedia.co.jp

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追記:2018年8月5日東京新聞

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追記

 闘う女性だったトーベ・ヤンソン

newsphere.jp

引用

 13才の若さで初のイラスト入りストーリーが雑誌に載り、翌年からは風刺画も書くようになった。戦争を嫌うヤンソンは、雑誌「ガルム」に独裁者を批判する絵を描いた。後に太ったコソ泥としてヒットラーを描いたことで、「親しい国(ドイツ)のリーダーを侮辱するもの」として、編集者があやうく告訴されそうになったというエピソードもある。この絵の中で、ヒットラーの愚行を片隅で見つめる存在として、初期のムーミンが登場している(ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス、以下NYR)。

ムーミン小説は全9作で、第1作「小さなトロールと大きな洪水」は、1945年に出版された。幼いムーミンムーミンママが自然災害と戦う物語で、プロスペクト誌は、戦争へのアレゴリー(寓意)をこめた作品だとしている。

当時違法とされていたレズビアンであったヤンソンにとって、ムーミン・シリーズは、自分の愛する女性たちに敬意を表する場でもあったと、ガーディアン紙は述べる。いつも離れずに一緒のトフスランとビフスランのモデルは、ヤンソンと当時のパートナー、ヴィヴィカ・バンドレルだったとされる。後にパートナーとなったトゥーリッキ・ピエティラは、ムーミンの心配を和らげ自立を促した楽観的なキャラクター、おしゃまさんのモデルだった。

銃剣道を 編み物の時間に 変えたらどう?編み物男子①&日仏同じ発音の言葉「ゴエモン」

(昨日の続き)

1.リトル・トランプの大集合!

どっかの大統領のことではなくて、”Tramp”すなわち「小さな放浪者/浮浪者」と呼ばれるあのおなじみのチャップリン。昨日4月16日、チャップリンに扮装した662人がスイスのチャップリン博物館(Corsier-sur-Vevey)に集まったのですって。女性も子どももたくさんいますね。楽しそう!

https://nos.nl/data/image/2017/04/16/370912/1008x567.jpg

https://nos.nl/data/image/2017/04/16/370912/1008x567.jpg

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2.スポーツが楽しみ過ぎる! 

平野美宇ちゃん(17歳)快挙です。凄すぎる!丁寧選手に勝てる日本人がいるなんて!

平野選手はリオ五輪代表に選ばれず、その悔しさをばねにして猛練習し、今回のアジア選手権の女子シングルスで優勝を勝ち取りました。攻撃的なスタイルや溢れる自信が見ている側にもビンビン伝わってきました。

次は5月の世界選手権です。中国が自分を研究してくるので、さらに進歩したいと語っている。これからもとても楽しみです。

水泳の日本選手権が終わりました。私の注目は大橋悠依(1995年10月18日 - 東洋大学選手。200&400m個人メドレーで優勝しました。今朝見たらウィキペディアができていますね。写しておこうっと。

・400m個人メドレー 4分31秒42(2017/04/14日本記録

・200m個人メドレー 2分09秒96(2017/04/15)

 

第93回日本選手権水泳競技大会  日本ガイシホール

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大橋悠依、400個メドレーでリオ銅超えタイム!日本新を3秒24更新 : スポーツ報知

もう何がすごいって、あの華奢な体つきで大きな泳ぎをするのです。背泳ぎのゆったりした、それでいてスイスイ進むあの泳ぎはなに?フリー(最後の100m)なんかプールにほかの誰の姿も見えなくて、まるで試合後にクールダウンしているかのように見えました。

水の抵抗が少ない美しい泳ぎ、見ていてため息が洩れました。コーチから「31秒が出るかもしれない」と言われていたそうですが、自分では信じられなかったそうです。2月の合宿はスペインの、標高の高いシエラネバダで、約5週間でした。そこでめきめきと力を(特に体力を)つけたんですね。素質はすばらしいものがあったのですが、大学2年生までは貧血で記録も伸び悩んでいました。アサリなどを食べて食生活を改善したということです。竹内結子さんに似ていると言われているんですって。たしかにね。

