(*別ブログの記事を移しています)
昔からなじんだ建物で、銀座のシンボルのひとつでもあった。
この写真は2016年夏。
そして 今日(2017年3月12日)行ってみたら
YAHOOの広告幕が張ってあった。
4階の高さ、16.7mのところに赤いラインが引かれている。
津波の怖さを一目で実感できる。
ああ、そしてソニービルよ、お別れだ。3月いっぱいだという。
銀座の路地
銀座にはすてきな路地や通り抜けられる通路がいっぱいある。探検してあきない街だ。
追記:2019年3月
ルリユールは今日で3回目。
初めていらしたかたは、1と2を読んでからの方がわかりやすいと思います。
とくるわけですが、フランスでは、ルイ14世が印刷と製本を完全な分業にしたため、製本術が独自かつ華麗な工芸分野へと発展を遂げたことなど、前に説明しました。
「ルリユール」ということばには
「もう一度つなげる」という意味もあるんだよ。
絵本『ルリユールおじさん』の中の言葉ですが、ルリユールの動詞はrelier、すなわち re-(もう一度)+lier(つなげる、たばねる。英語:bind, tie)。そして動詞lierの名詞形はlienです。
昨日の記事、いせひでこさんのパリでの絵本原画展、タイトルは「絆・lien」でした。お話の登場人物、ソフィーとおじさんとの出会いと絆、おじさんの父親との絆、400年ものルリユールの歴史、過去から現在・未来へのつながり、というふうに様々な意味が込められています。
また原画展は、そこに足を運んだ大勢のフランス人来場者をも結び付け、自分たちの伝統であるルリユールを再確認するきっかけでもあったでしょう。
さらに著者いせさんの物語でもある。パリの製本職人との出会い、その小さな種を大切に、苦心しながらもりっぱに育て作品にし、またそれを種として私たちの心の中にまいてくれた。みんなつながっている。
原画展では、パリっ子ならサンジェルマン界隈のことはわかるはずで、ここはあの通り、あそこはどこかしらと人と話しながら絵を見るのは楽しいことでしょう。
たとえばこの古い路地、800年以上前からある「ひばり通り」(Rue de l'Hirondelle )です。今、ルリユールおじさんがバゲットを持って、自分の工房にやってくるところ。
Mon joli petit bureau: "Sophie et le relieur", Hideko Ise (Chut les enfants lisent/ 42)
現在も変わらず、こんなふうに美しい路地です。ウィキペディアから取ってきました。
Rue de l'Hirondelle — Wikipédia
今やGoogle Earthなるものがあって、非常に便利です。さっき、おじさんの工房が入っていた建物を見てきました。青い扉はそのまんま。
場所は赤いピンのところ。(ちなみに「病院」は私が長男を出産したところ。一角全部が病院です)
読者のみなさんが凄すぎる(@_@)脱帽しました!
すぐにかえってくるコメントにまあ、毎回驚いているわけです。
こちら さぴこさん(ごめんなさい、全文じゃなくて)
いせひでこさん、昔北海道立文学館というところで原画展をされていました。素敵な絵がたくさんだった記憶があります。会期中に柳田邦男さんの絵本と子育てに関する講演会があって、応募したのですがハズレてしまったんです(;´д`)
そのあと
絵本の読み聞かせに興味を持ちはじめたときだったので、いせひでこさんより旦那様の講演会の方に興味があって…。
でもたくさんの木の絵がすごいなぁと見入ってしまいました。
いせひでこさんが札幌出身だから、札幌で原画展が開かれたのかもしれませんね。
そうなんです。ここでたいせつなワードは、「札幌」「木の絵」「柳田邦男さん」!私が全部落としたことです💦
生まれ育った環境は大きな影響を与えるものです。いせさんにとってはいつも木がかたわらにあり、大きな木から赤ちゃんの木まで強い親しみを感じるのでしょう。
また柳田邦男氏はノンフィクション作家で、自身の著書の挿画・装丁を手掛けていたいせさんと再婚同士で結ばれました。そのまえに息子さんの自死があって、何カ月も放心状態だったと言いますが、ある日、ふらりと寄った書店で絵本を数冊買い、それがきっかけで救われたと語っています。そして「大人こそ絵本を」という呼びかけで全国行脚しました。
マミーさんやカメキチさんがすでに書いておられますが、『だいじょうぶだよ、ゾウさん』(ご自身の訳)をはじめ、大人にも薦めたい珠玉の絵本をあちこちで紹介しています。
アンヌさま、さらりとまあ、すごい。
いせひでこさんですね。(^^) ゴッホと弟テオを主人公にした本、黄色が鮮烈なんですよ!を持ってました。田舎に送っちゃったかな?
そのとき、ルリユールおじさんの事を知り、ルリユール、ルリユール、と何度も頭の中で呪文のようにこの言葉を繰り返しました。
ゴッホの絵本は『にいさん』
ぜひ借りて読んでみたいです。 教えてもらって本当に私はラッキー!✌
志月さまには見事にまとめていただきました。
答えを考える前に、ルリユールの果たす仕事の大きさに圧倒されています。
思いをつなぎ、人をつなぎ、知識をつなぎ... 継承されて行くものへの敬意が、新たな芸術を生み出しているように思えます。
思いをつなぎ、人をつなぎ、知識をつなぎ..
ルリユールの仕事の本質ですね。特にルリユールは本を扱うだけに知識をつなぎ・・・を言ってくださり、ありがとうございました。
マミーさんのレビューがまたすごいんですよ。前回記事に飛んで読んでくださいね。
ここでは抜粋でごめんなさい。
(略)
ルリユールおじさんとソフィーの、
「自分が言いたいこと」を言いあって、でもどこなく通じている雰囲気、
おじさんを見上げる少女の首の傾げ方と常に細かい作業をし続けたおじさんの背中の曲がり方、
おじさんのお父さんの背中や手、今のおじさんの背中と手、
おじさんの思い出の中、幼かった自分の姿と、今、目の前にいる少女、どのページも、継続する時間の流れと、受け継がれた思い、引き継ぎたい気持ちにあふれていて、感動せずにはいられません。
「名をのこさなくてもいい。ぼうず、いい手をもて」
のセリフは、職人の誇りと矜持が詰まっていて、職人の仕事に敬意を表するすべての日本人の心を打つものがあります。(略)
「本」というものは、誰かと誰かをつなぐ。
今、生きている人同士でも、過去の人でも、未来の人でも。
そう思うと、ルリユールという仕事は、なんてすばらしいお仕事なんだろうかとしみじみします。初めてこの「ルリユールおじさん」を読んだとき、次に生まれ変わったら、こんな仕事がしたいなあ、と思ったのでした。
(略)
すばらしい!