 

 追記:2018年9月朝日新聞記事

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3.ブースさんのコラムがおもしろい

ちょっと前になってしまうんですが、書いておきます。朝日新聞2月のコラム「マイケル・ブースの世界を食べる」(第10回)。マイケル・ブース(Michael Booth)氏はイギリス生まれでデンマーク在住。『英国一家、日本を食べる』などの著書がある。

「毎年2月14日はいかにロマンチックな夜を演出するか、男性陣の腕の見せ所」というブースさん。ほう、そうなんですか。

そして今年のバレンタインデーのエピソードを披露していて、私は仰天しました。ギアさまやみなさんはご存知なのかもしれませんが。

ブースさんは奥さまとハウステンボスに行ったのです。(引用)

ハウステンボスとは長崎県にある、クレージーな人々がオランダの街並みを忠実に再現した娯楽施設だ。世界でも最高峰のテーマパークといっていい。とくに2月14日、日本で最もロマンチックな場所になった夜、私はこじゃれた風景の中を、ただ妻の手をとり、したり顔で歩くだけでよかった。

それも「壁ドン」男に出会うまでのこと。…ハンサムなうら若き「壁ドン」青年は、妻の背後の壁に手をつき、耳元で甘い二言三言をささやいた。そして、ひとかけのチョコレートを、くちびるにはさんだ。

普段は強く、自立した現代女性である妻のリスンは私のまさに目の前で、頬を赤らめてはにかむ16歳へと変貌を遂げた。

・・・

 

 「壁ドン」のサービスがあるって?お金を払うの?どんな男性?ご存じのかたはぜひとも教えていただきたい。あちこちで普通にあるサービスでしょうか。(そんなわけないよね)

http://tripnavi.up.seesaa.net/image/A5CFA5A6A5B9A5C6A5F3A5DCA5B9A1A1B2E8C1FC.jpg

写真:ハウステンボスのサイトから

 

4.再びゴエモン

ゴエモンの語源、気になります。日本語のtsunamiが海外に広まったような事情があったら面白いんですが。2017/04/16

marverickjpさま 日本(語)とはなんの関係もないようです。フランスのブルターニュ地方では中世か、もっと前から海藻ゴエモンを採集していたようです。

偶然似ている音のことば、というのはありますね。you-know-me→湯呑み、のように。

「ワンパターン」これは日本語(もとは英語ですが)で普通に使うと思いますが、昔、日本に留学してきた中国人にこれを言ったら、まず絶句して、それから大笑いされた思い出があります。中国語でも同じ発音で「王八蛋」(Wangbadan)という罵倒語があるんだそうで…。

「コジマヨシオ」は韓国語で「嘘つかないで」という意味だそうです。TVに出ていた韓国人がいろいろ教えてくれたのですが、他のは忘れてしまいました。

 

5.編み物男子ってすてき

この写真の光景を見ると、「平和」ということをしみじみ考えます。

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テロが奪ったものの一つでしょうか。

  2007~08年、私はベルギーに住んでいたのですが、その時のブリュッセル市のイベントです。「手作りフェスティバル」とでもいうのでしょうか。とにかくDIYや園芸、野菜作り、手芸など何でもありました。人にカメラを向けられないタチなんで、写真は撮っておらず、広報誌の切り抜きを貼りました。

手作りしたものを売ったり、一緒に作ったり、教えたりしていました。子どもたちもあちこちのブースを回りながら、いろいろな手作りに挑戦するのです。

象徴的な光景が上の写真です。編み物や、一般に女子がするような小物づくりに参加する男性たち、その真剣に習う姿を見て「平和な光景だな、ベルギーっていいな」と心打たれました。

編み物ブースで、マミーさんなんか凄い人気で引っ張りだこになるでしょうね。ムーミンの編みぐるみ、私も教えてもらいたいです。(競争率高すぎて近づけないか…)

しかしあのテロ以降、すっかり変わってしまいました。こんなイベントや昨日の記事、復活祭のたまご探しのような楽しい行事はすべて「全力で守っていかなければならないもの」「警備などで高くつくもの」になってしまいました。

「中学体育に銃剣道」という話がありましたが、銃剣道の木刀(それとも銃?名前がわからない)を編み棒に変えたらいいんじゃないでしょうか。男子も女子も編み物を習うのです。編みぐるみのテディベアを一体製作するのを必修にするなんてどうでしょう。

突然ドイツ語の先生の話を思い出しました。ハンブルク出身の若い男性でしたが、子どものころおばあちゃんから編み物を習っていたというのです。マフラーや動物の編みぐるみを作っていたそうです。

私も「うちの弟は刺繍をやっていたの。幼稚園のとき」と教えてあげました。そして平和だねえと二人で笑ったのでした。

弟の刺繍というのは、リリアンを使った文化刺繍というもので、技術はいらないのです。下絵に沿って、専用の針で垂直にプスプス刺していくだけ。絵は風景画が多かったように思います。弟は子猫が毛糸玉とじゃれている絵を選び、ちゃんと完成させました。(終わり)

 

 

おまけ

今日もOnly In Russiaさんの Twitterから。

ロシアでは普通のペットだそうです。

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Only In Russia (@CrazyinRussia) | Twitter

 こちらもペットと一緒の男性。犬とアメリカヘラジカです。

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 追記①

あれ、なんて言うの?

それは「かせくり」「毛糸巻き」。「かせ」とは糸を輪状に束ねたもので、30~40年ほど前まで、毛糸は玉ではなく「かせ」で売られていた。かせは一束50グラム。一人がかせを両手に広げ、もう一人が巻き取る。玉に巻き取るのに10分以上かかる。これを一人でするために「玉巻き器」(ロイヤル工業・名古屋)が発売された。

高度経済成長期まで編み物は主婦の必須スキルだった。

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 追記②:Alfie Dateさん

世界一高齢のペンギンニット編み

greenz.jp

http://greenz.jp/main/wp-content/uploads/2015/03/pgfoud4.jpg

http://greenz.jp/main/wp-content/uploads/2015/03/pgfoud1.jpg

追記③:羨まし過ぎるノルウェーのニットキャンプ

https://images.vdonline.dk/55/2255_606_450_0_0_0_0_2.jpg

Norske strikkeguruer besøger strikke-camp - VD Online - Forside - Korsør

ノルウェーのお二人が毎年企画している編み物キャンプ。もちろん初心者でも参加できる。2018年は6月8日から10日。楽しそう!行ってみたいな。

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追記④:仏OVNI紙より

手芸ファン集結!《Aiguille en fête》

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春の話題 夜の地球・復活祭の卵・フランスの海藻「ゴエモン」etc

 みなさん、こんにちは。

今朝はびくびくしてしまいましたが、北朝鮮弾道ミサイルは失敗だったとかで…。いつまで不安が続くのでしょうか。

で、今日は春の楽しい話題を捜してきました。

1.白いリス

白いリス、初めて聞きました。 ベルギーのフランダース地方で初めて見つかったそうですが、いわゆるアルビノじゃない。アルビノは目が赤いけれど、これは違う、ということです。黒いリスもいるそうですね。 

2.おやまあ ぬいぐるみの海

86歳のベルギー人おばあちゃん (Catherine Bloemen)は2万個のぬいぐるみなどの人形を持っている。65年間集めた結果だそうです。どこに何があるのかわかるんでしょうかね。うちにもたくさんあるけれど、せいぜい50個くらいかな。(フィギュアは含まず)。みなさんのお宅はどうですか。

https://nos.nl/data/image/2017/03/21/362900/1008x567.jpg

https://nos.nl/data/image/2017/03/21/362900/1008x567.jpg

 

3.ベルギーのリスナーが選ぶ、世界歴代名曲ベスト1000の1位は?