心からお礼を言います。ありがとうございました。
さて今日はあの日から6年がたちました。
いせさんも震災のあと、絵描きとしてできることを考えたそうです。
そして生まれたのがこの絵本だそう。私もまだ読んでいないんですが、紹介しますね。
(インタビューの抜粋)
実は,東日本大震災が起きたあの日,このアトリエで,当時生後6か月だった孫を預かっていたんです。あの大地震が起こったとき,「ああ,この子を守んなきゃいけないな」と強く思いました。そして,その後の被災地の惨状を知るにつれ,「自分の孫だけを守ればいいっていう話じゃない」という気持ちもわいてきました。
「絵描きとして,自分に何ができるんだろう」と自問自答した末,東京にいる私が,自分の目の前のこととして描けるのは,「赤ん坊」と「命」の話しかないという考えに至りました。それで,そのとき抱えていた他の仕事に優先して,「赤ん坊」と「命」の絵本を緊急出版してもらうことに踏み切ったんです。
制作当初は,木の赤ちゃんではなく,人間の赤ちゃんを動かしていこうとしていました。でも,人間の赤ちゃんだと,寝返りを打ったり這ったりしたところで,動ける距離は限られています。物語が展開していかず,すぐに行き詰まってしまいました。「赤ん坊」と「命」を描いていながら,これではちっともはるかかなたの未来までつながっていきません。それで,木の種,つまり木の赤ちゃんたちがすっ飛んでいく旅にすることを思いついたんです。そうしたら,話はどんどん動き始めましたよ。
描いていて感じたのは,「知恵を使って生き延びる」ことが,どんな植物の種にもDNAとして組み込まれているということ。人間も同じです。生きるように生まれついているんですね。
Story3 絵でしか生きられない | 伊勢 英子(画家・絵本作家) | 作者・筆者インタビュー | 小学校 国語 | 光村図書出版
答え
問題:原書の日本版とフランス語版は、どうして違う?
おじさんがフランス語版に書かれていない理由は?
答え:(これは全部パリ在住の日本人で、私にフランス語版をプレゼントしてくれた友人から聞いた話です)
ルリユールおじさんはアンドレ・ミノス(André Minos)氏というかたです。
いせさんは何度も日本とフランスを往復し、最後の2年間はパリにアパートを借りて、スケッチや取材をしたそうです。本ができあがると真っ先に見せたい人はミノス氏ですよね。日本語版を送りました。
ミノス氏は、椅子に座って植木鉢を持っている自分の姿が気に入らなかったのです。少女が来てくれてアカシアの芽を手渡してくれた、なのに眠りこんでいるなんてありえない、と。自分はそんな老人ではない、と言いたかったらしいです。
そんなわけでフランス語版ではおじさんをカットして、ソフィーちゃんが図鑑を見たり抱きしめたりしている。ページをめくると巨木の前に佇む成人したソフィーの後ろ姿につながります。「二度と壊れることはなかった」という本を手にして。
というわけで、どなたも当たりませんでした。
ですが、りんさんの答えが気にいっています。
絆というのがテーマだということと、二人が出会う前は、左が少女、右が男性。
最後のページはアカシアの大木が両ページにまたがってあって、左のページに大人になった少女が立っている。
右には、学者になった少女が、出版した本をルリユールした本を持ったおじいさんが、椅子に座っているイラストではなく、写真!!!!
(略)
人や物との絆と、それを継承するすばらしさ。
素敵な絵本との出会い、ありがとうございました。
もう、私の読者さんたちったら、凄すぎる!
ルリユール-3-終わり
おまけ
絵本『ルリユールおじさん』
いせ ひでこ (著) 大型本: 56ページ 出版社: 理論社 (2006/09)
絆 ・LIENS
写真は上が原書。2006年発行、そして2007年にはフランス語版(下)が出た。絵本で日本→仏語訳が1年というスピードは異例と言ってよい。
もっと驚いたのは出版と同時に、パリでいせひでこさんの絵本原画展が開催され、オープニングのスピーチが、まだ存命であったミッテラン夫人(Danielle Mitterrand)だったこと。場所はパリ6区の区役所内ギャラリーだった。(参考までに→Mairie du 6ème arrondissement "Salon du Vieux-Colombier" place Saint Sulpice)
原画展のタイトルは「絆・LIENS」という。フランスのメディアに取り上げられ、また口コミでも広まって大勢の人が来場したという。いせさんはこれでフランスでも一躍有名になった。
お話は、少女ソフィーが、壊れているけれどとても大切な植物図鑑を、製本職人のところに持ち込んで直してもらう - たったそれだけの話。帯にはこのようにある。
パリの路地裏に、
ひっそりと息づいていた手の記憶。
本造りの職人から少女へ、
かけがえのないおくりもの。
最初の見開き(p2~3)。
淡い青や灰色、緑色の水彩画が目の前にわっと広がり、ああ、パリの街の色だなと嬉しくなる。
左のページに青い服の小さな女の子が見える。右ページにはじょうろを持った男性が。
パリの街に朝がきた。
その朝はとくべつな一日のはじまりだった。
(p2~3)
次の見開き(p4~5*ちょっと色が濃く出過ぎてすみません。もっともっと淡いです)
左のページに ベランダに立つ少女。装丁が壊れた本を持っている。
右は階段をおりていく男性の後ろ姿。
なんというアイディアだろう。左ページが少女、右ページが男性で、二人が出会うまでこうやって話が進んでいくのだ。
壊れた本をどこへ持っていったらいいの。少女はまちなかを歩きまわる。
セーヌ河畔の古本屋のおばさんが、ルリユールのところへ持っていけばいい、と教えてくれる。
そして路地裏で製本職人の店をついに見つけ、植物図鑑を直してくれるよう、頼む。
ここから20ページほど、製本の工程が描かれ、初めて見る者でも大まかな流れがわかる。(本当にすばらしい!)
そのかん、ソフィーは職人のそばで、好奇心いっぱいに質問したり、手伝ったり、また自分の好きな「木のこと」について話をする。
では、まず一度本をばらばらにしよう、とじなおすために。
「ルリユール」ということばには
「もう一度つなげる」という意味もあるんだよ。
(p25下の写真右)
「もう一度つなげる」この言葉は深い。
二人で公園に行く。道を歩きながら、自分の父親の工房があった建物を教えてくれる。
それから公園にある、樹齢400年くらいのアカシアの木を仰ぎ見る。
わたしおおきくなったら、世界中の木を見てあるきたいな。(p41写真右下)
父はいつもいっていた。「ぼうず、あの木のようにおおきくなれ」
父の手も木のこぶのようだった。
だがなんてデリケートな手だったろう。
父のなめした革はビロードのようだった。
ルリユールはすべて手のしごとだ。
糸の張りぐあいも、革のやわらかさも、
紙のかわきも、材料のよしあしも、
その手でおぼえろ。
本には大事な知識や物語や人生や歴史がいっぱいつまっている。
それらをわすれないように、未来にむかって伝えていくのがルリユールの仕事なんだ。
60以上ある工程をひとつひとつみにつけ、
最後は背の革に金箔でタイトルをうつ。
ここまできたら一人前のルリユールだ。(p44~45)
下の写真
「とうさんの手は魔法の手だね」
わたしも魔法の手をもてただろうか。(p46~47)
ソフィーは直してもらった図鑑を引き取りに来た。窓辺に自分の本が飾ってある(p53)
「ARBRE de SOPHIE」-ソフィーの木たち。本の題があたらしくなっている!