http://deredactie.be/cm/vrtnieuws/cultuur%2Ben%2Bmedia/media/1.2951905

1. "Stairway to heaven" - Led Zeppelin

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2位から10位はご覧のとおり。

2. "Heroes" - David Bowie

3. "Bohemian rhapsody" - Queen

4. "Child in time" - Deep Purple

5. "Wish you were here" - Wish you were here

6. "The river" - Bruce Springsteen

7. "Black" - Pearl Jam

8. "Shine on you crazy diamond" - Pink Floyd

9. "Purple rain" - Prince

10. "Like a rolling stone" - Bob Dylan 

4.夜の地球 

米国の気象衛星スオミNPPの観測映像です。人口密度や電力の消費量が一目瞭然です。(オランダ語新聞なのでヨーロッパ中心です)。

イタリアの長靴はくっきり形が見えるし、パリとロンドンは目立ちますね。驚いたのはベルギー・オランダです。えっ、こんなに明るいかな?ちょっと不思議…。これに比べたら日本はそうでもないことがわかります。 

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日本やアジア、アメリカ・アフリカ大陸などはこちらNASAのサイトの地図で↓。拡大できます。(ナイル川のほとりがおもしろい。北朝鮮は海だった…)

https://www.nasa.gov/specials/blackmarble/2016/globalmaps/BlackMarble_2016_3km.jpg

 

5.ゴエモンもありました!

ゴエモン、フランスにも!ジロー、サブロー、マンタローのほかに!

なんの話か、もう少し丁寧に説明しますね。以前私がフランスにはGiraud「ジロー」という苗字はよくあると書いたら

J.パーキンソン (id:PSP-PAGF)さまが

>「ジロー」という苗字はよくあるので・・・

では「サブロー」は? これも散見しますよね!(Sabouraud)

と返してきました。Sabouraud 「サブロー」があるだなんて!本当にびっくりし、すぐに調べてみました。現在339人のサブローさんがフランス国内にいるそうです。

Sabouraud : le nom de famille Sabouraud - nom-famille 

また「マンタロー」というのは、フランスの夏、人気の飲み物「ミント水」のことです。menthe à l'eauと書くのですが、発音はリエゾンして音がつながるので本当に日本語のマンタローと聞こえます。

 で、今日はゴエモンgoémon登場です。これはブルターニュ地方で採れる海藻の名前で、日本語と同じようにゴエモンと発音してください。ウィキペディアから引っ張ってきた写真をどうぞ。舟を使って採ってきたゴエモン

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/83/Les_goemoniers_au_retour_%C3%A0_Lanildut.jpg/800px-Les_goemoniers_au_retour_%C3%A0_Lanildut.jpg舟の名前:ゴエモニエ

 草の上に広げて干します。 ブルターニュ地方では、食用や肥料などに使われているらしい。あるレシピによれば、グリルするとベーコンのような味になる、とありました。私は食べたことがなくて残念…味をお伝えできません。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e1/Ramassage_goemon1.jpg/800px-Ramassage_goemon1.jpg

Récolte du goémon — Wikipédia

プレヴェール(Jacques Prévert)の詩にも出てくるそうです。

 

6.ダブルフロントライト

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 なぜ急にこの話かというと、皆さんもたぶんご存知、「YOUは何しに日本へ? Why did you come to Japan ? 」というTV番組がありますね。来日した外国人に密着する企画なのですが、ドイツ人のマーティンさんがダブルフロントライトの自転車を5000円で買って日本を回ったことがありました。その時にも「あんな自転車がまだあるんだ」と感嘆したものですが、最近下の記事でこの自転車を見つけたものだからたまりません。懐かしさがこみあげてきまして…。男子の間で流行っていましたねえ。

【衝撃】昭和生まれが「懐かしい!!」と叫びたくなるグッズ | CLiP

そしてマーティンさんは、ドイツの自宅にこの愛車を所有しているのですよ。TV局からプレゼントしてもらったのです。

 

 7.復活祭

復活祭はキリスト教の占有というわけでもなく、古来からいろいろな国で、春の訪れを祝う行事はたくさんあったそうです。先日TVで、エジプト人タレントのフィフィさんが、エジプトにも古くからあったので、「日本で商業路線とか揶揄する人もいるけど、春を喜ぶイベントにしてもおかしくないよ」と主張していました。