アカシアの絵は表紙に生まれかわり、金の文字でわたしの名前がきざまれていた。
なぜでしょう?
そして最後から2ページ目。
興味深いことに上、日本語の原書と
下、フランス語版と絵が違う。あれ、ルリユールおじさんがいない?
なぜでしょう?考えてみてくださいね。宿題です。ちゃんと答えはあります。びっくりしますからね。
最後のページは、大人になったソフィーがアカシアの木の前に佇んでいる。ソフィーは植物学者になっていた。
作家 いせひでこさん
ルリユールをやっていた私にはわかる。いせさんがどれだけの時間と情熱を傾けてこの本を世に送り出したか。柔らかい色調の絵で可愛い女の子が出てくるが、だまされてはいけない。なにか凄まじい気迫のようなものを感じる。p46 の手を描くところや、言葉少なのテキストから。
良い手を持つことが職人の資質の高さを表すのだろう。自分もそんな手をもてただろうかと、老境を迎えたルリユールおじさんは自問する。
フランスの歴史の重みや修練によってしか身につかない職人技、それを伝えていくことの大切さや難しさなどを考えさせられる。おそらく将来は閉めるであろう製本工房で、ルリユールおじさんは職人の誇りを胸に、子どもの依頼をききとげる。
またソフィーの成長物語でもあって、植物図鑑の修理を絆に、ルリユールおじさんとの心の交流が始まる。そして本のお医者さんみたいに、ソフィーにとって何よりも大切な宝物の植物図鑑を蘇らせてくれた。
「ルリユール」ということばには
「もう一度つなげる」という意味もあるんだよ。
図鑑の再生は未来の植物学者を生み出したわけである。
また私は内容ばかりに目がいっていたが、こちらマミーさまが大切なことに気づかせてくれた。
特に表紙。あの大木の繊細な枝ぶりも素敵。
そう、言われてみて初めてアカシアの大木をじっくり見た。
推定400歳、すごい木だ。そしてルリユールも400年続いてきた。なんという壮大な時間の流れ。さらに未来へつながっていくのだろう。
もうひとつ言い忘れ。最後のページでおじさんが小さな植木鉢を手にしているが、あれはアカシアの木の芽。ソフィーが種から育てたのである。
表もそうですが、束ねるところはかなり技術がいるのではないかと思います。接着剤は膠❓編んだ糸はシルク❓
おっしゃる通り接着剤は膠です。ボンドも使うし、小麦粉と水を煮て糊も作ります。
糸はタコ糸みたいなのや絹糸など様々。太さも紙や本の厚みに合わせていろいろです。
ヨーロッパの墨流しは高度ですね。どうやるんだろう?イタリアのラテ・アートの技法と似ていますか。
思わず笑ってしまいましたが、「ラテ・アートの技法と似て」いますね、確かに。
世田谷ぼろ市で、いせ辰の古紙を売っていて、たくさん買っちゃいました
マジで?!ああ、羨ましっ!
La reliureという貴重な本の中のページのお写真をのせてくださったことに心より感謝です。💕これはほんとうに宝物ですね!
shellさま、わかってくださいます?大地震が来たら持って逃げるもののひとつ(笑)。
みなさま、ありがとうございました。
最後に
いせさんの書いたあとがきから、一部を引用する。
旅の途上の独りの絵描きを強く惹きつけたのは、「書物」という文化を未来に向けてつなげようとする、最後のアルチザン(手職人)の強烈な矜持と情熱だった。
手仕事のひとつひとつをスケッチしたくて、パリにアパートを借り、何度も路地裏の工房に通った。そして、きづかされる。
本は時代を超えてそのいのちが何度でもよみがえるものだと。
旅がひとつの出会いで一変する。
★参考:
ルリユールおじさんは実在する人物です。1926年うまれ、アンドレ( Andre)さん。パリ6区にお住まいです。下のサイトにお写真があります。
http://www.paristribune.info/Andre-Minos_a6826.html
★通りと建物
🌸前の記事
今日はヨーロッパの製本ルリユールの話です。
実はルリユールについては前にもちょっと触れている。なぜ和紙が出てくるのか、フレディ・マーキュリーが和紙とどんな関係があるのか・・・こちら↓
はてなの皆さんの中にも、出版・印刷関係、書店勤務、作家の方々がいらっしゃいますね。本を扱うことではみんな仲間です。でもみんなが「本フェチ」とは限らないけれど。今は電子ブックを読むことのほうが多いかもしれませんね。
それでも子どもの頃、本を買ってページをめくるとき、匂いや音にわくわくしたことはあるでしょう。
私は装丁や表紙デザイン、紙質やフォントや文字の配列、余白の加減、丸背なのか角背なのかーそうしたことを見るのが楽しかったものです。
そんなこともあって、1980年代にフランスに住んでいたとき、製本を習うことにしたのです。フランス語ではルリユール( reliure)と呼ばれ、日本では工芸製本とか手製本と訳していますが、ここではルリユールで統一します。
羊や仔牛の革を表紙にはって、金箔や美しい文様で装飾された豪華な本、あれがそうです。
左の方は昔の伝統的なデザイン、右に行くにつれ、現代風になっています。
(写真は下の本から。非常によくできた解説書で私の宝物。でも絶版ですが)
著者: Annie Persuy, Sün Evrard 出版社:Denoël 出版年:1983
ルリユール( reliure)というのはもともと本を綴じ直すこと、もう一度束ねることという意味。動詞はrelier。フランスでは製本のことであり、独立した業界です。製本屋さん、製本職人はrelieur、日本語のカタカナ読みをするとやはり ルリユール。
印刷はまた別の業界で、本を印刷したら仮綴じ(簡易な表紙はつける)にして本屋におろす。この段階では本は高価なものではない。それを買った人がルリユールに持っていき、好みの装丁を施してもらう。これがフランスにおける従来のやり方でした。もちろん現代では日本と同じ印刷出版システムの書籍がほとんどです。
なぜフランスではこんなことをやっていたかというと、ルイ14世が大変な愛書家で、本をオブジェとして愛でたり、蒐集の対象にしたからです。印刷と製本を完全に分業にしてしまいました。そして王侯や貴族は優秀なルリユールのもとで、こぞって豪華な装丁の本を作らせました。
江戸時代にオランダやポルトガルから日本に持ち込まれた書籍もみごとですが、あれは現在のベルギーで作られたものです。アントウェルペンの印刷工房で印刷され、銅板の挿絵が入って製本されたのち、世界中に散らばっていきました。
工房は「プランタン=モレトゥス博物館」*として世界遺産になっており、去年訪問記を書いたので下に貼り付けておきます。
ルリユールが日本にない理由は、和綴じ本のあと、一挙に大量生産ができるイギリスのシステム、つまり工業製本を導入したからです。
パリのルリユール
パリでは少なくとも1980年代初めはまだ、地域に一軒ルリユールの製本屋がありました。たいてい家族経営で、見習いの人もいました。フランスでは相変わらず仮綴じ本が書店で普通に売られていたし、蚤の市で50円とか100円位で買う古本も仮綴じ本、それで十分です。古書店の製本された豪華本は、今も昔も大変な値段がついていますが。
しかし自分の好きな作家や詩人の作品、限定本(夏目漱石の限定特装本など、番号がふられているあれですね)などは特別な装丁、しかも自分好みの体裁を整えて書棚に飾りたいと思う。あるいは祖母の貴重なレシピを製本してもらって子孫に伝えたいのだが、仔牛の柔らかい革表紙で見返しの紙は美しいマーブル紙でお願いしたい…。
あるいは娘の誕生日に詩集を送りたいが、ルリユールと相談して特別な一冊に仕上げたい…。
そんなときルリユールに行くのです。他にも大型の辞書が壊れた、大切な画集に虫食いができた、本の背だけ替えてもらいたい、など、どんな相談にも応えてくれます。
フランスだけではなく、ヨーロッパの都市にはどこでもルリユールはいました。フランスほどではないにしても。ドイツやベルギー、イタリアやスペイン、デンマーク、そしてカナダのフランス語圏など。美術大学の中に、また専門の学校(フランスとベルギーのが有名)もあって、日本からも毎年留学生が来ていました。
私は養成講座と個人レッスンで習ったのですが、趣味的ではあってもひととおり基礎を習得するのに最低二年はかかります。毎日、繰り返し練習できるように、自宅に工房も設けてしまいました。
昔は趣味として習う人もたくさんおり、有名な講師のいる講座は大盛況でした。世界の有名なルリユール作家たちの展覧会は、それはもう息をのむ美しさで、斬新なアイディアにため息がもれたものです。
写真は作品の一例ですが、すばらしいでしょう?