私の知る限り、フランスやベルギーでは一番楽しみにしているのは子供たちです。日曜の朝、庭に出て、あらかじめ親が隠しておいた卵を探すのです。きれいな色の文様で飾られた卵で、チョコレートの場合もあります。そうして大人になってもノスタルジーがあって、自分の子どもにも同じ経験をさせてやりたいと思う。でも皆が庭付きの家に住んでいるわけではないので、いつの頃からか、野原に子どもたちを集めて行事として楽しむようになりました。

http://static.blogs.sudinfo.be/media/49/993865831.jpg

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ヘリコプターからまきます。危ないんじゃないかって?大丈夫!綿でできているんです。子どもたちはこれを拾って持っていくと、チョコレートと交換できます。この日曜日は、他にもたくさんの遊びや楽しみが用意されています。

Beaucoup d’enfants pour la chasse aux œufs Nostalgie à Ciney - Ciney

 

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/3c/18/50/3c185015da4fc47628d147fb4c046ac6.jpgロシアのイースターエッグ 

https://jp.pinterest.com/pin/313352086561472991/

価値観の違う相手との対話・外国人就労の問題 (+ストロマエ)

人は話せばわかると思う? 

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/dd/f7/ca/ddf7ca083f01aeea8b47c71aa67e54cf.jpg

人は話せばわかるか…無理でしょ、話通じない人いるもん…正直にいうと私はすぐにそう思うたちである。

ネット上で過激な、差別的な持論を展開して異論を受け入れない人たち。あるいはトランプ大統領のような人たち。自分が正しいと思っており、明らかな事実さえも捻じ曲げて平気でいる、対話を通じて折り合うとか着地点を探すといった民主主義の基本的な手続きも無視する。自分と意見が違う相手に対し「そっちが間違っている」と言い張る人たち・・・話をする気もなくなる。

でもそれじゃいけないのだ。前回記事に寄せてくださったSPYBOYさまのコメントがすばらしく、もうお願いしてあるのでここに引いてみたい。(全文は前の記事で読んでいただきたい)

id:SPYBOY

 (略)

・・・クジラやイルカだけではなく、『私はシャルリ』なんかの騒動、それに『ヒジャブ』や『ブルキニ』なんかの騒ぎを見ていると、多様な価値観を社会に保持していくことは実に難しいものだと思います。

最近の極右も『自由』や『女性の抑圧』を表看板にして、イスラムを非難しているようですし。我々の民主主義とか自由主義もバージョンアップ、再定義が必要なのかもしれません。

片手には棍棒を持ちながらかもしれませんが、今の時代は説明する言葉すら通じない相手に対してでも、話す勇気を持たなければならないような気がします。それが利害の異なる相手の最少公約数だし、それには対話をする勇気と知恵が必要です。

排外主義を唱える政治家はその勇気と知恵が根本的に足りないとは思いますが、かくいう我々もどこまでその勇気と知恵と忍耐を持てるか、試されているような気がします。(*太字は私)

トランプ大統領就任式の動員数をめぐり、政権顧問や報道官の呆れた発言(alternative facts)を聞いて、アメリカ人じゃない私でも背筋が寒くなったものだ。誰が見ても嘘とわかることを「もう一つの真実」だと言い張る。こんな人たちが国のトップに座っているだなんて。

その直後に誰かが現実が『1984年』に近づいている と発言し、ああそうだ、ジョージ・オーウェルだと思い、急いで書棚から古い『1984年』(ハヤカワ文庫、1972年)を取り出した。若いころ読んだときの恐怖は感じなかった。むしろ笑えてきた。

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/34/51/8c/34518c25f7b0b8720263e2fc9dc592f1.jpghttp://black-ink.jpn.org/about.html

1949年に発表されたこの小説は、旧ソ連のような全体主義国家が舞台で、「ビッグブラザー」(権力者)によって管理・監視され、個人の自由が完全に奪われた社会を描いている。特徴的なのは「二重思考」(Doublethink)というもので、「相反し合う二つの意見を同時に持ち、それが矛盾し合うのを承知しながら双方ともに信奉すること」(新庄哲夫訳)である。例としては2+2は4だが、党が5だと言ったらそうなのだ、そう信じなくてはならない。二重思考 - Wikipedia