よき時代でした。
日本の伝統工芸と同じように、ルリユールも斜陽化していき、街から製本屋は消えていくのです。店を構えているところも、「自分の代で終わり」とか「国立図書館の古書の修繕で生計をたてている」などと話していました。
現在ではルリユールは工芸の一部門として生きています。また貴重な書籍の修復なども大切な仕事です。
魅惑のマーブル・ペーパー
まだ「本の本体」を作るところまでしか話していないんですね。ここに紙を染めるマーブリングや本の背にいれるタイトルの金箔押しなどが加わりますが、これも専門の業者がいます。
ただマーブリングは楽しい作業なので教室で一回は習います。みなさんも子どものころ、墨流しはやったことがあるのではないでしょうか。
上の本は私が1986年に帰国してから買ったものです。
初めのほうにこんなページがあります。
”『西本願寺本三十六人家集』国宝。1112年ころの粘葉装(でつちようそう)の書写本。(略)現存する最古の墨流しが見られる。 ”とあります。
ヨーロッパのマーブリングは何十種類もあってとてもここには書けません。
なので例として3枚だけ写真を貼ります。
①ターキッシ(英語:Turkish Marble, Stone Marble, Agate Marble)
②シェル(.Shell Marble)
③オールド・ダッチOld Dutch Marble, Large Dutch Marble
今日はここでいったん終わります。
次回は『ルリユールおじさん』
こちら↓
ロシアには”核列車” (Nuclear Train)なるものがある。
最近知って驚いたことだ。みなさんはとっくにご存知かもしれない。
鉄道で移動できる戦略ミサイル車両はソ連時代もあったのだが、これを復活させたのだ。あだ名はバルグジン(Barguzin)、6発の大陸間弾道ミサイルを搭載できるとのこと。ただしミサイルは車両に積めるようにかつての半分の大きさだという。
2017年1月19日付スプートニク・ニュースから
Russia to Conduct Flight Tests of Missile for 'Nuclear Train' in 2019
恐ろしいもの見たさに、世界の核兵器所有最新版を見てみよう。
2017年2月24日付の記事から
Trump flirtet mit Aufrüstung – Atommächte und ihre Arsenale - News - SRF
核弾頭数 START2以降
赤が2017年 ロシア、アメリカ、フランス、中国、英国…
1945~2017年の移り変わり
青:アメリカ
赤:ロシア
灰色:全体
ウクライナ 憂うべき状況は今も
ルモンド紙2017年3月3日付
2014年以来、ウクライナでは内戦と呼んでいい軍事衝突が続いている。
昨年から私たちは米大統領選や自国の政治・社会問題に気をとられ、ウクライナのことは忘れたも同然だった。停戦合意にも関わらず、あいかわらずウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力(+ロシア連邦軍)の戦闘は続いている。
いたましいことに、記事によると死者1万人 負傷者2万5千人 難民180万人だという。現地に赴いた特派員が載せている写真がどれもすばらしい。
写真1:小学生がふたり、町の中心部を歩いている。ウクライナの民族衣装を手に持って。
写真2:ウクライナ軍専属の記者。詰所は元託児所。
倒壊した建物や荒れ果てた町。戦時下に暮らす不安と危険がよくわかる。
希望の言葉が聞きたい
世界はありとあらゆる種類の、心の痛むニュースでいっぱいだ。朝、新聞やweb上のニュースを読むだけでけっこう疲弊する。何もしていないのに。
でもけさのよいニュースは(小さい声で言うが)WBCでイスラエルが韓国に勝ったこと。すごいな。2009年に、ドミニカ共和国に勝ったオランダを思い出したが、オランダはもともとカリブ海の国々出身者が多いから強かったのだ。
へえ、イスラエルってどんなメンバー?と思ったら、イスラエル出身はたったの一人で、あとはユダヤ系アメリカ人だった。新聞記事によれば、いったん引退した「38歳右腕マーキー」という選手がチームを引っ張ったらしい。ともあれよかったな。
希望
SPYBOYさまの取り上げる話題は、私たちのごく身近な話題、日本社会の問題であり、世界共通の問題でもある。そしてそれと関連した新聞記事なり、関連書籍(ご自分で読んだもの)とのセットで、解説してくれる。経済のことでもわかりやすくかみ砕いてくれ、分析もし、そこに意見を添えることも忘れない。はっきりしないことはわからないと言うし、コメントに書く私たちの意見にも丁寧に答えてくれる。そしてなんといっても明るくて前向きで元気にしてくれる!
『社会の分断の正体』と『0303再稼働反対!首相官邸前抗議』と『#0303国会前抗議』(#RESIST) - 特別な1日(Una Giornata Particolare)
この回のブログ記事内では三つめの
「反トランプへ若者動く ジェフリー・サックス氏 」(2017/2/27日経記事)がすごくよかった。詳しくはSPYBOYさまの記事を読んでいただくとして、やっぱりわたしは希望のことばをかけてもらいたいのだなと思った。
サックス氏は、若者と年長者が支持する政策に少なくとも3つの大きな違いがあるとして、解説する。
そして
18~35歳のミレニアル世代の大半はトランプ氏に投票しなかった。トランプ氏の支持基盤は主に45歳以上だ。
重要なのは、今日の若いリベラル派があす高齢の保守派になることはないということだ。今後、若い有権者は同氏の政策に抵抗する勢力の中核となるだろう。
また
トランプ氏は歴代のどの大統領よりも近視眼的だ。メキシコや中国との貿易戦争や、悲劇的なほど誤解に基づいたイスラム教徒の移民の入国禁止などでは若者の求めに応えることはできない。
トランプ氏の政治的な成功は例外的な出来事にすぎず、転換点ではない。2020年にはミレニアル世代が支持する大統領候補によって、彼らの時代がやってくる公算が大きい。
*ミレニアル世代(Millennial)とは、1980~2000年頃に生まれた若者のこと。
とはいっても今後、アメリカのTやロシアのPなどが任期中にどれだけ「破壊」をもたらすか想像だにつかないのである。
それでも前を向いて、自分のできることからしていかないと。アンテナを張って、政策などを監視して(=たいていは疑って)暮らしていきたいと思っています。
朝起きると何かしら恐ろしいことが起こっている、というのがここ数年の印象。特に今年に入ってからは不安が倍増している。ミサイル撃ちまくる独裁国家や、化学兵器使用をめぐるシリアへの制裁に非協力的な中国・ロシア。
北朝鮮が弾道ミサイル4発発射 首相「新たな脅威」 :日本経済新聞
ロシアと中国、化学兵器使用めぐるシリア制裁に拒否権行使 WEDGE Infinity(ウェッジ)
来年1月から、スウェーデンが徴兵制を復活させ、4千人を徴集するとか。(*)
スウェーデン徴兵制復活へ、ロシア脅威で7年ぶり - 産経ニュース
フランス選挙戦
目が離せないのはフランス選挙である。フランスには長く住んだし、パリで出産もしたし、節目節目(ミッテランとシラクの大統領選など)にはたまたま向こうにいたので、今回も大関心事なのだ。
共和党フィヨン氏は、選挙戦から引くのか引かないのか、その後どうなるのか。
仏大統領選、フィヨン氏に撤退圧力 家族への不正給与疑惑で :日本経済新聞
Discours de François Fillon : combien de fidèles au Trocadéro ? - L'Obs
昨日(5日)トロカデロ広場にフィヨン氏支持者が20万人集結した、と共和党は発表したが、そんなにいるようには見えないけど。せいぜい数万人でしょう。
私は1月に「たぶん大統領はジュペ氏」なんて書いてしまい、その後党内の候補者選びであっさりジュペ氏は落ちた。ジュペ氏(Alain Marie Juppé)は1945年生まれ。ジャック・シラクの懐刀といわれ、1995年から1997年にかけて首相を務めた。シラク氏は自分の後継者にと考えていたが、その後スキャンダルや不運が相次いだジュペ氏。
そうそう、アパート問題というのもあった。パリ中心部は東京と同じくらい住宅費がかかるが、高級住宅街のアパートを格安で借りていた件。リフォーム代を公費から落とした件など。フィヨン氏が引くとジュペ氏が出る可能性は高い。しかしフィヨン氏は、同じ党内でも右派なのに対し、ジュペ氏は中道寄りということで、マクロン氏(オランド大統領の側近だった人で、経済・産業・デジタル大臣をやっていたが、辞めて立候補。 Emmanuel Macron, 1977年生まれ)と支持層がかぶってしまう。
今日明日で動きがあるだろう。
brigitte trogneux macron mariage
マクロンさんといえば、24歳年上の Brigitte Trogneuxさんと結婚したのが話題になった。結婚は10年前で、マクロン氏29歳の時。奥さんは高校時代のフランス語教師であり、演劇クラブを主催していた。熱愛ですね。
壁は増える一方 世界の壁事情
壁と言えば最近は「メキシコ」だが、昔は「ベルリンの壁」が分断の象徴だった。ベルリンに行ったのは1983年で、陸の孤島である西ベルリンに入るには、一国のなかの「東西」の国境線を越えていく。陸路を列車で入る場合の話。そのたびにパスポートチェックがある。
「ベルリンの壁」で隔てられた東ベルリンにも行った。365 mのテレビ塔にのぼり、最上階の展望台&回転レストランから壁や西側を眺めたりした。
写真:1961年、壁の建設中。笑顔も見える。Remembering the Berlin Wall - Photos - The Big Picture - Boston.com
今朝の記事によると、トランプ大統領は、壁の設計案を募集ということだ。
記事によれば、壁建設事業に関心がある企業は約300社という。そうか、これも雇用の一形態なのだなと思った。
しかし壁と言っても現代の壁は、ベルリンのような煉瓦と有刺鉄線ではないのだ。ハンガリーは移民を入れないために、セルビア・クロアチア国境に、4メートルのフェンスを築いている。しかも電気を通す柵である。
写真:ハンガリーのフェンス。
Hungary builds new high-tech border fence - with few migrants in sight | Reuters
電気柵といえば、ふつう動物用だろう。ナチスの強制収容所の敷地ではないのだから。
去年静岡県でおきた事故は痛ましかった。川遊びに来ていた家族ら7人の、悲しい感電事故。たしか死亡者も出た。
ベルリンの壁が崩壊した1989年には10数個しかなかった壁が、現在では70以上あるという。ケベック大学のElisabeth Vallet 氏の報告による。
アメリカ・メキシコ
すでに三分の一はフェンスで仕切られているが、残りの部分に5メートル以上の障壁を作り、監視カメラをつける。
さきほどのハンガリーほか、スロヴェニア、オーストリア、マケドニア、ギリシャ、ブルガリア、スペインとモロッコ間(セウタ: Ceuta)イスラエルとパレスティナ、サウジアラビアとイラク、インドとパキスタン、朝鮮半島、等々…
https://pbs.twimg.com/media/C6AshWvWYAAdQrZ.jpg
フランスとイギリスも
イギリスは、英仏海峡を渡ってフランス側(カレー)から押し寄せる難民対策に頭を痛め、壁の構築に踏み切った。
こうした貴重な写真のおかげで様子がよくわかる。
壁は高さ4m、長さ約1kmで、カレーのフェリー船の港に通じる道路上の両側に作られた。
以前は、下の写真のようにイギリスに渡りたい難民が溢れ、劣悪な環境でテントを張り、深刻な問題になっていた。おもしろいことに全員がイギリスに渡ることを希望した。フランスで難民申請したい者はいなかったというから不思議だ。
http://www.cnn.co.jp/world/35088786.html
https://www.thesun.co.uk/wp-content/uploads/2016/08/nintchdbpict0002598317683.jpg?w=960&strip=all
カレー 「ジャングル」解体で放火に催涙ガス (3月1日)
英仏海峡近くのフランス・カレーにある「ジャングル」と呼ばれる移民キャンプで2月29日、掘っ立て小屋などの解体を始めた当局と移民の間で衝突が起きた。
移民たちの投石を受けて警官が催涙ガスを使用。少なくとも12の掘っ立て小屋に火が放たれた。
こうして撤去されたキャンプも再び満杯に。
終わり
(*)追記
(*別ブログの記事を移しています)
今や外国人観光客にも人気の合羽橋。
正しい名前は「かっぱ橋道具街」で厨房関係の大規模道具街、店舗数170以上という日本一大きな商店街です。
でも今日紹介するのは「合羽橋本通り」のほう。上野から「かっぱ橋道具街」につながる通りです。この通りもカッパたちが楽しく迎えてくれます。
縛られ河童
↑平成15年10月に「合羽橋道具街」が誕生してから90年を記念してシンボル像「かっぱ河太郎」を建立した、とのこと。(合羽橋商店街振興組合)