再読後の印象では、トランプ大統領やその政権はこれとは違うものだということ。予測のつかない不安があるのだ。大統領という立場をわきまえていない。言葉が軽く、思いつきでものを言ったり、ツイッターで人の悪口を言ったり。「俺様の真実」をがなりたてる。やれやれ、お子ちゃまだな。『1984年』とは似ていないなと思った。

しかし、やはり対話はしないといけない。どうせムダだもん、とそっぽを向いていたら社会の分断は大きくなってしまうから。そして対話や議論には最低限のルールや礼儀は必要だろう、お互いに。

それと武装として相手の研究も必要だ。たとえばポピュリスト、排斥主義を唱える人(ヘイトスピーチをして練り歩く人)の心理とはどういうものか、どんな論理を好んで使うかなど、あらかじめ知識があったほうがいいと思う。(関連書物はいろいろ出ていますし)。

私はシャルリ 言論の自由

パリのシャルリー・エブド(Charlie Hebdomadaire)という諷刺新聞社を襲撃したテロ事件は世界中に衝撃を与えた。12人が死亡、20人余りが負傷した。その後「私はシャルリ」という行進がフランス内外で行われた。

私はあのシャルリー・エブドはどうかなとかねがね批判的に思っていた。権力者、例えば政府や個々の政治家、公人、カトリック教会などをからかったりするのはよい。しかしイスラム教徒がいちばん嫌がるマホメットの「肖像」のイラストを描いたり、セリフをつけたりするのはいけないのではないかと。度重なる抗議にもかかわらず、挑発するかのようにマホメットを描き続けた

イスラム教徒はフランスではマイノリティーなのだから、部外者の私の目には嫌がらせのようにうつる。しかしフランスには言論・表現の自由があるのだという。

以前のブログにも書いたのだが、あの新聞の前身は”Hara-Kiri”ハラキリ(=切腹)という左派の風刺雑誌で、かなり悪趣味なものだった(1981年廃刊)。

それはあまりかわっていないと思ったのは、去年3月の↓この表紙を見て…。

手足や目玉があちこちに転がっており、ストロマエが「パパ、どこ?」と言っている。

https://nos.nl/data/image/2016/03/30/269804/xxl.jpg

cenecio.hatenablog.com

以前、ベルギーを代表する歌手ストロマエのことを書いたのだが、この人は父親がルワンダ人で、ルワンダ内戦の時、里帰りしていてそこで命を落としたのだ。 

その後の報道では「ストロマエの家族は(表紙を見て)心を痛めている」とあり、ベルギー国内外の反響も大きかった。

いったいどういうつもり?…と腹立たしく思っていたところ、ほどなくして、ある全国紙にシャルリー・エブドを弁護する人(文化人?)の談話が載った。

いわく、

この雑誌は初めから同じ路線でやってきた。テロがあったって方針は何も変えてはいない。書きたいことを書いている。

以前はこれを読みたい人だけが買って読んでいた。読みたくない人の目には届かなかったからなんの問題もなかった。

今は事件があったし、ネットの時代だし、読者でない人がそれをとりあげて騒ぎ立てているだけだ。

(ざっくりこんな感じです)

価値観の違う人と話をするのはいつも難しい。文化が違う外国人とはもっと難しく、根気もいる。これからの日本は、といってもすでに始まっているのだが、様々なルーツをもった外国人と共生する社会であるはずで、相互理解のための対話は欠かせない。

先日TVを見ていたら、英語の会話力とはなにか、についてこのように述べている人がいた。英会話の力というのは、ハンバーガーを注文したり、同じ趣味の話で盛り上がることではない。それは、異なった価値観を持つ人と対話ができることだ。お互いに理解しあい、良好な関係を作れるように。非常に納得できる見解である。 