仕事が終わって帰るようです。
自転車に”NEW YORK TAXI”と書いてあります^^
追記:2018年秋
自転車を買ったのであちこち出かけています。
合羽橋方面 楽な行き方を研究。
寛永寺坂で横断する。
*絵本ブログ「子どもの領分」から移動
おかしな結婚式 大型本 – 1986/8
ボフミル ジーハ (著), ヤン クドゥラーチェク (イラスト), 井出 弘子 (翻訳) 95ページ
出版社: 童心社 (1986/08)
今日もカッパの話なのですが、初めて読む方は前回記事で、チェコのカッパの基本知識を仕入れてくださいね。民話や伝説を扱っているのではなく、子ども向けに書かれた作品を読んでいます。
さてこの本には、カッパは何匹も出てきます。カッパならではの特徴はあまりなくて、私たちと似ている人間臭いカッパです。
このスターレク爺さんはカッパの親分。銀の池に住んでいる。
いつも家来のナマズを従えている。水の中でも親分、そして陸の野原や森においてもやっぱり親分。長老といった風格ですね。
スターレク
スターレクには気にかかることがある。
鯉のベーナが結婚式を挙げたがらないことだ。ベーナはもう若くもなく、長いことヨハンカ(同じく鯉)と連れ添っていて、子どももたくさんいる。
しかしけじめとして式を挙げてもらいたい。スターレクは説得にあたるのだが、鯉のベーナは反抗的だ。頭にかぶった麦わら帽子は脱がないし、パイプタバコを吸っている。タバコはカッパにだけ許されていることなのに。
「ときどき王冠をかぶったりしているそうじゃないか」とスターレクは問いただす。
「子どもたちと王様ごっこをしていたもんで」とベーナ。
ねえ皆さん、この辺で「ええっ?!」と思うでしょう。鯉って魚なのに帽子や王冠かぶったりパイプくわえたりするわけ?
そう、お話を作った人(回をあらためて紹介する)と絵を描いた人は別なのですが、初めて絵を見たとき、お話にそぐわない気がして仰天しました。
なんと可愛い装飾的な鯉であることか!しかもどうやって描いたの?と思いました。
パイプをくわえているのがベーナ。隣がヨハンカ。
ベーナはしぶしぶ、スターレクのいうことを聞いて結婚式をあげる約束をする。
「これからすぐ家へかえり、ちゃんと用意をするのだ。水曜日、太陽が森の上にのぼったら、おまえたち二人は、結婚のパレードのなかにいるのだ。仲人には、カワカマスとカワスズキがなる。・・・
ヨハンカには、わしの持っているベールのなかで、いちばんよいものをおくるから、それを着せなさい。」
結婚式は、皆が集まって美しいふるさとのことを喜び合う、口実のようなもの。
しかしベーナはお祭り騒ぎが嫌いだし、こんなに歳をとっているのに今さら式などおかしいと思っている。その気持ちにヨハンカも共感している。
そんな二人をよそに、式の準備は着々と進む。
子分のカッパたちを一部紹介。
左:バイオリン弾きのカッパ 中:笛吹カッパ 右:おしゃれな銀色カッパ
結婚式の知らせをうけて、魚はもちろん、カエルやザリガニ、昼の小鳥、夜の小鳥たちも大喜び。
皆が集まって御馳走を食べたり、音楽を楽しんだり花火を見たり、とそれはそれは華やかなのだから。また晴れ着で着飾り、自分の美しさをみせびらかすチャンスでもある。
どれもこれもコピーしたいくらい、絵がおもしろいのです。
いくつか紹介します。魚と鳥です。
私が気にいっているおばあさんの魚です。
鉄砲を持って見張りをするフクロウ。
次の4枚、このインパクトに勝てず、やはり貼り付けてしまいました。
さて結婚式。おめかししていますね。
左下:ヨハンカのベールの美しいこと。
結婚式の準備はOKです。 これでめでたしめでたし、と終わると思うでしょう?
違います。
「まあ一回だけ、結婚式をがまんしてくれよ」と
カッパに懇願され、逃げない約束をする二人。
ベーナ「やりたいようにやるがいい。わしは目をつぶり、ふれをふせて、息をとめることにする。結婚式のときは、ただの丸太のように見えるだろうよ」
ヨハンカ「わたしも丸太になるわ。ねえ、ベーナ、結婚式がすんだら、一緒に目をさましましょうよ」
当日、結婚式のために皆が集まっている。スターレクの挨拶が始まる。二人はまだ出ていかない。控えの間で聞いている。
立派な挨拶に、皆が拍手を送っている。
スターレクが続ける。
一晩考えたのだが、結婚式に花嫁花婿が一緒にいなければならないとは、どこにも書いてない。もしかすると二人は村から散歩に出て、ふたりきりでアシの間を泳ぎ回ったりしたいかもしれない。二人を無理にここに立たせようとしたのはまちがいであった。
二人の生活がこれからも変わりなく続きますように。これからの日々がみんなの喜びとなり、わたしたちを取り巻く美しい自然を楽しむことができますように。
スターレクが話し終わったとたん、結婚式の楽しい気分が爆発した。そのあと皆でおおいに楽しんだ。スターレクはこの世で一番賢いカッパだと褒め称えられた。
そして鯉の二人は、というと、アシの間の、二人きりになれるところへ入っていった。
おしまい。
カッパの周辺・雑記
最初に言及から(shellさま)。
わたしは実は・・カッパが怖いのです。苦手なのですよ・・・笑*
鱗をもたない生き物で、ナマズとか山椒魚などの皮膚の感じがしますね
わかります。あのヌルヌルがいやなんですよね。
逆に『おかしな結婚式』の初めの方に、こんな一節があります。カッパから見た鯉の描写です。
p12
鯉はどうやっても鯉でしかありません。体じゅううろこだらけで、ひればかり。
ものしらずでなににでもおどろくし、なまけもので、礼儀なんてものはこれっぽっちもわきまえていないのです。
完全に 上から目線!チェコではカッパは偉いのです。自然界の主みたいな感じもすれば、浪士さまのあこう劇場の登場人物みたいなカッパたちも出てきます。
ヨーロッパでは「カッパは川の水死体」という説もあります。水の流れでゆらゆら動いているように見えるのです。
簡単にカッパ作品の作家たちについて。
『おかしな結婚式』
お話:ボフミル・ジーハ(Bohumil Říha)
1907 -
チェコスロバキアの作家。
元・チェコ作家同盟書記,元・国立児童図書出版所所長。
ボヘミア生まれ。
教師や視学官を経て作家となり、1930年以降新聞や雑誌に作品を発表し、’52年チェコ作家同盟書記となり、’56年国立児童図書出版所所長を務める。’75年チェコスロバキア国民芸術家の称号を受け、’80年国際アンデルセン賞を受賞する。作品に「ぼくらは船長」(’63年)、「ビーテクのひとりたび」(’73年)など。コトバンクより引用
挿絵:ヤン・クドゥラーチェク(Jan Kudláček
1928-
南モラヴィア地方、モラフスキー・クルムロフに生まれる。プラハの国立美術学校を卒業後、カレル大学で芸術史を学ぶ。1957年に造形美術アカデミーを卒業してから、子どものためのイラストを描く仕事に従事する。柔らかな色調で幻想的な作風を特徴とする。
幼いころ過ごした自然豊かな故郷の生物のほか、池や川の世界、とくに魚やカッパを好んで描く。
1972年に外国語の出版物を扱う出版社より、ルケショヴァーの本のイラストを依頼される。1971年に『ペトルーシュカ(Petruška, 1970)の挿絵でブラティスラヴァ世界絵本原画展入賞。ルケショヴァーと組んだ四季をテーマにした4部作のほか、『チョウさんさようなら』、カッパの世界を描いた『カッパたちはどうやってナマズたちをなだめたか』などがある。
ヤン・クドゥラーチェク 仕事場など
ヤン・クドゥラーチェク インタビュー(チェコ語。個人メモ)
Malíř a grafik Jan Kudláček - Oficiální stránky Obce Dolní Dubňany
ルケショヴァーとタッグを組んだ作品が素晴らしい。
ヨゼフ・ラダについてヨゼフ・ラダ - Wikipedia
チェコ近代絵画におけるもっとも「チェコ的」で独創的な画家。カードや絵葉書など多数キオスクなどで売っている。うちにも数十枚のコレクションがある。
絵本画家でもあるが、大人の小説の挿絵もたくさん手掛けています。
あとカッパは現在でもよく扱われています。最近のカッパ氏ですね。
カッパ関連、短いですがここで終わります。
*たまうきさまの記事(2017-03-05) 多層球について
りんさまのコメント
故宮博物館展に行ったとき、似たようなのを見ました。あとはNHKのテレビです。
すごいですよね。すべて計算されて彫られているんですよね。それをドイツ人だったか、どこかのヨーロッパの人が、解き明かしたとか?