次はこちら。

居候の光さまが「外国人技能実習改正」(介護士について、またSPYBOYさまが外国人労働について書いていらっしゃいます。記事お借りします。

技能実習制度が介護職にも拡大された - 居候の光

外国人問題と中国映画2題:『ブラインド・マッサージ』と『人魚姫』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)

外国人労働 

1980年代後半から外国人留学生・研修生に日本語を教えていたので、関心を持っている。ヨーロッパの国々で出会う移民の人の労働条件と比べると、あまりにひどいと思っている。(私はベルギーで1年移民学校でオランダ語を習っていた)

ベルギーでは介護の仕事は、若くて明るいインドネシアなどの女性たちが多い。養成、労働条件その他、定住に関しても満足なのだという。

「どう、仕事は?困っていることない?」と聞くと、「う~ん、方言がわからないことかな」と笑う。ベルギーのお年寄りの方言は全然わからないからだ。

高齢化の進む世界の先進国では、介護の人材はどこでも引く手あまたで、日本は今のままだと来てもらえないだろう。給料は2倍払ってくれて、条件もはるかによい国を選ぶだろう。たとえばカナダのような。

 

ベルギーやフランスから引っ越し荷物を送るとき、会社は日本の宅配業者だが、働いている人はほぼ全員が外国人労働者だった。移民であるか出稼ぎであるかはわからなかったが、私の印象では短期労働者という感じ。年輩のポーランド人が元締め的な風で、ポーランドでいろいろ指図していた。

本をぎゅうぎゅうにつめた重い段ボールを軽々と肩に乗せ、3階から階段を降りていった。監督する日本人の男性社員に聞いてみると、体が丈夫でよく働くのだという。

同様に農作業、特に決まった時期に果実を摘み取る作業などは、ベルギー人はきついからとやりたがらず、やっても続かないが、ポーランド人は班を作ってやってくる。文句も言わず、夜遅くまで働いてくれるという。残業代はもちろん払うのだが、ベルギー人だと残業そのものを拒否するのだという。こちらも引っ張りだこ。

さらにレストランやカフェでも移民の人たちが多い。すごいイケメンが二人でやっている話題の洒落たレストランも、厨房を見ると移民の人たちが4人で料理を担当していた。

私はカフェなどで、恐らく移民だなと思う給仕人を見つけると、積極的に話しかけるようにしていた。短い間でも交流が持て話が聞けるので勉強になった。

またパリではカフェ業がかなりのハードな労働だから、フランス人がやりたがらず、中国系移民の二世、三世が継ぐケースが増えているという。

アジア系の女性たちも働き者なので人気がある。フランスでもベルギーでも裕福な家のメイド業(家政婦の意味で)は圧倒的にアジア人女性が多かった。

それと関係はないと思うが、私がブリュッセルで1年通った 移民学校にもベルギー人男性と結婚した中国人女性が何人もいたなあ。

日本社会も、様々な分野で外国人に下支えされている。東京だったら飲食業やコンビニなど、あの人たちがいなかったらどうしようと思うくらいだ。

東日本大震災のあと、中国の親が放射能の影響を心配して、日本にいた子どもたちを帰国させたことがあった。そうするとコンビニやスーパーのレジ、厨房で弁当を作っていた中国人留学生(たいてい日本語学校在籍)がごっそり抜けてしまい、大わらわだったのを思い出す。

政府が「移民」(*)は認めていないため、外国人の定住という実態がありながら人権や違法行為・不法就労の問題が無視できなくなっている。

経済協力開発機構OECD)の統計上の定義では、国内に1年以上滞在する人は「移民」になるそうだ。

「移民を受け入れる」のではなく、まず現行の制度、受け入れの在り方と受け入れ先の監督はすぐにでも見直しが必要だと思う。

国は「単純労働の外国人は受け入れない」というが、その建前は虚しい。建設現場や、居候の光さまが書いてらっしゃる、北海道の牧場、それから縫製業や金属加工業など、産業界の本音としてはそうした労働者がほしいのである。それをごまかしているのだから、国連などから批判されても仕方がないと思う。

長くなりましたので、いったん切ります。 

 

すばらしい ひこうき ネズミのお話-2-

   〈*絵本ブログ「子どもの領分」から移動〉

すばらしいひこうき(L'AVION MERVEILLEUX)

今日はこれ。前回と同じ  Heather S. Buchanan(ヘザー・シンクレア・ブキャナン)の作品です。やはり1985年のもの。

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前にも書きましたが、フランスで買ったイギリスの絵本です。

ネズミ好きの我が家は、ついつい手が伸びて買ってしまうんですね

つきあわせてすみません。

そして邦訳はちゃんとあるのです。日本に帰ると何でもあるので、びっくりします。

 表紙の絵が違いますけど。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51YDKB72K2L.jpg

ジョージ・マウス はじめてのぼうけん– 2005/5
ヘザー・シンクレア ブキャナン (著),評論社

  

ネズミのロビンくんを紹介します。

両親と5匹の姉妹と木のうろに住んでいます。

いま(下の絵)は何を読んでいると思います?

新聞です。地球を一周するすごく速い飛行機のことが出ています。

そうそう、ちょうど自分も空を飛んで世界をめぐりたいな、と思っていたのでした。

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これはアトリエ。

ね、何をしようとしているかわかるでしょう。

ロビンは手仕事が大好き。発明家なんです。

必要なものを集めて、設計図を描いて。どこに?ってその黄色い葉っぱにですよ。

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お母さんが朝ごはんを作っています。

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何日もかかりましたが、すてきな飛行機ができあがりました。

あとはヘアピンのプロペラをつけるだけなんですが、これをどうやって回すかー

いいアイディアが浮かびません。

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気分転換にピクニックに行きましょう。

木の実を持って小川のほとりにやってきました。

小さな妹がふたり、楽し気に跳ねていますと、

突然大きな音が響きました。

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それは人間でした。おなじくピクニックに来ていたのです。

男の方はいびきをかいています。

足のところにガラスの広口瓶があって、赤いゴムが妹ネズミの頭にかかりました。

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二人は走って逃げて みんなのもとに帰りました。

その赤いゴムを見たロビンは はたと思いついたのです。

そしてアトリエへ走り出しました。

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ほら、赤いゴムで

プロペラのピンを回すのですよ。

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ロビンは飛行士の帽子をかぶり、

寒くないようにとお母さんが編んでくれた服を着て、

シートベルトを締めました。

お父さんネズミがプロペラをグルグルと、少なくとも50回は回してくれました。

 

いよいよその時がやってきました。

お父さんネズミはプロペラを放しました。

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冒険家の気分で空を飛び、かなりの距離をやってきました。

ところがだんだん速さが落ちてきて、ロビンの飛行機は木の太い枝に不時着陸しました。危なかったですが、けがはありませんよ。

再びプロペラを回して、素早く飛び乗り、家路につきました。

家族はみんな集まって、ロビンがよく見えるようにろうそくを灯し、ロビンの帰りを待っていました。

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 無事に着陸できました。

といってもそこは、お父さんネズミがくわを入れたばかりの菜園だったのですが。

でもお父さんはちっとも怒りませんでした。大切な息子の帰還が嬉しかったのです。

そしてロビンは、顔いっぱいに笑みを浮かべています。

悦びと誇らしさで溢れんばかりの。

飛行士にして探検家のネズミなんですもの。

おしまい

 

 

著者 ヘザー・シンクレア・ブキャナン

 

   http://www.georgeandmatildamouse.co.uk/assets/images/Heather.jpg

 

これまた愛らしいホームページをお持ちのブキャナンさん。

さいころから絵を描くのが好き。8歳のときにハムスターを飼い始め、子どもをたくさん産むので増えました。するとお父さんが古いクローゼットを改造して、ハムスターのおうちを作ってくれました。ハムスター全員に名前をつけ、よく観察するようになり、スケッチを始めました。そしてハムスターが主人公の物語を編み出したというわけです。本はいまのところ12冊出ているそうです。

 

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Heather Buchanan : Meet Heather

http://www.georgeandmatildamouse.co.uk/assets/images/H_girl.jpg9歳のころのブキャナンさん

お話はここまで。