りんさま、勝手に引用してごめんなさい。正しいです。NHKでやったのも知っています。見ていないんですけど。りんさまのコメを見て、すぐに記事に入れようと思いました。私が個人的に思い出したのはこの本です。
エンデ全集〈1〉ジム・ボタンの機関車大旅行 – 2001/6/18
ミヒャエル エンデ (著), 上田 真而子 (翻訳)
出版社: 岩波書店 (2001/6/18)
p59「そうそう、象牙細工師も~」から読んでください。
ヨーロッパでも古来から象牙の教会調度品・美術品はまず多くあるし、博物館にも中国の作品が飾られています。
多層球は世界中に散らばっており、エンデはもちろん実際に現物をみたことがあると思います。エンデは日本にもすんでいたし、後妻は日本人でしたから、日本の専門店や博物館で多層球を見たかもしれませんね。
中国人が手を使ってやった気の遠くなる作業が、ヨーロッパの卓越した旋盤技術で再現もできるらしいです。(NHKの番組を見ていなくて残念)。
下の動画はドイツじゃなくて台湾の人があげているもの。1分以内で多層球が完成。
スパイにもなるぬいぐるみやお人形
我が家に小さい子がいないものだから、世の中がこんなことになっているとはちっとも知らなかった。クラウド・ペット(CloudPets)なるものがあるそうだ。一見クマちゃんや猫や犬のぬいぐるみだが、声のメッセージが双方向で送れるということだ。
たとえば両親が勤め先から子どもにメッセージを送ったり、また離れて住んでいるおじいちゃん・おばあちゃんと、このぬいぐるみ人形を通じて会話ができる。(*youtube、現在消されています)
フランスのL'OBS紙によると、こうしたおもちゃの危険性が認識されておらず、識者は警鐘を鳴らしているとのこと。
こちらの人形は、お話するインテリジェントなカイラちゃん(MyFriendCayla)、子どものどんな質問にも答えてくれるのだって。しくみは、子どもの音声をデータにして送り、ネット上で適切な答えを見つけたら、また音声に変えて人形の口から言葉がでてくる。
https://www.myfriendcayla.com/
しかし先月、ドイツではこの人形の発売が禁止になった。すでに買った家庭では廃棄するよう求められている。というのも、セキュリティ措置がとられておらず、プライバシーの侵害、情報流出の危険があるからだと。
不正アクセスのほかにも、子どもが無邪気にも他人に知られるべきでないことを話したりして、家庭状況が筒抜けになる、それが送信されて、悪用されるかもしれないとのこと。
実際、ハッカーに試してもらったところ、簡単にハッキングできたと報告してきたという。
同じようにクラウド・ペットでも個人情報がタダ漏れになっているらしい。
登録時に書き込む子供の名前(もちろんニックネームでもよいのだが)や写真、メルアドなど、といった情報。そして82万件の銀行口座や200万通以上のメッセージが露出しているということだ。盗聴器をつけているようなものである。
いやはやインターネット上では「絶対安全 」というものはないのだ。
昔ながらの喋らないぬいぐるみで十分でしょう。「喋らない」のは人がいるときだけ。夜は動き回ったり、ぬいぐるみ同士でおはなししていると私は思っていますけど。
うちのクマちゃんたち。(ライバルはポルコ・ロッソ?)
SPYBOYさまも同じのを持っているんです。前にブログで見て感激しました。今日はうちのを紹介するために載せました。
子どもの名前にいちいち驚く私は古い人間?
前にもこんな記事を書いた。ポケモンキャラの名前を子どもにつける親たち ・記念切手
以前どこかで読んだのだが、女子なのに、普通は男子につける名前をお持ちの姉妹がいるという話。みなさんもご存知では?
その姉妹の名前は「賢一郎」さんと「誠太郎」さん。にわかには信じられないが本当の話。ご当人はどう思っているのだろう。
そして最近は英語圏でも、伝統的には男子につけてきた名前を女の子に命名するケースが増えているらしい。それは「ブレイク」「カーター」「エリオット」などというから驚いた。女優のブレイク・ライヴリー(Blake Lively)自身も「ブレイク」という名前を持つが、夫ライアン・レイノルズとの間に生まれた娘にJamesとつけている。ドイツ出身のスーパーモデルで女優のハイディ・クルム(Heidi Klum)は娘にLouとつけた。Louはルイとかルイスと同じ。
女児につけられた(伝統的には)男子用の名前トップ10
10位:Jordan
9位:Sawyer
8位:Parker
7位:Charlie
6位:Finley
5位: Hayden
4位:Emerson
3位:Peyton
2位:Riley
1位:Avery
世の中も変わったものだ。変にコメントすると傷つく人も出てくると思うので、この件はここまで。
おもしろすぎるロシア
Only In Russiaさんのtwitterから。
①ロシアではガソリン価格が下がっています
②ロシアのごくフツーの日
③ロシアでは朝食にクレープをいただきます。
④ロシア流ライフハック(仕事術)
Only In Russiaさん、いつもありがとうございます。
*絵本ブログから移しました。
カッパ(かっぱ、河童)は日本人なら誰でも知っている愛すべき妖怪です。柳田國男の「河童駒引」や折口信夫などの著作も有名ですし、芥川龍之介 も『河童』(昭和2年)という作品を書いており、命日の7月24日は「河童忌」と呼ばれています。(芥川『河童』は1958年にスロヴァキア語訳が出版されている)
そして私はチェコのカッパの話にも馴染んで育ったのです。過去記事でも取り上げたカレル・チャペックの作品集ですが『長い長いお医者さんの話』(岩波書店。中野 好夫訳、ただし英語からの重訳)。この本の中に「カッパの話」というのがあります。
引用します。
・・・それからフロノバじいさんの水車の前にも、一匹住んでいました。こいつは、水の中で馬を16頭飼っていました。技師たちが、そこを流れる水の力が16馬力だ、といったのは、そのためなのです。この16頭の白馬が、せっせと引っ張っていたものですから、水車はいつもクルクルと、それは威勢よく回っていました。
フロノバじいさんが死んだ晩、そのカッパは、だまって16頭の馬の引き綱をはずしてやりました。そこで、ちょうど三日のあいだ、水車は死んだじいさんのために、じっと、とまったままになっていました。・・・
ここはほんの導入部で、話はこれから始まるのですが。(太字は私)
カッパは日本だけのものじゃなく、朝鮮半島からヨーロッパにかけて、水の精と馬にまつわる話はたくさんあるそうです。興味のあるかたのために、記事末に参考文献を一冊載せておきました。
チェコのカッパ
基本知識として確認します。というのもチェコでもお話によってバリエーションがあるので。
・ チェコ語でカッパは Vodník といって”水男”、川や湖や池などの水底に住んでいる。
・粉ひき小屋のそばの池が多い。池の主と考えられており、池や水車や魚のめんどうをみて、たいていは村人ともなかよしである(図③)。
・悪いカッパもいて、水車の水を止めたり水車の羽根を壊したり。また、水辺に近づいた人間を引き込んで溺死させることも。
・水の中では力があるが、陸に上がると力は弱い。緑色の燕尾服を着ていて、それはいつも濡れていてる。乾くと神通力がなくなったり死んでしまうといわれている。
・体は緑色で水掻きが付いた手足を持っている。赤い帽子に赤い靴、そしてパイプをくゆらしている。月夜の晩に、柳の枝に腰掛けて靴を直すといわれている(図④)。
・昔話では溺死者の魂を壺に入れて集めたり、娘をさらって妻にするというのもある。またドボルザークの交響詩「水の精」(The Water Goblin1896)でも扱われている。
おばけとかっぱ
①
おばけとかっぱ (世界傑作童話シリーズ) 1979年 ヨゼフ・ラダ (著, イラスト), 岡野 裕 (翻訳), 内田 莉莎子 (翻訳)、173ページ 出版社: 福音館書店
今日はこちらの本。 表紙をめくると
②
右頁:パイプをくゆらせているのが主人公かっぱのブルチャール。緑色のジャケット、赤い靴、赤い帽子(ときに緑の帽子も)、長い金髪を垂らし、たいていパイプをふかしている。住まいは水の底だが、ペットの猫もいて、室内の調度品などは人間の家となんら変わらない。
ナマズにまたがっているのは息子のプレツ。シスロフ村の古びた水車小屋の池に住んでいる。
基本知識で紹介した恐ろしげな妖怪としてのカッパではなく、チェコ児童文学の世界では、人間臭い愛すべき登場人物として描かれます。そしてチェコの子どもだったら誰しも子供のころに読む本です。
そしてここに親友のおばけ ムリサークと、その息子ブバーチェクが加わります。おばけは人を怖がらせるのが商売ですが、自分の村ではおどかし稼業がうまくいかなくて、友人のカッパに誘われて引っ越してきたのです。さらに村人たち、その子どもたち、伯爵夫人や泥棒たちなども混じって、様々な事件が起こります。
全部で11の話がありますが、全部はとても書けないので、興味のあるかたはご自分で読んでくださいね。
ちょっと絵の解説だけ。
図③プレツ もブバーチェクもいってみれば普通の子どもですから、村の子どもワシークとマリヤンカと仲良くしています。そしてこの子たちはかっぱのブルチャールから昔話を聞くのが大好き。水車小屋に集まって村人たちは一心にお話に耳を傾けます。
図④カッパは水の中でも陸の上でも使える靴を自分で作ります。手元がはっきり見える満月の夜が一番仕事ができます。
ブルチャールは、村の学校を卒業したプレツを靴屋のところへ見習奉公に出しました。
図⑤ワシークとマリヤンカは空の冒険をします。おばけの飛行機に乗せてもらうのですが、なんのことはないほうきなのです。ですがブバーチェクが操縦するとビュンビュン飛びます。(うしろでプレツがマリヤンカを支えてあげている)。このあと大人たちに叱られるんですがね。
⑤ ヨゼフ・ラダの話は、いつもほのぼのとしたユーモアに溢れています。
たとえば
かっぱは今でも水の底の壺に、人間の魂を詰めているのかと聞かれ、「ほかのかっぱの手前もあるから、人魂は置いておかないわけにはいかない。
・・・が、もう半分に減ってしまったよ。うちの坊主が少しずつかじっているからな・・・」
とか
世の移り変わりも激しく「おばけの自動販売機」なんかができて、「昔から続けてきたていねいなおどかしの仕事を、機械にさせるとはあんまりだ」と怒ったり。
また(p44-45)
「わしには、どうなろうが同じことだ。・・・わしはどっちみち、かっぱの年金生活者、つまりご隠居ってわけだからね。
だが気の毒なのは若いかっぱたちさね。水の中に人を引っ張り込んだりする仕事がなくなってしまった。今ではどこのうちにも風呂があって。わざわざ池に来て・・・水浴びしようなんて人は誰もいない。風呂なんかなくしちまって、人間はまた池で水浴びをすりゃいいんじゃ。失業したかっぱを救うために!」
・・・
「まっぴらごめんだね。がまんできんのは、あのコンクリの橋だ。どんな小さな川にもどんどこコンクリの橋かけちまったうえに、らんかんまでつけてくれるんじゃから。
・・・古い腐った橋を壊されたのは、まったく残念だったね。あの橋は、むすめっこが池に水をくみにきたりすると、足元でぽきりと折れて、ドボン!水に墜落ってぐあいで、すばらしかったもんだがねえ」
といった調子です。なんとなく雰囲気はわかってもらえましたか。
次回もかっぱが出てくる話です。
参考
チェコ語原書 新版と旧版
⑥⑦
参考:研究書
「水辺の牧にあそぶ馬を河童が水中に引きずりこもうとして失敗するという伝説は、日本の各地に見られる。この類話が、朝鮮半島からヨーロッパの諸地域まで、ユーラシア大陸の全域に存在するという事実は何を意味するのだろうか。
水の神と家畜をめぐる伝承から人類文化史の復原に挑んだ、歴史民族学の古典。」(解説より)
続き ↓